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序章
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ーーカコン。
ある程度水が溜まった鹿威しの落ちる音で目が覚める。
まだ重い瞼をゆっくりと開くと、めいいっぱいに朝日が差し込んでくる。
(これは⋯⋯夢?)
琴音はまだ夢見心地だったが、畳に使用されている、い草の爽やかな匂いが鼻の中に拡がり、ぼんやりとした意識がはっきりしていく。
また、それにつれて、視界も広がっていく。
「わぁ!」
まず目に飛び込んできた景色に思わず感嘆の声が漏れる。
そこには昨日は暗くて見えなかった庭園があった。
隅々まで手入れが行き届いた草木や花、清い水が溜まった池の中では楽しそうに泳ぐ鯉。
全てが朝日の淡く、優しい光に照らされた純和風的な庭であり、今までの琴音には到底想像のつかない別世界であり、輝いた世界であった。
(この髪、邪魔だな⋯⋯)
琴音は、太ももまで伸びた髪を触り、物思いにふける。
最後に切ったのはいつだっただろうか。
少なくともあの継母が来てからは切った覚えが無い。
そうこう考えているとふと背後から名前を呼ばれ、振り返った琴音の心は一気に激しく動き出す。
「どうだ。目が覚めたか」
優しく響く低い声音。
その声の主は、ゆったりとした着物に身を包み、整った顔立ちに少しばかり長い白銀の髪を持った若い男だった。
「は、はい!お陰様です。領主様」
ーーこの胸の鼓動が聞こえてしまわないだろうか。
そう言葉に表せない感情を抱えながら琴音は答えると、男は少し困った表情でいたずらに微笑む。
「⋯⋯名前では呼んではくれないのか?」
「そ、それはちょっと、心の準備が⋯⋯」
琴音は頬を紅潮させるが、男は余裕の表情を浮かべる。
ーーここには、あの継母も、父も居ない。
こんな朝を迎え、琴音の昨日までとは違う新しい生活が始まる。
ある程度水が溜まった鹿威しの落ちる音で目が覚める。
まだ重い瞼をゆっくりと開くと、めいいっぱいに朝日が差し込んでくる。
(これは⋯⋯夢?)
琴音はまだ夢見心地だったが、畳に使用されている、い草の爽やかな匂いが鼻の中に拡がり、ぼんやりとした意識がはっきりしていく。
また、それにつれて、視界も広がっていく。
「わぁ!」
まず目に飛び込んできた景色に思わず感嘆の声が漏れる。
そこには昨日は暗くて見えなかった庭園があった。
隅々まで手入れが行き届いた草木や花、清い水が溜まった池の中では楽しそうに泳ぐ鯉。
全てが朝日の淡く、優しい光に照らされた純和風的な庭であり、今までの琴音には到底想像のつかない別世界であり、輝いた世界であった。
(この髪、邪魔だな⋯⋯)
琴音は、太ももまで伸びた髪を触り、物思いにふける。
最後に切ったのはいつだっただろうか。
少なくともあの継母が来てからは切った覚えが無い。
そうこう考えているとふと背後から名前を呼ばれ、振り返った琴音の心は一気に激しく動き出す。
「どうだ。目が覚めたか」
優しく響く低い声音。
その声の主は、ゆったりとした着物に身を包み、整った顔立ちに少しばかり長い白銀の髪を持った若い男だった。
「は、はい!お陰様です。領主様」
ーーこの胸の鼓動が聞こえてしまわないだろうか。
そう言葉に表せない感情を抱えながら琴音は答えると、男は少し困った表情でいたずらに微笑む。
「⋯⋯名前では呼んではくれないのか?」
「そ、それはちょっと、心の準備が⋯⋯」
琴音は頬を紅潮させるが、男は余裕の表情を浮かべる。
ーーここには、あの継母も、父も居ない。
こんな朝を迎え、琴音の昨日までとは違う新しい生活が始まる。
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