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平和なティータイム1
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あれからしばらく、アルフォンス様はお忙しいようだった。私の看病でそうなったことは容易に想像出来て、非常に申し訳ない。その忙しい中でも私のために時間を作ってくれる。あんまりにも申し訳なく、アルフォンス様が会いにきてくれる度に困った顔をしていた。
「どうした?何か足りない物でもあるか?」
「いえ…」
足りない物など全くない。こんな私のために執事のイルマ様が完璧に整えていてくれる。
「それはないと思うが、誰かにいじめられたか?」
「皆さま、とてもよくしてくださいます」
「そうか…じゃあ何でそんなに困った顔をするんだ?…まさか俺の距離が近いか?」
ハッとした顔をしたアルフォンス様がズズズっと椅子を引きずって下がり距離が開く。
「いえ、そうではなくて!」
慌てて私は引き止める。
ベッドからアルフォンス様の定位置である椅子は徐々に近づいていたが、決してそれが不快なのではない。
「…私のせいでアルフォンス様は忙しいのでしょう?それなのに」
「なんだ、そんなことか」
アルフォンス様が安心したような顔をする。
「大丈夫だ。元々大嫌いだったクソ豚野郎を本当に豚にするだけだ。忙しいのも本望だ」
「?」
なんだかアルフォンス様の言っていることが理解出来ない。
「それに俺は好き嫌いがハッキリしている。お前に会いたくて会いにきている」そう言って、笑顔でアルフォンス様は私の頭を撫でる。
最初は天使と見紛う美しさの彼だったが、数日の付き合いでとても表情豊かで人間らしいなと思う。
「笑ってもいいし、泣いてもいいし、怒ってもいい。ただ困ったら俺を一番に思い出して頼れ」
アルフォンス様は言う。
しかしこれ以上、何を頼れと言うのだろうか。いつでも清潔な布団。温かい高級な食材を使った食事。入浴など初めてだったのだ。
「落ち着いてきたから、ベッドの上にいても退屈だろう。先日の伯母上は嫌いか?」
思わず首を左右に激しく振る。柔らかく抱きしめられた時は本当に驚いた。抱きしめられたことなど、初めてだったのだ。どうしていいか分からず固まった私を怒ることすらしない。ここの人たちは本当に優しい。
「アリスとお茶がしたいらしい。長時間にならないように伝えておくから相手をしてやってくれないか?」
「私でよければ…でも、私、作法も何も…」
「大丈夫だ。伯母上は気にしないし、気になるんなら教えてもらえ。世話好きな人だし、喜んで教えてくれる。世話好きの度を越してるが、悪い人ではない。本当に度を越してるがな」
やれやれ、と呟くアルフォンス様だがどこか誇らしげだ。きっと、伯母上であるエリーゼ様を好きなのだろうと思う。
「まあ今は暇人だし、お前のことも気になってるだろう。呼べばすぐにでも飛んでくるだろうが、明日の午後でいいか?」
「はい」
「分かった」
そうしてアルフォンス様はしばらく私の髪を撫でると満足したように立ち去った。髪など切ってしまおうかと思っていたが、アルフォンス様があんまり楽しそうに撫でるので切りそびれている。そもそも身の回りに刃物が一切ない。お貴族様の屋敷となるとそういうものなのだろう。しかし、私はいつまでここにいることを許されるのだろうか。いつ、ここを出て行けと追い出されるのだろうか。その時、どこに行けばいいのだろうか。
「どうした?何か足りない物でもあるか?」
「いえ…」
足りない物など全くない。こんな私のために執事のイルマ様が完璧に整えていてくれる。
「それはないと思うが、誰かにいじめられたか?」
「皆さま、とてもよくしてくださいます」
「そうか…じゃあ何でそんなに困った顔をするんだ?…まさか俺の距離が近いか?」
ハッとした顔をしたアルフォンス様がズズズっと椅子を引きずって下がり距離が開く。
「いえ、そうではなくて!」
慌てて私は引き止める。
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「…私のせいでアルフォンス様は忙しいのでしょう?それなのに」
「なんだ、そんなことか」
アルフォンス様が安心したような顔をする。
「大丈夫だ。元々大嫌いだったクソ豚野郎を本当に豚にするだけだ。忙しいのも本望だ」
「?」
なんだかアルフォンス様の言っていることが理解出来ない。
「それに俺は好き嫌いがハッキリしている。お前に会いたくて会いにきている」そう言って、笑顔でアルフォンス様は私の頭を撫でる。
最初は天使と見紛う美しさの彼だったが、数日の付き合いでとても表情豊かで人間らしいなと思う。
「笑ってもいいし、泣いてもいいし、怒ってもいい。ただ困ったら俺を一番に思い出して頼れ」
アルフォンス様は言う。
しかしこれ以上、何を頼れと言うのだろうか。いつでも清潔な布団。温かい高級な食材を使った食事。入浴など初めてだったのだ。
「落ち着いてきたから、ベッドの上にいても退屈だろう。先日の伯母上は嫌いか?」
思わず首を左右に激しく振る。柔らかく抱きしめられた時は本当に驚いた。抱きしめられたことなど、初めてだったのだ。どうしていいか分からず固まった私を怒ることすらしない。ここの人たちは本当に優しい。
「アリスとお茶がしたいらしい。長時間にならないように伝えておくから相手をしてやってくれないか?」
「私でよければ…でも、私、作法も何も…」
「大丈夫だ。伯母上は気にしないし、気になるんなら教えてもらえ。世話好きな人だし、喜んで教えてくれる。世話好きの度を越してるが、悪い人ではない。本当に度を越してるがな」
やれやれ、と呟くアルフォンス様だがどこか誇らしげだ。きっと、伯母上であるエリーゼ様を好きなのだろうと思う。
「まあ今は暇人だし、お前のことも気になってるだろう。呼べばすぐにでも飛んでくるだろうが、明日の午後でいいか?」
「はい」
「分かった」
そうしてアルフォンス様はしばらく私の髪を撫でると満足したように立ち去った。髪など切ってしまおうかと思っていたが、アルフォンス様があんまり楽しそうに撫でるので切りそびれている。そもそも身の回りに刃物が一切ない。お貴族様の屋敷となるとそういうものなのだろう。しかし、私はいつまでここにいることを許されるのだろうか。いつ、ここを出て行けと追い出されるのだろうか。その時、どこに行けばいいのだろうか。
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