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第2章 カルト教団

20.忘れられない子っテ?

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 ここは教団本部3階の一番奥の部屋だ。イェレミアスに連れてこられて入れられた部屋になぜか可愛らしいワンピースをを身に纏ったつがいが居た。

「なんで王子フゴッ!」
「しーっ!」

 王子様は突然ハルの口を片手で塞ぎ、もう片方の手で自分の唇に人差し指を当てる。
 ハルの番は女の子だったの? 王子様じゃなくて王女様?

「ちょっとこっちへ来て」

 王子(王女)様に部屋の端っこへ連れていかれた。そして他の女の子に聞こえないくらいの小さな声で尋ねてくる。

「君とどこかで会ったっけ?」
「まだ会ってないヨ。貴方は王子様じゃないノ? 女の子だったノ?」

 目の前の彼が女の子なのか男の子なのか判断に悩む。番なのは確かなんだけど。

「……女じゃない。僕はクリストフ。この国の第3王子だ。この教団を調べるために女装して忍び込んだらこの部屋へ連れてこられたんだ。君は誰?」

 女装ってことは男の子で間違いないね。よかった。

「わたしはハル。クリストフはわたしの番なノ。だから交尾しよウ!」
「…………………………はあ?」

 クリストフはハルの言ったことがよく聞こえなかったようだ。もう一度はっきりゆっくりと言ってみよう。

「貴方はわたしの番なノ。だから交尾」
「いや、待って! 聞こえてるから」

 彼は両手を前に出してハルを制止しなぜか顔を赤くして俯いている。

「君は意味が分かって言ってるの?」

 彼が顔を上げて聞き返してくる。番の意味が分からなかったのかな?

「番は唯一無二の伴侶ってことだヨ。だから交尾」
「そういうこと何度も言わないでっ! 君の気持ちは嬉しいけどそれは無理だ」
「えっ、どうしテ!?」

 真剣な顔で答えるクリストフを見てハルの心は絶望に包まれてしまう。せっかく会えたのに……。

「そもそも今初めて会ったのにいきなりいろいろすっ飛ばして伴侶とかないし、僕は自由に結婚はできない立場なんだ。それに僕には忘れられない女の子がいる」

 忘れられない子? それって誰なんだろう?
 そんなことを考えて首を傾げていると彼がはっと目を見開き尋ねてくる。

「君、もしかして昨日式典のとき屋上にいた子?」
「うん、そうだヨ。昨日屋上でクリストフを見つけたノ。よく分かったネ」

 今は平凡な町娘になっているはずのに分かるなんて凄いね。自分でも別人にしか見えないのに。

「クリスでいいよ。……なんか今日は昨日とは随分違う格好をしているけれど、君の髪の青銀色って珍しいからね」
「覚えてくれててありがとウ。それでクリスはどうしたらわたしの番になってくれるノ?」
「普通は知り合っていきなり結婚なんてしないよ。まずはお互いをちゃんと知って恋愛をしてからおつきあいをして……」

 なんだかいっぱい手順が必要なんだね。それが普通なのかな? 番見つけたらすぐ交尾でいいのかと思ってた。

「クリスに好きになってもらえばいいノ? わたしは貴方のこと好きだヨ?」

 クリスはそれを聞いてまた顔を赤くする。

「だから僕には忘れられない子がいると……。待って。今はそんなことを話している場合じゃない。ハルはこの教団に入信したからここに連れてこられたの?」

 急に真剣な顔をして彼が尋ねてくる。

「うン? 神官さんには入信するって言ったけど本当は人を探しに来たノ」
「なんでそんな危ないことを……。この教団はろくな組織じゃないから信じちゃ駄目だよ」
「うん、分かっタ」

 ほとんど知らないハルのことをクリスは心配してくれるんだ。優しいね。
 それにしても彼の忘れられない子って好きな子ってことかな? たとえ番でもやっぱり好きになってもらわないと駄目だよね。よし、頑張って好きになってもらおう!
 それはそうとしてこの子たちの中にアリスはいるかな? 彼女たちに向き直り話しかけてみる。

「ねえ、みんナ。この中にアリスって子はいるかナ?」

 そう尋ねると恐る恐る1人の茶色の髪の女の子が手を挙げる。ハルと同じくらいの年の子だ。

「わ、私です……」
「おお、よかっタ。サラが心配してたんダ。あ、今はわたしがサラってことになっているんだけど貴女を探しに来たノ」
「私を……?」
「うん、だからもう心配しないデ」

 そう言うとアリスがしくしくと泣き出した。わわっ、どうしたの!?

「私もうどこかへ売られるのかと思ってたの……。父さんがここへ連れて来てそのまま捕まって……。母さんやサラに会いたい……」
「アリス……。大丈夫だから泣かないデ、ネ? わたしと一緒に帰ろウ。でもその前に調べないといけないことがあるからちょっとだけ待っててネ」
「はい……」

 ハルの言葉を聞いてようやくアリスが泣き止んでくれた。それにしてもこんなに子供を泣かせるなんて、アリスの父親はお仕置きだね。
 アリスは見つかったけどハンスのお父さん、ヨーゼフがどこにいるかを調べないといけない。
 そう言うとクリスが心配そうに尋ねてくる。

「君は何をするつもりなんだい? 調べないといけないことって?」

 そういえば彼もこの教団を調べるために来たって言ってたし事情を話しても大丈夫かな。

「友達のお父さんを探してル。行方不明の男の人がどこに連れていかれるのか調べたイ。クリスは何か知ってル?」
「いや、僕も今日連れてこられたばかりでまだ何も調べてないんだ。どうやら彼女たちはここ最近連れてこられたばかりの子みたいなんだ。ある程度集まったらどこかへ売られるか働かされるのかもしれない」

 ハルの質問にクリスが忌々しそうに答える。

「それは酷いネ」

 確かに本人の意思を無視して無理矢理っていうのは許せないね。
 さてハンスの父親のことはどうやって調べようか。さっきの神官に聞いてみるしかないか。

「あのイェレミアスっていう神官に聞いてみよウ」
「あの神官だけなら僕でも捻じ伏せられるけど様子を見にくるときは必ず2名ほど兵士を連れてくるんだ。だから今は様子を窺っていた。僕も一応根回しをしてきたからね」

 根回しって何だろう? 王子様だから誰かに何か頼んでるのかな?
 兵士って武器を持って戦う人のことだよね。強いのかな?

「そうなんダ。まあなんとかなるヨ」
「そ、そうなのか……?」

 クリスはちょっとびっくりしていたようだったけど、分からないことがあるなら聞けばいいと思う。

 そのときだった。ガチャリと鍵を外す音が聞こえて扉が開いた。
 入口に立っていたのはあのイェレミアスという神官だ。その両脇には武装した男が2人立っている。

「さあ、我が神の忠実な下僕しもべたち、ハバネロ神様のために貴女たちに相応しい場所へ案内しますよ」

 彼はニヤニヤしながらハルたちにそう告げた。



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