上 下
14 / 52
第2章 カルト教団

13.毛玉でショ?

しおりを挟む


 はぁっ、はぁっ、苦しい……。

 助けて、誰か……。熱いよ……。

 息が、息が苦しい……。



「ぶはっ!!」

 あまりの息苦しさにハルは目を覚ます。目を覚ましたのに視界は真っ暗だ。あれ、ここはハンスの家のベッドの上だったよね?
 重くて熱くてそして息苦しい。仰向けに寝ていたハルの顔の上になにやらでかい毛玉が乗っている。
 顔の上のそれを両手でむんずと掴みゆっくりと引き剥がそうとするが、なんだかがっちりと顔を掴まれているようだ。柔らかくて暖かいプニプニした肉球のような感触にむにっと頬を挟まれている。それでも無理矢理引き剥がすと毛玉が声をあげる。

『なんだよぉ、まだ眠いから起こさないでよぉ……』
「……」

 寝ぼけて開ききらない目で両手で抱え上げた塊を見る。んー、小さい仔犬に見えるこれは何だろう。両手でふにふにと揉むとふわふわでもふもふであったかい。
 ああ、まだ夢を見てるのか。もうひと眠りしようと思って胸にぎゅーっと抱いてみる。

「おやす……zzz」




『……ぶはぁーっ! 苦しいっ、放せっ!』

 煩くて再び目が覚める。胸に抱いた枕が騒いでいるようだ。んー……これなんだっけ……。目を擦って胸元のそれをよく見る。

「毛玉……?」
『毛玉じゃないっ!』

 窓からはもう既に明るい朝の光が差し込んでいる。今日もいい天気のようだ。
 30センチくらいの青銀色の毛玉がハルの胸から脱出してトコトコ歩き、毛布の上に鎮座して思いっきり踏ん反り返る。仕方ないので上半身だけ起こして目の前の毛玉に向き合う。

『……ゴホン。我は獣神の眷属にして森の王者、そして偉大なる守護獣でもある青銀の魔狼フェンリル様が分身。お前がハルで間違いないか?』

 毛玉が金色の瞳をきらきらさせながら仰々しく尋ねてくる。
 フェンリル様の分身ってことか。どう見ても小さい仔犬だ。踏ん反り返ってるけど可愛いね。まだ眠いけど相手してあげないと拗ねちゃう……?

「うん、わたしがハルだヨ。君の名前ハ?」
『我の名はまだない。ハルに我が名づけの名誉を授けよう。森中に響き渡り全ての獣が恐れ戦き平伏すような勇猛な強者に相応しい名を付けるのだ』

 毛玉がなんだか難しいことを言ってる。名前つけてほしいくせに踏ん反り返って尊大な態度を崩さない。

「んゥー……わたしあんまり難しいこと言われても分かんないけど、つまり格好いい名前をつければいいんでショ?」
『うむ。我は疾風の銀狼とか駆天の聖狼とかいうのがいいぞ』
「それ、名前っていうより二つ名みたいなものでショ?」
『そ、そうなのか?』
「うン。名前って言ったらほら、そうだなぁ、チビとカ」
『……嫌だ』

 毛玉が不満げにそっぽを向く。チビ可愛いのに。

「えぇー、我儘だナァ。ポチはどウ?」
『……』
「えー、これも駄目なノ? 毛玉。銀。青。コロ」
『ハル……お前、ネーミングセンスがないな』

 毛玉が自分のことを棚に上げて呆れたように言う。失礼な子だなぁ。

「疾風のなんとか言う子に言われたくないヨ。フェンリル様の分身だかラァ……フェン……リル。リルは?」
『リル……うーん』
「ああ、豆みたいにちっちゃいからマメリルにしよウ!」
『マメリル……? ぇ~……。全然格好良くないし、威厳がないじゃないかぁ……』

 毛玉はとても不満そうだ。はいもうマメリル決定。異論は受けつけません。

「そんなことないヨ。これからの世の中はゆるふわ愛され狼の時代だヨ」
『えっ、そうなの?』

 毛玉がぱっと顔をこちらへ向ける。いい食いつきだ。

「うん、その疾風のなんとかいう痛い名前よりモテるヨ」
『えっ、モテるの!?』
「うん、モテモテ」

 ハルの言葉を聞いて毛玉は何やら考え込んだあと、大きく頷いてハルに告げる。

『し、仕方ない。マメリルでいいよ。別にモテたいからじゃないぞっ!』
「それじゃあ、君は今からマメリルね」

 ハルの言葉にマメリルは割と満足げだ。どうやら納得してもらえたようだ。よかった。
 そういえばフェンリル様の分身がここへ何しに来たんだろう?

「ところでマメリルは、なんでわたしの所へ来たノ?」
『ボク……我はフェンリル様の命でハルを守りに来たのだ』
「……守られに来たの間違いじゃなくテ?」

 ハルの言葉を聞いて、マメリルはぷんすこ怒りだして足元の毛布を前足でてしてしと何度も叩いた。

『馬鹿にするなっ! ボクはこう見えても強いんだぞっ! おやじ様の分身だからな! 平伏せっ!』

 なんだこの子面倒くさいけど可愛い……。この妙に虚勢を張っているところが堪らない。

「分かったよ、マメリル。ハルを守ってネ。これからよろしくネ」

 小首を傾げてにっこり笑ってよろしくすると、マメリルは得意げに鼻を鳴らして鎮座したままさらに踏ん反り返る。

『ボクに任せろ! ずっとお前を守ってやるから安心していいぞ!』

 そう言ったあと踏ん反り返りすぎてころんと後ろに転がったのは見なかった振りをしてあげた。
 こうしてマメリルはハルのお供になった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

処理中です...