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第3章

44.不審な男

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「セシル、ケント、二人ともミアのこと助けてくれてありがとう。二人がいなかったらうち、ずっとこのままギードとビアンカに迷惑かけ続けていたにゃ……。」

 ミアが神妙な面持ちでセシルとケントに告げる。その言葉を聞いたギードが心外だと言わんばかりの顔でミアを見て口を開く。

「馬鹿野郎、迷惑なもんか。お前は大事な仲間だし、俺にとってはその、本当の娘みたいなもんだしな。」

「そうよ、ミア。私も迷惑だなんて思ったことないわ。私だってあんたのこと妹みたいに思ってたんだから。」

 ギードとビアンカが涙ぐむミアを抱きしめながら話す。セシルはそんな3人を見てまるで本物の家族みたいだと思う。

「ケント、セシル。ミアを助けてくれてありがとう。俺からも礼を言わせてくれ。」

「セシルちゃん、ケント、ありがとうね。これでまた3人で冒険できるわ。」

 ギードとビアンカからもお礼を言われる。ビアンカは目に涙をいっぱい溜めている。
 セシルは照れて赤くなってしまう。ケントもなんだか照れくさそうにしている。

「ミアさん、ギードさん、ビアンカさん、僕、皆さんが笑ってくれて嬉しいです。ケントは皆さんのこと仲間だと思ってるって言ってました。僕もそう思わせてもらっていいですか?」

「当たり前にゃん! ミアはセシルとケントが困ってたら絶対助けに行くにゃん! いつでも呼んでほしいにゃ!」

「俺達もだぜ。ケントの仲間は俺たちの仲間だ。助けが必要な時はいつでも声かけてくれ。」

 ビアンカは二人の言葉に同意するように微笑みを浮かべながらセシルに大きく頷く。

「お前ら……! ありがとうな! 遠慮なくそうさせてもらうぜ。な、セシル!」

「うん!」

 ケントと二人のチームでも寂しくはなかったけど、こうして仲間と呼べる存在ができてセシルは心から嬉しかった。

「さて、セシル。ミアの見た謎の男が事件に関わってるとすると、転移魔法陣の件は人為的に起こされた可能性が強くなった。そしてミアやハンスさんのようにまた冒険者が犠牲になるのは見過ごせない。今から冒険者ギルドに行って何か情報がないか聞いてみよう。」

「うん、そうだね。……ミアさん、まだ体力が万全じゃないと思うので無理しないでお大事にしてくださいね。」

「分かったにゃ……。二人ともあんまり無理しないでにゃ。」

 ミアが心配そうな表情で頷く。
 ケントの言葉を受け、セシルはこの事件を何とかしようと心に決め、ケントと一緒に冒険者ギルドに向かうことにした。



 冒険者ギルドに到着して、ケントは受付の女性に話しかける。

「俺はケント、ランクCの冒険者です。この子はDランクのセシルです。ザイルの冒険者ギルドから連絡が来ているかもしれないが、最近起こっているダンジョンに現れる転移魔法陣の原因について重要な情報があります。ギルドマスターに面会をお願いします。」

「貴方は以前ギードさんたちと一緒にいらっしゃった方ですね……! 転移陣のことは確かにザイルから連絡が入っています。マスターは今部屋におりますので少々お待ちください。」

 受付嬢はそう言って席をはずし、しばらくして戻ってきた。

「お待たせしました。こちらへどうぞ。」

 セシルとケントはギルドマスターの部屋へ案内される。

「ケントさんとセシルさんがいらっしゃいました。」

「おう、どうぞ。」

 中から低い声がして、二人は部屋へ通される。

「ああ、あんたがケントくんか。俺はヘルスフェルトの冒険者ギルドマスターのゲオルクだ。そっちはセシルくんか? ザイルのケヴィンから話は聞いている。まあ座ってくれ。」

 ゲオルクもザイルのケヴィンに負けず劣らず大きな男性だ。190センチはあるだろうか。赤毛の短髪でがっちりしている。
 セシルたちはゲオルクに促されるままソファーに座る。

「はじめまして、俺はケントです。この子はセシルです。それで早速なんですが、ダンジョンに現れる転移魔法陣の件を話しにきました。」

 セシルはゲオルクに紹介され、ぺこりと頭を下げる。
 するとゲオルクはセシルを見てにっこり笑い、感心したように話す。

「ケントくんもそうとうな手練れだと聞いているが、セシルくんもなかなかのものらしいな。……転移陣の件はこちらも新しい情報がある。だがまずはそちらの情報を聞かせてもらおうか。」

 ゲオルクが笑顔から一転して険しい色をその表情に浮かべながらケントに訪ねる。

「分かりました。まず、先日こちらのギルドにお世話になったギードと一緒に救出したミアの意識が回復しました。そして彼女の話では、龍神の遺跡へ転移させられた際ローブを纏った不審な人物を見たと。」

 ケントの言葉を聞いてしばらく考え込むように一点を見つめていたゲオルクがこちらへ向き直り答える。

「なるほど。実はうちのギルドでも依頼を出して独自に調査を進めていたのだが、ケントくんのいう人物と特徴の似た男が目撃されている。どうやらその男は首都ランツベルクの北にある湖の中央にそびえたつ塔に出入りしているらしい。ランツベルクでは『実験場』と呼ばれているらしいが。」

「『実験場』……。」

 『実験場』……。なんとも不気味な響きだ。その言葉を聞いてセシルはなんとなく背筋が寒くなる。
 ゲオルクが話を続ける。

「そこで君たちに指名依頼をしたい。『実験場』へ行ってその男のことを調べてほしい。目撃情報から考えるとそこがアジトである可能性が高い。まだローブの男が直接事件に関わっているという証拠があるわけではないが、偶然とは呼ぶにはあまりに不自然な点が多いのでな。ギルドとしてはその男のことを到底看過できない。近いうちに調査員を派遣するとランツベルクのギルドマスターにはこちらから連絡済みだ。」

「分かりました。セシル、俺と一緒にランツベルクに行ってくれるか?」

「もちろんだよ、ケント。僕もこれ以上ミアさんやハンスさんみたいに犠牲になる冒険者を出したくない。一緒に調べよう。」

 セシルがそう言うと安心したようにゲオルクが話す。

「頼りにしている。どうか気をつけてくれ。危険な奴ならあまり深入りをするなよ。こちらから増援を送る。」

「分かりました。早速準備をします。行こうか、セシル。」

「うん!」

 セシルとケントはランツベルクへ向かうための準備に一度宿に戻る。
 二人でソファに座り机に地図を広げ、首都ランツベルクの場所を確認する。ランツベルクは距離的に馬で北東へ2日ほど進んだところだ。間に町や村はなさそうだ。
 そして湖はさらにランツベルクから北に5キロほど離れた所にある。中央に小島があって、そこに『実験場』と呼ばれる塔があるらしい。残念ながら地図では小島の位置は確認できたが塔の存在は確認できなかった。

 それからセシル達はランツベルクへ向かう準備をし、翌朝早くヘルスフェルトを出発することにした。

 夕方の5時くらいに宿にギードが尋ねてきた。

「ケント、セシル。今夜うちでミアの快気祝いをするんだ。二人にはぜひ夕食を食べに来てほしいんだが、よかったら来てくれないか?」

「おー、行く行く。セシルも行くよな?」

「うん、ぜひ!」

「ありがとう! 断られたらビアンカに大目玉食らうとこだったぜ。」

 ギードはガハハと笑いながら、安心した、と言っていた。
 それからセシルはケントと一緒にギードの家に向かう。扉を開けると料理の美味しそうな匂いがする。お腹空いてたから涎が出そう。

「ビアンカの料理は最高だからな。いっぱい食べていってくれ。」

「何言ってるの、ギードったら。」

 そんな二人を半目で見るケント。

「まったくギードとビアンカったらなんだかんだでくっついちゃって、ミアは二人のキューピットにゃ。なんならケント、ミアがお嫁さんになってあげるにゃ!」

「は? お前何言ってんだ? 俺はロリコンの趣味はねーぞ。」

「失礼だにゃ。ミアは16にゃ。お嫁に行ける年にゃ!」

 ミアがそう言ってケントに擦り寄る。ケントは懸命にミアを振り払う。
 ちくっ。ん? なんか胸がもやもやする。セシルは原因不明の胸やけに首を傾げる。ご飯もまだ食べてないのに。

「だあーーっ! やめっ! 俺の脳内でお前は最初に少女認定されてるから対象外だって。」

「……ケントのいけず。いいにゃ、その認識を今から少しずつ改造してあげるにゃ。ミアのこの色気で!」

「誰の色気? ビアンカのこと?」

「ケントぉーーー!」

 セシルは楽しそうな二人を見ていて、なんだかさっきのもやもやもなくなり笑いが込み上げてきた。

「あははは。」

「セシルっ! ひどいにゃ! セシルは美人だけど、い、色気はミアの方が勝ってるにゃ……たぶん。」

「お前、セシルは相当ヤバいぞ、美少女レベルが半端ないぞ。」

 ケントがミアを揶揄うのをやめない。するとミアが思わずそれに反論する。

「お、女は、顔じゃない! 乳にゃっ!」

 一瞬セシルは自分の胸元を凝視する。そしてミアのそれと見比べてみる。……あんまり変わらないような気がする。でもやっぱりまだ自分のほうが育っていない気がする。

「やめろっ、俺を変な世界に引き入れるな! 目のやり場に困るじゃねーか!」

 ケントがそう言って目を逸らす。
 するとその視界を遮るようにミアが回り込んで己の胸を誇示する。130パーセント増しに鳩胸のごとく反りかえらせている。

「ほらほらっ、ねっ!」

「おま……。それで色気とか……10年はえーわ。」

「あんたたち、胸の話はいい加減にしなさい。」

 ビアンカがその場を収めようと口を開く。

「はあ? いくら胸が大きくたってビアンカは売約済みだし! ミアはまだ伸び代あるしっ!」

「まあまあ、ミアさん。ケントはまだ失恋したばかりで……。」

 セシルがミアを落ち着かせようとうっかり口を滑らす。

「えっ、まじ? じゃあ、ミアがケントを優しく慰めてあげるにゃ~ん。」

「……勘弁してくれ。」

 ケントがしなだれかかるミアを諦めたように見る。
 それから美味しいご馳走やお酒と一緒に、5人で冒険話をしながら楽しい夜は更けていった。



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