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第2章
21.石花のダンジョン
しおりを挟む「それじゃ、セシル。早速ダンジョンへ行こうか!」
そんなケントの言葉に大きく頷き、ともに『石花のダンジョン』へ足を踏み出す。初めてのダンジョンにドキドキする。
入口から入ってしばらく進むと少し開けた小部屋に出る。そこには全身が粘度の高い液体でできているような魔物、スライムがいた。その色は不透明の灰色をしている。
ケントは背中の大剣を抜いてそれに近づきそのまま上から下に振り下ろす。その一撃を受けスライムは左右に真っ二つに分断されてシュウッと消える。きっと倒せたのだろう。なんだかあっけない。
そして消えたと同時にコロンと何かが落ちる。なんだろう……。近づいてよく見ると魔石と緑の液体の入った小瓶だった。
「これは回復薬だな」
ケントはそう言って魔物が落としたそのポーションを拾う。ポーションっていうのは体力や怪我を回復させる薬品だ。だけど魔力は回復しない。
ポーションが落ちるのを見てなんだか不思議に思う。ポーションって薬草から作ったことしかなかったから、ちゃんと瓶に入った完成品を魔物が落とすなんてちょっとした衝撃だ。
「すごいね。こんな完成品でドロップするんだ」
「ああ、不思議だよな」
ケントは笑ってそう答えた。
そのままどんどんダンジョンを進む。どうやらここは小部屋と小部屋が通路で繋がっている、蟻の巣のような形をしているらしい。今のところ救助対象者はいないようだ。
そして周辺を見渡しながら口を開いた。
「助けを待ってる人、いないね」
「あの助かった冒険者、フランツさんはDランクだから、その仲間となるとこんな浅い階層で助けを待っているということはないと思う。恐らくもう少し深い階層だろう」
「階層が深くなると魔物が強くなるの?」
「ああ、今はすごく弱いけど潜れば潜るほど出現する魔物も強くなるな」
しばらく歩くと今度は天井に張り付いていた、赤い体に金色の目を光らせたコウモリの魔物ブラッドバットがこちらを見た途端襲ってきた。
ケントがそれに素早く反応してすっと大剣を抜きすかさずそれを両断する。またも一撃で倒した。今度の魔物は何も落とさない。それを見て首を傾げながらケントに話しかける。
「今度は何も落とさないね」
「ああ、落とすか落とさないかはランダムだからな」
魔物のドロップってランダムなんだね。出るか出ないか楽しみになっちゃうね。
「ふうん。ケントはそんなに重い剣をよく片手で振れるね」
それにしてもケントの剣は凄く大きいのに、身体強化もなしにあんな重そうな大剣を振れるのが不思議だったんだよね。
「ああ、セシルだから話すが、実は俺には『闘神の加護』っていうスキルがついてるんだよ。どうやら異世界に転移したときについたものらしい」
『闘神の加護』かぁ。……なんだかすごくレアな響きだな。聞いたことがないや。でも凄く強そうな感じがする。
「闘神の加護……? それってどんな効果があるの?」
「力、体力、防御力、素早さ、視力、聴力、嗅覚の強化だな。それと武器の扱い、戦うための動き方が訓練もしたことないのに分かる。今分かってるのはそれくらいかな。ああ、あと馬も乗れるようになったな」
「それは凄いね。戦いの専門家みたいだね」
魔法が使えないのに強かったのはそう言う理由だったんだ。身体強化の魔法より凄いかも。身体強化しても馬に乗るのが上手くなるわけじゃないしね。
セシルの言葉にケントは笑って答えた。
「ああ、そうだな。だが魔法は一切使えん。脳筋だ」
「ノーキン? でもそれだけ強かったら魔法なんて要らないでしょ」
「そうでもないさ。集団に囲まれると辛いな。こいつで薙ぎ払える軌道上に敵が並んでるとも限らんし」
なるほど。近接攻撃しかできないって複数の敵に囲まれるときついのか。
ケントが大剣を指し話を続ける。
「だからもし複数の敵に襲われたら漏れたやつがセシルを襲ってくるかもしれん。俺が守り切れないことがあるかもしれないから自分に防御のための魔法ってのがあるならかけとけよ」
「うん、分かった。僕、前もって自分に防御魔法をかけることにするよ」
「あ、ほんとにあるんだ」
自分の身は自分で守るように頑張らないとね。
そんな会話をしながらどんどん進む。1層目にいるのはスライムとブラッドバットだけらしい。ちなみにブラッドバットのドロップもポーションだった。
しばらく進んでいたら下に降りる階段を見つけた。その階段を下り2層目へ進む。
2層目もどんどん先へ進む。小部屋に入ると人の形をした骨の魔物スケルトンがいた。
ケントがそこにいた2体を薙ぎ払った時だった。セシルの後ろにスケルトンが沸く。
「セシル、後ろ!」
ケントの注意を受け振り向きざまに裏拳を当ててしまう。スケルトンはそのまま崩れ落ちて消える。
うう、咄嗟に攻撃してしまった。でもスケルトンは骨で血が出ないから少ししか気持ち悪くなかった。死骸も残らないし。
「まさに骨も残らないって奴だな」
ケントは上手いことを言ったつもりなのか得意げに笑う。
そんなケントを見てなんだか可笑しくなって魔物を倒した気持ち悪さを忘れて笑ってしまった。
そしてスケルトンがドロップしたのは解毒薬だった。
どうやら2層にいるのはスケルトンだけらしい。また階段を見つけ下の階層へ降りる。次は3層だ。やはりまだフランツの仲間はいない。
3層以降も敵が弱く、ケントには何の問題もなさそうだ。
そして順調に階層を進めてとうとう7層まで来た。
最初の小部屋にいたのは2匹のゴブリンだ。罪悪感こそ抱かないものの、かつて自分が何のためらいもなくゴブリンの首を斬ってきたことを思い出して気持ち悪くなる。
「おい、大丈夫か? 顔色が悪いぞ」
「うん、大丈夫。ごめんね」
ケントは顔色の悪くなったセシルを気にしつつ抜刀してゴブリンに突っ込んでいく。
ゴブリンは1匹は棍棒を、1匹は短剣を振りかざしケントに向かってきた。
ケントが絶妙なタイミングで前方のゴブリンを横一文字に薙ぎはらう。それはカウンター攻撃となりその大剣の刃渡りの長さもあって2匹の体は易々と両断されて吹っ飛んだ。
ゴブリンは血を流すこともなく他の魔物と同じようにシュウッと霧のように消える。そして今度は青い液体の入った瓶を落とす。
ケントは大剣を納刀しながら顔色の悪くなったセシルを心配して尋ねる。
「おい、大丈夫か?」
「うん、大丈夫。自分がゴブリンを虐殺してた時のことを思い出して気持ち悪くなったんだ。なんであんなことができてたか分からない。……それでその青い液体の瓶は魔力回復薬?」
「ああ、そうだな。魔力回復薬だ。これはセシルが持っとくべきだな。俺には必要ない」
実際のところセシルは膨大な魔力を持っていて、未だかつて魔力不足に陥ったことなどなかった。だが使うこともあるかもしれないとケントから有り難くそれを受け取る。
そしてやはりゴブリンに直接手を下すことができない。そんな中ケントが出合い頭にゴブリンたちを倒していく。やはり一撃だ。凄いなあ。
ときどきは小部屋だけでなく通路で魔物と出会うこともあった。ケントにとっては狭い場所での戦闘は少し勝手が悪いようである。大剣のリーチが長いからだ。
大剣の刃渡りは120センチ程ある。通路の真ん中での戦闘なら問題ないのだが壁に近い所だと剣の振り方が限定されてしまう。そこまでの戦闘を見てケントに尋ねる。
「ケントは大剣以外の武器も使えるの?」
「ああ、多分大丈夫だ。多少慣れれば同じような練度で扱えるだろう」
「それじゃさ……」
己の腰に帯剣しているミスリルのショートソードを外してそれを鞘ごとケントに差し出す。
「これ、貸してあげるよ。狭いところでの戦闘に役に立つよ。これからは2種類以上の武器を使い分けたほうがいいかもしれないよ」
ケントはセシルの言うことに大きく頷いたがそのショートソードを受け取らずに返した。
「そうだな。確かに使い分けたほうがいいかもしれない。だがこれはセシルが持っておくべきだ。気持ちはありがたいが剣は攻撃だけじゃなくて防御にも大切なものだ。いつまた持てるようになるとも限らないからな。まあ町に帰ったらサブウェポンとしてそれくらいの長さの剣を武器屋で買うことにするよ。」
ケントはそう言ってにっこり笑った。
そんな彼の言葉を聞いて確かにそうだと思い再び剣を腰に戻す。確かに武器は防御のためにも必要なものだ。敵を倒すためだけのものじゃない。
防御のためなら使えるかもしれないな。自分の認識を変えれば持てるようになるかも?
そんなことを考えながらさらにまた階層を進む。
8~9層にはゴブリンと一緒にオークもいた。オークは豚のような顔をした人型の魔物である。セシルにとっては初めて出会う魔物だ。やはり個体によって様々な武器を使うようである。
ただこの手の獣人の最下級の種は武器を効率的に使うといった器用なことはできない。奴らは概ね殴打するように振りかぶって使ってくる。スピードも遅い。
オークもゴブリンと同じく一撃でケントに葬られていく。ケントは強いなあ。正直ほとんど出番がない。
そうして10層への階段を下りる。
9層までと同じような造りではあるが奥に進むにつれ少しだけ強い魔物の気配がしてくる。探知魔法をダンジョンに入ってすぐ使ってみたのだがなぜかダンジョンでは使えないようだった。だから気配でしか確認できない。
そして厳しい顔をしたケントが突然口を開く。
「セシル、今までとは違う匂いがする。……どうやら血の匂いが混ざっているようだ」
血の匂い……。セシルはケントの言葉を聞いていいしれぬ不安を覚えた……。
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