恋するジャガーノート

まふゆとら

文字の大きさ
上 下
309 / 325
第十三話「新たなる鼓動」

 第一章「滅亡の災火」・⑤

しおりを挟む

 ───そして、その後──私は突然、ふしぎな場所で目を覚ました。

 目に見えるもの全部が「黒」と「白」と「灰色」しかない・・・時間が止まってしまったようなその場所に、私は浮いていた。

 まわりには、燃えていた街の建物が崩れたものや、壊されてしまった「塔」の一部が、私と同じように宙をただよっている。

 ここはどこなんだろう・・・そう考えているうちに、また体の中で炎が暴れ出す感じがした。

<───‼ ───────‼>

 そこで、私は痛みのあまり叫ぼうとして──自分の声が聴こえないのに気づいた。

 耳がおかしくなってしまったのかなと思って触ろうとすると、手足は少しも動かない。

 ・・・ようやく私は、自分が何か大きな「がれき」の下敷きになっているのだとわかった。

<───ッッ‼ ───ッッッ‼>

 かろうじて、息は出来たけど・・・それだけだ。私に出来るのは、それだけ。

 身動きがとれないまま、私の体は内側から紫の炎に焼かれる。

 痛くて、熱くて、苦しくて・・・でも、私にはそれをどうする事も出来なかった。

 助けて‼ とどれだけ願っても、誰にも、どこにも届かない。

 ──そして、いよいよ終わりが近づいてくるのがわかった。

 さっきまでしびれていた手足からフッと力が抜けて、頭の芯が冷えてくる。

 私も、もうすぐ「冷たくなってしまうんだ」と思った。

 ・・・さっきの、エルのように。

 この時・・・私の頭に浮かんだのは・・・・・・自分でも意外な言葉だった。


   『マダ シニタク ナイ』


 何をするにも臆病で、そんな自分が嫌いで、けれど結局いつも逃げてしまう・・・

 そんな私が最期に願ったのは──あきらめの言葉じゃなかった。

 すると、突然・・・紫の炎をさえぎるように、体の中から・・・

 その時の私は、わけがわからなかった。

 いま思い返すと・・・たぶん、「塔」が壊れてしまった時、緑の光を使って戦うエルと同じように、私にも緑の光が移ってしまったんだと思う。

 そして、私の中から出た光は・・・傷ついた私の体を、あっという間に治してしまった。

 ──エルは、この光を、「タマシイにコオウする力」だと言っていた。

 それがどういう意味なのか、今でもよくわからないけれど・・・

 一つだけ確かなのは、光が私の「生きたい」と思う気持ちに応えて、私の体を治してくれた、という事。

 この時の私は、何が起こったのかわからなかったものの、とにかく、良かったと思った。

 でも・・・きっとこれは、身勝手な私への「罰」だったんだと・・・今は思う。

 エルを助けられず、いざ立ち向かっても、結局何も出来なかった私への──「罰」。

<───‼ ───────‼>

 かろうじて生き返った私の体を、また紫の炎が焼いた。

 黒い影の、体の一部・・・突然嗤い声を上げたあれが、まだ体の中にいるのを感じた。

 そして、いつまでも動くのをやめない私に、怒ってしまったのか・・・炎は、もっと強く、激しく、熱くなっていく。

 もう、声を上げる事さえ出来ない。

 すぐに意識が消えかけて・・・そこでまた、緑の光が私を包んだ。

 治った身体で、けほ、けほ、とせきこみながら息をする。

 何とか耐えられた・・・と、思った瞬間──またしても、紫の炎が私の体を焼いた。

 痛い、熱い、苦しい・・・・・・その3つの感情に、頭の中は支配されてしまう。

 私が動かなくなるまで、この炎が消える事はないんだと・・・そこで、ようやく理解した。

 体が焼ける感覚に、私は必死に叫んで・・・緑の光が、その体を治す。

 頭の良くないこの時の私は、生きたいと願ってしまうから・・・何度も、何度でも・・・・・・

 けれど、炎がきえる事もない。わたしの体をうごかなくするまで。

 また炎が私をやく。痛い、熱い、くるしい・・・でも、カラダだけはすぐになおる。

 私はがんばって息をして、またすぐに炎にやかレる。いたい、熱い、くるしい・・・・・・

 そしてすぐ私はシにそうになって、エルたすケておねガいとおもった。

 でもやっパりシななくて、カラダがなオって、またスぐにヤカれル。

 ダレかタスけて、いたイ、アツい、クルしいアツい  マタ、かラダがナおッタ

 ソシテすグニ カらダアツイ イタイ イたい にげタイ たスケて オカあさン



    『ダレ カ ───── ワタシ ヲ ───── タスケテ』



 ・・・・・・その繰り返しから、どのくらいの時間が経ったのか・・・私にもわからない。

 途中から、紫の炎と、緑の光は、どんどんその境目がなくなっていった。

 私の体を焼きながら治す力は──いつの間にか私の中で、「赤い光」に変わっていた。

 体の中で暴れていた黒い影の一部も、気づけば私の体になっていた。

 永い時間をかけて、紫の炎によって融けてしまった「がれき」もだ。

 私の体は全部、硬いものに変わっていた。

 ──その頃から、私の心と体は、完全に別のものになってしまっていた。

 痛い事に、熱い事に、苦しい事に・・・死ねない事に、疲れてしまって・・・・・・

 だからきっと、私は自分で自分の意識に、記憶に、「ふた」をしてしまったんだと思う。

 私は、私への「罰」からも、逃げ出してしまっていたんだ。 

 ・・・だから、なんだろう。今、私は、改めて「罰」を受けているんだ。


 私を助けてくれたハヤトさんを、助けたかった。

 カノンちゃんとティータちゃんが困った時は、力になりたかった。

 ・・・ライズマンみたいな、ヒーローに・・・・・・なりたかった。


 でも・・・それは、とんでもない間違いだったんだ。

 だって、私の力は──この、私の中の「赤い光」は───

 あの黒い影の・・・あの「眼」の怪獣から生まれた力なのだから。

 こんなおそろしい力を、こわい力を、もう使う事は出来ない。

 私はもう・・・「ヒーローになりたい」なんて言う事自体・・・許されない。

 ・・・前に、ティータちゃんは言っていた。


  『・・・・・・自分に過ぎた力と向き合う事は、本当に難しい』

  『望む望まざるに関わらず、一度手にした力を・・・捨てる事は出来ないから』


 「赤の力」で、愛するひとたちを傷つけてしまうティータちゃんは・・・誰も傷つけないためにひとりになる事を選んだ。

 けれど・・・私には、出来そうもない。

 ひとりぼっちが、怖くて・・・苦しくて・・・そんな絶望の中にいた所を、ハヤトさんに救ってもらって──

 今の私はもう、ひとりぼっちになる事に、耐えられそうにない。

 だから私は・・・もう二度と、力を使わない。

 だって・・・そうしないと・・・ハヤトさんのそばにいる事は出来ないから・・・

 いつの日か、ハヤトさんを傷つけてしまうかも知れないから・・・・・・

 ・・・・・・そうだ・・・・・・私はもう・・・何も出来ない・・・・・・何も・・・するべきじゃない・・・・・・

 そんな事を思いながら・・・私は、泣いていた。

 情けなくて、恥ずかしくて・・・でも、やっぱり怖くて・・・・・・

 だから私は──性懲りもなく、願った。


『・・・・・・助けて・・・助けて・・・ハヤトさんっ・・・・・・‼』


 ・・・ここは、私の中だから・・・こんな事を言っても意味なんてないのに。

 そんな事、わかってるはずなのに・・・私は、涙を流しながら、願った。

 ひとりぼっちは嫌だと、自分勝手なわがままを言った──その、時───

 
   『────クロッ‼』


 私しかいないはずの世界で、「声」がした。ハヤトさんの、声が・・・・・・っ!

 助けに来て・・・くれたんだ・・・! 

 私が、初めて怪獣になってしまった時と同じように!

 こんな私でも・・・ハヤトさんは、また助けてくれるんだ・・・・・・

 ・・・そうだ・・・! ハヤトさんは、私をひとりぼっちになんてしない・・・!

 ハヤトさんは、約束を守ってくれる!

 ひとりぼっちにしないって・・・そう言ってくれた約束を、絶対に守ってくれるんだ‼

 ハヤトさんっ! ハヤトさんは・・・やっぱり・・・ヒーローだっ‼

 私の憧れる・・・私が、本当の───

 ・・・そして、赤と黒で出来た私の世界に、一筋の光が差して・・・

 ハヤトさんが、手を伸ばしてくれる。


『───ハヤトさんっ‼』


 私は涙を流しながら・・・手を伸ばす。

 あの時と同じだ! 記憶がない私を、自分の命を賭けてまで助けてくれたあの時と!

 私にあたたかい言葉をくれた、あの時と! ひとりぼっちじゃなくなった、あの時と‼

 私は、あたたかなものを感じながら──ハヤトさんの、手を取ろうとして───

 ぽとり、と、落ちる。

 私の手が、みぎのてが、うでが・・・ぽとりと、おちる。


『・・・・・・・・・えっ・・・・・・?』


 ───そう・・・だった・・・・・・

 ───思い、出した。

 ───思い出して・・・しまった。

 私の・・・手は・・・・・・私の、腕は・・・・・・

 あの「眼」に・・・・・・あの・・・黒い影に・・・・・・


<<<アァァアァアァァハハハハハハハハハハッッッ‼>>>


 ・・・・・・どこからか、嗤い声が聴こえてくる。

 私の中にこびりついて離れない、嗤い声が。
 
『いや・・・! いや・・・っ! いやぁ・・・っ‼』

 私が戦わなければ・・・「勇気」を出さなければ、こんなに苦しい目に遭う事はなかった。

『いやっ・・・‼ いやだ・・・‼ いやあぁ・・・っ‼』

 こんなに、痛いなら・・・苦しいなら・・・・・・

 何度も何度も・・・つらい思いを、するんだったら・・・・・・


『いやあああああああああああああぁぁぁぁぁぁっっっ‼』


 私はもう・・・勇気なんて・・・・・・要らない・・・・・・・・・


                       ~第二章へつづく~
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

高校生とUFO

廣瀬純一
SF
UFOと遭遇した高校生の男女の体が入れ替わる話

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

入れ替われるイメクラ

廣瀬純一
SF
男女の体が入れ替わるイメクラの話

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

ワイルド・ソルジャー

アサシン工房
SF
時は199X年。世界各地で戦争が行われ、終戦を迎えようとしていた。 世界は荒廃し、辺りは無法者で溢れかえっていた。 主人公のマティアス・マッカーサーは、かつては裕福な家庭で育ったが、戦争に巻き込まれて両親と弟を失い、その後傭兵となって生きてきた。 旅の途中、人間離れした強さを持つ大柄な軍人ハンニバル・クルーガーにスカウトされ、マティアスは軍人として活動することになる。 ハンニバルと共に任務をこなしていくうちに、冷徹で利己主義だったマティアスは利害を超えた友情を覚えていく。 世紀末の荒廃したアメリカを舞台にしたバトルファンタジー。 他の小説サイトにも投稿しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...