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第十三話「新たなる鼓動」
第一章「滅亡の災火」・⑤
しおりを挟む───そして、その後──私は突然、ふしぎな場所で目を覚ました。
目に見えるもの全部が「黒」と「白」と「灰色」しかない・・・時間が止まってしまったようなその場所に、私は浮いていた。
まわりには、燃えていた街の建物が崩れたものや、壊されてしまった「塔」の一部が、私と同じように宙をただよっている。
ここはどこなんだろう・・・そう考えているうちに、また体の中で炎が暴れ出す感じがした。
<───‼ ───────‼>
そこで、私は痛みのあまり叫ぼうとして──自分の声が聴こえないのに気づいた。
耳がおかしくなってしまったのかなと思って触ろうとすると、手足は少しも動かない。
・・・ようやく私は、自分が何か大きな「がれき」の下敷きになっているのだとわかった。
<───ッッ‼ ───ッッッ‼>
かろうじて、息は出来たけど・・・それだけだ。私に出来るのは、それだけ。
身動きがとれないまま、私の体は内側から紫の炎に焼かれる。
痛くて、熱くて、苦しくて・・・でも、私にはそれをどうする事も出来なかった。
助けて‼ とどれだけ願っても、誰にも、どこにも届かない。
──そして、いよいよ終わりが近づいてくるのがわかった。
さっきまでしびれていた手足からフッと力が抜けて、頭の芯が冷えてくる。
私も、もうすぐ「冷たくなってしまうんだ」と思った。
・・・さっきの、エルのように。
この時・・・私の頭に浮かんだのは・・・・・・自分でも意外な言葉だった。
『マダ シニタク ナイ』
何をするにも臆病で、そんな自分が嫌いで、けれど結局いつも逃げてしまう・・・
そんな私が最期に願ったのは──あきらめの言葉じゃなかった。
すると、突然・・・紫の炎をさえぎるように、体の中から・・・緑の光が出てきたのだ。
その時の私は、わけがわからなかった。
いま思い返すと・・・たぶん、「塔」が壊れてしまった時、緑の光を使って戦うエルと同じように、私にも緑の光が移ってしまったんだと思う。
そして、私の中から出た光は・・・傷ついた私の体を、あっという間に治してしまった。
──エルは、この光を、「タマシイにコオウする力」だと言っていた。
それがどういう意味なのか、今でもよくわからないけれど・・・
一つだけ確かなのは、光が私の「生きたい」と思う気持ちに応えて、私の体を治してくれた、という事。
この時の私は、何が起こったのかわからなかったものの、とにかく、良かったと思った。
でも・・・きっとこれは、身勝手な私への「罰」だったんだと・・・今は思う。
エルを助けられず、いざ立ち向かっても、結局何も出来なかった私への──「罰」。
<───‼ ───────‼>
かろうじて生き返った私の体を、また紫の炎が焼いた。
黒い影の、体の一部・・・突然嗤い声を上げたあれが、まだ体の中にいるのを感じた。
そして、いつまでも動くのをやめない私に、怒ってしまったのか・・・炎は、もっと強く、激しく、熱くなっていく。
もう、声を上げる事さえ出来ない。
すぐに意識が消えかけて・・・そこでまた、緑の光が私を包んだ。
治った身体で、けほ、けほ、とせきこみながら息をする。
何とか耐えられた・・・と、思った瞬間──またしても、紫の炎が私の体を焼いた。
痛い、熱い、苦しい・・・・・・その3つの感情に、頭の中は支配されてしまう。
私が動かなくなるまで、この炎が消える事はないんだと・・・そこで、ようやく理解した。
体が焼ける感覚に、私は必死に叫んで・・・緑の光が、その体を治す。
頭の良くないこの時の私は、生きたいと願ってしまうから・・・何度も、何度でも・・・・・・
けれど、炎がきえる事もない。わたしの体をうごかなくするまで。
また炎が私をやく。痛い、熱い、くるしい・・・でも、カラダだけはすぐになおる。
私はがんばって息をして、またすぐに炎にやかレる。いたい、熱い、くるしい・・・・・・
そしてすぐ私はシにそうになって、エルたすケておねガいとおもった。
でもやっパりシななくて、カラダがなオって、またスぐにヤカれル。
ダレかタスけて、いたイ、アツい、クルしいアツい マタ、かラダがナおッタ
ソシテすグニ カらダアツイ イタイ イたい にげタイ たスケて オカあさン
『ダレ カ ───── ワタシ ヲ ───── タスケテ』
・・・・・・その繰り返しから、どのくらいの時間が経ったのか・・・私にもわからない。
途中から、紫の炎と、緑の光は、どんどんその境目がなくなっていった。
私の体を焼きながら治す力は──いつの間にか私の中で、「赤い光」に変わっていた。
体の中で暴れていた黒い影の一部も、気づけば私の体になっていた。
永い時間をかけて、紫の炎によって融けてしまった「がれき」もだ。
私の体は全部、硬いものに変わっていた。
──その頃から、私の心と体は、完全に別のものになってしまっていた。
痛い事に、熱い事に、苦しい事に・・・死ねない事に、疲れてしまって・・・・・・
だからきっと、私は自分で自分の意識に、記憶に、「ふた」をしてしまったんだと思う。
私は、私への「罰」からも、逃げ出してしまっていたんだ。
・・・だから、なんだろう。今、私は、改めて「罰」を受けているんだ。
私を助けてくれたハヤトさんを、助けたかった。
カノンちゃんとティータちゃんが困った時は、力になりたかった。
・・・ライズマンみたいな、ヒーローに・・・・・・なりたかった。
でも・・・それは、とんでもない間違いだったんだ。
だって、私の力は──この、私の中の「赤い光」は───
あの黒い影の・・・あの「眼」の怪獣から生まれた力なのだから。
こんなおそろしい力を、こわい力を、もう使う事は出来ない。
私はもう・・・「ヒーローになりたい」なんて言う事自体・・・許されない。
・・・前に、ティータちゃんは言っていた。
『・・・・・・自分に過ぎた力と向き合う事は、本当に難しい』
『望む望まざるに関わらず、一度手にした力を・・・捨てる事は出来ないから』
「赤の力」で、愛するひとたちを傷つけてしまうティータちゃんは・・・誰も傷つけないためにひとりになる事を選んだ。
けれど・・・私には、出来そうもない。
ひとりぼっちが、怖くて・・・苦しくて・・・そんな絶望の中にいた所を、ハヤトさんに救ってもらって──
今の私はもう、ひとりぼっちになる事に、耐えられそうにない。
だから私は・・・もう二度と、力を使わない。
だって・・・そうしないと・・・ハヤトさんのそばにいる事は出来ないから・・・
いつの日か、ハヤトさんを傷つけてしまうかも知れないから・・・・・・
・・・・・・そうだ・・・・・・私はもう・・・何も出来ない・・・・・・何も・・・するべきじゃない・・・・・・
そんな事を思いながら・・・私は、泣いていた。
情けなくて、恥ずかしくて・・・でも、やっぱり怖くて・・・・・・
だから私は──性懲りもなく、願った。
『・・・・・・助けて・・・助けて・・・ハヤトさんっ・・・・・・‼』
・・・ここは、私の中だから・・・こんな事を言っても意味なんてないのに。
そんな事、わかってるはずなのに・・・私は、涙を流しながら、願った。
ひとりぼっちは嫌だと、自分勝手なわがままを言った──その、時───
『────クロッ‼』
私しかいないはずの世界で、「声」がした。ハヤトさんの、声が・・・・・・っ!
助けに来て・・・くれたんだ・・・!
私が、初めて怪獣になってしまった時と同じように!
こんな私でも・・・ハヤトさんは、また助けてくれるんだ・・・・・・
・・・そうだ・・・! ハヤトさんは、私をひとりぼっちになんてしない・・・!
ハヤトさんは、約束を守ってくれる!
ひとりぼっちにしないって・・・そう言ってくれた約束を、絶対に守ってくれるんだ‼
ハヤトさんっ! ハヤトさんは・・・やっぱり・・・ヒーローだっ‼
私の憧れる・・・私がなりたかった、本当の───
・・・そして、赤と黒で出来た私の世界に、一筋の光が差して・・・
ハヤトさんが、手を伸ばしてくれる。
『───ハヤトさんっ‼』
私は涙を流しながら・・・手を伸ばす。
あの時と同じだ! 記憶がない私を、自分の命を賭けてまで助けてくれたあの時と!
私にあたたかい言葉をくれた、あの時と! ひとりぼっちじゃなくなった、あの時と‼
私は、あたたかなものを感じながら──ハヤトさんの、手を取ろうとして───
ぽとり、と、落ちる。
私の手が、みぎのてが、うでが・・・ぽとりと、おちる。
『・・・・・・・・・えっ・・・・・・?』
───そう・・・だった・・・・・・
───思い、出した。
───思い出して・・・しまった。
私の・・・手は・・・・・・私の、腕は・・・・・・
あの「眼」に・・・・・・あの・・・黒い影に・・・・・・
<<<アァァアァアァァハハハハハハハハハハッッッ‼>>>
・・・・・・どこからか、嗤い声が聴こえてくる。
私の中にこびりついて離れない、嗤い声が。
『いや・・・! いや・・・っ! いやぁ・・・っ‼』
私が戦わなければ・・・「勇気」を出さなければ、こんなに苦しい目に遭う事はなかった。
『いやっ・・・‼ いやだ・・・‼ いやあぁ・・・っ‼』
こんなに、痛いなら・・・苦しいなら・・・・・・
何度も何度も・・・つらい思いを、するんだったら・・・・・・
『いやあああああああああああああぁぁぁぁぁぁっっっ‼』
私はもう・・・勇気なんて・・・・・・要らない・・・・・・・・・
~第二章へつづく~
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