恋するジャガーノート

まふゆとら

文字の大きさ
上 下
295 / 325
第十二話「黒の記憶」

 第三章「星の降りる日」・③

しおりを挟む
       ※  ※  ※


「・・・まだ・・・立ち上がるのか・・・No.007・・・・・・」

 思わずそんな台詞を吐いてしまう程に・・・ヤツの身体は、痛々しい状態だった。

 全身の鎧の大部分が赤熱し、となって流れ落ち始めている。

 その様は以前、「卯養島うかいじま」でNo.013の荷電粒子砲を食らった直後の姿を彷彿とさせた。

「・・・・・・ッ!」

 そして私は同時に、横須賀に帰ってきた日の夜の事──

 「この状態のNo.007を放っておくと何が起こるのか」を思い出し・・・強く歯噛みする。

 図らずも、すぐ側に海がある所までが符合しており、最悪の想像が脳裏を過った。

「時間がないな・・・クソッ!」

 愚痴めいた思いを舌打ちと一緒に吐き出してから、ヘルメットの左側に手を当てる。

「作戦については今説明した通りだ! まずはNo.020の足を止めるぞ!」

『『『『アイ・マムッ‼』』』』

 揃った返事に奮い立たされつつ・・・紫の巨体に目を向ける。

<ギッ・・・! ギイィ・・・ッ‼ ギイイィィイシャアァァハハハハハハハッ‼>

 気づけば、傷口から湧き出た「黒い指」の姿は既になく──

 代わりに元通りになった首が、再び耳障りな嗤い声を上げていた。

 時間はかかるものの、やはり完全に再生してしまうようだ。

 絶望がより色濃くなった感覚がしたが・・・とにかく今は、柵山少尉の推論が当たっている事を信じて、やれるだけやるしかあるまい。

「ハウンド2! ミサイルだ! 可能な限りヤツの足元に当てろ!」

『アイ・マムッ!』

 返事が聴こえてから数秒後・・・すぐ近くで、バン‼と大きな音が一つ鳴った。

 打ち上がったミサイル──ラムパール社製の<RJV-028>は、空高く飛翔しながら内蔵カメラによってNo.020の姿を捉える。

 そして、中尉が着弾地点の入力を済ませた瞬間、獲物を狙う猛禽のように、地表へ向かって一直線に降下を始めた。

<ギイイィィイシャァァアハハハハハハッ‼>

 しかし、No.020がその接近に気が付かないはずがない。

 完全な回復を果たしていたヤツは、俊敏な触腕の動きで空中のミサイルを叩き落とす。

 当然、その衝撃によって信管が作動し、爆発で触腕の先端は弾け飛ぶが・・・すぐさま再生されてしまう。

 ミサイルだけでは、足を止める事すら出来ないのか・・・⁉

『・・・隊長ッ! 俺たちも──』

「待て! 今<アルミラージ・タンク>が狙われるのはまずい!」

 歯痒い思いを堪えながら、即座に連絡してきた竜ヶ谷少尉を制止する。

 ハウンド3は本作戦の要だ。万が一の事があれば、元も子もなくなってしまう。

『けどよっ! このままじゃ──』

『! No.007が・・・っ!』

 なおも食い下がる竜ヶ谷少尉だったが・・・その途中でオープンチャンネルに飛び込んできたユーリャ少尉の声に、私もつられてNo.020の右方へと視線を移す。

<グッ・・・オオオオオオオォォォォォォォッッ‼>

 そして、聴き慣れた雄叫びが耳に届き──同時に、驚愕する。

 立つのがやっと・・・いや、の状態ながら・・・

 ネイビーの巨竜は、相対するNo.020へと向かって再び駆け出したのである。

 巨大な足が地面を蹴る度に、熱で融けた鎧が雫となって後方へと飛び散り、文字通りの意味で少しずつ身体が失われていく。

 だが、それでもヤツは・・・走る。

「どうして・・・そこまで・・・・・・」

 誰に言うともなく溢れた呟きは、海風にさらわれ──

 同時に内心に浮かんだのは・・・「負けていられるか!」というただ一念だった。

「・・・ハウンド2! もう一度だ! ありったけブチ込めッ‼」

『アイ・マムッ‼』

 指示を飛ばすと、立て続けの破裂音と共に、5つの細い白煙が海から空へと伸びる。

 そして、No.007を迎え撃たんと触腕を振り上げたNo.020の元へ、全てのミサイルが殺到した。

 如何に驚異的な再生力を持つNo.020と言えども、直撃すればただでは済むまい。

 ヤツもそれを理解しているのか、振り上げた触腕で以て、咄嗟にミサイルを打ち払った。

 先程と同じような光景が繰り返され・・・唯一迎撃を免れたミサイルが一基、No.020の足元で炸裂する。

 爆発の威力で右脚が吹き飛ぶが、やはり、すぐに元通りになってしまう。

<グオオオオオオオオォォォォォッッ‼>

 ──しかし、その僅かな隙があれば十分だった。

 爆煙に紛れて、No.007は先程よりも深くNo.020の懐に入り込む。

 長い首を右脇で挟むように抱え、左手で触腕を束にして掴み、更には押し潰さんとする勢いで足を踏んで、No.020をその場に釘付けにした。

 ヤツの足を止めたい我々にとっては、まさに願ったり叶ったりの状況だ。

 まるで、かのようで・・・誰の仕業かを察し、舌打ちが出る。

「余計な事を・・・・・・」

 姿は見えないが、No.011もこの状況を見ているという事だろう。

 お節介を疎ましく思いつつも──今は、この機を利用するしかないと決断した。

「ハウンド3! チャンスは一度だ! いいな!」

『・・・アイ・マム』

『判ってますって! お任せ・・・あれっ!』

 竜ヶ谷少尉の調子の良い返事と共に、<アルミラージ・タンク>から甲高い音が鳴り始め、水色の光が漏れ出してくる。

 メイザー粒子の加速と圧縮が始まった合図だ。

「テリオ! <サンダーバード>の用意は!」

『いつでも行けます。・・・ただ、普段の「メイザー・ブラスター」よりも威力が強いために、歪曲フィールドが耐えられず、本体が破損する可能性が高いと思われます』 

「・・・やむを得まい。それでヤツを倒せるならむしろ儲けものだ」

 一瞬、開発者サラの号泣する顔が脳裏を過ったが・・・特に気にしない事にした。

<ギイィィイシャアァァアハハハハハハッッ‼>

<グオォ・・・ッ‼ オオオオオォォォォォ・・・ッッ‼>

 No.020は相手を引き剥がそうと必死に抵抗し、逆にNo.007は振り払われまいと鋭い牙を食い縛って堪えている。

 <圧縮砲>モードの準備が完了するまで、あと少し・・・!

「竜ヶ谷少尉! タイミングは任せる!」

『へへっ・・・どうも!』

 緊張感に欠ける声が返って来た所で、水色の光が一際強い輝きを放った。

『・・・ヘラヘラしてて外したら・・・許さない・・・・・・』

 竜ヶ谷少尉に釘を差しながら、ユーリャ少尉は巧みなハンドル捌きで<アルミラージ・タンク>を駆り、ベストな狙撃位置ポジションにつける。

『誰に向かって言ってんだよユーリャ──』

 すると同時に、<アルミラージ・タンク>のパラボラ部分が、伝導針を包むように、百合の花の蕾のような細長いシルエットへと変形する。

『こういう場面で外さねぇから・・・俺は普段ヘラヘラしてられんのさッ‼』

 そして、少尉の軽口を合図にトリガーが引かれ──

 極限まで加速された帯電メイザー粒子が、一条の光となって空を灼く。

 貫いたのは・・・再生したばかりの首の先にある、No.006のそれに似た頭部だ。

<ギイイイィィイィイイイイ────ッッ‼>

 しかし、これだけでは先程の二の舞い。この作戦の肝は・・・ここからだ!

『──歪曲フィールド、展開』

 No.020の黒い首の先端を貫いた、メイザー光線──その光の向かう先には、四基のプロペラによって滞空していた、<サンダーバード>の姿があった。

 ・・・<サンダーバード>の発生させる歪曲フィールドの本来の用途は、粒子の加速後には移動出来ず、かつ直線上にしか撃てない「メイザー・ブラスター」の軌道を「屈折」させ、目標に命中させる事にある。

 故に、理論上は・・・

「行け・・・ッ!」

 そして、思わず声が漏れた、その瞬間───

 陽炎のように揺らめく歪曲フィールドに、水色の閃光が到達して──屈折したそれは、ほぼ直角に反転──

 No.020の胴体の上・・・の中にあるもう一つの頭部をも、貫いてみせた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

高校生とUFO

廣瀬純一
SF
UFOと遭遇した高校生の男女の体が入れ替わる話

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

入れ替われるイメクラ

廣瀬純一
SF
男女の体が入れ替わるイメクラの話

ワイルド・ソルジャー

アサシン工房
SF
時は199X年。世界各地で戦争が行われ、終戦を迎えようとしていた。 世界は荒廃し、辺りは無法者で溢れかえっていた。 主人公のマティアス・マッカーサーは、かつては裕福な家庭で育ったが、戦争に巻き込まれて両親と弟を失い、その後傭兵となって生きてきた。 旅の途中、人間離れした強さを持つ大柄な軍人ハンニバル・クルーガーにスカウトされ、マティアスは軍人として活動することになる。 ハンニバルと共に任務をこなしていくうちに、冷徹で利己主義だったマティアスは利害を超えた友情を覚えていく。 世紀末の荒廃したアメリカを舞台にしたバトルファンタジー。 他の小説サイトにも投稿しています。

女子竹槍攻撃隊

みらいつりびと
SF
 えいえいおう、えいえいおうと声をあげながら、私たちは竹槍を突く訓練をつづけています。  約2メートルほどの長さの竹槍をひたすら前へ振り出していると、握力と腕力がなくなってきます。とてもつらい。  訓練後、私たちは山腹に掘ったトンネル内で休憩します。 「竹槍で米軍相手になにができるというのでしょうか」と私が弱音を吐くと、かぐやさんに叱られました。 「みきさん、大和撫子たる者、けっしてあきらめてはなりません。なにがなんでも日本を守り抜くという強い意志を持って戦い抜くのです。私はアメリカの兵士のひとりと相討ちしてみせる所存です」  かぐやさんの目は彼女のことばどおり強い意志であふれていました……。  日米戦争の偽史SF短編です。全4話。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

処理中です...