恋するジャガーノート

まふゆとら

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第十話「運命の宿敵 後編」

 第三章 「雷王対雷王‼ 誇りをかけた戦い‼」・①

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◆第三章「戦慄‼地底世界の真の覇者‼」


<グルアアアアアアアアアァァァァァァッッッ‼>

<バオオオオオオオオオオオオォォォォッッッ‼>

 二つの雷鳴がぶつかり合い、周囲の空気を激しく震わせる。

 巨大な角を持つ怪獣・レイガノンと、四本の腕に鋭利な爪を持つ怪獣・レイバロン──

 因縁深き二体が、遂に相見あいまみえ・・・大轟音の咆哮を伴い、視線を交叉させていた。

「カノン・・・気をつけて・・・・・・」

 見るからに血の気の多い両者の姿に、僕はそう零さずには居られなかった。

 先程は威勢良くカノンを送り出したけど、やっぱりケガをして欲しくない気持ちもまた本当で・・・

 すかさず頭の中に響いた『さっきまでの得意げな顔はどこ行ったのやら~』との皮肉を黙殺しつつ、僕はカノンと相対する紫の巨体へ目を向ける。

<バオオオォォッ‼ バオオオオォォッッ‼>

 ・・・やはり何度見ても、纏っている装甲はカノンの持つそれと同種のものだ。

 カノンの家族の仇であるはずのレイバロンが、どうして彼女と似た姿を持っているのかは判らないけれど・・・少なくとも、一つだけはっきりしているのは───

「あの怪獣は、カノンと同じ力を持っている・・・・・・」

 咆哮が轟く度に、頭部と背中を一列に覆った装甲から、パチパチとが散るのを見て、思わず息を呑む。

<グルアアアアアアアアァァァァッッ!>

 すると、まるでそれが合図だったかのように──まずは、カノンが仕掛けた。

  雄叫びを上げながら、相手に向かって真っ直ぐに駆けて行く。彼女自慢の突進攻撃だ。

<バオオオオオオオオオォォォォッッ!>

 岩と土砂で出来た地面を踏み鳴らしながら迫るカノンの姿を見て・・・レイバロンも呼応するように駆け出した。

 速度はカノンより遅いけど、動き出しはかなり素早い。

 走る程に血が巡り、レイバロンの全身に隆々とした筋肉が張り出してくる。

 体脂肪率の低い、アスリートを彷彿とさせる靭やかな体付きだ。

 突進の衝撃を受け止めるための頑強な肉体をしているカノンとは、対照的な印象を受ける。

<グルアアアアアアアアアアアアァァァァッッ!> 

 そこで、カノンが今一度吼えた。

 両者の距離はあと数十メートル・・・全長100メートル超の怪獣同士では、ともすれば一瞬で詰められてしまう程の空間だ。

 激突の衝撃を予想して、思わず身構えたところで──

<バオオオオォォォッ‼>

 突然、レイバロンの重心がグン、と下がる。

 そして、折り畳んだ脚で地面を跳ね飛ばすように蹴ると──

 紫の巨体は瞬時に、屹立するカノンの角よりも高く舞い上がった。

「なっ・・・⁉」

 凄まじいバネだ・・・! と驚愕している間に、突進する対象を見失ったカノンの頭を、レイバロンの足が踏み付けにし──

 更にそのままもう一度跳躍。

<グルアアアァァアアアッッ⁉>

 脳天にレイバロンの全体重をかけられてしまったカノンは、顎から地面に突っ込み・・・突進の勢いも余って、大量の土砂を撒き散らしながら地面を転げ回ってしまう。

「カノン・・・ッ‼」

『・・・あの運動性、突進しか知らないカノンにとっては脅威だね』

 シルフィは、カノンのダメージを気にも留めず、冷静に敵の能力を分析する。

 いつも通り過ぎるマイペースっぷりに、ほんの少し苛立ちを感じながらも・・・反対に自分は既にパニックになりかけていた事に気付いて、慌てて心を落ち着かせた。

<グルルル・・・ルアアアァァアア・・・ッ!>

 初っ端から手痛い一撃を食らってしまったカノンが、痛みを誤魔化すように頭をブルブルと振り乱しながら立ち上がり、振り返る。

<バオオオォォォ・・・・・・>

 敵意に満ちたカノンの視線を、真っ向から受け止めたレイバロンは・・・

 低い声で唸ると、四本あるうち前方の左腕を持ち上げて、忌々しげに左眼の傷を引っ掻き始めた。

 ・・・あの傷はかつて、カノンが付けたものだと言う───

 もしかして・・・カノンがレイバロンを家族の仇だと思うように・・・レイバロンもカノンの事を、自分の眼に傷を付けた「憎むべき敵」だと思っているのか・・・?

<バオオオォォォッ‼ バオオオオオオオオォォォッ‼>

 そんな恐ろしい想像が脳裏をよぎったところで、レイバロンは、強く短い鳴き声を何度も発し始めた。

 ・・・まるで、何かの信号を発しているかのように。

「ッ! まさか──」

<ゴアァッ‼ ゴアアァッ‼>

 その真意に気付いた時には既に遅く・・・周囲の岩棚に開いた横穴から、次々とガラムたちが姿を現していた。

 しかも、どの個体も体が大きい。秩父でガラムキングと一緒に現れた、足の速いタイプが揃っているのだと直感する。

 ガラムたちがめいめいに声を上げている岩棚は、カノンとレイバロンを取り囲むように段状になっていて・・・まるで、中央アリーナで剣闘する者達を見下ろすコロッセオのようだ。

 ・・・だけどこの場において、ガラムたちはただの観客ではない。

『どうやら、一対一で戦うつもりはないみたいだね・・・・・・』

 苦々しい顔を隠そうともしないシルフィが、そう零したのと同時──

 再び、レイバロンが吼える。

<バオオオオオオオオオオオオォォォォッッ‼>

 安全だと判っている球体の中にいてもなお、恐怖に足が竦んでしまう程の獰猛な咆哮・・・

 それが、ガラムたちへの合図だった。

<ゴアアァッッ‼ ゴアアア ァァッッ‼>

 カラスのような鳴き声と共に、口の端から粘り気のある涎を溢しながら・・・凶暴な刺客たちは、雪崩を打ってカノンの巨体へと殺到して行った───

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