恋するジャガーノート

まふゆとら

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第十話「運命の宿敵 後編」

 第一章「獰猛なる紫の雷王‼ 恐怖の地上侵攻作戦‼」・③

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<ビ──ッ‼ ビ──ッ‼ ビ──ッ‼>

「・・・ッ! マツド少尉! 状況を報告してくれ!」

 突如として鳴り響いた警告音アラートに、司令室の空気は一瞬にして張り詰めた。

 アカネ不在の間、機動部隊の指揮を任されている副隊長マクスウェルが、松戸へ指示を飛ばす。

「反応はNo.005のものと思われます! 秩父市の「ガラム坑」に設置したセンサーが反応したようです! 数は・・・ッッ⁉」

 モニターを見た彼女は、思わず絶句してしまう。

「に、20・・・いえ! 25・・・28・・・ま、まだ増えてます・・・ッ!」

 マクスウェルは中央のモニターに同期された映像を目にして・・・地図を埋め尽くさんと加速度的に増えていく反応に、もはや一刻の猶予もない事を確信する。

「総員、第一種戦闘配置! 至急「ガラム坑」に向かうぞ!」

「「アイ・サー!」」

 竜ヶ谷とユーリャが声を揃えて返事をし、ガンラックへと向かう。

 いつもより少ない軍靴の音を聞いて、マクスウェルは即座に端末を操作した。

「イワミ曹長、緊急事態だ! 第一班に同行願いたい!」

『アイ・サー! こちらは準備完了しております!』

 呼びかけてすぐ、警備課第一班の班長・石見の頼もしい声が返って来る。

「了解! 第二ヘリポートに集合してくれ!」

 指示を出しながら、マクスウェルは自らも手早く準備を済ませていく。

「隊長たちがヤツらの根城へ旅立ったタイミングでの襲撃・・・か・・・」

 「タクティカル・アーマー」のバンドを留めながら、ぽつりと独り言が漏れる。

「・・・隊長・・・どうかご無事で・・・」

 「彼女なら、どんな逆境も跳ね返してみせるだろう」──

 マクスウェルはそう信じていながらも、アカネの身を案じずにはいられなかった。


       ※  ※  ※


「えっ・・・⁉ そっちにも怪獣が・・・⁉」

 ティータに現状を説明しようとしたところで──

 想像だにしていなかったニュースが飛び込んで来た。

『・・・えぇ。いまJAGDの通信も視えたわ。ガラム・・・という小さな怪獣の大群が地上に向かって来ているようね』

 ・・・あまりにも、タイミングが気がした。

 まさか・・・あの紫の怪獣──アカネさんは「レイバロン」と零していた──が、遠く離れたガラムたちに地上を襲うよう指示を出したって言うのか・・・?

『今からJAGDの子たちが出動するみたいだけれど・・・「波」の動きからして、怪獣たちは二手に分かれているみたい。片方が手つかずになるのはまずいわね・・・』

 彼女にはきっと、JAGDでさえ知り得ない事まで視えている。

 このままじゃ・・・秩父の時みたいにまた犠牲者が出てしまうんじゃ・・・・・・

『ティータちゃん・・・! 私・・・このまま放っておけないですっ!』

 脳裏を掠めた陰鬱な想像を断ち切るかのように、クロが声を上げた。

 顔は見えなくても・・・彼女の瞳に強い意志が宿ったのが判った。

『そうね。私たちで、何とかしましょう』

 ティータも、クロの熱意に応える事にしたみたいだ。

 ただでさえ消耗してる彼女に無理をさせるのは気が引けるけど・・・今は頼る他ない。

『シルフィ、前にクロから聞いた・・・亜獣態だったかしら? あれで迎え撃つわ』

『はいは~い。くれぐれも途中で誰かに見つからないようにね~』

 間の抜けた返事をしてから──シルフィの胸にある結晶が、オレンジ色の光を放ち始める。

 きっと今、クロとシルフィの体は少しだけ怪獣の姿に戻りつつあるんだろう。

「・・・二人とも、気を付けて!」

『はいっ! 頑張ります・・・っ!』

 彼女たちなら絶対に大丈夫だと、自分に言い聞かせたところで──

『ハヤト。・・・代わりには、任せたわよ』

 ティータが、返事の代わりにそう返した。

「! ・・・うん。判った」

 それが何の事を・・・いや、を指しているのかを察して、強く頷く。

『ふふっ・・・頼もしいわね。それでこそ私のとまり木よ』

 微笑んだのだと判る優しい声に、背中を押された気がした。

『──それじゃあ、行くわ』

 そして・・・その言葉を最後に、二人の声は遠くなった。

 心の中でもう一度彼女たちの無事を祈ってから──振り返る。

「・・・・・・」

 視線の先には、ガラムも、ガラムたちを従えていたレイバロンも、もう居ない。

 アカネさんたちが去ってすぐ、背を向けて何処かへ行ってしまったからだ。

 僕の目の前にいるのは・・・項垂うなだれたまま、地べたに座り込んでしまったカノンだけ。

「・・・・・・よし・・・!」

 クロたちが今、そうしているように・・・

 僕も、僕に出来る事をしよう。


       ※  ※  ※


「──ハァ・・・ハァ・・・こ、ここまで来れば、ひとまず安心ですわね・・・」

 No.016に背を向けて──サラとバーグの二人は、砂海を3キロほど歩いていた。

「ハァ・・・ハァ・・・げほっ! げほっ!」

 ただでさえ足を捕られがちな砂の上での速歩きは、平時から運動不足なサラの体力を完全に削り取ってしまい・・・

 遂に彼女は、膝から崩折れてしまう。

「・・・一度、休息しよう」

「そう・・・ですわね・・・・・・」

 言葉面だけは「提案されたから」という体で、サラは自分の身長ほどの岩を背に座り込む。

 バーグは周囲を警戒しつつ、サラの斜向いに腰掛けた。

「これを。一気に飲むなよ」

 そして、腰に提げていた水筒を差し出す。

 サラは目をぱちくりさせてから、両手で受け取った。

「ありがとうございます・・・お優しいんですのね、ルクシィさん」

 サラは、水を分けてくれた事はもちろん、足手まといにしかならない自分を置いていこうとしない彼の姿勢を含めてそう評した。

「・・・自分に銃を向けた相手に、よくそんな事が言えるな」

 少女の眩しすぎる視線を受け止めきれず、バーグは憎まれ口を叩くが・・・

 そんな彼の態度は、余計にサラを笑顔にさせた。

「ふふっ。これでも普段は財界の狸さんたちの相手をしてるんですの。根っからの悪人と善人の区別くらいつきますわ」

「・・・君の姉貴分を殺そうとした俺がどちらかなんて、聞くまでもないだろ」

「えぇ。今こうして二人でいるのが何よりの証拠ですわ」

「・・・・・・」

 年下ながら人生経験豊富なサラを相手に、舌戦では不利と悟ってバーグは沈黙を選ぶ。

 一方、サラは今まであまり話した事のなかったこの青年を気に入り・・・

 同時に、どうしてあのような凶行に及んだのか──その理由が知りたくなってしまう。
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