恋するジャガーノート

まふゆとら

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第九話「運命の宿敵 前編」

 第三章「戦慄‼ 地底世界の真の覇者‼」・②

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「今だッ! 脱出しろッ‼」

『お、おえっぷ・・・ぜ、前進・・・しますぅ・・・!』

 声だけで、少尉が青い顔をしているのが判る。

 ・・・想像通り、操縦席は大変な事になっていたようだ。

「ハウンド4! ワイヤーを巻き取れッ!」

 <ファフニール>のキャタピラが濛々と砂埃を巻き上げ始めたのを見て、<ドラゴネット>にも指示を飛ばした。

 間髪入れずに、ワイヤーの巻取り機が大きく唸りを上げる。

 そして、拘束を逃れた車体は、自前の馬力と強靭な牽引ワイヤーによって──

 ともすれば呆気ないほど僅かな時間で、流砂の海を脱する事が出来た。

「──よし! 総員、足場の状態に注意しつつ全力で後退だッ‼」

『『『『アイ・マムッ‼』』』』

 即座に陣形を立て直し、十分に距離を取った所で振り返ると・・・

 そもそも追いかけるつもりはないのか、No.016の巨大な頭部が再び流砂の海の中へと消えて行ったのが見えた。

『・・・ひとまず・・・難を逃れましたかね・・・?』

 おそるおそると言った調子で、柵山少尉が呟く。

 本音を言えば「気を抜くな!」と釘を差したい所だが・・・ここは一度、全員を落ち着かせた方が良いだろう。

「そうだな。まだ警戒は必要だが、ヤツも追ってくる気配はなさそうだ」

 少し間を置いてそう返すと・・・オープンチャンネルは安堵の溜息で溢れた。

 ・・・やはり、みな相当張り詰めていたようだ。

『やったっ‼ やりましたわっ‼ さすがは私の愛しいスーパーメカちゃんたちですわっ‼』

 ・・・・・・約一名を除いて、だが。

「あの緊張感のなさは何とかならないのか? お前の母親マザーだろ?」

『仰りたい事は判りますが、私にとっては母親である以上に創造主ですので、如何いかんとも』

 都合のいい時ばかり機械ぶるテリオに呆れつつ・・・少し、思い直す。

 今回はサラの言う通り、彼女の発明したモノたちに助けられた訳だし・・・いつものように突き放すばかりでなく、素直な気持ちを伝える事にしよう。

「・・・まぁ、あれだ。サラ、助かったよ。君はやっぱり天才だな」

『お、お姉さま・・・っ‼ お姉さまがストレートに褒めてくださるなんてッッ‼ わ、私・・・私・・・はぁ・・・ッ‼ ・・・・・・まさかお姉さま、偽物ではいらっしゃいませんわよね?』

「たまの褒め言葉くらい素直に受け取れ馬鹿者」

 溜息を吐きつつ・・・しばらくは褒めなくていいな、と心を決めた。

『キリュウ少佐! システムチェック、完了しました! 運転に支障はなさそうですっ!』

 と、そこで、カルガー少尉から通信があった。指示しておいた仕事が終わったようだ。

 ・・・声色もだいぶ落ち着いたようだし、もう話を振っても大丈夫だろう。

「カルガー少尉。さっきの暴走の原因は判るか?」

『す、すみません・・・私プログラム関係は疎くて・・・・・・バーグちん、何か判る?』

 イメージ通りと言えばイメージ通りな返答を受けつつ、カルガー少尉はルクシィ少尉に話をパスした。

 ・・・やや間があって、あまり元気とは言えない声がオープンチャンネルに届く。

『・・・そうですね・・・詳しく調べてみないと何とも・・・』

 彼も、初めてのジャガーノートとの戦闘で満身創痍・・・と言ったところか。

 ・・・・・・それとも・・・また別の───

<ビ──ッ‼ ビ──ッ‼ ビ──ッ‼>

 ・・・三度みたび聴こえた警告音アラートに、苛立ちのままに端末を握り潰しかけて・・・何とか堪えた。

「総員、全周警戒‼ 柵山少尉! データに該当はあるか!」

『少々お待ち下さい・・・・・・この波形は・・・・・・No.015タオユウです! それも2体ッ!』

「クソッ・・・! ヤツも穴蔵出身だったのか・・・!」

 つい数秒前までは、一度この地底世界の入り口まで後退すべきかと考えていたのだが──

 高エネルギーの反応を示す光点は、まさにその方角からこちらへ向かって来ている。

 ・・・しかも、速い。今朝の報告レポート通り、健脚らしいな・・・。

 正面衝突は避けたいし、そもそもすぐ近くにNo.016の巣があるこの状況では、迎え撃とうにも分が悪すぎる。

「悪手の可能性も高いが、この場に留まるのも危険、か・・・」

 さらに地下へ潜る事にはなってしまうが・・・ここは前進すべきだな。

「よし。ハウンド3を先頭に、ハウンド4、ハウンド2の順で陣形を組んで、10時の方向にある横穴に入るぞ! ヤツらが追いかけてきたとして、あの道幅なら横に並んでは走れない。前後に並ばせて、後退しながら1体ずつ迎撃する! いいな!」

『『『『アイ・マムッ!』』』』

 揃った返事と共に、まず<ファフニール>が発進する。

 先程見せた整地性能を鑑みれば、道なき道の先陣を切らせるのが適役のはずだ。

 そして、後に続いて動き出す駆動音を背中で感じながら、目を凝らしていると・・・

 遠くから、土煙を巻き上げてこちらへ突進して来る2つの影が見えた。

「来たか・・・全く・・・自分自身のが嫌になるな」

『国境を越えても疫病神がついて回るのは、モンゴルの時に証明されていますから』

『神聖な石窟寺院の真下ですのに・・・よっぽどお力のある背後霊ですのね!』

「・・・お前たち、後で覚えておけよ・・・・・・」

 遠慮のない親子にドスを利かせつつ・・・

 <ヘルハウンド>を回頭させ、<グルトップ>の背中を追って走り出した。
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