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第六話「狙われた翼 前編」
第一章「来訪」・①
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※ ※ ※
<・・・あれ? もしもーし? 私の声、聴こえてるかしら?>
再び、例の「声」が僕の鼓膜を震わせ・・・同時に、観覧車の上の怪蝶が小首を傾げた。
「あ・・・あの・・・は、はい・・・・・・」
・・・そんな曖昧な返事をするのが、今の僕に出来る精一杯だった。
翼長150メートルはあろうかという、巨大な蝶・・・。
翼と瞳の色が左右で分かれ、こちらから見て右が赤、左が青をしている。
白磁に似た質感の鋭利な外殻に包まれていながら、その姿からは攻撃的な印象は感じられず・・・むしろ、神々しさのようなものを感じてしまう。
状況とか仕草からして、やっぱりあの怪蝶が話しかけてきてるんだよね・・・?
ここから観覧車の上まで200メートルは離れているはずなんだけど、耳に届く「声」はまるで目の前にいるかのようで、あまりの違和感に頭がパンクしそうだ。
「・・・は、ハヤトさん! わ、私っ! 戦います‼」
そこで、同じく呆気に取られていたクロがハッと気付き、握り拳を作って叫んだ。
<ちょっとちょっと。クロちゃん・・・だったかしら? 私は争うつもりはないわよ。ただハヤトと話がしたくて来ただけ>
「ひうぅっ⁉」
突然名前を呼ばれて、クロが怯んでしまい僕の後ろに隠れる。
そ、そうだ! 完全に失念してたけど、どうして僕たちの名前を・・・⁉
<あぁ、ごめんなさい、言い忘れていたわ。簡単に言うと、私は生物の思考が読めるの。勝手に視てしまって悪かったわ>
「声」がとんでもない事を言ってのける。
隣にいるクロも、目をぱちくりさせている。
「・・・アァン? なんだぁあのでけぇハネムシは? 角がねぇし弱っちそうだな」
と、後ろからカノンの声が聴こえてきた。
うるさくしてしまったせいなのか、あの怪蝶の気配に気づいたのか、寝ている所を起こしてしまったようだ。
<・・・聴こえてるわよ、そこのツノ娘さん>
再び「声」が聴こえる・・・が、何だか、今までの穏やかな口調ではない。
どちらかと言うと、いらついている・・・ような・・・?
「うおわァ⁉ な、なんだッ⁉ 耳がぞわぞわってしたぞ⁉」
聞き覚えのない「声」に話しかけられて、カノンが飛び上がった。
<あぁ。ごめんなさい。あなた達の周囲の空気だけ振動させて話しかけてるんだけど、調節がちょっと難しくてね>
言いながら・・・怪蝶が、目を細めた気がした。
<手元が狂うと一発で鼓膜破っちゃうから・・・気をつけてね、特にツノ娘さん>
思わず、背筋が凍った。
他人の思考が読めて、遠くの空気を自由に振動させられる・・・この怪蝶は、今までに出会ったどのジャガーノートとも違う・・・!
「んだとこのハネムシがァッ‼ ケンカ売ってん──」
「く、クローっ‼ カノンを止めてえぇっ‼」
なおも食ってかかろうとするカノンを前にして、咄嗟に叫んでいた。鼓膜を守るために。
「か、カノンちゃん・・・! 「めっ!」です・・・っ!」
意図を察したクロが、カノンを止めようと、後ろからハグをして──
「オイコラ一本角ォッ! なにしやがん・・・熱ぢぢぢぢぢぢぢぢっっ‼」
・・・当然、こうなる。
しかし、カノンの方もやられっ放しではない。
反射的に身体の表面から水色の光が迸り、クロの身体を跳ね除けた。
「うひゃうっ⁉」
クロが尻もちをつく。怪獣の時と違って感電した様子はなく、突き飛ばされただけのようだ。
『は~い二人とも静かに~』
と、そこで二人の姿が消える──どうやら、シルフィが例の球体で隠してしまったらしい。
<・・・! 今のは、ハヤトの力なのかしら・・・?>
「い、いえ・・・今のは──ひふひっ・・・」
『ストップ。ボクの事は言わないで』
言いかけて、頬を引っ張られる。シルフィは、自分の存在を知られたくないらしい。
<・・・ふぅん。今消えた二人がニンゲンじゃないのはすぐに判ったけど・・・ハヤトも普通とは違うみたいね?>
「声」は、どこか愉しそうに聴こえる。
口調からもわかっていたけど・・・あの怪蝶は知性があるだけじゃなく、感情も豊かだ。
<・・・っと。ごめんなさい。ハヤトについて聞く前に、まずは自己紹介が必要よね>
それに・・・どこか、こちらを慈しむような雰囲気も感じてしまう。
もちろん確証はないし、そもそも慈しんでもらう理由もないはずなんだけど・・・警戒してるシルフィとは裏腹に、僕は目の前の「非日常」を、どこか受け容れつつあった。
<私は───>
随分時間がかかってしまったけど、ようやく本題に入れる──そう思ったところで──
「・・・?」
ブーンと、勢いよく回るプロペラの駆動音が耳に届いた。
「・・・? この音は・・・?」
疑問符を浮かべた直後・・・数メートル先に突然、ダークグレイのドローンが降りて来る。
こ、これってまさかカナダで見たあれと同じ・・・⁉
思わず怯んだところで──
『ハヤトッ‼ 伏せろッ‼』
目の前のドローンから──何故か、アカネさんの声が聴こえてきた。
「えっ──?」
状況が判らずに困惑し、辺りを見回した・・・その瞬間───
「うわぁっ⁉」
後方からけたたましい音が鳴り、水色をした一条の閃光が僕たちの頭上を通り過ぎて・・・観覧車の上へと、星空を裂いて直進して行った。
<・・・あれ? もしもーし? 私の声、聴こえてるかしら?>
再び、例の「声」が僕の鼓膜を震わせ・・・同時に、観覧車の上の怪蝶が小首を傾げた。
「あ・・・あの・・・は、はい・・・・・・」
・・・そんな曖昧な返事をするのが、今の僕に出来る精一杯だった。
翼長150メートルはあろうかという、巨大な蝶・・・。
翼と瞳の色が左右で分かれ、こちらから見て右が赤、左が青をしている。
白磁に似た質感の鋭利な外殻に包まれていながら、その姿からは攻撃的な印象は感じられず・・・むしろ、神々しさのようなものを感じてしまう。
状況とか仕草からして、やっぱりあの怪蝶が話しかけてきてるんだよね・・・?
ここから観覧車の上まで200メートルは離れているはずなんだけど、耳に届く「声」はまるで目の前にいるかのようで、あまりの違和感に頭がパンクしそうだ。
「・・・は、ハヤトさん! わ、私っ! 戦います‼」
そこで、同じく呆気に取られていたクロがハッと気付き、握り拳を作って叫んだ。
<ちょっとちょっと。クロちゃん・・・だったかしら? 私は争うつもりはないわよ。ただハヤトと話がしたくて来ただけ>
「ひうぅっ⁉」
突然名前を呼ばれて、クロが怯んでしまい僕の後ろに隠れる。
そ、そうだ! 完全に失念してたけど、どうして僕たちの名前を・・・⁉
<あぁ、ごめんなさい、言い忘れていたわ。簡単に言うと、私は生物の思考が読めるの。勝手に視てしまって悪かったわ>
「声」がとんでもない事を言ってのける。
隣にいるクロも、目をぱちくりさせている。
「・・・アァン? なんだぁあのでけぇハネムシは? 角がねぇし弱っちそうだな」
と、後ろからカノンの声が聴こえてきた。
うるさくしてしまったせいなのか、あの怪蝶の気配に気づいたのか、寝ている所を起こしてしまったようだ。
<・・・聴こえてるわよ、そこのツノ娘さん>
再び「声」が聴こえる・・・が、何だか、今までの穏やかな口調ではない。
どちらかと言うと、いらついている・・・ような・・・?
「うおわァ⁉ な、なんだッ⁉ 耳がぞわぞわってしたぞ⁉」
聞き覚えのない「声」に話しかけられて、カノンが飛び上がった。
<あぁ。ごめんなさい。あなた達の周囲の空気だけ振動させて話しかけてるんだけど、調節がちょっと難しくてね>
言いながら・・・怪蝶が、目を細めた気がした。
<手元が狂うと一発で鼓膜破っちゃうから・・・気をつけてね、特にツノ娘さん>
思わず、背筋が凍った。
他人の思考が読めて、遠くの空気を自由に振動させられる・・・この怪蝶は、今までに出会ったどのジャガーノートとも違う・・・!
「んだとこのハネムシがァッ‼ ケンカ売ってん──」
「く、クローっ‼ カノンを止めてえぇっ‼」
なおも食ってかかろうとするカノンを前にして、咄嗟に叫んでいた。鼓膜を守るために。
「か、カノンちゃん・・・! 「めっ!」です・・・っ!」
意図を察したクロが、カノンを止めようと、後ろからハグをして──
「オイコラ一本角ォッ! なにしやがん・・・熱ぢぢぢぢぢぢぢぢっっ‼」
・・・当然、こうなる。
しかし、カノンの方もやられっ放しではない。
反射的に身体の表面から水色の光が迸り、クロの身体を跳ね除けた。
「うひゃうっ⁉」
クロが尻もちをつく。怪獣の時と違って感電した様子はなく、突き飛ばされただけのようだ。
『は~い二人とも静かに~』
と、そこで二人の姿が消える──どうやら、シルフィが例の球体で隠してしまったらしい。
<・・・! 今のは、ハヤトの力なのかしら・・・?>
「い、いえ・・・今のは──ひふひっ・・・」
『ストップ。ボクの事は言わないで』
言いかけて、頬を引っ張られる。シルフィは、自分の存在を知られたくないらしい。
<・・・ふぅん。今消えた二人がニンゲンじゃないのはすぐに判ったけど・・・ハヤトも普通とは違うみたいね?>
「声」は、どこか愉しそうに聴こえる。
口調からもわかっていたけど・・・あの怪蝶は知性があるだけじゃなく、感情も豊かだ。
<・・・っと。ごめんなさい。ハヤトについて聞く前に、まずは自己紹介が必要よね>
それに・・・どこか、こちらを慈しむような雰囲気も感じてしまう。
もちろん確証はないし、そもそも慈しんでもらう理由もないはずなんだけど・・・警戒してるシルフィとは裏腹に、僕は目の前の「非日常」を、どこか受け容れつつあった。
<私は───>
随分時間がかかってしまったけど、ようやく本題に入れる──そう思ったところで──
「・・・?」
ブーンと、勢いよく回るプロペラの駆動音が耳に届いた。
「・・・? この音は・・・?」
疑問符を浮かべた直後・・・数メートル先に突然、ダークグレイのドローンが降りて来る。
こ、これってまさかカナダで見たあれと同じ・・・⁉
思わず怯んだところで──
『ハヤトッ‼ 伏せろッ‼』
目の前のドローンから──何故か、アカネさんの声が聴こえてきた。
「えっ──?」
状況が判らずに困惑し、辺りを見回した・・・その瞬間───
「うわぁっ⁉」
後方からけたたましい音が鳴り、水色をした一条の閃光が僕たちの頭上を通り過ぎて・・・観覧車の上へと、星空を裂いて直進して行った。
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