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第五話「悪魔の手」
第三章「角にかけた誇り‼ レイガノン起つ‼」・①
しおりを挟む◆第三章「角にかけた誇り‼ レイガノン起つ‼」
「あれは・・・!」
<ヘルハウンド>の車体を駆り、コルヴァズ火山へと向かう途中──。
俄に空に現れた光が森の中へ降り立ち、それがNo.007──ヴァニラスの姿へと変わる。
No.008戦の時と同じ・・・隊長の前では間違っても口に出来ないが、その光景はどこか神々しくもあり、立場も忘れてつい息を呑んでしまう。
まだ距離があったが、背の高い針葉樹林の隙間からそのネイビーの影が見えて・・・
やがて、その巨体に比肩する大きさを持つもう一体の赤いジャガーノートが、No.007に相対するように立ち上がった。
間違いない・・・あれが「ヴォルキッド」だ。
ナンバリングは、No.010か・・・改めて考えると、たった一ヶ月で新種が4体も発見されたという事になる。
これまでの観測ペースを鑑みれば驚異的と言えるだろう。
「・・・これからは、こんな光景も珍しくなくなってきてしまうのか・・・」
道を急ぎながら・・・道の両脇で燃える森を見て、眉をひそめる。
最前線に立つ身でありながら、改めて人類の天敵たるジャガーノートの力に恐怖を覚え、ハンドルを握る手に力が入る。
と、そこで、木々の間──二体のジャガーノートが睨み合う戦場の片隅に、ダークグレイの服を着た人影が2つ見えた。
ゴートとマイド少尉だろう。初めてのジャガーノート相手によく戦えているなと思ったが・・・影は、どちらも動く様子がない。
「まずい・・・っ!」
初めて目にするジャガーノートを前に、二人とも飲まれてしまっている。
端末に必死に呼びかけつつ、必死に車体を走らせるが──まだ遠い。
ヴォルキッドの溶岩弾を食らい、No.007が二人の目前で立ち膝をついたのが見えた。
No.007がもう一度尻尾を振り回そうものなら、発生するであろう風圧で二人は木の葉のように吹き飛ばされてしまうだろう。
あるいは、今まさにヴォルキッドが放たんとしている熔岩弾の一つでも当たれば、肉片すら残さず消えてしまうかもしれない。
攻撃しようが躱そうが・・・No.007が動いた瞬間、二人の死は確定する──!
届かないと知りながらも、腰の後ろに突っ込んだ「ニードル・シューター」を手に取る。
「的は大きいんだ・・・どこかに当たってくれ!」
そう呟きながら引き金を引こうとして───私は、信じられない光景を見た。
「なっ・・・⁉」
ヴォルキッドが再び溶岩弾を連射すると・・・No.007は両腕を広げ、その攻撃を躱す事もせず、背中で受け続けたのである。
・・・まるで、足下にいる二人を守るかのように───
「どういう・・・事だ・・・?」
頭の中が疑問符で埋め尽くされる。
No.007は、存在自体がJAGDにとって頭痛の種だ。
新たなジャガーノートが観測される度に唐突に出現し、敵を屠っては消える・・・その生態も、目的も、全てが謎に包まれている。
私は勝手に「ジャガーノートを狩るために生み出されたジャガーノート」ではないかと考えていたのだが・・・
今、ヤツは明確に、「敵を倒すため」ではなく、「人を守るため」の行動をしている。
何故・・・人類の天敵であるジャガーノートが・・・人類を守ろうと・・・?
そうこうしているうちに、「戦場」は目と鼻の先まで迫っていた。
ヴォルキッドが放った火炎放射により、No.007の身体は赤熱化し、全身を溶融させながら遂に大地に倒れた。
初めて観測された時と同じ・・・死にかかっている状態だ。
「ゴート‼ マイド少尉‼」
車体を木々の間に滑り込ませながら、大声で叫ぶ。
二人が、肩をビクリとさせて振り向いた。
「あ、アル・・・」
顔を凍らせたまま、ゴートがかろうじてと言った様子で私を呼んだ。
隣で腰を抜かしているマイド少尉は、声を出せずに身体を震わせている。
涙で濡らした顔はぐしゃぐしゃだ。
「・・・二人とも、遅れてすまない」
言いながら、シートを降りて・・・二人まとめてハグをした。
「よく頑張ったな・・・! よく、生き残ってくれた・・・‼」
背中を叩きながら、言い聞かせる。
・・・私には、キリュウ隊長のようなやり方が出来る程気迫が足りていない。
だから、今は私なりの方法で、二人を安心させようと努める。
「ちゅ、中尉さん・・・中尉さあぁんっ‼」
マイド少尉は、わんわんと泣き出してしまった。
初陣は怖かっただろう。私だってNo.007を相手にした時は、<アルミラージ>の装甲越しで震えていたのだ。
生身であの巨体を前にして、平静を保てる方が珍しい。
「あ、アル・・・あ、あの・・・え、えと・・・」
「落ち着くんだ、ゴート。現状を教えてくれ」
背中をさすりながら、出来る限り優しく問いかけた。
「・・・ヴォルキッドが・・・うちの戦闘機を落としたんだ・・・しかも・・・2機・・・パイロットに呼びかけたんだけど・・・全然反応なくて・・・それで・・・マイドと二人でいたら・・・いつの間にか・・・アイツが・・・目の前に・・・目の・・・前・・・に・・・・・・」
彼の身体が震え始めたのが、腕から伝わってきた。
「・・・もういい。ありがとう、ゴート」
カナダ支局が、彼らを先んじて調査に向かわせていた判断は正しかった。
ついでに、油断せずに虎の子の戦闘機を最初から繰り出した事も。
・・・しかし、「悪魔の手」は、それら最善の判断すら、力で捻じ伏せてしまったのだ。
二人には、もう戦う気力は残されていない。
一刻も早く安全な場所に──そう考えた矢先、ヘルメット越しに、鼓膜を破ろうかという程の爆発音が鳴り響く。
「ひいいぃぃぃっっ‼」
マイド少尉が腕にしがみついてくる。手入れされた綺麗な爪が食い込んで、思わず下唇を噛んだ。
音がした方に目を向けると・・・ヴォルキッドが、倒れて動かなくなったNo.007に一撃お見舞いしたようだ。
白煙を上げながら、なおも反応しないNo.007を見て・・・ヴォルキッドは、とどめとばかりに両手から熔岩弾を連射した。
されるがままのNo.007には・・・最早、悲鳴を上げる力すら残されていないらしい。
キリュウ隊長が、「現状における最強最悪のジャガーノート」とするNo.007が此処で倒れれば・・・
JAGDにとっても・・・ひいては人類にとっても、悪い事ではない。
・・・悪い事ではない・・・はずだ。
「ッ! いかん・・・!」
立ち向かってくる敵を無力化した事を確認して、ヴォルキッドがこちらへ目線を向けたのがわかった。
灼熱の身体に反した、冷たい眼差しに射抜かれる。
「悪魔」の名に恥じない迫力に震え上がるが、黙って死ぬわけにはいかない。
真っ白になりかけた頭を無理やり引き戻して、腕の中の二人を立ち上がらせようとした、その時───
<グオォ・・・オオォ・・・・・・>
動く事すら出来ないはずのNo.007──いや・・・「ヴァニラス」が、微かな呻き声とともに身体を捩り、ヴォルキッドの脚を掴んだ。
<・・・・・・コォ──・・・・・・>
ヴォルキッドは振り向きもせず、右腕だけを背後に向けて熔岩弾を発射した。
しかし・・・痛めつけられながらも・・・ヴァニラスは、その手を離そうとはしない。
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