恋するジャガーノート

まふゆとら

文字の大きさ
上 下
105 / 325
第五話「悪魔の手」

 第一章「暴れる野生‼ 制御不能の怪獣娘‼」・③

しおりを挟む
       ※  ※  ※


「・・・すみません隊長。やはり、現状JAGDのデータベースにある「遺文レリック」の中には、隊長の仰っていた「レイガノン」に該当するものはないようです・・・」

 少ししゅんとした様子で、松戸少尉が報告してくれる。

 純朴そうな見た目の割にプライドの高い彼女の事だ。調べきれなかったのが悔しいらしい。

「わかった。ありがとう。・・・それと少尉、あまり寝ていないだろう」

「えっ・・・あっ! もうお昼・・・⁉ す、すみません私ったら・・・」

 昨夜、基地に帰投してすぐ少尉に調査を指示してから、ずっと熱中していたらしい。

 目の下に出来た濃いクマが何よりの証拠だった。

 窓もない地下の施設だから、時間感覚が狂ってしまう気持ちはわかるが、無理は禁物だ。

「何かあったら起こすから、少し寝てきなさい。非常事態に君が欠けたら極東支局は機能しないぞ?」

 勿論、そんな事にならないよう、オペレーションを行える整備課の人間は数人いる。

 が、彼女のポテンシャルの高さを考えれば、あながち世辞というわけでもない。

「た、隊長・・・! ありがとうございま・・・じゃなかった! アイ・マム! 松戸少尉、休憩してまいりますっ!」

 小さな身体でぴょこぴょこと飛び跳ねるように敬礼しつつ、司令室を後にした。

「・・・こちらも、成果なし」

 背中を見送ったところで、ユーリャ少尉の声が聴こえた。

 彼女には「プロフェッサー・フー」及び、ヤツの率いる謎の組織について調べてもらっていたのだが・・・簡単には尻尾を掴ませてくれないらしい。

「・・・よし、完了っと。しかし隊長、ホントにいたんです? その「弾を躱す男」ってのは」

 砂まみれになっていた私と柵山少尉の銃器の手入れを終わらせ、竜ヶ谷少尉は半信半疑だという本音を隠しもせずに問いかけてくる。

「私も信じたくはなかったが、<ヘルハウンド>の外部カメラにも残っていたしな。正体は宇宙人かサイボーグか・・・いずれにせよ、現実に存在するというのは事実だ」

 機密レベルの関係で、「私以外の目撃者もいる」と言えないのが歯がゆいところだ。

「「プロフェッサー・フー」という名前も悪趣味なジョークで、本名も素性も不明。判っているのは、ヤツの組織がJAGD我々よりジャガーノートに詳しく、おまけに大人しく眠っていた個体をわざわざ目覚めさせようとする程度には狂っているという事だけだ」

 吐き捨てるように言った。

 日夜必死にジャガノートから人類を守ろうとしてる身としては、迷惑を通り越して今すぐ壊滅させたくてたまらない。

「地下の洞窟で眠っていた巨大恐竜・・・No.009・レイガノン・・・ゴビ砂漠では恐竜の化石が多数発見されていますし、何らかの原因で突然変異を起こして巨大化した個体が生き残っていたと考えれば、一応の筋は通るかも知れませ──あいたたた・・・」

 考察に熱が入りそうになったところで、柵山少尉が撃たれた腹をさする。

 まだ傷は癒えていないというのに、仕事をすると言って聞かないのだ。

 ・・・まぁ、彼が頑固者だというのは、昨日嫌と言うほど見せつけられたわけだが。

 No.009に関しては、No.007ヴァニラスと同時に消失したというのも気になる・・・が、基本は中国支局の管轄になるだろう。

 観測の瞬間に立ち会ってしまったのもあり、ついつい首を突っ込んでしまったが・・・情報を共有して、後は西中国支局に任せることにしよう。

 極東支局には、太平洋にひそむ海棲ジャガノートに対しての最前線基地という立派な役割がある。

 いくら私の行く先々で、偶然連続してジャガノートが観測されているとは言え、本来の仕事を疎かにするのは本末転倒というものだろう。

 ・・・それに、これ以上「疫病神」と思われたくないしな。

 ただでさえ最年少隊長という事で悪目立ちしているのに、連日のジャガノートとの戦いでいやが上にも注目されているのは自覚している。

 しばらくは、ゆっくりと手元の作業を片付ける時間が取れればいいのだが──

「・・・隊長。副隊長から、通信」

 と、そこでマクスウェル中尉から連絡が入ったようだ。端末のボタンを押し、応答する。

「桐生だ。どうした?」

『お疲れ様です。・・・先程はありがとうございました』

「いや、気にするな。それで? 無事にカナダに着いたとパイロットからは聞いたが」

『・・・実は、少しお耳に入れたい事が』

 声色が暗いのはもしや・・・と思っていたが、どうやら家族の方の話ではないらしい。

『弟の事故に・・・ジャガノートが関わっているかも知れません』

「なに・・・?」

 ・・・純粋に、驚いた。中尉は当てずっぽうでそんな事を言うような男ではない。

 次いで、端末に画像データが送られてくる。
 画質は荒いが、噴火している火山の写真だという事はわかった。

『火山の山頂・・・赤い「手」のようなものが見えますでしょうか』

 言われた通りに目を凝らすと・・・噴煙の中に、赤い物体が在った。

 根本は火口から覗く熔岩に隠れているが、ナマコのような細長い物体の各所から短い管のようなものが伸びており、そのシルエットは確かに「手」に見えなくもない。

『弟と同じ職場の旧友から非正規にもらった画像です。残っていたレコードによれば、この「手」を見たのを最後に、火山弾の直撃を受けて飛行艇は墜落しているんです・・・!』

「・・・俄には信じがたい・・・が、それを信じて調査するのが我々の仕事・・・か」

『・・・隊長。私に調査の許可を──』

「駄目だ」

 そう言い出すだろうと思って、用意していた言葉を口にする。

「これはカナダ支局の管轄・・・支局間の領分を侵すのはご法度だ。送られてきた画像と一緒に、情報はカナダ支局に共有しておく。私に出来るのはそれだけだ」

『フレッドが・・・弟が見たんです! 本当にジャガーノートがいたとしたら、私の故郷が蹂躙されてしまうかも知れない・・・ッ‼ 何とか・・・何とかなりませんかッ‼』

 悔しそうな声が、端末越しに聞こえてくる。

 食い下がってくるだろうとは思っていたが、私が想像していたよりずっと・・・彼の中に燃える炎は大きいらしい。

「隊長として、君にしてやれる事は全てした。休暇を与えてバイクも貸して、飛行機代まで無料タダにしたのにその上ワガママとは・・・今日が君の誕生日だってそこまでしないぞ。ねだり過ぎだとは思わないか?」

『ッ! ・・・イエス・マム。申し訳ございません・・・』

 自分が何を言っているか、ようやく自覚出来たようだ。

 ・・・家族の事となれば、普段通りで居ろと言う方が難しいだろう。昨日のネイト大尉もそうだった。

 ───だから・・・少しは頭が冷えたところで、告げる。

「・・・ただ、部下が休日に何をしようと・・・私の知ったところではないな」

『・・・! き、キリュウ隊長・・・っ‼』

理解わかったら、とっとと休日を満喫してこい! あと70時間しかないぞ!」

『あ、アイ・マム! ・・・本当に、ありがとうございます・・・っ!』

 そう言って、通信が切れた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

高校生とUFO

廣瀬純一
SF
UFOと遭遇した高校生の男女の体が入れ替わる話

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

入れ替われるイメクラ

廣瀬純一
SF
男女の体が入れ替わるイメクラの話

ワイルド・ソルジャー

アサシン工房
SF
時は199X年。世界各地で戦争が行われ、終戦を迎えようとしていた。 世界は荒廃し、辺りは無法者で溢れかえっていた。 主人公のマティアス・マッカーサーは、かつては裕福な家庭で育ったが、戦争に巻き込まれて両親と弟を失い、その後傭兵となって生きてきた。 旅の途中、人間離れした強さを持つ大柄な軍人ハンニバル・クルーガーにスカウトされ、マティアスは軍人として活動することになる。 ハンニバルと共に任務をこなしていくうちに、冷徹で利己主義だったマティアスは利害を超えた友情を覚えていく。 世紀末の荒廃したアメリカを舞台にしたバトルファンタジー。 他の小説サイトにも投稿しています。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

女子竹槍攻撃隊

みらいつりびと
SF
 えいえいおう、えいえいおうと声をあげながら、私たちは竹槍を突く訓練をつづけています。  約2メートルほどの長さの竹槍をひたすら前へ振り出していると、握力と腕力がなくなってきます。とてもつらい。  訓練後、私たちは山腹に掘ったトンネル内で休憩します。 「竹槍で米軍相手になにができるというのでしょうか」と私が弱音を吐くと、かぐやさんに叱られました。 「みきさん、大和撫子たる者、けっしてあきらめてはなりません。なにがなんでも日本を守り抜くという強い意志を持って戦い抜くのです。私はアメリカの兵士のひとりと相討ちしてみせる所存です」  かぐやさんの目は彼女のことばどおり強い意志であふれていました……。  日米戦争の偽史SF短編です。全4話。

処理中です...