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第五話「悪魔の手」
第一章「暴れる野生‼ 制御不能の怪獣娘‼」・③
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※ ※ ※
「・・・すみません隊長。やはり、現状JAGDのデータベースにある「遺文」の中には、隊長の仰っていた「レイガノン」に該当するものはないようです・・・」
少ししゅんとした様子で、松戸少尉が報告してくれる。
純朴そうな見た目の割にプライドの高い彼女の事だ。調べきれなかったのが悔しいらしい。
「わかった。ありがとう。・・・それと少尉、あまり寝ていないだろう」
「えっ・・・あっ! もうお昼・・・⁉ す、すみません私ったら・・・」
昨夜、基地に帰投してすぐ少尉に調査を指示してから、ずっと熱中していたらしい。
目の下に出来た濃いクマが何よりの証拠だった。
窓もない地下の施設だから、時間感覚が狂ってしまう気持ちはわかるが、無理は禁物だ。
「何かあったら起こすから、少し寝てきなさい。非常事態に君が欠けたら極東支局は機能しないぞ?」
勿論、そんな事にならないよう、オペレーションを行える整備課の人間は数人いる。
が、彼女のポテンシャルの高さを考えれば、あながち世辞というわけでもない。
「た、隊長・・・! ありがとうございま・・・じゃなかった! アイ・マム! 松戸少尉、休憩してまいりますっ!」
小さな身体でぴょこぴょこと飛び跳ねるように敬礼しつつ、司令室を後にした。
「・・・こちらも、成果なし」
背中を見送ったところで、ユーリャ少尉の声が聴こえた。
彼女には「プロフェッサー・フー」及び、ヤツの率いる謎の組織について調べてもらっていたのだが・・・簡単には尻尾を掴ませてくれないらしい。
「・・・よし、完了っと。しかし隊長、ホントにいたんです? その「弾を躱す男」ってのは」
砂まみれになっていた私と柵山少尉の銃器の手入れを終わらせ、竜ヶ谷少尉は半信半疑だという本音を隠しもせずに問いかけてくる。
「私も信じたくはなかったが、<ヘルハウンド>の外部カメラにも残っていたしな。正体は宇宙人かサイボーグか・・・いずれにせよ、現実に存在するというのは事実だ」
機密レベルの関係で、「私以外の目撃者もいる」と言えないのが歯がゆいところだ。
「「プロフェッサー・フー」という名前も悪趣味なジョークで、本名も素性も不明。判っているのは、ヤツの組織がJAGDよりジャガーノートに詳しく、おまけに大人しく眠っていた個体をわざわざ目覚めさせようとする程度には狂っているという事だけだ」
吐き捨てるように言った。
日夜必死にジャガノートから人類を守ろうとしてる身としては、迷惑を通り越して今すぐ壊滅させたくてたまらない。
「地下の洞窟で眠っていた巨大恐竜・・・No.009・レイガノン・・・ゴビ砂漠では恐竜の化石が多数発見されていますし、何らかの原因で突然変異を起こして巨大化した個体が生き残っていたと考えれば、一応の筋は通るかも知れませ──あいたたた・・・」
考察に熱が入りそうになったところで、柵山少尉が撃たれた腹をさする。
まだ傷は癒えていないというのに、仕事をすると言って聞かないのだ。
・・・まぁ、彼が頑固者だというのは、昨日嫌と言うほど見せつけられたわけだが。
No.009に関しては、No.007と同時に消失したというのも気になる・・・が、基本は中国支局の管轄になるだろう。
観測の瞬間に立ち会ってしまったのもあり、ついつい首を突っ込んでしまったが・・・情報を共有して、後は西中国支局に任せることにしよう。
極東支局には、太平洋に潜む海棲ジャガノートに対しての最前線基地という立派な役割がある。
いくら私の行く先々で、偶然連続してジャガノートが観測されているとは言え、本来の仕事を疎かにするのは本末転倒というものだろう。
・・・それに、これ以上「疫病神」と思われたくないしな。
ただでさえ最年少隊長という事で悪目立ちしているのに、連日のジャガノートとの戦いでいやが上にも注目されているのは自覚している。
しばらくは、ゆっくりと手元の作業を片付ける時間が取れればいいのだが──
「・・・隊長。副隊長から、通信」
と、そこでマクスウェル中尉から連絡が入ったようだ。端末のボタンを押し、応答する。
「桐生だ。どうした?」
『お疲れ様です。・・・先程はありがとうございました』
「いや、気にするな。それで? 無事にカナダに着いたとパイロットからは聞いたが」
『・・・実は、少しお耳に入れたい事が』
声色が暗いのはもしや・・・と思っていたが、どうやら家族の方の話ではないらしい。
『弟の事故に・・・ジャガノートが関わっているかも知れません』
「なに・・・?」
・・・純粋に、驚いた。中尉は当てずっぽうでそんな事を言うような男ではない。
次いで、端末に画像データが送られてくる。
画質は荒いが、噴火している火山の写真だという事はわかった。
『火山の山頂・・・赤い「手」のようなものが見えますでしょうか』
言われた通りに目を凝らすと・・・噴煙の中に、赤い物体が在った。
根本は火口から覗く熔岩に隠れているが、ナマコのような細長い物体の各所から短い管のようなものが伸びており、そのシルエットは確かに「手」に見えなくもない。
『弟と同じ職場の旧友から非正規にもらった画像です。残っていたレコードによれば、この「手」を見たのを最後に、火山弾の直撃を受けて飛行艇は墜落しているんです・・・!』
「・・・俄には信じがたい・・・が、それを信じて調査するのが我々の仕事・・・か」
『・・・隊長。私に調査の許可を──』
「駄目だ」
そう言い出すだろうと思って、用意していた言葉を口にする。
「これはカナダ支局の管轄・・・支局間の領分を侵すのはご法度だ。送られてきた画像と一緒に、情報はカナダ支局に共有しておく。私に出来るのはそれだけだ」
『フレッドが・・・弟が見たんです! 本当にジャガーノートがいたとしたら、私の故郷が蹂躙されてしまうかも知れない・・・ッ‼ 何とか・・・何とかなりませんかッ‼』
悔しそうな声が、端末越しに聞こえてくる。
食い下がってくるだろうとは思っていたが、私が想像していたよりずっと・・・彼の中に燃える炎は大きいらしい。
「隊長として、君にしてやれる事は全てした。休暇を与えてバイクも貸して、飛行機代まで無料にしたのにその上ワガママとは・・・今日が君の誕生日だってそこまでしないぞ。ねだり過ぎだとは思わないか?」
『ッ! ・・・イエス・マム。申し訳ございません・・・』
自分が何を言っているか、ようやく自覚出来たようだ。
・・・家族の事となれば、普段通りで居ろと言う方が難しいだろう。昨日のネイト大尉もそうだった。
───だから・・・少しは頭が冷えたところで、告げる。
「・・・ただ、部下が休日に何をしようと・・・私の知ったところではないな」
『・・・! き、キリュウ隊長・・・っ‼』
「理解ったら、とっとと休日を満喫してこい! あと70時間しかないぞ!」
『あ、アイ・マム! ・・・本当に、ありがとうございます・・・っ!』
そう言って、通信が切れた。
「・・・すみません隊長。やはり、現状JAGDのデータベースにある「遺文」の中には、隊長の仰っていた「レイガノン」に該当するものはないようです・・・」
少ししゅんとした様子で、松戸少尉が報告してくれる。
純朴そうな見た目の割にプライドの高い彼女の事だ。調べきれなかったのが悔しいらしい。
「わかった。ありがとう。・・・それと少尉、あまり寝ていないだろう」
「えっ・・・あっ! もうお昼・・・⁉ す、すみません私ったら・・・」
昨夜、基地に帰投してすぐ少尉に調査を指示してから、ずっと熱中していたらしい。
目の下に出来た濃いクマが何よりの証拠だった。
窓もない地下の施設だから、時間感覚が狂ってしまう気持ちはわかるが、無理は禁物だ。
「何かあったら起こすから、少し寝てきなさい。非常事態に君が欠けたら極東支局は機能しないぞ?」
勿論、そんな事にならないよう、オペレーションを行える整備課の人間は数人いる。
が、彼女のポテンシャルの高さを考えれば、あながち世辞というわけでもない。
「た、隊長・・・! ありがとうございま・・・じゃなかった! アイ・マム! 松戸少尉、休憩してまいりますっ!」
小さな身体でぴょこぴょこと飛び跳ねるように敬礼しつつ、司令室を後にした。
「・・・こちらも、成果なし」
背中を見送ったところで、ユーリャ少尉の声が聴こえた。
彼女には「プロフェッサー・フー」及び、ヤツの率いる謎の組織について調べてもらっていたのだが・・・簡単には尻尾を掴ませてくれないらしい。
「・・・よし、完了っと。しかし隊長、ホントにいたんです? その「弾を躱す男」ってのは」
砂まみれになっていた私と柵山少尉の銃器の手入れを終わらせ、竜ヶ谷少尉は半信半疑だという本音を隠しもせずに問いかけてくる。
「私も信じたくはなかったが、<ヘルハウンド>の外部カメラにも残っていたしな。正体は宇宙人かサイボーグか・・・いずれにせよ、現実に存在するというのは事実だ」
機密レベルの関係で、「私以外の目撃者もいる」と言えないのが歯がゆいところだ。
「「プロフェッサー・フー」という名前も悪趣味なジョークで、本名も素性も不明。判っているのは、ヤツの組織がJAGDよりジャガーノートに詳しく、おまけに大人しく眠っていた個体をわざわざ目覚めさせようとする程度には狂っているという事だけだ」
吐き捨てるように言った。
日夜必死にジャガノートから人類を守ろうとしてる身としては、迷惑を通り越して今すぐ壊滅させたくてたまらない。
「地下の洞窟で眠っていた巨大恐竜・・・No.009・レイガノン・・・ゴビ砂漠では恐竜の化石が多数発見されていますし、何らかの原因で突然変異を起こして巨大化した個体が生き残っていたと考えれば、一応の筋は通るかも知れませ──あいたたた・・・」
考察に熱が入りそうになったところで、柵山少尉が撃たれた腹をさする。
まだ傷は癒えていないというのに、仕事をすると言って聞かないのだ。
・・・まぁ、彼が頑固者だというのは、昨日嫌と言うほど見せつけられたわけだが。
No.009に関しては、No.007と同時に消失したというのも気になる・・・が、基本は中国支局の管轄になるだろう。
観測の瞬間に立ち会ってしまったのもあり、ついつい首を突っ込んでしまったが・・・情報を共有して、後は西中国支局に任せることにしよう。
極東支局には、太平洋に潜む海棲ジャガノートに対しての最前線基地という立派な役割がある。
いくら私の行く先々で、偶然連続してジャガノートが観測されているとは言え、本来の仕事を疎かにするのは本末転倒というものだろう。
・・・それに、これ以上「疫病神」と思われたくないしな。
ただでさえ最年少隊長という事で悪目立ちしているのに、連日のジャガノートとの戦いでいやが上にも注目されているのは自覚している。
しばらくは、ゆっくりと手元の作業を片付ける時間が取れればいいのだが──
「・・・隊長。副隊長から、通信」
と、そこでマクスウェル中尉から連絡が入ったようだ。端末のボタンを押し、応答する。
「桐生だ。どうした?」
『お疲れ様です。・・・先程はありがとうございました』
「いや、気にするな。それで? 無事にカナダに着いたとパイロットからは聞いたが」
『・・・実は、少しお耳に入れたい事が』
声色が暗いのはもしや・・・と思っていたが、どうやら家族の方の話ではないらしい。
『弟の事故に・・・ジャガノートが関わっているかも知れません』
「なに・・・?」
・・・純粋に、驚いた。中尉は当てずっぽうでそんな事を言うような男ではない。
次いで、端末に画像データが送られてくる。
画質は荒いが、噴火している火山の写真だという事はわかった。
『火山の山頂・・・赤い「手」のようなものが見えますでしょうか』
言われた通りに目を凝らすと・・・噴煙の中に、赤い物体が在った。
根本は火口から覗く熔岩に隠れているが、ナマコのような細長い物体の各所から短い管のようなものが伸びており、そのシルエットは確かに「手」に見えなくもない。
『弟と同じ職場の旧友から非正規にもらった画像です。残っていたレコードによれば、この「手」を見たのを最後に、火山弾の直撃を受けて飛行艇は墜落しているんです・・・!』
「・・・俄には信じがたい・・・が、それを信じて調査するのが我々の仕事・・・か」
『・・・隊長。私に調査の許可を──』
「駄目だ」
そう言い出すだろうと思って、用意していた言葉を口にする。
「これはカナダ支局の管轄・・・支局間の領分を侵すのはご法度だ。送られてきた画像と一緒に、情報はカナダ支局に共有しておく。私に出来るのはそれだけだ」
『フレッドが・・・弟が見たんです! 本当にジャガーノートがいたとしたら、私の故郷が蹂躙されてしまうかも知れない・・・ッ‼ 何とか・・・何とかなりませんかッ‼』
悔しそうな声が、端末越しに聞こえてくる。
食い下がってくるだろうとは思っていたが、私が想像していたよりずっと・・・彼の中に燃える炎は大きいらしい。
「隊長として、君にしてやれる事は全てした。休暇を与えてバイクも貸して、飛行機代まで無料にしたのにその上ワガママとは・・・今日が君の誕生日だってそこまでしないぞ。ねだり過ぎだとは思わないか?」
『ッ! ・・・イエス・マム。申し訳ございません・・・』
自分が何を言っているか、ようやく自覚出来たようだ。
・・・家族の事となれば、普段通りで居ろと言う方が難しいだろう。昨日のネイト大尉もそうだった。
───だから・・・少しは頭が冷えたところで、告げる。
「・・・ただ、部下が休日に何をしようと・・・私の知ったところではないな」
『・・・! き、キリュウ隊長・・・っ‼』
「理解ったら、とっとと休日を満喫してこい! あと70時間しかないぞ!」
『あ、アイ・マム! ・・・本当に、ありがとうございます・・・っ!』
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