恋するジャガーノート

まふゆとら

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第四話「蘇る伝説」

 第三章「激突‼ ヴァニラス対レイガノン‼」・⑧

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       ※  ※  ※


「・・・すごい・・・戦いだ・・・・・・」

 無意識に拳を握りしめながら、思わずそんな感想が零れた。

<グオオオオォォォッ‼>

<グルルルアァァッッ‼>

 何度目かの、衝突。うの昔に限界を迎えながら・・・互いにまだ、膝をつかない。

 牙を食いしばり、爪をかち合わせ、雄叫びを交響かわし合う──満身創痍の戦いが続いていた。

 クロが振るう爪は、レイガノンの鱗を守る水色のエネルギーに弾かれる。

 しかし、その出力は徐々に弱まっている。体中に、真っ赤な生傷が出来ていた。

 レイガノンが振り回す角を、クロが腕のヒレで受け流す。

 しかし、そのヒレさえも、今まさに融け落ちそうになっている。体中から、白煙が上がっていた。


 ───だが、それでもお互い、一歩も退こうとはしない。


「これが・・・「ジャガーノート」の・・・戦い・・・」

 激突する双方の実力は拮抗しているが──クロの身体には、時間制限タイムリミットがある。

 彼女自身もそれを知っているのだろう。

 今一度・・・右脚を一歩前に出し、前傾姿勢になると、身体の真横に構えた右手を──赤く輝かせた。

 間違いなく、次で決めるつもりだ。

 対峙するレイガノンも、相手の気迫に気付いた様子。

 残った力を奮い立たせるように、全身を震わせ、顎を引いて角の切っ先をクロへと向ける。

 両者の視線が交差して──一瞬の沈黙が訪れ───

「うわぁっ‼」

 ドカン! と、大きな音と共に──二体のにらみ合う中間地点で、爆炎が上がった。幾多の砂の柱が、天へと昇る。

 地下で爆発が起こったようだ。

 アカネさんは無事なのか──⁉

 不安が脳裏をよぎったその直後・・・爆発を合図に、両者が駆け出した!

<グオオオオオオオオオオオオオオオッッ‼>

<グルアアアアアアアアアアアアアアッッ‼>

 魂の限り吼えて──全身全霊の力を込め、ぶつかり合う──!

 繰り出されたレイガノンの角を、クロは左腕を伝って受け流そうとする・・・が、あまりにも摩擦が強く──ネイビーの鎧が遂に限界を迎えて──左手の甲が剥け、ヒレが欠け、真っ赤な血液が、噴水のように吹き出した。

「クロ・・・ッ‼」

 ──だが、それは彼女の作戦だった。

 左腕を犠牲に、右半身を前へ──レイガノンの眉間目掛けて、赤いライジングフィストが到達した。

 しかし同時に、レイガノンに残された最後の武器が発動する!

 水色のエネルギーが、赤く輝く右手の前に障壁となって立ち塞がり、押し返すべくその威力を増していった。

<グルルルアアアア───ッ‼>

 迸るエネルギーが漏れ出したのか、レイガノンの眼からも水色の光が放たれる。

 このままじゃ・・・・・・押し負ける・・・ッ‼

『・・・! クロ・・・そういう事か・・・』

 極限の状況で、シルフィが何かに気付くと──その胸から、オレンジ色の光が広がっていく。

「────そ、そうか!」

 クロは太陽光で熱が溜まっている状態だったけど、「力」を解放していた訳じゃない──!

 全身の排熱口から眩い光が放たれると、その右手の光もまた「赤」から「白」へと変わる。

<グオオオオオォ───ッ‼>

 目の前の相手に応えるように、クロの眼からも、溢れ出した熱が光となって迸る。

 もはや彼女は、ギリギリのところで身体を保っていると言っても過言ではない。

 全身が溶融しながらも、一歩、また一歩前へ───

<グルアアアァァァ───ッ‼>

 しかしレイガノンもまた、クロの右手を押し返そうと、一歩、また一歩前へ───

 お互いに最後の力を振り絞った、命懸けの鍔迫り合いだ・・・!

「頑張れえぇぇ──っ‼ クロぉぉぉ───っっ‼」

『負けるなぁ──っ!』

 咄嗟に、そんな言葉が、口をついて出た。──僕だけでなく、シルフィまで。

 目の前の戦いを見て・・・ただただ、そう言わずにはいられなかった。


<グルルルアアアアアアアアアァァァァァッッッッ‼>

<グオオオオオオオオオオオオォォォォォッッッッ‼>


 僕とシルフィの声援に応えるかのように、両者が再び吼えて──

 そして、超高熱と、雷のようなエネルギーの衝突は──遂に限界を迎えて、弾け飛んだ。

 爆風が両者の身体を斬り裂き──白い砂塵が、竜巻のように辺りを包んだ。

「・・・・・・」

 ──しばらくの間、言葉を失っていた。

 ・・・竜巻が止んで・・・飛び散った水色のエネルギーは粒子となって解ける。

 風に漂うそれは雪のように砂漠へ舞い降りて──両者は、同時に倒れた。

「・・・・・・終わった・・・のか・・・?」

 真っ白になった頭で、どこか他人事のように呟いた。

『・・・ギリギリだったね。今回も。・・・本当に、いつか死んでも知らないんだから』

 言葉では少し突き放しながら・・・シルフィも、ほっと息を吐いたように見える。

 とりあえず・・・レイガノンを大人しくする事には、成功したみたいだ。

「そうだ! アカネさんは・・・」

 もう一つの「目的」を思い出して、急に頭が冷えた。

 さっきの爆発は、洞窟の中で起きたのだろう。

 二体のぶつかり合いで・・・もしアカネさんや彼女の仲間たちに何かがあったら・・・

『そっちは大丈夫そうだよ。まだあの女の人の気配がするし・・・周りに、何人かいるみたい』

「よ、良かった・・・」

 シルフィからアカネさんの無事を聞かされて、思わず、腰を抜かしてしまう。

『さてと・・・ご褒美に、クロの望みを叶えてあげる事にしよっか~』

 するとそこで、ぱん、と小さな小さな手を叩くと、シルフィが何やら不穏な言葉を口にする。

「えっ? それってどういう・・・」

『は~いじゃあ目を閉じて~~! 行くよ~~~?』

 話を途中で打ち切られ、オレンジ色の光が広がっていく。

 視界の端で、クロとレイガノンの巨体が光になっていくのが見えて──最悪の想像に、思わず苦笑いをした。
 

       ※  ※  ※


 砂漠の上を飛ぶVTOLの機内──白衣を着た女性が、全身に包帯を巻いた男に話しかける。

「自爆装置は正常に作動したようです。しかし・・・良かったのですか? 8年もかけて建造した基地をああもあっけなく・・・」

 全身の包帯の感触を確かめながら、プロフェッサーは答えた。

「やむを得ません。JAGDに渡したくない研究資料も多いですし、何より・・・当初の目的は達しましたからね」

 笑顔を浮かべてそう言いつつ・・・ほんの少し、その顔が曇る。

「・・・レイガノンには期待していたのですが・・・はずれでしたね。「資格」を持つ者であれば、あんな「紛い物」に負けるはずはないのですが──」

 定点カメラから送られてきた二体の戦いを端末で見ながら、プロフェッサーは失望を露わにする。

 かける言葉がなく、傍らの女性がおろおろとし始めると、再び彼は笑みを浮かべた。 

「ですが・・・問題はありませんよ」

 端末の映像を切り、虚空を見つめる。

「「石版」の復元はまだ完璧ではありませんが──「雷王」は

 そう呟いて、ふふふ、と笑った。

「さて・・・此度の一件・・・多くの同胞の肉体が「還る」事無く失われてしまいました・・・彼らに、祈りましょう。その魂の行く末に、安らぎあるよう──」

 プロフェッサーに倣って、すぐ横の女性も、他の乗組員も皆一様に、目を閉じた。

 そして──薄紫の唇が開く。


「彼らの献身に、感謝しましょう───「我らが神と、共に在れ」」


「「「共に在れ」」」

 寸分違わず、全員の声が揃う。

 陽の光を照り返すVTOLの黒い機体が、青い空を裂いて飛んで行った。
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