恋するジャガーノート

まふゆとら

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第四話「蘇る伝説」

 第三章「激突‼ ヴァニラス対レイガノン‼」・④

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<グルアァァアアッッ‼>

<グオオォォ・・・ッッ!>

 レイガノンに足蹴にされたまま──クロは、窮状を脱せずに居た。

 位置的有利を活かし、前肢をしきりに叩きつけて来る相手に対して・・・反撃の機会を見い出せず、どんどん体力を奪われている。

「クロ・・・!」

 ───「負けるって事は、死ぬって事だ」───脳裏に、シルフィの言葉がチラついた。

 負けてほしくない。死んでほしくない・・・!

 死の予感に、心にこびりついてしまっている恐怖が鎌首をもたげて、急速に口の中が乾いていく。

『! あれは・・・』

 そこで、シルフィが何かに気付く。願いが届いたかのように──クロは、攻勢に転じた。

 相手が前肢を振り上げた瞬間に左手を伸ばし、顎を抑えたのだ。

 そのまま、どうにか上体を起こしたところで──右手が赤熱化していく。

「力を解放していないのに・・・ライジングフィストを・・・⁉」

『むしろ、威力を抑えてるんだろうね。・・・「悪い怪獣」相手じゃないから』

 今まで見てきたそれと違い、手の輝きは「白」ではなく「赤」。温度が低い証拠だ。

 あくまでクロは、レイガノンを死なせるつもりはないらしい。

<オオオオオォォッッッ‼>

 雄叫びと共に、出力を絞った赤いライジングフィストが、相手の腹部めがけて放たれる。

 相手は顎ごと前肢を浮かせていて、爪の怪獣の時と違い防御の手段はない。

 全力でなくとも灼熱の右手の威力は十二分だ。

 クロの狙い通り、死なないで欲しい───そんな甘い考えが脳裏をよぎった直後───

<グルァァァァアアアアアアアアアアッッッ‼>

 狙い過たず、腹部に達したライジングフィストが、その皮膚を焼こうとしたまさにその時。

 レイガノンの全身から、が放たれた。

「なんだあれ・・・⁉」

 ジグザグと周囲に走る様は雷に似ているが、それにしてはスピードが「遅い」。

 樹木が成長するかのように──レイガノンの巨体を幹にして、水色の枝が空に亀裂を入れていく。 

 その光にどこか既視感を覚え・・・心当たりがある事を思い出す。

「あの光・・・まさか・・・横須賀基地でクロを攻撃していたのと同じ・・・⁉」

『・・・確かに、同じだね』

 青みがかった色といい、あの独特の軌道といい・・・おそらく、間違いない。

「でも・・・JAGDの兵器と同じ光線を、なんであの怪獣が出してるんだ・・・⁉」

『もしかしたら、レイガノンと同じような怪獣を、JAGDは倒したことがあるのかも』

「じゃあ、あのエネルギーの方が、もともと怪獣由来だった・・・って事?」

『地球の科学力を考えると、あのビーム兵器はちょっと感じがするしね』

 レイガノンの体を守るかのように溢れ出した水色のエネルギーは、赤熱化したクロの右手を押し返し・・・

 更に、顎を抑えていた左手から、クロの身体へと伝導した!

<グォォォォォオオオオオオッッ‼>

 電気を流された時と同じように、「感電」しているように見える。

 全身に激痛が走っているのだろう。巨大な体をわななかせ、悲痛な叫びを上げた。

「クロ───ッ‼」

 予想していた結末とは──真逆。

 閃光が止むと、煙を上げて倒れているのは、クロの方だった。

『・・・ボクの見立てが甘かったよ。今までの怪獣の中で・・・間違いなく、一番強い』

 シルフィが、渋面を作る。凄まじいパワーに加えて、攻防一体のエネルギー発生能力・・・この怪獣には、まるで隙がない。

 袋小路に迷い込んだかのような絶望感が汗となってこめかみを伝った──その時──


<・・・・・・グルァ? ルルルァ?>


 不可解な事にレイガノンは・・・倒れたクロを追撃せず、むしろ飛び退いた。

 そして・・・大きな頭を自分の体の方に向けようと、ぐるぐるとその場を回り始める。

 が、当然、盾装飾フリルが邪魔をして後ろを向くことは出来ない。

「・・・・・・な、なにしてるんだ・・・あれは・・・⁉」

『・・・・・・まさかと思うけど・・・自分で出した電撃にびっくりしてる・・・?』

「・・・・・・えぇ・・・?」

 二人して、クロのピンチも忘れて唖然としてしまう。

 砂漠のど真ん中で、巨大な四足怪獣が・・・尻尾と追いかけっこするように延々と回っている。

 犬が嬉しい時とかによくやるアレだ。しかも、頑張ってるのはわかるけど一向に後ろを向けていない。

 足踏みする度に大量の砂煙が巻き起こっており、場所次第では十分な破壊行動にもなりそうだけど・・・とにかく、シュールな絵面だった。

<グ、グオォォォ・・・・・・!>

 そこでようやく、クロの身体を苦しめていたエネルギーが抜け切ったようだ。

 ───しかし、安心したのも束の間。呻きとともに、体中から白い煙が上がり始めた。

『・・・まずいね。まだ力を解放してないのに、クロの身体が溶け始めてる』

「そっ、そんな・・・!」

 どうして・・・と言いかけたが、ここは日中の砂漠──

 海中や夜の野山と違って、熱の逃げる場所がない。いつもより早く熱が溜まってしまうのは当然だ。

 くそっ・・・! もっと早く気付いていれば・・・!

<オオォォ・・・ッ!>

 度重なる攻撃を受け、身体が「汗」をかき始めてもなお、歯を食いしばって立ち上がる。

 その様子に気付いて・・・レイガノンも自分の身体を確認する仕草を止め、敵に向かって再び狙いを定める。

 前傾姿勢になり、前肢で地面を掻き始めた。

 突進以外の攻撃をするつもりはないらしい。

「どうにか・・・あの突進を止める方法はないのか・・・!」

 本体に触れれば、あのエネルギーに弾かれ・・・角を掴んでも、力で押し切られてしまう。

 突破口を何とか探し出そうとしていると──クロは、意外な行動に出た。

<グルルルル・・・・・・!>

 最初に取っ組み合った時のように、姿勢を低くしてその場で構えたのだ。

 ・・・・・・クロは、頭が良い。学習能力も抜群だ。

 同じ失敗を二度繰り返すような真似はしないだろう。

 今は・・・彼女に秘策があると、信じるしかない。レイガノンの呼吸のスピードが上がっていく。

 再激突まで───あと僅かだ!
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