恋するジャガーノート

まふゆとら

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第四話「蘇る伝説」

 第三章「激突‼ ヴァニラス対レイガノン‼」・①

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◆第三章「激突‼ヴァニラス対レイガノン‼」
 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 先程まで口論していたのが嘘のように、柵山とネイトの二人は、黙って洞窟内を歩いていた。

 口喧嘩のネタが尽きたわけではなく、が原因だった。

 憤りや不満のぶつけ所を、見失っていたのである。

「・・・アンタ、ハーバードに入る前は? ハイスクールもUSこっちだったの?」

 ぶっきらぼうな言い方はそのまま、ネイトが問う。

 まさか彼女が世間話を振ってくるなんて・・・と、やや面食らいながらも柵山が答える。

「い、いえ・・・日本生まれの日本育ちで・・・大学から・・・です・・・」

「・・・あっそ」

 自分から聞いてきたくせに何で興味なさそうなんだ! と柵山は叫び出しそうになった。

 が、今は任務の最中・・・ましてや、味方は目の前のちびっ子一人だけ。

 ここは自分が大人になろうと、彼はぐっと堪えて、自分を納得させた。

 肥満体型を馬鹿にされなければ、基本は温厚な男である。

「ウィーナー大尉は、お生まれもずっとUSそっちなんですか?」

「第四分隊は個人情報プロフィールも機密に決まってるじゃない。黙秘するわ」

 柵山のこめかみに青筋が走る。

 上司でなければ今すぐゲンコツしてるのに! と拳を握りしめようとしたところで──

 にわかに、二人の足元が揺れ始めた。

「っ! また地震⁉」

「チッ・・・さっきのより大きいわね・・・‼」

 二人の視界が乱暴に振り乱される。咄嗟に姿勢を低くして、揺れが収まるのを待った。

「全くッ! こっちは急いでるって言うのに・・・ッ!」

 ネイトが歯噛みする。

 家族が無事かどうかもわからないまま、ただでさえ遠回りを強いられているのだ。

 彼女の沈痛な面持ちに、柵山の胸にも息苦しい感覚が伝わった。

 と、そこでようやく揺れが弱くなり、二人が立ち上がろうとしたところで──

<───オオオオォォォォ・・・・・・>

「ッ⁉ 今のは・・・ッ⁉」

 洞窟の壁越しに、遠くから、何かの音が──否、「声」が、二人の耳に届く。

「・・・まさか・・・二体目のNo.008・・・⁉」

 ここはNo.005の掘った穴だ。その可能性もあながち間違いではないのでは・・・と柵山が考えを巡らそうとしたその時──

 ネイトが、すっと片足を持ち上げる。

「へっ?」

 突然の行動に疑問符を浮かべた直後、彼女の鋭いキックが、柵山の腹部にめり込む。

 92キロの身体が、2メートルも吹っ飛ばされた。身長150センチの少女のキックで。

「げふぅっっ‼ な、何するんで──」

 尻もちをついた柵山が、怒りのあまり立ち上がろうとした所で──

 ほぼ同時に、今さっき彼がいたところへ、崩れた天井が降り注いだ。

「・・・す・・・か・・・」

「上方不注意よ。ミスター・ハーバード」

「・・・か、感謝します・・・ミス・イェール・・・」

 「よろしい」と素っ気なく返して、彼女はつかつかと先へ行ってしまう。

 ああ見えて、優しいところもあるんだな・・・と柵山は思った。

 同時に、乱暴な上に素直じゃない所は言動通りだけど、とも。

 立ち上がって埃を払いながら、先程頭に浮かんだ悪い予感に再び思いを馳せる

「・・・ただの地震とは思えない・・・一体、何が起きてるんだ・・・?」


       ※  ※  ※


<グルァァァアアアアアアアアアアアッッ‼>

「か、怪獣が・・・生き返った・・・!」

 アカネさんの後をついて行って・・・アクション映画顔負けの鮮やかな手付きに圧倒されていたら──

 怪しげな男の手によって、ついに眠っていた怪獣が目を覚ましたのだ!

 怪獣が目を見開き、その巨大な頭を震わせると、空間の天井に亀裂が入っていく。

「まずい・・・! シルフィ! アカネさんの頭上に!」

『はいは~い』

 こんな状況だと言うのに、場違いなくらい気楽な声が返ってくる。

 球体は知覚されないが、シルフィと初めて会った時みたいに、防御に使える事は証明済みだ。

 落石からの傘になるつもりで、アカネさんの上空へ移動した。

「っ! そ、外に出ようとしてるんでしょうか・・・?」

 怪獣の持つ長大な2本の角が自由になると、角ごと天井が、大量の落石と砂塵を伴って、空間の中に太陽の光が差し込んできた。

 そのまま、壁の中から前あしが右、左と順番に突き出て来る。

<グルルアアアアァ──ッ‼>

 両前肢を軸に、天へ向かって身体を震わせると、いよいよその全貌が見えてきた。

 巨体が埋まっていた場所から、大量の土砂が空間内になだれ込む。

 怪獣が身体をさせると、長い尻尾が振り回され、壁をごっそりと削り取った。

 太陽の光を目指すように、全長100メートルを超える巨体が、のっしのっしと四肢で斜面を登り、遂に地上へと到達する。

「くっ・・・! 最悪だ・・・! 救出任務のはずがこんな事になるとは・・・!」

 足下で、アカネさんが歯噛みしたのが聴こえた。

 今のところは無事みたいだけど・・・怪獣がこのまま暴れようものなら、いつアカネさんに危害が及ぶかわからない。

 それに、彼女一人でこんな所に来るわけないし、仲間の人が洞窟の中に残ってたりしたら大変だ・・・!

「は、ハヤトさん・・・!」

 悪い想像ばかりが頭の中に渦巻く中、クロにジャージの袖をつままれる。

「あの怪獣・・・レイガノン・・・さんは、悪い怪獣なんでしょうか・・・?」

 真っ直ぐに僕を見て、訴えかけてくる。

 アカネさんと対峙していた男の言葉から察するに、あの怪獣は「レイガノン」という名前で、眠っていた所を無理やり起こされた・・・という事情が見えてくる。

 「悪い怪獣」という言い方もあくまでではあるけど──

 確かに、今までクロが戦ってきた怪獣たちのように、明確に人間を狙っているわけでは無さそうだ。

 とはいえ、本人にその気がなくても、放っておけば人が死ぬ危険性はある。

 巨大な身体を持つという事は・・・ただそこに在るだけで災害足りうるのだ。

 アカネさんには複雑な気持ちを抱かせてしまうかも知れないけど・・・ここはまた、クロに戦ってもらうしかないのか・・・?

『・・・クロ』

 内心の逡巡を断ち切るかのように、シルフィの声が頭に響く。

『さっきも言ったけど、もしクロが「悪い怪獣」相手じゃなきゃ戦えないなら・・・次に負けるのはキミだ。捕まえるのは、殺すよりもずっと難しいからね』

「・・・・・・」

 黄金きんの瞳が、橙の瞳と真正面から向き合う。

『負けるって事は、「死ぬ」って事だ。わかる? ・・・それはね、命がけでキミを助けたハヤトの気持ちを、無駄にするって事なんだよ』

「───ッッ‼」

 クロの目が、見開かれる。

 ・・・僕は、何も言えなかった。

『キミに覚悟はある? ・・・絶対に負けないと約束した上で、自分のワガママを通す覚悟が』

 シルフィを抑えたい気持ちもあったけど、彼女の言葉は取り繕わない、真実だ。

 高校生のケンカとは違う──本気の殺し合い。

 それが・・・僕がクロに強いてしまっている戦いなんだ。
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