69 / 325
第三話「進化する生命」
第三章「明日への一歩」・⑥
しおりを挟む
※ ※ ※
<グオオオオオオオオオオオッ‼>
怪獣の爪の攻撃をモロに腹部に食らい、吹っ飛ばされ──苦悶の叫び声を上げる。
「クロ──っ!」
堪らず、叫んでしまう。獰猛な怪獣に右へ左へと転がされて、再び山の斜面へと倒されてしまった。
逆転の妙案も思いつかない──
「せめて・・・あの爪さえ何とか出来たら・・・」
そうは考えるものの、ではどのような方法で、と言われても、何も思い浮かばない。
唯一、怪獣の目をくらませられるかも知れなかった閃光手榴弾も、先程全て使い切ってしまった。
僕が・・・考えなしじゃなかったら・・・! 血が滲みそうな程に拳を強く握っても、より内心の焦りを加速させるだけだった。
万事休すか──! 思わず、クロを連れて逃げよう! と言いかけたその時──
『・・・っ! ハヤト・・・クロがまた、力を解放しようとしてる・・・!』
「なんだって・・・⁉」
前回の戦いの時は、体内の毒に抵抗しようとする免疫反応だろう、と踏んでいた。
しかし、今回はそんな状況ではない──じゃあ、どうして?
他にクロがその力を解放しそうになった時なんて・・・!
そうか! ライズマンステージを見て嫌な記憶が蘇ったせいで、強いストレスを感じた時だ!
もしかして、あの怪獣にやられて・・・物凄いストレスが溜まってるんじゃ──!
「クロ! ダメだ! 自分を見失っちゃ──」
叫びかけて──クロと、目が合った。
満身創痍のボロボロの身体でも──なおその輝きを失わない、橙の瞳と、だ。
怪獣の姿になったクロは、人間の言葉で反応してくれた事はない。
でも、今、間違いなくクロは、僕に返事をした。
────「私に、任せて下さい」って。
「・・・・・・シルフイ・・・・・・お願い。力を解放しよう」
『今回は・・・海の中と違ってクロの身体を冷やすものがない・・・もって、1分だよ?』
「それでも、やるの?」と黄金の目が問う。
「・・・・・・やろう。もしもの時は、僕が何度だってクロを連れ戻してみせる!」
だから、応えた。クロがやりたいなら、僕は精一杯それをサポートする。
そして、クロが怖くて、痛くて、苦しい選択をしたとしても・・・・・・それを、最後まで見届ける覚悟を持つ。
それがたった一つ──ちっぽけな僕に出来る、前に進む一歩だ。
『わかった・・・・・・いくよ・・・』
シルフィもまた、頷いた。
胸の結晶から、オレンジの光が放たれると───
<グオオオオオオオオオオオオッッ‼>
一際大きな咆哮が、鼓膜を震わせる。
クロの身体の各所にある排熱口がその輝きを増し、濛々と白煙を上げ始める。
倒された斜面から起き上がると、クロの全身に、赤みを帯びた筋のような模様が浮かび上がり──
その淡い光は体中から、一箇所に集まっていく。
クロの、「右手」に──!
「ライジングフィストだ・・・!」
マンタの怪獣を葬ったあの技を、クロはこの窮地に放とうというのだ。
まさに──「必殺技」。
逆転の一撃が決まる事を信じて、拳を更に強く握り、祈った。
<ガゴオォォ──?>
敵の纏う空気が変わった事に気付いたのだろう。怪獣の方も、両手の爪を構える。
───そして、永遠にも思える沈黙の後──クロが、走った!
<グオオオオオオオオオオオオッッ‼>
限界寸前の超高熱を集め、白く発光する右手が、巨体と共に空を灼きながら走る!
直接触れてもいないのに、右手が横を通った鉄塔が、飴細工のようにぐにゃりと曲がって融け落ちた──
威力は十分! 決まれば必殺だ!
「行けぇ──っ‼」
<オオオオオオオオッ‼>
怪獣へと接近したクロが、引き絞った右手を──繰り出した!
<ガゴオオォォッッ‼>
──が、しかし──その手は、怪獣には届かなかった。
「あぁ・・・っ‼」
巨体からは想像できない程に俊敏な動きで、怪獣の爪は──
一撃必殺の右手に触れる事なく、その根元──クロの右腕を、下から上へと弾き飛ばしたのだ。
<ガアアァゴオォォォッッ‼>
───刹那、獰猛なる怪獣もまた、必殺の一撃を、繰り出した。
爪を閉じて合わせた左手の手刀──強靭な筋力によって限界まで加速されたその槍は──クロの腹部に、深く突き刺さった。
「そ・・・そんな・・・・・・」
シルフィの球体の中で・・・僕は、膝から崩れ落ちる。
同時に、クロの口から、赤い液体が迸った。
ひとりでに、頬を涙が伝う。「敗北」の二文字が、脳裏に浮かんだ。
視界の端で──シルフィから、オレンジの光が放たれようとして──
<グオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ‼>
しかし・・・そんな絶望的な空気を割くかのように、クロは吼えた。
彼女は、口と腹から血を流しながらも──
驚くべき事に、腹に突き刺さった怪獣の爪を、左手で掴んで固定したのである。
「なっ・・・何を・・・」
意図がわからず狼狽えたところで、右手も同様に黒い爪をがっしりと掴む・・・
目を向ければ、その手は、既に輝きを失っていた。
そして代わりに──全身の赤い模様が、腹部へと集まっていくのが、見えた。
『クロ・・・まさか・・・・・・っ!』
一瞬早くシルフィが気付くが・・・もう、遅かった。
ライジングフィストと同じ要領で腹部に集めた熱を使い──クロは、自分に刺さった怪獣の爪を融かし始めたのだ!
<ガガッッ‼ ゴオオオオアアアアアアッッ‼>
予想だにしていなかったであろう展開に、怪獣は遂に悲鳴を上げた。
自分の腕を必死に引き抜こうとするが、クロは万力のようにそれを掴んで離さない。
それどころか──クロは───前へ一歩進んだ。
己の身体を溶鉱炉と化し、敵の武器をより深く咥え込み、融かしていく。
腹部から流れていた血が蒸発し、爪の融ける白い煙の下から、赤黒い煙が立ち昇り始めた。
「・・・クロ・・・君は・・・・・・」
涙が、とめどなく溢れていた。
クロの戦いは・・・彼女の選択は・・・・・・こんなにも苦しくて、痛くて・・・怖ろしいのか。
『・・・・・・ハヤト』
シルフィの、優しい声が頭に響いた。
『・・・色々、教えてあげなくちゃね。あの子に』
「・・・うん・・・」
涙を拭って、前を向く。
・・・・・・見届けてあげなくちゃ。
あの子の痛みが分かち合えないなら・・・・・・せめて、最後まで。
<グオオオオオオオオオオオッ‼>
怪獣の爪の攻撃をモロに腹部に食らい、吹っ飛ばされ──苦悶の叫び声を上げる。
「クロ──っ!」
堪らず、叫んでしまう。獰猛な怪獣に右へ左へと転がされて、再び山の斜面へと倒されてしまった。
逆転の妙案も思いつかない──
「せめて・・・あの爪さえ何とか出来たら・・・」
そうは考えるものの、ではどのような方法で、と言われても、何も思い浮かばない。
唯一、怪獣の目をくらませられるかも知れなかった閃光手榴弾も、先程全て使い切ってしまった。
僕が・・・考えなしじゃなかったら・・・! 血が滲みそうな程に拳を強く握っても、より内心の焦りを加速させるだけだった。
万事休すか──! 思わず、クロを連れて逃げよう! と言いかけたその時──
『・・・っ! ハヤト・・・クロがまた、力を解放しようとしてる・・・!』
「なんだって・・・⁉」
前回の戦いの時は、体内の毒に抵抗しようとする免疫反応だろう、と踏んでいた。
しかし、今回はそんな状況ではない──じゃあ、どうして?
他にクロがその力を解放しそうになった時なんて・・・!
そうか! ライズマンステージを見て嫌な記憶が蘇ったせいで、強いストレスを感じた時だ!
もしかして、あの怪獣にやられて・・・物凄いストレスが溜まってるんじゃ──!
「クロ! ダメだ! 自分を見失っちゃ──」
叫びかけて──クロと、目が合った。
満身創痍のボロボロの身体でも──なおその輝きを失わない、橙の瞳と、だ。
怪獣の姿になったクロは、人間の言葉で反応してくれた事はない。
でも、今、間違いなくクロは、僕に返事をした。
────「私に、任せて下さい」って。
「・・・・・・シルフイ・・・・・・お願い。力を解放しよう」
『今回は・・・海の中と違ってクロの身体を冷やすものがない・・・もって、1分だよ?』
「それでも、やるの?」と黄金の目が問う。
「・・・・・・やろう。もしもの時は、僕が何度だってクロを連れ戻してみせる!」
だから、応えた。クロがやりたいなら、僕は精一杯それをサポートする。
そして、クロが怖くて、痛くて、苦しい選択をしたとしても・・・・・・それを、最後まで見届ける覚悟を持つ。
それがたった一つ──ちっぽけな僕に出来る、前に進む一歩だ。
『わかった・・・・・・いくよ・・・』
シルフィもまた、頷いた。
胸の結晶から、オレンジの光が放たれると───
<グオオオオオオオオオオオオッッ‼>
一際大きな咆哮が、鼓膜を震わせる。
クロの身体の各所にある排熱口がその輝きを増し、濛々と白煙を上げ始める。
倒された斜面から起き上がると、クロの全身に、赤みを帯びた筋のような模様が浮かび上がり──
その淡い光は体中から、一箇所に集まっていく。
クロの、「右手」に──!
「ライジングフィストだ・・・!」
マンタの怪獣を葬ったあの技を、クロはこの窮地に放とうというのだ。
まさに──「必殺技」。
逆転の一撃が決まる事を信じて、拳を更に強く握り、祈った。
<ガゴオォォ──?>
敵の纏う空気が変わった事に気付いたのだろう。怪獣の方も、両手の爪を構える。
───そして、永遠にも思える沈黙の後──クロが、走った!
<グオオオオオオオオオオオオッッ‼>
限界寸前の超高熱を集め、白く発光する右手が、巨体と共に空を灼きながら走る!
直接触れてもいないのに、右手が横を通った鉄塔が、飴細工のようにぐにゃりと曲がって融け落ちた──
威力は十分! 決まれば必殺だ!
「行けぇ──っ‼」
<オオオオオオオオッ‼>
怪獣へと接近したクロが、引き絞った右手を──繰り出した!
<ガゴオオォォッッ‼>
──が、しかし──その手は、怪獣には届かなかった。
「あぁ・・・っ‼」
巨体からは想像できない程に俊敏な動きで、怪獣の爪は──
一撃必殺の右手に触れる事なく、その根元──クロの右腕を、下から上へと弾き飛ばしたのだ。
<ガアアァゴオォォォッッ‼>
───刹那、獰猛なる怪獣もまた、必殺の一撃を、繰り出した。
爪を閉じて合わせた左手の手刀──強靭な筋力によって限界まで加速されたその槍は──クロの腹部に、深く突き刺さった。
「そ・・・そんな・・・・・・」
シルフィの球体の中で・・・僕は、膝から崩れ落ちる。
同時に、クロの口から、赤い液体が迸った。
ひとりでに、頬を涙が伝う。「敗北」の二文字が、脳裏に浮かんだ。
視界の端で──シルフィから、オレンジの光が放たれようとして──
<グオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ‼>
しかし・・・そんな絶望的な空気を割くかのように、クロは吼えた。
彼女は、口と腹から血を流しながらも──
驚くべき事に、腹に突き刺さった怪獣の爪を、左手で掴んで固定したのである。
「なっ・・・何を・・・」
意図がわからず狼狽えたところで、右手も同様に黒い爪をがっしりと掴む・・・
目を向ければ、その手は、既に輝きを失っていた。
そして代わりに──全身の赤い模様が、腹部へと集まっていくのが、見えた。
『クロ・・・まさか・・・・・・っ!』
一瞬早くシルフィが気付くが・・・もう、遅かった。
ライジングフィストと同じ要領で腹部に集めた熱を使い──クロは、自分に刺さった怪獣の爪を融かし始めたのだ!
<ガガッッ‼ ゴオオオオアアアアアアッッ‼>
予想だにしていなかったであろう展開に、怪獣は遂に悲鳴を上げた。
自分の腕を必死に引き抜こうとするが、クロは万力のようにそれを掴んで離さない。
それどころか──クロは───前へ一歩進んだ。
己の身体を溶鉱炉と化し、敵の武器をより深く咥え込み、融かしていく。
腹部から流れていた血が蒸発し、爪の融ける白い煙の下から、赤黒い煙が立ち昇り始めた。
「・・・クロ・・・君は・・・・・・」
涙が、とめどなく溢れていた。
クロの戦いは・・・彼女の選択は・・・・・・こんなにも苦しくて、痛くて・・・怖ろしいのか。
『・・・・・・ハヤト』
シルフィの、優しい声が頭に響いた。
『・・・色々、教えてあげなくちゃね。あの子に』
「・・・うん・・・」
涙を拭って、前を向く。
・・・・・・見届けてあげなくちゃ。
あの子の痛みが分かち合えないなら・・・・・・せめて、最後まで。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ワイルド・ソルジャー
アサシン工房
SF
時は199X年。世界各地で戦争が行われ、終戦を迎えようとしていた。
世界は荒廃し、辺りは無法者で溢れかえっていた。
主人公のマティアス・マッカーサーは、かつては裕福な家庭で育ったが、戦争に巻き込まれて両親と弟を失い、その後傭兵となって生きてきた。
旅の途中、人間離れした強さを持つ大柄な軍人ハンニバル・クルーガーにスカウトされ、マティアスは軍人として活動することになる。
ハンニバルと共に任務をこなしていくうちに、冷徹で利己主義だったマティアスは利害を超えた友情を覚えていく。
世紀末の荒廃したアメリカを舞台にしたバトルファンタジー。
他の小説サイトにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる