37 / 325
第二話「英雄の資格」
第二章「狩人の罠」・②
しおりを挟む
※ ※ ※
「みんなお疲れ~」
ステージが終わった後の定番イベント・子どもたちとのハイタッチ会を終えて、控室のドアを開ける。
子どもたちの目がない所に入って初めて、ライズマンのマスクを取り、ウエットスーツのフード部分を外して、一息つく事ができる。
「おーっすリーダー! お疲れーっ!」
下半身がボカンドンになったままの伸昌が片手を上げて挨拶してくる。
普段からツンツンに立った茶髪は、汗だくになってもその撥ね具合を失っていない。
「お疲れ様です小鳥遊クン・・・っと」
弟と違って既に着替え終わり、バシャゴンのスーツを脱ぎ終わっていた宏昌から、水の入ったペットボトルが飛んでくる。
弟とは違ってサラサラの黒髪が、彼の動きに合わせて汗を伝わせた。
「おっとと。ありがと!」
投げられた位置が良かったのでしっかりキャッチ成功。有り難く飲ませてもらう。
宏昌は真面目っぽく見せつつ、ふとした瞬間にこういうガサツな所が垣間見えるのがなんだかんだ伸昌の兄なんだなと感じさせる。
本人に言ったら絶対怒るけど。
「オツカレーラーイス! ハヤトサーン!」
飲んでいる途中で、ルナーンが漆黒のマントをはためかせながらスキップでやって来て、思わず咳き込んでしまう。
「ゲホッ!ゲホッ! ちょっエミリーさん⁉ まだ着替えてなかったんですか⁉」
「今さっきまでエミリーと俺で今日上手くいかなかったとこ復習してたんだよー。悪ぃ悪ぃ」
「ウィ! ワリーワリー!」
「・・・そういうことなら・・・でも体調には気をつけてくださいね! あと伸昌はエミリーさんに変な日本語教えないこと!」
「「ハ~~~イ」」
「・・・弟がすまない」
メガネをかけ直した宏昌が、こめかみを抑えながら謝ってくれる。
「あはは・・・わ、悪気がないのはわかってるんだけどね? ・・・よいしょっと」
喋りながら、僕もグローブとブーツのファスナーを下ろし、着替えを始める。
午後の2公演はキャラクターステージだから、僕らの出番はもう終わり。
さっさと着替えてスーツの手入れして、来月からの新プログラムの打ち合わせしなくっちゃ!
「ウップス! ワタシもキガエナキャ! デース!」
パンと手を合わせ、「いっけない!」なんて聞こえてきそうなジェスチャーをした後、肩のマントを外す。
近くにいた伸昌が、特に指示されるでもなく手伝いに入る。
スーツは着る時も大変なら、脱ぐ時も大変だ。
とにかく生地の密着性が高く(昔は裏地がなかったせいでもっと大変だったみたいだけど)、その上動き回るので、脱ぐ時には汗で重くなり更に肌に張り付くようになったスーツを相手にしなければならないのだ。
かく言う僕も宏昌の助けを借りて、今ようやく両腕を外せたところだ。
「よいしょー!」
「ア~~レ~~! オダイカンサマー!」
「・・・・・・・・・弟がすまない。本当に」
「あはは・・・・・・」
こういう時に思わず遊んでしまうのもあるあるというやつだ。
「プハー! スーツをヌイダこのシュンカン、ソーカイデース!」
肩のアーマーを外し、ルナーンのマスクを取ると、エミリーさんのウェーブがかかった金髪が露わになる。
汗で顔に張り付いた前髪を小指で梳いて、激しいアクションをした後とは思えないほど溌剌な笑顔を見せる。
「ソレデハミナサン、マッタアトデー!」
マスクを小脇に抱え、エミリーが女子更衣室へと向かった。
「あっ! ちくしょー! 今日こそ最後まで着替え手伝おうと思ったのによー!」
「・・・・・・」
宏昌のこめかみに青筋が浮かんだのが見えた。
伸昌は冗談めかして言っているだけで、エミリーさんにひどい事などするつもりはないのだが──
「きっ、貴様・・・! エミリーさんにそんな・・・!」
「オイオイ兄貴~~! 顔が赤いぜ~? どうした~~?」
家族と目上の人以外、「苗字 にクン付け」で呼ぶ宏昌が、唯一「名前にさん付け」で呼ぶのが彼女である。
つまりは、そういう事だ。
もちろん伸昌も兄の事情をわかった上でからかっている。見慣れた光景だった。
「だいたいお前はだな・・・!」
ニヤニヤと笑う伸昌に、宏昌が食ってかかる。
スーツを脱ぎ終え、上はタンクトップのままズボンを履き、兄弟の仲睦まじい光景を何の気なしに見ていた──ら、突然頬を引っ張られる。
『お疲れ~~ハヤト~~♪』
痛くはない・・・痛くはない程度の引っ張りなんだけど、引っ張ってくる意味がわからない。
俗に謂う「ウザ絡み」というヤツだろうか。
・・・とはいえ、この顔の横でニコニコしている妖精、皆と話している最中や、ステージでの最中などは、姿も見えなければ気配も感じない・・・というか、感じさせないようにしてくれてる・・・んだろうか。
僕で遊んでいるのはともかく、最低限のところは僕の事を尊重してくれている節もあるし、何より僕とクロにとっては命の恩人だ。
多少頬をつねられたり髪の毛を弄られるくらい──
『~~♪』
今までで一番強く髪を引っ張られた気がしてチラリと姿見に目を向けると、僕の髪の一部が勝手に結われつつあった。
シルフィは鏡には映らないらしい・・・っていや、その前に!
「三つ編みは止めてっ⁉」
「「・・・・・・はぁ?」」
「あっ・・・ちょ、ちょっと電話が・・・あははは・・・」
またやってしまった・・・。スマートフォンを耳に当て、着の身着のまま部屋の外へ出る。
「ちょっと! 他人がいる前で髪いじったりするのはやめてよ! ポルターガイストか何かだと思われたらどうするの⁉」
電話をしているフリをして、シルフィを小声で叱りつけた。
『そこは上手く言い訳してよ~~静電気が~~とか?』
「とか? じゃないよもう・・・」
頭を抱える。
返事の内容からして、やめるつもりは全くない様子だ・・・これから先が思いやられる・・・。
『あっ。そういえば、クロの事、きちんと相手してあげてね~?』
「えっ? そ、それはまぁ・・・うん」
どうして突然そんな事を言われたかわからず、生返事になってしまう。
物置に連れ込んだ時からその覚悟があったかと問われると返答に窮してしまうが、今は違うつもりだ。
彼女の面倒を見れるのは、烏滸がましくも僕しかいない。
クロの正体についても、誰にも言うわけにはいかないのだから。
周囲の皆を信用していないわけじゃなく・・・現実問題、僕が今している事は社会的には正しいとは言えないだろうという罪悪感もある。
一昨日の火事の後──つまり昨日、横須賀基地で火事があった事はテレビでもやっていたけれど、不気味なくらいその詳細については触れる事なく──
死亡者は0、直後に降った雨により運良く鎮火した・・・というだけの報道で終わってしまった。
一方、ネットでは、あの夜現地にいた人たちの撮影した動画がアップされ、大変な騒ぎになっている。
「決定的」な映像はないようで、悪魔が現れた!とパニックに陥る人たちから、集団幻覚だ!デマ動画だ!と唾棄する人たちまで反応は様々な様子だけど・・・
真実を知っている僕からすると、気が気でないとはこの事だ。
クロの正体を言えば、一昨日の火事の責任を全て押し付けられかねない。
もちろんそもそも信じてもらえない可能性の方が高いだろうけど──。
彼女をどうするのが一番正しいのかわからず、昨日一日悩み抜いた結果・・・またしても、情が勝ってしまった。
映画じゃなくてもこの後大変な事になるのは目に見えているけど、それでも・・・僕は言ったんだ。
彼女に、「ひとりじゃない」と。
『・・・言うべきかちょっと迷ったけど、ステージ始まった最初の方で・・・クロが力を解放しかけたんだ』
「ッ⁉ 力を解放・・・って・・・まさか・・・また怪獣の姿に・・・?」
『ボクの力できちんと抑えてたし、ハヤトが出てきてくれたお陰ですぐ収まったけど。・・・忘れちゃダメだよ。人間の形に抑え込んでいても、中身はそうじゃない』
先程までの人を小馬鹿にした顔はどこへやら、真っ直ぐに、黄金の瞳を向けてくる。
『自分が何をしたらいいかわかる? ハヤト』
「・・・・・・正直、わからないよ。何もかも。シルフィは聞いても何も教えてくれないし」
『あはは~。そこをつかれると痛いな~』
「・・・・・・でも」
電話するフリを続けながら、壁に背中を預ける。
「君が僕を罠にはめようとしてるだなんて思ってない。死にかけたところを助けてもらったのも、クロを助けられたのも、全部シルフィのお陰だ。だから、僕はその時々に全力を尽くすよ。明日のことはわからないけど──明日をもっと良くする事はできるはずだから」
そう言って、シルフィを見つめ返す。
『ハヤト・・・』
シルフィもまた、僕の目を見つめ返して──
『・・・・・・最後のとこ、ステージのセリフでしょ? 確か去年の秋くらいのやつ』
「・・・・・・バレた?」
シルフィが僕をずっと見てきたという事を失念してた。
・・・いやだって本当にいい脚本だったんだよ、「太陽が唄う時」。
山田さんの脚本は毎回素晴らしいけど、あれは群を抜いて僕好みだった。この後の打ち合わせで再演を推しておく事にしよう。
『まぁそれはともかく、一つだけアドバイス。ハヤトの好みの見た目とは言え、ああ見えてクロの知能はまだ赤ちゃんに毛が生えたくらいのものなんだ』
「いやっ! こ、好み・・・は、いや・・・もうちょっと違う感じ・・・だけどね?」
引き出しの中まで知られていても、ついつい強がりを口にしてしまう男の悲しいサガを、僕は身を以て体現してしまった。
顔から火が出そうだ。
『人間社会の常識も当然ないわけだし、関わる人を制限したってボロは出まくるに決まってるんだから、きちんと世話してあげないとダメだよ~!』
まだ2日の付き合いとは言え、彼女にしては珍しく、真面目なアドバイスをくれた気がする。
彼女なりに、クロに起こった不調を心配してくれたんだろう。
そうと決まれば、打ち合わせに入る前に、まずはクロに会いに行って───
「おーい! 若ー!」
上着を羽織りに更衣室へ戻ろうとした所で、女性の声に呼び止められる。
インフォメーションセンターの佐々木さんだった。
「佐々木さん・・・若はやめてくださいよ・・・」
生まれてこの方付いて回る「園長の息子」というプロフィールは、身内からすれば絶好のいじり要素らしい。
子供の頃から言われ続けてるのでもう半分諦めてるけど・・・。
「ごめんごめん! と、それはともかく、若にお客さんだよ」
「だから若は──え? お客さん?」
「みんなお疲れ~」
ステージが終わった後の定番イベント・子どもたちとのハイタッチ会を終えて、控室のドアを開ける。
子どもたちの目がない所に入って初めて、ライズマンのマスクを取り、ウエットスーツのフード部分を外して、一息つく事ができる。
「おーっすリーダー! お疲れーっ!」
下半身がボカンドンになったままの伸昌が片手を上げて挨拶してくる。
普段からツンツンに立った茶髪は、汗だくになってもその撥ね具合を失っていない。
「お疲れ様です小鳥遊クン・・・っと」
弟と違って既に着替え終わり、バシャゴンのスーツを脱ぎ終わっていた宏昌から、水の入ったペットボトルが飛んでくる。
弟とは違ってサラサラの黒髪が、彼の動きに合わせて汗を伝わせた。
「おっとと。ありがと!」
投げられた位置が良かったのでしっかりキャッチ成功。有り難く飲ませてもらう。
宏昌は真面目っぽく見せつつ、ふとした瞬間にこういうガサツな所が垣間見えるのがなんだかんだ伸昌の兄なんだなと感じさせる。
本人に言ったら絶対怒るけど。
「オツカレーラーイス! ハヤトサーン!」
飲んでいる途中で、ルナーンが漆黒のマントをはためかせながらスキップでやって来て、思わず咳き込んでしまう。
「ゲホッ!ゲホッ! ちょっエミリーさん⁉ まだ着替えてなかったんですか⁉」
「今さっきまでエミリーと俺で今日上手くいかなかったとこ復習してたんだよー。悪ぃ悪ぃ」
「ウィ! ワリーワリー!」
「・・・そういうことなら・・・でも体調には気をつけてくださいね! あと伸昌はエミリーさんに変な日本語教えないこと!」
「「ハ~~~イ」」
「・・・弟がすまない」
メガネをかけ直した宏昌が、こめかみを抑えながら謝ってくれる。
「あはは・・・わ、悪気がないのはわかってるんだけどね? ・・・よいしょっと」
喋りながら、僕もグローブとブーツのファスナーを下ろし、着替えを始める。
午後の2公演はキャラクターステージだから、僕らの出番はもう終わり。
さっさと着替えてスーツの手入れして、来月からの新プログラムの打ち合わせしなくっちゃ!
「ウップス! ワタシもキガエナキャ! デース!」
パンと手を合わせ、「いっけない!」なんて聞こえてきそうなジェスチャーをした後、肩のマントを外す。
近くにいた伸昌が、特に指示されるでもなく手伝いに入る。
スーツは着る時も大変なら、脱ぐ時も大変だ。
とにかく生地の密着性が高く(昔は裏地がなかったせいでもっと大変だったみたいだけど)、その上動き回るので、脱ぐ時には汗で重くなり更に肌に張り付くようになったスーツを相手にしなければならないのだ。
かく言う僕も宏昌の助けを借りて、今ようやく両腕を外せたところだ。
「よいしょー!」
「ア~~レ~~! オダイカンサマー!」
「・・・・・・・・・弟がすまない。本当に」
「あはは・・・・・・」
こういう時に思わず遊んでしまうのもあるあるというやつだ。
「プハー! スーツをヌイダこのシュンカン、ソーカイデース!」
肩のアーマーを外し、ルナーンのマスクを取ると、エミリーさんのウェーブがかかった金髪が露わになる。
汗で顔に張り付いた前髪を小指で梳いて、激しいアクションをした後とは思えないほど溌剌な笑顔を見せる。
「ソレデハミナサン、マッタアトデー!」
マスクを小脇に抱え、エミリーが女子更衣室へと向かった。
「あっ! ちくしょー! 今日こそ最後まで着替え手伝おうと思ったのによー!」
「・・・・・・」
宏昌のこめかみに青筋が浮かんだのが見えた。
伸昌は冗談めかして言っているだけで、エミリーさんにひどい事などするつもりはないのだが──
「きっ、貴様・・・! エミリーさんにそんな・・・!」
「オイオイ兄貴~~! 顔が赤いぜ~? どうした~~?」
家族と目上の人以外、「苗字 にクン付け」で呼ぶ宏昌が、唯一「名前にさん付け」で呼ぶのが彼女である。
つまりは、そういう事だ。
もちろん伸昌も兄の事情をわかった上でからかっている。見慣れた光景だった。
「だいたいお前はだな・・・!」
ニヤニヤと笑う伸昌に、宏昌が食ってかかる。
スーツを脱ぎ終え、上はタンクトップのままズボンを履き、兄弟の仲睦まじい光景を何の気なしに見ていた──ら、突然頬を引っ張られる。
『お疲れ~~ハヤト~~♪』
痛くはない・・・痛くはない程度の引っ張りなんだけど、引っ張ってくる意味がわからない。
俗に謂う「ウザ絡み」というヤツだろうか。
・・・とはいえ、この顔の横でニコニコしている妖精、皆と話している最中や、ステージでの最中などは、姿も見えなければ気配も感じない・・・というか、感じさせないようにしてくれてる・・・んだろうか。
僕で遊んでいるのはともかく、最低限のところは僕の事を尊重してくれている節もあるし、何より僕とクロにとっては命の恩人だ。
多少頬をつねられたり髪の毛を弄られるくらい──
『~~♪』
今までで一番強く髪を引っ張られた気がしてチラリと姿見に目を向けると、僕の髪の一部が勝手に結われつつあった。
シルフィは鏡には映らないらしい・・・っていや、その前に!
「三つ編みは止めてっ⁉」
「「・・・・・・はぁ?」」
「あっ・・・ちょ、ちょっと電話が・・・あははは・・・」
またやってしまった・・・。スマートフォンを耳に当て、着の身着のまま部屋の外へ出る。
「ちょっと! 他人がいる前で髪いじったりするのはやめてよ! ポルターガイストか何かだと思われたらどうするの⁉」
電話をしているフリをして、シルフィを小声で叱りつけた。
『そこは上手く言い訳してよ~~静電気が~~とか?』
「とか? じゃないよもう・・・」
頭を抱える。
返事の内容からして、やめるつもりは全くない様子だ・・・これから先が思いやられる・・・。
『あっ。そういえば、クロの事、きちんと相手してあげてね~?』
「えっ? そ、それはまぁ・・・うん」
どうして突然そんな事を言われたかわからず、生返事になってしまう。
物置に連れ込んだ時からその覚悟があったかと問われると返答に窮してしまうが、今は違うつもりだ。
彼女の面倒を見れるのは、烏滸がましくも僕しかいない。
クロの正体についても、誰にも言うわけにはいかないのだから。
周囲の皆を信用していないわけじゃなく・・・現実問題、僕が今している事は社会的には正しいとは言えないだろうという罪悪感もある。
一昨日の火事の後──つまり昨日、横須賀基地で火事があった事はテレビでもやっていたけれど、不気味なくらいその詳細については触れる事なく──
死亡者は0、直後に降った雨により運良く鎮火した・・・というだけの報道で終わってしまった。
一方、ネットでは、あの夜現地にいた人たちの撮影した動画がアップされ、大変な騒ぎになっている。
「決定的」な映像はないようで、悪魔が現れた!とパニックに陥る人たちから、集団幻覚だ!デマ動画だ!と唾棄する人たちまで反応は様々な様子だけど・・・
真実を知っている僕からすると、気が気でないとはこの事だ。
クロの正体を言えば、一昨日の火事の責任を全て押し付けられかねない。
もちろんそもそも信じてもらえない可能性の方が高いだろうけど──。
彼女をどうするのが一番正しいのかわからず、昨日一日悩み抜いた結果・・・またしても、情が勝ってしまった。
映画じゃなくてもこの後大変な事になるのは目に見えているけど、それでも・・・僕は言ったんだ。
彼女に、「ひとりじゃない」と。
『・・・言うべきかちょっと迷ったけど、ステージ始まった最初の方で・・・クロが力を解放しかけたんだ』
「ッ⁉ 力を解放・・・って・・・まさか・・・また怪獣の姿に・・・?」
『ボクの力できちんと抑えてたし、ハヤトが出てきてくれたお陰ですぐ収まったけど。・・・忘れちゃダメだよ。人間の形に抑え込んでいても、中身はそうじゃない』
先程までの人を小馬鹿にした顔はどこへやら、真っ直ぐに、黄金の瞳を向けてくる。
『自分が何をしたらいいかわかる? ハヤト』
「・・・・・・正直、わからないよ。何もかも。シルフィは聞いても何も教えてくれないし」
『あはは~。そこをつかれると痛いな~』
「・・・・・・でも」
電話するフリを続けながら、壁に背中を預ける。
「君が僕を罠にはめようとしてるだなんて思ってない。死にかけたところを助けてもらったのも、クロを助けられたのも、全部シルフィのお陰だ。だから、僕はその時々に全力を尽くすよ。明日のことはわからないけど──明日をもっと良くする事はできるはずだから」
そう言って、シルフィを見つめ返す。
『ハヤト・・・』
シルフィもまた、僕の目を見つめ返して──
『・・・・・・最後のとこ、ステージのセリフでしょ? 確か去年の秋くらいのやつ』
「・・・・・・バレた?」
シルフィが僕をずっと見てきたという事を失念してた。
・・・いやだって本当にいい脚本だったんだよ、「太陽が唄う時」。
山田さんの脚本は毎回素晴らしいけど、あれは群を抜いて僕好みだった。この後の打ち合わせで再演を推しておく事にしよう。
『まぁそれはともかく、一つだけアドバイス。ハヤトの好みの見た目とは言え、ああ見えてクロの知能はまだ赤ちゃんに毛が生えたくらいのものなんだ』
「いやっ! こ、好み・・・は、いや・・・もうちょっと違う感じ・・・だけどね?」
引き出しの中まで知られていても、ついつい強がりを口にしてしまう男の悲しいサガを、僕は身を以て体現してしまった。
顔から火が出そうだ。
『人間社会の常識も当然ないわけだし、関わる人を制限したってボロは出まくるに決まってるんだから、きちんと世話してあげないとダメだよ~!』
まだ2日の付き合いとは言え、彼女にしては珍しく、真面目なアドバイスをくれた気がする。
彼女なりに、クロに起こった不調を心配してくれたんだろう。
そうと決まれば、打ち合わせに入る前に、まずはクロに会いに行って───
「おーい! 若ー!」
上着を羽織りに更衣室へ戻ろうとした所で、女性の声に呼び止められる。
インフォメーションセンターの佐々木さんだった。
「佐々木さん・・・若はやめてくださいよ・・・」
生まれてこの方付いて回る「園長の息子」というプロフィールは、身内からすれば絶好のいじり要素らしい。
子供の頃から言われ続けてるのでもう半分諦めてるけど・・・。
「ごめんごめん! と、それはともかく、若にお客さんだよ」
「だから若は──え? お客さん?」
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
狭間の世界
aoo
SF
平凡な日々を送る主人公が「狭間の世界」の「鍵」を持つ救世主だと知る。
記憶をなくした主人公に迫り来る組織、、、
過去の彼を知る仲間たち、、、
そして謎の少女、、、
「狭間」を巡る戦いが始まる。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる