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47、エルティーナとラズラの秘め事
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「まぁ!凄いですわ。流石大国ボルタージュね。これほど大きく重厚で、美しい繊細な彫りが施されているベッドは初めて見たわ。大きいだろうとは思っていたけど、これ程とは思わなかったわ」
「気に入って頂けて良かったです。お友達とお話しながら眠るなんて初めててドキドキ致しますわ。…お背中も流したかったのに…。残念です…」
「エルティーナは流石王女ね、他人に肌を見せるのが不思議に思わないあたり」
「?? ラズラ様も王女様ですわ? それに…侍女は他人ではありません。私の大切な方たちです。ラズラ様も私の友達だから大丈夫です。それ以外の方は嫌ですわ」
「そう。じゃあアレン様は?」
ラズラのサラッと投下された爆弾発言にエルティーナは一気に沸騰する。
今はもう、ラズラとエルティーナ二人だけになっていて。ベッドの上で眠る前だった。
その為薄いシュミーズだけしか着用していないので、エルティーナの全身が赤く染まっているのが丸わかり。
ラズラにとってエルティーナの反応は思っていた以上で、自ら質問を投げかけたはずであったが、かなり驚いてしまった。
真っ赤になって可愛らしい口を魚のようにパクパクしているのを見て、ラズラは人差し指でエルティーナの唇をつつき「エルティーナのエッチ」と笑いながら言ったのだ。
バフンッ!!
エルティーナは「いゃぁぁぁぁ!!」と叫びながら布団に顔面を叩きつける。
(うぉ。可愛い反応!! 何かしらこの反応は。アレン様の事は私のお兄様~くらいにしか思っていないのかと推測していたけど…。
何? 何!? バッチリガッチリ意識しているじゃない?? 妹みたいに振舞っているのは演技!? やだぁエルティーナは、なかなかの演技派ねぇ。私を欺くなんて。見直したわ)
ラズラは心の中で賞賛する。
まだ布団に顔を埋めているエルティーナの頭をラズラは、ポンポン叩く。
「まぁまぁ。そんなに恥ずかしがらなくても。想像するくらいいいじゃない。誰の迷惑にもかからないし、なんたって自分が楽しいじゃない? 素敵よ! 違う??」
布団に顔を埋めていたエルティーナがゆっくり起き上がってくる。顔はまだ真下を向いているが、ラズラに小さな声が聞こえてくる「……違わない…」と。
「うん。違わないわね。だいたい、超絶美貌のアレン様を見て〝妄想しないわ〟なんて乙女はいないわよ。それはすでに人間ではないわ。うん、そうよ。ねっ!!」
ラズラの言葉に、エルティーナは顔を上げる。そして本当に本当に嬉しそうに頷いている。
「そんなに頭を上下に振ったら酔うわよ…」とラズラは思わず心の中でエルティーナに突っ込む。案の定、頭を上下に動かし過ぎてふらっときたのか、またしても布団に埋まる。
埋まっているエルティーナが、コロンと身体の向きを変えてラズラを見上げる。
「……アレンは、本当に素敵だしかっこいいわ。アレンに出会うまで、この世で一番かっこいいのはお兄様だと思っていたの。
アレンは本当に素敵…です…。
私が高いヒールを履いても見上げるくらい背が高いし。ちょっとふくよかな私でも、片腕で軽く持ち上げてしまうくらい腕力もあって。
たっぷりある長い銀色の髪は宝石みたいにきらきらしていて。瞳の色は最高級のアメジスト。アレンの瞳の色以上のアメジストは見た事がないわ。
美術彫像のように整った顔立ちはとても綺麗。顎から首筋までのラインはとても色っぽくて、思わず手を伸ばしたくなるんです。
…近くにいると甘くていい香りもするんです。…とても…甘くて……甘くて……」
いつの間にか、エルティーナの瞳からは涙が溢れシーツを濡らす。自分が泣いている事に気づいていない。
アレンへの賛辞…エルティーナははじめて口に出した。侍女や社交界に来ている令嬢達がアレンを賞賛しても、エルティーナからは何も言わない。
父にも母にも兄にも、ナシルにだって言わない。好きだって言わない。言わない方が長く一緒にいれるから。アレンの前でエルティーナは女ではなくて、…妹であり…子供である……。だったから……。
初めて口に出した。エルティーナがいつもアレンに思っている事を。凄いのよ、素敵なのよ。エルティーナも皆と一緒に「かっこいい!! 素敵!!」と話をしたかった。
ラズラはぎゅっと、胸元を掴む。恋をしている女性は儚くて綺麗で、そして切なくて胸に響き苦しくなる。
泣いている事も分からず、愛おしげにアレンへの賛辞を話すエルティーナは、たまらなく美しい。
ラズラは貰い泣きを誤魔化すためエルティーナに抱きつく。いきなりのスキンシップに驚くエルティーナに冗談まじりで笑いかける。
「エルティーナの表現力は二重丸よ。本書きになれるわよ。私が保証する」
「そう…かしら?」
「そうよ!」
「ふふふ、ありがとうございます」
「ねぇ。エルティーナは、乙女三冊と言われている中では断トツ『薔薇の姫と聖騎士』が好きでしょ!!」
「ど、どうして分かるんですか!?」
「分かるわよ。だって、聖騎士のモデルはアレン様で、薔薇の姫のモデルは貴女だもの。噂で聞こえてくるイメージと私の勝手な妄想だから、そこまで性格は似てないけどね。実際のアレン様はかなり過激だと分かったし……。
まぁ…イメージの問題だから。かなり美化して書いているし実際とは違うから、ほとんどの人は貴女達だとは分からないわ。容姿のイメージも変えているしね」
ラズラの発言に本の内容を思い出し、エルティーナは真っ赤になっていく。
「エルティーナ。やぁーね、また赤くなって。いやらしい~」
「あ、赤くなってないわ。もう!!」
「薔薇の姫と聖騎士は、かなり過激で濃厚なラブシーンも沢山あるしねぇ~。唯一年齢指定がかかっているし。想像してたの? アレン様で想像して、きゅんきゅんしたの? エルティーナはやっぱり、エッチだぁ~」
「か、からかわないでください!!」
「きゃー! エルティーナが怒ったわぁ!!」
二人で冗談を言い合う。
大きなシルクのベッドはエルティーナとラズラが転がりすぎてシワシワだ。室内は、可愛らしい声が飛び交う楽園のようになっていた。
「……ねぇ。エルティーナは何故、アレン様と夫婦にならないの? 王女である貴女が伯爵家に降嫁だなんて…。その方と大恋愛をしたわけではないわよね。
貴女が愛しているのはアレン様なわけだし。フリゲルン伯爵よりアレン様の方が貴女にはお似合いよ」
「………もう、決まった事です。私は、フリゲルン伯爵と結婚します」
「そう……」
先ほどまで、きゃきゃと話していた雰囲気がなくなり、王女の仮面になった。もう覆らない事だと分かったし、聞いては駄目だと分かっている。
でも腑に落ちない。家柄も見目も合い、周りの親族も二人を認めている。心までも一つの二人になんの障害があるのか??
正直に心の中を明かして欲しくて……例えこの先、二人が離れても、繋がる何かをどうしても残したくて。
だから…ラズラは話し始める。「私の最大の秘密を話すから。貴女と彼の秘密を教えて…」と心からの気持ちを込めて……。
スチラ国の最大の秘密を……。
スチラ国の国王夫妻と宰相。ラズラとグリケットだけの知る最大の秘密を……ラズラはエルティーナに話し始めた。
「エルティーナ。少し長くなるけど…一人の少女の物語を聞いてくれない?」
「はい。お聞きいたします」
エルティーナの可愛くはっきりとした声を聞いて肩の力がぬける。ラズラは右隣にあるエルティーナの手をゆっくりと握った。
「少女の記憶の始まりは、大きな男の人に背中を鞭で叩かれている所から始まるの」
痛くて。痛くて。でも涙は出ない。その少女はね、涙も枯れはてていた。食べるものも飲むものもなくて。
男の人に叩かれた後はふらふらと道を歩いているだけ。運が良かったら何か恵んでもらえるし、小銭が落ちている事もたまにはあるから。歩くのよ。身体中痛いけど……。
そこで、運命の出会いを果たすの。
綺麗に磨かれた革の靴。暗闇の中でも鮮やかに光をはなっていた。その靴に見惚れていると。頭上からおっとりとした優しい声が聞こえてきたの。
そうね、グリケット様の声や話し方に少し似ているわ。お顔は断然グリケット様の方が美男子だけど……。
『こんばんは。何か美味しいものを食べに行こうか』
その優しい声の人は、鞭を打たれてガリガリでボロボロ、酷い臭いを放つ少女を誘ったのよ。食事に。
手をひかれ連れていかれた箱の中は、素敵だった。今まで見た事のない綺麗な絨毯にふわふわの生地の椅子。弾力のある椅子はかなり恐かったわ。埋まっていくのではないかと感じたから。しばらく綺麗な箱の中で揺れていたら、箱が止まったのが分かった。
お腹がすいていたのに、すいていた事を忘れていたのは初めてで、可笑しかったわ。
少女が着いた所はスチラ国の王宮だった。
ボルタージュの王宮には劣るけど、なかなかの建築物なのよ。白亜の宮殿。白で統一された姿は場違いな少女にも柔らかく微笑んでくれているようだったわ。
それから、驚きの連続よ。廊下は長くて広い、お湯がでる蛇口にも驚いて、着ているか分からないくらいの軽いお洋服に、噛み切らないで食べれるパンや肉。何もかもがきらきらで目がチカチカしたわ。
何故? 何故? 何が起こったの?? でも少女は疑問に思っても絶対に口に出さなかった。だって、口に出したらこの素敵な夢が終わってしまうかもしれないでしょ。
でもその夢は、なかなか終わらなくて。毎日少しづつ変化があったの。
しばらくは食べて、寝て、お風呂に入って、寝て、食べてだったけど、そこに、本が届いて、読み書きが増えた。
次はダンスが増えた。次はマナーが増えた。気づいたら毎日がレッスンになっていて、とても覚えのよい少女は、全てを完璧にこなしていったの。周りの大人が驚くほど。
何年かたっても、少女の夢は終わらなかった。沢山、沢山、疑問に思っていたけど、絶対口に出さなかった。
それからまた長い月日が経った時、あの時暗闇で聞いた優しい声の人が私に会いに来たの。
『元気そうだね。見違えたよ。綺麗になったね』そう言ってきた。
黒い髪に黒い瞳、中肉中背の本当に優しそうな男の人。その人こそスチラ国の国王、カルケット・スチラだった。
みすぼらしい汚い少女を国王が王宮に連れてきた理由。それはね、余命いくばくのない王女の替え玉にする為だったの。
「………凄い物語でしょ。嘘みたいでしょ」
「ええ。凄い物語だわ。でも決して嘘じゃない。今も生きている本当の物語だわ」
力強いエルティーナの清麗な声がラズラの脳内に響く。握っている手を離そうとしたらエルティーナはいっそう強く握り返してきた。
「それから、その少女は、スチラ国の王女と出会うの。骨と皮しかない小さい小さい王女さまと……」
少女は王女様と毎日話すようになったの。スチラ国の事。ボルタージュ国の事。話すたびに笑ってくれるから本を書いたの。私がいなくても笑っていれるように。
本をプレゼントした次の日、また王女様に会いにいったわ。
王女様はね、あまり動けない人なのに、なんと少女の手を握り返してきたの!!びっくりしたわ。嬉しかったわ。だから、どんどん書いたの。
沢山書いていたら、王女様からリクエストがあってね。ボルタージュ国の神のように美しい王子様とその友人 白銀の騎士と言われている美貌の騎士の二人のお話が読みたいって。
骸骨みたいな顔だったのに、本当に可愛いって思ったわ。
王女はね 恋をしていたのよ。一度も会った事のない、見た事もない、王子様と騎士様に……。だから、少女は……〝私〟は噂の二人をモデルに王女様の為に本を書いたの。
〝薔薇の姫と聖騎士〟
〝黄金の皇子と花売り〟
〝コーディン神とツリバァ神の恋の行方〟
手を叩いて喜んでくれたわ。全部読み終わった次の日、王女様は亡くなったわ。死に顔は、とても幸せそうだった……。
スチラ国の最大の秘密。ラズラは絶対にはなしてはならない秘密をエルティーナに話したのだ。
ラズラはエルティーナの方に身体を転がす。エルティーナの顔が見たくて。同じタイミングでエルティーナも身体をラズラに向けた。
エルティーナの天使の微笑みを見て、ラズラは自分の罪を神に許してもらえた気がした……。
ラズラの心の中にある硬い硬い硬いシコリがゆっくりと溶けていく……。
「ラズラ様。私もあるの、一人の少女の物語…。聞いてくださる?」
優しく清麗なのに、どこか艶のあるエルティーナの声がラズラの耳をなでていく。
「気に入って頂けて良かったです。お友達とお話しながら眠るなんて初めててドキドキ致しますわ。…お背中も流したかったのに…。残念です…」
「エルティーナは流石王女ね、他人に肌を見せるのが不思議に思わないあたり」
「?? ラズラ様も王女様ですわ? それに…侍女は他人ではありません。私の大切な方たちです。ラズラ様も私の友達だから大丈夫です。それ以外の方は嫌ですわ」
「そう。じゃあアレン様は?」
ラズラのサラッと投下された爆弾発言にエルティーナは一気に沸騰する。
今はもう、ラズラとエルティーナ二人だけになっていて。ベッドの上で眠る前だった。
その為薄いシュミーズだけしか着用していないので、エルティーナの全身が赤く染まっているのが丸わかり。
ラズラにとってエルティーナの反応は思っていた以上で、自ら質問を投げかけたはずであったが、かなり驚いてしまった。
真っ赤になって可愛らしい口を魚のようにパクパクしているのを見て、ラズラは人差し指でエルティーナの唇をつつき「エルティーナのエッチ」と笑いながら言ったのだ。
バフンッ!!
エルティーナは「いゃぁぁぁぁ!!」と叫びながら布団に顔面を叩きつける。
(うぉ。可愛い反応!! 何かしらこの反応は。アレン様の事は私のお兄様~くらいにしか思っていないのかと推測していたけど…。
何? 何!? バッチリガッチリ意識しているじゃない?? 妹みたいに振舞っているのは演技!? やだぁエルティーナは、なかなかの演技派ねぇ。私を欺くなんて。見直したわ)
ラズラは心の中で賞賛する。
まだ布団に顔を埋めているエルティーナの頭をラズラは、ポンポン叩く。
「まぁまぁ。そんなに恥ずかしがらなくても。想像するくらいいいじゃない。誰の迷惑にもかからないし、なんたって自分が楽しいじゃない? 素敵よ! 違う??」
布団に顔を埋めていたエルティーナがゆっくり起き上がってくる。顔はまだ真下を向いているが、ラズラに小さな声が聞こえてくる「……違わない…」と。
「うん。違わないわね。だいたい、超絶美貌のアレン様を見て〝妄想しないわ〟なんて乙女はいないわよ。それはすでに人間ではないわ。うん、そうよ。ねっ!!」
ラズラの言葉に、エルティーナは顔を上げる。そして本当に本当に嬉しそうに頷いている。
「そんなに頭を上下に振ったら酔うわよ…」とラズラは思わず心の中でエルティーナに突っ込む。案の定、頭を上下に動かし過ぎてふらっときたのか、またしても布団に埋まる。
埋まっているエルティーナが、コロンと身体の向きを変えてラズラを見上げる。
「……アレンは、本当に素敵だしかっこいいわ。アレンに出会うまで、この世で一番かっこいいのはお兄様だと思っていたの。
アレンは本当に素敵…です…。
私が高いヒールを履いても見上げるくらい背が高いし。ちょっとふくよかな私でも、片腕で軽く持ち上げてしまうくらい腕力もあって。
たっぷりある長い銀色の髪は宝石みたいにきらきらしていて。瞳の色は最高級のアメジスト。アレンの瞳の色以上のアメジストは見た事がないわ。
美術彫像のように整った顔立ちはとても綺麗。顎から首筋までのラインはとても色っぽくて、思わず手を伸ばしたくなるんです。
…近くにいると甘くていい香りもするんです。…とても…甘くて……甘くて……」
いつの間にか、エルティーナの瞳からは涙が溢れシーツを濡らす。自分が泣いている事に気づいていない。
アレンへの賛辞…エルティーナははじめて口に出した。侍女や社交界に来ている令嬢達がアレンを賞賛しても、エルティーナからは何も言わない。
父にも母にも兄にも、ナシルにだって言わない。好きだって言わない。言わない方が長く一緒にいれるから。アレンの前でエルティーナは女ではなくて、…妹であり…子供である……。だったから……。
初めて口に出した。エルティーナがいつもアレンに思っている事を。凄いのよ、素敵なのよ。エルティーナも皆と一緒に「かっこいい!! 素敵!!」と話をしたかった。
ラズラはぎゅっと、胸元を掴む。恋をしている女性は儚くて綺麗で、そして切なくて胸に響き苦しくなる。
泣いている事も分からず、愛おしげにアレンへの賛辞を話すエルティーナは、たまらなく美しい。
ラズラは貰い泣きを誤魔化すためエルティーナに抱きつく。いきなりのスキンシップに驚くエルティーナに冗談まじりで笑いかける。
「エルティーナの表現力は二重丸よ。本書きになれるわよ。私が保証する」
「そう…かしら?」
「そうよ!」
「ふふふ、ありがとうございます」
「ねぇ。エルティーナは、乙女三冊と言われている中では断トツ『薔薇の姫と聖騎士』が好きでしょ!!」
「ど、どうして分かるんですか!?」
「分かるわよ。だって、聖騎士のモデルはアレン様で、薔薇の姫のモデルは貴女だもの。噂で聞こえてくるイメージと私の勝手な妄想だから、そこまで性格は似てないけどね。実際のアレン様はかなり過激だと分かったし……。
まぁ…イメージの問題だから。かなり美化して書いているし実際とは違うから、ほとんどの人は貴女達だとは分からないわ。容姿のイメージも変えているしね」
ラズラの発言に本の内容を思い出し、エルティーナは真っ赤になっていく。
「エルティーナ。やぁーね、また赤くなって。いやらしい~」
「あ、赤くなってないわ。もう!!」
「薔薇の姫と聖騎士は、かなり過激で濃厚なラブシーンも沢山あるしねぇ~。唯一年齢指定がかかっているし。想像してたの? アレン様で想像して、きゅんきゅんしたの? エルティーナはやっぱり、エッチだぁ~」
「か、からかわないでください!!」
「きゃー! エルティーナが怒ったわぁ!!」
二人で冗談を言い合う。
大きなシルクのベッドはエルティーナとラズラが転がりすぎてシワシワだ。室内は、可愛らしい声が飛び交う楽園のようになっていた。
「……ねぇ。エルティーナは何故、アレン様と夫婦にならないの? 王女である貴女が伯爵家に降嫁だなんて…。その方と大恋愛をしたわけではないわよね。
貴女が愛しているのはアレン様なわけだし。フリゲルン伯爵よりアレン様の方が貴女にはお似合いよ」
「………もう、決まった事です。私は、フリゲルン伯爵と結婚します」
「そう……」
先ほどまで、きゃきゃと話していた雰囲気がなくなり、王女の仮面になった。もう覆らない事だと分かったし、聞いては駄目だと分かっている。
でも腑に落ちない。家柄も見目も合い、周りの親族も二人を認めている。心までも一つの二人になんの障害があるのか??
正直に心の中を明かして欲しくて……例えこの先、二人が離れても、繋がる何かをどうしても残したくて。
だから…ラズラは話し始める。「私の最大の秘密を話すから。貴女と彼の秘密を教えて…」と心からの気持ちを込めて……。
スチラ国の最大の秘密を……。
スチラ国の国王夫妻と宰相。ラズラとグリケットだけの知る最大の秘密を……ラズラはエルティーナに話し始めた。
「エルティーナ。少し長くなるけど…一人の少女の物語を聞いてくれない?」
「はい。お聞きいたします」
エルティーナの可愛くはっきりとした声を聞いて肩の力がぬける。ラズラは右隣にあるエルティーナの手をゆっくりと握った。
「少女の記憶の始まりは、大きな男の人に背中を鞭で叩かれている所から始まるの」
痛くて。痛くて。でも涙は出ない。その少女はね、涙も枯れはてていた。食べるものも飲むものもなくて。
男の人に叩かれた後はふらふらと道を歩いているだけ。運が良かったら何か恵んでもらえるし、小銭が落ちている事もたまにはあるから。歩くのよ。身体中痛いけど……。
そこで、運命の出会いを果たすの。
綺麗に磨かれた革の靴。暗闇の中でも鮮やかに光をはなっていた。その靴に見惚れていると。頭上からおっとりとした優しい声が聞こえてきたの。
そうね、グリケット様の声や話し方に少し似ているわ。お顔は断然グリケット様の方が美男子だけど……。
『こんばんは。何か美味しいものを食べに行こうか』
その優しい声の人は、鞭を打たれてガリガリでボロボロ、酷い臭いを放つ少女を誘ったのよ。食事に。
手をひかれ連れていかれた箱の中は、素敵だった。今まで見た事のない綺麗な絨毯にふわふわの生地の椅子。弾力のある椅子はかなり恐かったわ。埋まっていくのではないかと感じたから。しばらく綺麗な箱の中で揺れていたら、箱が止まったのが分かった。
お腹がすいていたのに、すいていた事を忘れていたのは初めてで、可笑しかったわ。
少女が着いた所はスチラ国の王宮だった。
ボルタージュの王宮には劣るけど、なかなかの建築物なのよ。白亜の宮殿。白で統一された姿は場違いな少女にも柔らかく微笑んでくれているようだったわ。
それから、驚きの連続よ。廊下は長くて広い、お湯がでる蛇口にも驚いて、着ているか分からないくらいの軽いお洋服に、噛み切らないで食べれるパンや肉。何もかもがきらきらで目がチカチカしたわ。
何故? 何故? 何が起こったの?? でも少女は疑問に思っても絶対に口に出さなかった。だって、口に出したらこの素敵な夢が終わってしまうかもしれないでしょ。
でもその夢は、なかなか終わらなくて。毎日少しづつ変化があったの。
しばらくは食べて、寝て、お風呂に入って、寝て、食べてだったけど、そこに、本が届いて、読み書きが増えた。
次はダンスが増えた。次はマナーが増えた。気づいたら毎日がレッスンになっていて、とても覚えのよい少女は、全てを完璧にこなしていったの。周りの大人が驚くほど。
何年かたっても、少女の夢は終わらなかった。沢山、沢山、疑問に思っていたけど、絶対口に出さなかった。
それからまた長い月日が経った時、あの時暗闇で聞いた優しい声の人が私に会いに来たの。
『元気そうだね。見違えたよ。綺麗になったね』そう言ってきた。
黒い髪に黒い瞳、中肉中背の本当に優しそうな男の人。その人こそスチラ国の国王、カルケット・スチラだった。
みすぼらしい汚い少女を国王が王宮に連れてきた理由。それはね、余命いくばくのない王女の替え玉にする為だったの。
「………凄い物語でしょ。嘘みたいでしょ」
「ええ。凄い物語だわ。でも決して嘘じゃない。今も生きている本当の物語だわ」
力強いエルティーナの清麗な声がラズラの脳内に響く。握っている手を離そうとしたらエルティーナはいっそう強く握り返してきた。
「それから、その少女は、スチラ国の王女と出会うの。骨と皮しかない小さい小さい王女さまと……」
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本をプレゼントした次の日、また王女様に会いにいったわ。
王女様はね、あまり動けない人なのに、なんと少女の手を握り返してきたの!!びっくりしたわ。嬉しかったわ。だから、どんどん書いたの。
沢山書いていたら、王女様からリクエストがあってね。ボルタージュ国の神のように美しい王子様とその友人 白銀の騎士と言われている美貌の騎士の二人のお話が読みたいって。
骸骨みたいな顔だったのに、本当に可愛いって思ったわ。
王女はね 恋をしていたのよ。一度も会った事のない、見た事もない、王子様と騎士様に……。だから、少女は……〝私〟は噂の二人をモデルに王女様の為に本を書いたの。
〝薔薇の姫と聖騎士〟
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手を叩いて喜んでくれたわ。全部読み終わった次の日、王女様は亡くなったわ。死に顔は、とても幸せそうだった……。
スチラ国の最大の秘密。ラズラは絶対にはなしてはならない秘密をエルティーナに話したのだ。
ラズラはエルティーナの方に身体を転がす。エルティーナの顔が見たくて。同じタイミングでエルティーナも身体をラズラに向けた。
エルティーナの天使の微笑みを見て、ラズラは自分の罪を神に許してもらえた気がした……。
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「ラズラ様。私もあるの、一人の少女の物語…。聞いてくださる?」
優しく清麗なのに、どこか艶のあるエルティーナの声がラズラの耳をなでていく。
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「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。
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