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19、ミミル登場

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 立ちつくしているフェリックスは無視。

 ミミルはハクリとルルに事の顛末を話していく。フェリックスはどうせ知ってる事だ。


「昨日の夕方に、ダリアが超強力な結界を無意識のうちに作って。フェリックスの了承えずに召喚。
 たっぷりエロい事をしたみたいです。
 ダリアは《男》になりたいと言ってたけど、なりたいのは《男》ではなくフェリックスになりたい、と。
 尊敬と憧れ、好意が…伴侶を求める気持ちだと理解してなかったみたいです。
 ま、生理がきたのも最近だしね。伴侶と気づいたのもその時みたい。
 別に普段フェリックスが他の女としているような行為ではなかったけどね。キスして、お触りしただけだし。
 でも夢だと思ったからこそ楽しんだダリアには、現実は恐怖だったみたい。
 パパがフェリックスに確認してくるって言った瞬間、泣き喚きはじめて、嫌われるから。軽蔑されるから。言わないで、行かないで、嫌われたら生きていけない。って地震まで起こしたから。
 ぷすっと麻酔をさして昏倒させた。以上です。で、どうする? 色男さん?」


 真っ赤になって固まっているフェリックスに、ミミルはからかう。


「良かったね、あの魅力ボディはフェリックスのものだよ。伴侶だから身体の相性もバッチリ!!
 互いが夢だと思ってチチクリあってたから、相性いいのは知ってるか」


 フェリックスは無言のままミミルの横まで歩き、肩を掴んで揺する。
 ここにエルヴィンがいたら違うバトルが起きそうだが、いなくてセーフだ。


「それは間違いないのか!! 俺がダリアの伴侶になっていいのか!!」

「やめ、やめ、酔う、酔うってばっ!!」


 手を振り払うが、確認を迫ってくるのが恐い。


「目をギラギラして、近づいてくるな!! 確認しにフェア国に来たらいいじゃん。ってか目が恐い、恐いから!!」

 ミミルはルルの後ろに隠れる。


「本当に…嘘じゃないんだな……」


 今度は蹲るフェリックスに、ミミルはビクビク。外野のハクリとルルは、もちろん嬉しい。
 息子の性行為の成り行きは出来れば聞きたくなかったが、ダリアとの仲なら大万歳だ。


「嘘じゃないよ。泣き過ぎて、部屋が宝石まみれでママとパパが呆れてるわ」

「ダリアを…諦めなくて……いいんだな」

「泣くなよ」

「………」



 カランカラン、カランカラン。

 思わずミミルが扉を開けた。

「おはよう!!! 来たぞー!!!!」

「誰、この熊男。いや熊みたいな犬男」

 ミミルは律儀にいい直した。

「パパぁー早くぅ」「パパぁーまだぁ」


 馬鹿っぽい声が室内に響く。ハクリ、ルル、フェリックスは知っている面子だが、ミミルは知らない。むしろ誰だこいつとなっていた。


「…団長、今何時だと思いますか?」

「ハクリ殿、娘達が早く会いたいとせがむのだ。仕方ないだろう」

「はい、はい、了解、貴方はシェルバー騎士団の団長さんね。娘さん連れてお帰りください」

「なんだ、貴女は!?」


 最もな話だが、ミミルの態度は高圧的。フェア王国でもこの感じだから、直す気はない。


「はじめまして、フェア王国の大魔法使いのミミルです」

 貼り付けた笑顔で、右手を出した。

「まさか、あのミミル様か!?」

「そうよ、そのまさか。娘さん達の目的はフェリックスでしょ。あれは売約済みだから駄目。私の義弟になるから、手出し無用」

「は? 何? えっ、なんですと?」


 空気が読めない二人の娘、クロエとアメリアはまだ蹲っているフェリックスに近づこうとして、ミミルに遮られた。


「やだぁぁー、何よ」
「いやんっ、フェリックス様とお話しするぅ」

「おい、聞いてなかったか? フェリックスは売約済みだから、近づくな」

「パパぁ」「パパぁー」


 間延びした声に苛つくが、父親の団長はデレデレ顔だ。可愛くて仕方ないのだな。


「売約済み?とはなんだ。デートくらいなら、いいだろう。な、フェリックス! ほらほら、クロエもアメリアも今日は一段と可愛いだろう」

「ちょっとおっさん、話を聞いてたか!? シメるぞ。フェリックスはダリアのもんだ。あんた私のパパに喧嘩売る気?
 ダリアは妖精王の実子。フェリックスを伴侶としたから、フェリックスはもうダリアの夫だ。
 感激して蹲ってるから話に参加してこないけど、デートは絶対に駄目!!」


 大変口の悪いミミルは、偉大なのだが、そうは見えない。ダリアの件もまだ信じきれてないのだ。
 普通の人達からすれば、妖精王は神と同レベル。見てないものを信じるのはなかなか難しい。


「ねぇ、あなたの話が本当なのぉ?」

「わかるぅー、口から出まかせぇ。あなたもフェリックス様狙いじゃないの? 同じ狼種だからって、えらそぉー」


 クロエとアメリアが「ねぇー!」と笑い合う。ここでミミルはキレた。いきなり妖精王とか言われても、小さな頭が理解しない小者は多い。
 しかしフェリックスを狙っているなどと思われるのは心外だ。

 ミミルの唯一は誰よりも儚い美しさを持つ美貌のエルヴィンだ。

 喧嘩中(一方的にミミルが怒っている)だが、勘違いされたのに怒髪天。



「そうね、見るがいいわ。小娘」


 ミミルは薄ら笑いを浮かべ、皆の前であの時の再現をしてみせる。

 手で円をつくり。
「エルヴィン、ダリア、召喚!!」というびっくり発言をし、手の中に息を吹きかけた瞬間。

 目の前には、人をすっぽりとのみこむほどの真っ黒なブラックホールが出現した。ミミルはブラックホールに手を入れる。しばらくすると「おし、掴んだ」と嬉しそうだ。


「まさか、ミミルちゃん!?」
「ここに呼ぶつもり!?」

 行きピッタリのルルとハクリ夫妻に、にこりと笑い腕を思いきり引っ張った。


 ブラックホールの中から出てきたのは、恐ろしい程の美しい人二人。

 大変見目麗しい二人は今の状況に驚愕している。


「ミミルお姉様?」

「姉様…」


 ダリアは妖精族とはいっても羽根がない。ダリアはそれは傾国で絶世の美女なのだが、それ以上にエルヴィンは目立った。

 なにせ男として素晴らしいものを詰め込んで作られた見てくれなのだ。

 パーツ一つとってもミスはない。全てが目を覆いたくなるほどの美の体現者。妖精族特有の純白の羽根。抜けるような白い肌、薄紫の髪が波打ち腰近くまであり、瞳の色も薄紫。

 全てが儚く消えそうな美しさだが、唯一立派な股間の盛り上がりで男性である魅力を伺える。



 皆がエルヴィンに注目してもダリアにはどうでもよく。現在フェリックスに釘づけだ。


「あっ、なんで、フェリックス様」


 ダリアは泣きそうというか、すでに泣いている。

 対抗心から無理矢理呼んだが、まどろっこしいのがミミルは好かない。ひとまずエルヴィンを放置し、ダリアの件をまとめにかかる。

 ぷるぷる震えるダリアの肩をトンッと叩く。


「フェリックスは、ダリアをちゃんと好きだよ。ほらほら、あの娘達を見なさい。
 あざといキュルン系に、フェリックスを取られるよ? いいの? ちゃんと想いを言わなきゃ。ダリアは出来る子でしょ?」

「ミミルお姉様…はい」


 ギャラリーを無視して…いやはじめからダリアにはフェリックスしか目に入ってない。


「フェリックス様、私、昨日は本当に申し訳ございませんでした。本当に…申し訳…ない、ですが。
 好きなんです! 大好きなんです! 一夫多妻とかでも構わないです。私、待ちます!だから、だから、私の伴侶になってくだ、」

 ダリアは最後まで言わせてもらえなかった。

「ダリア、愛しているよ。俺の唯一だ。一夫多妻なんてやめてくれ。俺はダリアだけだ」

「…本当、に…?」


 見上げたフェリックスは甘い顔だ。ダリアが大好きな顔だ。


「本当だよ」


 ダリアの唇には、柔らかい唇が触れる。堪らなくなったのは、ダリアだ。フェリックスに密着しながら、もっともっととキスを強請る。

 強請るキスを抵抗しないフェリックスは、夢のように濃厚な口づけをダリアに贈る。


「…ンッ、…んっ…フェリックス様っ、」

「…ダリ、ア…」


 一向に口づけをやめない二人をそのままに、腕を組んでミミルは高らかに宣言をかます。


「で。改めてまして、こちらが私の夫、エルヴィンよ」


 ふふんっ。平伏せろ、と顔に書いてある。

 流石にエルヴィンは妖精族でエティエンヌフューベルに次いで二人目、この世界水準の男性体と広く有名だ。

 純白の羽根に、この見目であれば、間違いなく妖精王の実子エルヴィンだと皆が認識するだろう。

 皆の口が開いている。ジャック団長と二人の娘だけではない、ハクリとルルも生のエルヴィンを見るのは初めてだ。
 無論フェリックスも初めてましてだが、今はダリアとの口づけ中で、眼中にない。



「…姉様、どうしたの?」


 ミミルとエルヴィンは絶賛喧嘩中。

 ミミルが一方的に無視しているのだが、しばらくは口を聞いてもらえないのを覚悟していたエルヴィンは、至近距離にいるミミルに胸が熱くなっていた。



「別に、呼んだだけ」

「…そう」

「キスしてくれたら、許してあげる」

「キス…していいの? 僕からしてもいいの?」

「おい、しちゃ駄目なんて言った事ないわ!」

「姉様は柔らかい、僕から触ると壊しちゃいそうだから。いつも我慢してる」


 エルヴィンを苛めたい訳じゃないが、嗜虐心が湧き上がり踏みつけたくなるのだ。昔から現在まで、色々勘違いが暴走して、泣かしたりした。
 たまには甘えてやろうと、ミミルは手を広げて抱きしめろとエルヴィンに要求する。

 手を広げたらなら、身長の割にはちょっと大きい胸がフルンっと揺れる。


「ぅん!!」

「姉様…(可愛いぃぃぃ)」


 妖精族は欲求に対して大変、正直だ。ギャラリーがいようと全く関係ない。

 エルヴィンは柔らかい胸をゆっくりと潰しながら、抱き寄せる。フェリックス以上にエルヴィンはムッツリスケベだ。
 ちなみに、エティエンヌフューベルはかなりのオープンスケベだ。


 室内は、二組のカップルの濃厚な触れ合いをギャラリーに見せつけていた。



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