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10、ダリアの変化

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 今思い返しても、まぁカッコ悪い姿と言動だった。

 フェリックスは逃げ込んだトイレの中で突っ伏していた。


(勃ったな、説明しただけなのに。少し触られただけで、目の前で勃つだなんて、こんなことよくあるのに。
 発情期の女が触ってきても、勃つなんて今までなかった! 俺のイチモツはとうとう壊れたか!?)


 違う。理由は明白だ。

 ダリアに触られたからだ。

 あの白魚のような手で、優しく優しく撫でられたら、勃つのは正常。まだ股間が熱を帯びている。


(あぁ、ツライ…。そしてカッコ悪い…)


 いくらダリアを愛したと開きなおったとしてもだ。

 大好きな子の前で、軽く触られただけで一気に勃起し、トラウザーズの前を全開のまま部屋を出たのだ。で極めつけ、叫んだ言葉は…。


『ダリア!! 剣の稽古は明日からにしよう。今日は紅茶でも飲んで、ゆっくりしよう。
 はじめに着ていた服を着て。終わったら、母さんの手伝いを頼んでいいかな?お願いするね!』

 という馬鹿な台詞だ。捲し立てるように台詞を放って、逃げ込んだ先はトイレ。


 トイレで正解なのだが。こうなったら一度射精するしかない。

(この男の習性らしきものに、ダリアはどれだけ理解があるのか?まさか、知らない訳はない…よな?)



 あくまで聞いた話だが、妖精族は子供が出来にくいからこそ、暇さえあらば性器を合わせている…らしい。

 それに親があの妖精王だ。多少性行為に関してオープンな考え方だろうし、先程話していたように妖精族は基本的に年中発情期だ。
 ダリアが《男》になりたいというならば、精液酒を相手に飲ませる事情も把握しているはず。

 飲ませた事があるのかと、そう脳に過れば、唸り声が出そうになる。


(俺も、駄目もとで、飲んでみたい…)

 ふと出た願望に頭を振る。

 父からは諦めよと言われた。母も何も言わないからこそ、フェリックスの気持ちは察している。でもまだダリアは両性具有だ。
 まだ《男》ではない、そう都合よい考えに到達してしまう。

 勝手だな。と自嘲する。

 抜くために射精を…と思うが、先程この陰茎と玉袋をダリアの指が触った。彼女からすれば、ただの興味かもしれないが、綺麗な形と褒めてくれた。嫌悪ではなく好奇心。


(今、触りたくないな…せっかくダリアが触ってくれたから)


 もう少しこのままあの手の感触を…と目を閉じて思いだす。
 目を閉じればドクッドクッドクッと股間が脈打つ音が脳をさす。しばらく浸っていると、扉が開く音が聞こえた。


 ダリアが部屋を出たようだ。流石にこのままトイレにこもっているのも可笑しな話だ。

 とん、とん、とん、と階段を降りる音まで、ダリアらしい洗練され尚且つ可愛らしい足音。


 ドクッンッ。

 と一発大きく陰茎が脈打ち。やばいと思う。

 焦りながら下履きから陰茎を取り出すと、膨れた亀頭から ビュッビュッ ビュッビュッ とトロミある白濁液がトイレの水溜まりに散らばる。


(足音だけで、射精出来るって、俺、相当頭イカれてないか?)

 非常に異性や性行為に対し淡白なフェリックスは、いつもとは違う下半身事情に頭がついていかない。

 出したらスッキリする。出るものは仕方ない。香水臭い女や、やたらベタベタ触ってくる女との性行為での射精より何倍も…いや何百倍も気持ちいい。

 トイレの水を流し、外の気配を確認する。人の気配がいないのを感じとってから、フェリックスは自室に戻る。


 扉を開けて部屋に入れば。

(な、んだ?)

 室内に残る甘く濃厚な香りに、身体の全身が沸き立つ。その己の変化が恐くなり、息を止め一気に窓を全開にした。

 外から入る風と新緑の香りが、部屋に充満し一安心。一体さっきのはなんだったのか!?
 確実に脳が焼き切れそうだった。外の涼しい風を肌に感じとり、頭が少し冷静になった。

 室内を見渡せば、部屋のテーブルに綺麗に畳まれたトラウザーズとテーブルの下には並んで置かれたブーツ。

 どこまでも律儀で丁寧なダリアの性格を、無性に誰かに自慢したくなる。


 キラッ。視界に光る石?


 フェリックスは床板に落ちた石を拾い上げて、絶句。初めてみた訳じゃない。むしろ何度か見たことがあるからこそ、血の気が引く。

 部屋を見渡せば、一つではなかった。まさかと思い、端から端まで這いつくばってさがせば、その宝石は9個にもなった。


 ダリアはこの部屋で涙を流したのだ。


 妖精族は感情的な種族ではない。無表情のダリアは珍しいが、基本は喜怒哀楽が少ない。そんなダリアが涙を流し、それを放置したまま立ち去った。

 どれだけの事をフェリックスはやらかした!?

 思わず叫び(遠吠え)そうになる口元を手で覆う。これは駄目だ、俺が悪い。ダリアの何かを傷つけた。死んで償えるかも微妙だ。

 フェリックスは細部まで思い出そうと試みるが、検討がつかない。


(考えろ、何かあったはずだ!! 泣くほどの事を俺はした…)

 ぶわっと毛が逆立つ。自分自身への怒りさえも、今気を抜けば獣化してしまう。魔力をセーブ出来ないで獣化したら家が潰れる。


(落ち着け、落ち着け、ダリアがいるんだ、獣化は駄目だ)

 フェリックスは暗示のように言い聞かせ、両腕で自身の身体を押さえ込む。
 何度も深呼吸し、身体から湧き上がる苛立ちと情け無さを宥め誤魔化す。


「ふぅー………」


 やっと落ち着いたが、戦闘モードの獣化一歩手前だった身体はまだ内側は熱くたぎる。

 下には母親のルルと、無表情ながらもてきぱき動くダリアがいる。冷たい水でも飲んで熱を逃がそう。ダリアの顔を見て、謝る気ではいるが先ずは顔色をみたい。


 フェリックスは自室から出た。

 階段を下りつつあったフェリックスに、先程の焼けるような感覚が舞い戻ってくる。それは愛しいダリアの匂いと混じり神経を狂わす。

 硬直して動けない身体。感覚だけでなく脳天を破る香りを纏ったダリアが視界に入ってきた。

 本能が彼女を望む。

 香ってきた匂いは《女》の発情期の匂い。狂いそうな精神も、彼女の薄紫の瞳に見つめられたなら身動きが取れない。


(…ダリ、ア……まさか)


 ダリアとは目が合ったはずだ。だが彼女は何も言わずに風呂場に入っていく。

 涙の理由が分かって良かったはず。あのダリアがいた部屋に入った瞬間の香りは、血の香りだったのだ。
 初めてだからこそ驚いたのだろう。そしてフェリックスの母であるルルに聞いて納得し、初めての血の甘さを流しに行ったのだ。

 女になった証。

 魅惑的な身体と心の琴線に響く声をもっていても、ダリアの心は子供で、肝心な身体の胎内も子供だった。

 それが今は崩壊した。


 ダリアが《男》になる序曲だ。恐ろしいカウントダウンは始まった。



 フェリックスはトラウザーズを緩めた間から手を入れ、ギンギンに勃ち上がった己の陰茎を持ち、渾身の力で握りしめた。

 潰す一歩手前だ。痛さが脳に響き、目の前に火花が散っていく。
 ふっと意識が遠のき、手が陰茎から離れてしまう。階段に座り込んだままフェリックスは思う。


(ダリアは親友だ、唯一無二の親友を抱きたいなんて思うわけにはいかない。
 俺はダリアに肉欲をもったら、関係が終わる。終わってしまう)


 潰すつもりで掴み折ってしまう気でいても、それだけの痛さを与えても、イチモツはまだ彼女の身体を思い勃ちあがろうとする。

 まさに頭と身体は違う生き物。

 フェリックスは重い足を動かし自室に戻り、開け放たれた窓から飛び降りた。

 ダリアの香りがしない場所へ。



 今はそれだけしか考えられなくなっていた。




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