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3、見てしまった…

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 能面無表情のまま、それでもソワソワしながら紅茶をすするダリア。
 話は今しがた帰ってきたフェリックスの話題になる。名前が出るだけでも、ダリアの心は喜びで湧き立つ。


「フェリックスくん、さらに男前に磨きがかかっているわね」

「凛音、よく言い過ぎ。男前でも女の子をもて遊んでたらイメージは地に落ちるわよ」

「…いや、情報管轄部にいるからこそ、女性との接触が多いだけだよ。発情期の女には手を出さないし。あいつは発情期の頃は、ほぼ家にいるだろう?
 いや、今日のは、ま、遊んでただろうけど…」


 ハクリを睨むルルに、凛音はまたスチャッと間に入る。


「いや、本当に男前ですよ。常日頃エティエンヌフューベル様を見て生活する私から見ても、劣らないと思います」

「ハクリの時より、何倍もたちが悪い。あの子を追いかける女のレベルが桁外れなのよ。フェリックスは狼種だし、曽祖父に似て魔力量も凄い。
 ハクリは男前でも、所詮獣化した姿は可愛いチワワ種だし、魔力もほどほどだから、お遊び程度の女ならいっぱいでしょうけど。あの子は別格…」

「ねえ、ルル。さっきから僕をちょいちょい貶すのやめて」

「確かにフェリックスくん、かなりモテそうですよね」


 凛音は二年ぶりにみたフェリックスの姿を反芻する。エティエンヌフューベル様と同じくらいの長身に、実戦で鍛え上げた肉体美、狼種としての見目能力魔力を詰め込んだ素晴らしいさだ。

 あえて口には出さないが、エティエンヌフューベル様に会ってなかったら確実に恋に落ちただろう圧巻の色男っぷりだ。


「実際にめちゃくちゃモテるよ。僕は職場に行く度に、もの凄い数の縁談と釣書を断る作業から一日がはじまるんだから。
 娘のスカーレットなんて、さらっと結婚して早々に家を出たのにさ。
 あの曲者は一向に家を出て行かないし。娘を持つギラギラしたおっさんに追い回される日々を可哀想だと思わない?」

「そ、それは…大変ですね」


 凛音も実際フェリックスを見たから納得するが、やはり狼種は大人気のようだ。妖精族まではなくとも、伴侶を命懸けで護り大切にする種族だ。

 不男でも狼種ならモテるのに、フェリックスの甘いマスクと優しげなエロボイスに鍛え抜かれた肉体美は、モテない訳がない。


「大変も、大変。隣国のお姫様まで参戦してくる始末だよ。
 何ヶ月か前かなぁ…。
 知人の晩餐会に呼ばれて、ルルとフェリックスと僕の三人で、街まで歩く道すがら。
 それとなくフェリックスにお見合いの話を出したんだよ。そしたらさ最後まで話す前に吹っ飛ばされて…衝撃で腕を骨折したんだよ」


「でね、その後、唸りながら獣化したもんだから。最後は獣化した私との吠え合いよ。
 あの子も威嚇はしても、流石に私には手を出さなかったけど。見上げるほど大きい…家くらいの巨大狼が終始唸り声をあげて……とても恐かったわ。
 しばらくその一帯は、虫の鳴き声一つしなかったのよ」


 あの優しげな青年が、キレる??獣化して暴走するほど…それってもう…一つしか思い浮かばない。



「ハクリさん、ルルさん。それって、フェリックスくんには、もうすでに…愛してる女性がいるんじゃないかしら…」

 凛音がポツリと溢した台詞にハクリ、ルルが、ゴクリと唾をのみ、ダリアの顔を三人が一斉に見る。無謀な恋にしかならない。


「…まさか、あいつもそこまで馬鹿じゃないな」

「いやだ、いやだ、恐ろしいわ」

「ダリアは…男になりたいもの、違うわよね」


 ハクリ、ルル、凛音は頭をふりふり。素晴らしい《男》になると熱く宣言し続けるダリアだけは、ないない。とこれ以上無駄な思考するのをやめた。

 凛音もダリアは《男》になると何故か思っているし、妖精族の皆も同じ意見だった。


「お手洗いをお借りしたいです」

 無表情で話すダリアに、ルルはビクッとしながらも「どうぞ」と笑う。

 ダリアはリビングの扉を閉めて、数歩歩き立ち止まる。


(フェリックス様には、愛している人が? 愛するとはお父様やお母様みたいな関係?ミミルお姉様やエルヴィンお兄様みたいな関係?
 分からない、分からないわ。愛するって、好きと、尊敬と何が違うの??)


 ダリアは眼下に揺れる乳房をぐいっと持つ。別になんとも思わない。今度は股の間をぷらぷらする陰茎を持ち軽く引っ張るが、別になんとも思わない。

 女としても男としても素晴らしいほど魅力的なブツがしっかりある両性具有のダリアには、相手の身体に魅力を感じ思うことはない。


(フェリックス様は、女の人と性行為している。気持ちいいからするのよね? 愛してなくても出来るの? 私には、分からないわ…)


 実はダリアは精通も生理も来てない。人それぞれだからと、両親は気にしないが、少し遅くはある。

 普通の妖精族は精通すれば精液 《精液酒ともいう》が出る。
 それを自身の唯一の伴侶に飲んでもらい、その伴侶から精液か蜜液かを逆に貰えれば契約完了。互いの身体に蜜液が入った瞬間、身体の性別は伴侶とは別の性に作り変えられる。
 激痛を伴う身体の作り変えを経て、やっと夫婦になれるのだ。

 この世界では誰もが知る妖精族の《精液酒》。もし自分が伴侶であれば、自身が思うこの世で最高と感じる味になる。味は人それぞれ違う。
 もし伴侶でなければ、喉は焼けるように腫れ、とてもじゃないなが飲み込めはしない。そんな特別なモノだった。



 精通がなければ、気に入った相手に精液酒を飲ませれない。今のところ飲ましたい相手がいないダリアは、一応の知識でしか知らない。

 驚くほど鈍い子に育ってしまった。


 お手洗いを済ませ、リビングに戻ろうとするが、シャワー室の音が耳に入り、胸が高鳴る。

 ダリアはそろっと扉を開いた。

 いきよいよく水が出る音が室内に響く。これ以上近づくと鼻がいいフェリックスに気づかれてしまう。

 ダリアは風呂場から離れ、壁に背を預けて座りこむ。自然に透視をする準備に入った。


(フェリックス様をみたい…)

 術を発動させて、透視を行う。妖精族のかなり魔力がある者しか出来ない素晴らしい術をまさか、風呂を覗く為に使われるとは、先人も思わなかっただろう。



 *


(わぁぁぁぁーフェリックス様だわ)

 フェリックスの姿を見るだけでダリアは胸いっぱい。


「はぁぁぁ、まじでアレ何?」


 ボソッと出たフェリックスの言葉に、あまり聞かない話口調にダリアの胸は早鐘をうつ。

 ゆっくりとフェリックスの全身を観察していく。

 壁に手をつき、頭からシャワーをかぶっている。輝く銀髪は水に濡れ色が濃くなり、腕や肩の筋肉質に盛り上がる様は芸術的だ。
 幅の広い胸板に流れる水は、それだけで扇情的。視線を下におろすと盛り上がる腹筋、長い足に惚れ惚れする。

(ほぅ…フェリックス様のお身体、綺麗…)


 しばらくすると、垂れ下がっていた男の象徴が、角度を増していく。
 ゆっくりと勃ち上がり、形を変え膨れる立派な陰茎に目が離せないダリアは、そこを見続けた。


「ぁ、勃った…」

(えっ? 今お気づきに? ゆっくりと勃ちあがっていましたのに?)


 ダリアの疑問は解決されず、その勃ちあがったモノを知ったふうにフェリックスは上下に扱き始めた。

(そんなに強く握って、痛くないのですか? 先っぽが、ピクピクしてるわ。なんて可愛いらしいの…)


「はっ、はっ、はっ、…………ンッ………」


 フェリックスの股間ばかりに目がいくダリアだが、その耳を舐められたような甘ったるい声に、思わず視線をあげる。

 その肉欲に満ちた、見た事のないフェリックスの顔にダリアは釘づけになった。

 白濁した液体を射精したフェリックスの苦しげで切ない表情は、ダリアの内臓全てを締め上げた。


 ビュクッビュクッビュクッ……ビジュ…ビュクッ

 耳に入る心地よいフェリックスの喘ぎ声と、タイルに散る白濁液に、ダリアの胸は痛くなる。


「…絶対にさっきより出たな」

(さっきとは……)

 呟くフェリックスの声に、ダリアの術式はあっけなく破られた。もう正気を保てなくなったからだ。



 *

 壁に寄りかかるダリアは、一粒の涙を流す。涙は宝石となりコロンと床に転がった。

(悲しくないのに…涙目?)

 転がる涙の宝石を手に持ち、ポケットに入れる。まだ気づかない。何故泣いたのか、何故悲しくなるのか、心より身体が先に大人になったダリアは、まだ肉欲絡む恋が分からない。

 理解不能な想いを持ちながらも、それでもフェリックスを見たい。
 お話がしたい。あのトロリとした金色の瞳に、私を映して欲しい。


 ダリアは風呂場から出てくるフェリックスを、扉の横で静かに待った。



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