妖精王の味

うさぎくま

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3、我慢の限界を知る

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 どう考えても愛しい人は怒っている。何故そんなにバシバシと敵意を向けられるのか? エティエンヌフューベルには知り得ない。

 彼女の心意は分からないが、今のミッションは彼女を宥め、先程大量に出した精液酒を飲んでもらわなければならないと、脳内はそれだけだった。
 一刻も早くエティエンヌフューベルは、愛しい人を抱きしめることが出来る男の身体になりたいのだ。

 普段めったに使わない羽を広げて、土の上が歩きにくいのかヨタヨタしながら歩く天草 凛音の前に、その身を運んでいく。


「あの……待ってください。この先は迷いの森です。軽装備で入れば、森はすぐに気づき、あらゆる手段で貴女を落とし入れ、最終は少しづつ身体を捥いで食べていきます。
 ですから私達とこちらの世界の仕組みを学んでから、お好きな場所へ行きましょう」


 目の前で大きな胸をフルフルさせ、憎たらしいくらい綺麗な瞳はうるうるで、極め付け自身の身体を簡単に覆えるほどの大きな純白の羽が背中に生えている。

 憎たらしいくらいの美人。結構自慢だった胸も、この人のと比べたら月とスッポン。やってられない。
 可愛くて…妖艶で、ツルツルお肌にタワワな胸部、天使みたいな羽根までつけて。そこから…甘く芳しい香りまでするなんて。

 この人を視界に入れたくない。どんどん、自分が惨めになる。

 見た目綺麗系でしっかりタイプに見えがちな凛音だが、実はすぐ自信をなくす性格で、意識しなければマイナス思考になりがち。

 この場合は知らぬが仏。

 芳しい香りの元は羽根からではなく、股間に生える立派なイチモツから香るからだ。凛音が知っていたら全速力で走り逃げただろう。

 あれだけ大量に射精しながらも、天草 凛音を見てまた復活した、エティエンヌフューベルの長く極太なイチモツから垂れている我慢汁の香りだとは知らないし、知りたくないだろう。

 エティエンヌフューベルが自身の魂の片割れだからこそ、彼の精液を甘く甘く感じるのだというのも、異世界人の凛音には到底認識出来ない。

 妖精族が両生具有で対相手で性別が変わり。その後、それが固定され、対相手の種族と交わる肉体に造られ変えらるとは分かるはずもなかった。

 だからこそ、凛音にとってエティエンヌフューベルはどこまでも美しくあざとい相手に見えてしまう。

 かつて裏切られたあざといフワフワ女子を連想し、イライラが溜まっていくが、先程の台詞の内容は恐怖しかない。

 冗談抜きで、絶世の美女の見目で、男を骨抜きにするあざといエティエンヌフューベルの姿が憎たらしく堪らないが。
 異世界に落ちた結果、生きながら腕や足が捥がれる体験だけして死ぬのは……避けたい。


 辛いことや、悔しいこと、泣きたいことがあっても、きっと未来で体験して良かったと言えると、凛音は自分に言い聞かせて生きてきた。

 今まで生きた三十五年、一片の後悔もない。

 異世界に落ちたのも、きっと何かあるに違いない。大好きな家族と今生でもう会えないとしても後悔はない。

 縁があれば生まれ変わってまた家族になれる。〝未来や過去が視える先生〟に今の家族は前世でも何度も家族だったと言われている。

 だから悲しさはない。きっと来世でまた会える。

 むしろブラックホールに飲み込まれこの地にきたのが少し楽しくなっていた。



 以前〝未来過去が視える先生〟から言われた言葉。私が質問した『私の運命の人はどんな人ですか?』
 その問いに返された言葉をボイスレコーダーに録音し持ち帰り、自宅で紙に起こした。

 そして何度も何度も何度も涙した。

 今では読み過ぎて、一言一句空で言える。


『あなたを愛し、気に入り、あなたを幸せにしてあげようと思う人です。
 あなたと一緒にいたいと思う人です。
 あなたが喜んだり幸せになることを願う人です。
 あなたに恵みを与え、あなたを幸せにする人です。
 共に幸せを作り上げていきたいと願う人でもあります。
 あなたによって癒されたり幸せになっていった人です。
 人間関係は相互的なので、あなただけが恩恵を受けたというより、あなたが喜び嬉しくなれば、そのあなたによって相手も喜び癒されるからです』



 私の運命の人は、笑えるほど私を愛してくれる人。そんな人いるか?と疑問に思いながらも常に頭に思い描いている。

 そんな素敵な人にはまだ会えてない、だから日に日に理想が高く高くなっていく。

 口では大丈夫、大丈夫、そうはいっても本当はだいぶん諦めていた。でも望みは降って湧いてきた。

 地球の日本で、何度か恋をして男を知った。

 男女の関係にもなった。結婚したいなぁ~と思う人もいたけど凛音ではなく、可愛らしい女性とできちゃった婚をした。

 未来が視える先生がいったような人は、地球では会えていない。


 だったらここに??

 視える先生を疑いもしたが、父も母も妹も先生の助言を得てその通りの輝かしい未来を掴みとって。いやそれ以上のモノをガッチリ手中に収めている。

 私だけがまだ叶っていないし、そんな片鱗もない。

 天職だと言われた仕事は言わずもがな順調だが、私は企業戦士になりたい訳じゃない。好きな人の子供を産んで『お母さん』になりたいのだ。

 凛音は改めて思う。きっと私は、運命の人に呼ばれて、ここに来たんだわ。
 私だけの運命の人。きっと会いに行くわ、腹くくって待ってなさい!!

 凛音の運命の人は、今 目の前で股間を抑えてビクビクしているのだが………。


 気合いを入れて、意思を固める。アルカイックスマイルをやめ、身体の力を抜く。
 ふわっと微笑みを浮かべ、目の前の絶世の美女(何故か股間を押さえている)に頭を下げた。



「えっと…そうなんですね…。先程は失礼な態度で申し訳ございません。なのに追いかけて下さって、本当にありがとうございます!!
 知らないことだらけですが、私なりに頑張ってみようと思います。
 …ここに落ちてきたのも、…もしかしたら、運命の人に会う為だったり? と…その思う訳…でして……」


 話しながら、私ってまたイッテル発言してると感じて、顔に赤がさす。恥ずかしいな、と照れる 天草 凛音と。

 心臓と下半身が痛いわ!!と。凛音の無意識な煽りに、ぼたぼたと精液を垂らすエティエンヌフューベル。

 微妙にすれ違う二人だが、やっと運命の片割れを見つけたのだ。多少すれ違いはあるが、幸せな未来しかない。



「あんっっぅ………。
 そ、そうですわ、運命の人に会う為に。この場所に落ちてきたのだと思います、んっ。
 あなたの喜びが私の喜びっんっ。一緒に幸せになってください。あんっ」


 エティエンヌフューベルの渾身の気持ちは、感動……しない。

 凛音には絶世の美女に慰められているようにしか聞こえないし、美人に言われたら幸せな気持ちが激減する。


 気持ちを奮い立たせ、せめてと正直な気持ちを伝える。


「大変嬉しいお言葉ですけど。あなたは、あなたで幸せになってください。
 私は私の運命の人を見つけに行きますから。見つけたら一番にあなたに教えるわ。祝福してくださいね!!
 そうだ、貴方は偉い人なんでしょ? 私と未来の旦那様に子供が出来たら名付け親になってください」

 エティエンヌフューベルは撃沈。

「何故!? いやよ!? 冗談でしょ!?」


 凛音はこういう行き過ぎた友情? を日々体験済みであるから、エティエンヌフューベルの思いはサラッと流せる。


「冗談じゃないです。あなたとはいい友情を築ける…(不安)気がしない……ではなくて、築けるわ、築けます!!
 この世界を、私に教えてくるのですよね? 私のはじめての友人になってくれますか?
 私の名前は、天草 凛音 と申します。あなたの名前は?」

 鈍器で頭を殴られたより痛い。



 立ち直れない。友達ってなに!? 私はあなたと友達になりたいのではなくて、夫婦になりたいのよ!!
 この見た目が悪いの!? いっそ下半身を見せる?? いえダメ。
 夢で見た彼女の世界には、両生具有の肉体を持つ者は基本存在しない。両生具有を知らなければ気持ち悪く思われてもおかしくない。
 早く精液酒を飲んでもらい、そして私は蜜液もらい男になって、彼女の膣内を私の形に広げてしっかり覚えてもらわなくては。
 昼夜問わず飽きるまで抱いて骨抜きにして。
 朝昼晩と私の精液酒を飲んで。いつかは亀頭に直接口を付けて飲んでもらいたいのよ!! 彼女だけは美味しく感じるはずですし。
 今は耐えるの時なのよね。彼女はこの世界の常識を知らないから、今の私が告白しても軽くあしらわれる。
 まずは、耐えて 耐えて 耐えて 耐えて、凛音に近づく奴は問答無用に消し炭にして。


 物騒な脳内思考になったエティエンヌフューベルだが、愛しい人の名前を脳内で復唱し、少し思考が浮上する。『天草 凛音』なんて甘美な名前かしら…。


「…………………友達ね、分かったわ。友達ね。 天草 凛音。とても綺麗な名前だわ。凛音と呼んで構わないかしら?」

「勿論!!」


 嬉しそうに微笑む。凛音からの微笑みに撃ち抜かれながら、エティエンヌフューベルも自身の名を渡す。

「一応、私が妖精族の王。名はエティエンヌフューベル。よろしくお願いいたしますわ」

「お、王様!? 皆の態度から、え、偉い方だとは思ってたけど。数々の暴言申し訳ございません」

「いいのよ。凛音は妖精族ではないし、知らないのだから構わないの。凛音には普通に名前を呼んでほしいわ。
 呼びづらい名前よね……略称で構わないから……」

「エティエンヌフューベル様」



 ポカンっ。


 名前を正しい発音で一発で言われたのが初めてで驚く。名付けた親でさえ、舌を噛みそうだとかでフルネームは呼ばず、エヌとか フューとか エティとか だ。
 側近のイヨカや直属の部下は律儀にフルネームをよぶが、それは敬っている証拠で、そこに愛はない。

 異世界人の凛音にいきなりパーフェクトで呼ばれて驚愕する。


「も、もう一回いって……」

「? はい。エティエンヌフューベル様。
 憎たらしい…ではなくて、見目にあった凄く綺麗なお名前です。エティ様とか、エンヌ様とか、フューベル様とか、何処をとっても綺麗なお名前になりますけど。
 エティエンヌフューベル様とお呼びする方が、一番しっくりきます」


 涙が、溢れ決壊する。

 泣きくづれる絶世の美女に、凛音は若干引く。職業柄、人の名前を覚えるのは得意なのだが、泣かれるほど喜ばれるとちょっと恐い。

 しかしこれから、こちらの世界の仕組みを教えてもらわないとならない。確実に迷惑をかけるのは目に見えている。

 凛音はエティエンヌフューベルを慰めるつもりで側に寄り、うずくまる小さくか弱い肩にそっと手を添えて、ゆっくりとさする。

「大丈夫ですか?」と気遣いの言葉をかけながら。


 凛音の言葉と手の温かさにビクッと震えた身体からは、酔いそうなほど甘い香りが増していく。

 肩をさするたび甘い香りが濃くなり、その匂いに意識を持っていかれそうにまでなる。
 そうならないよう、凛音は自分を叱咤しながら絶世の美女が落ち着くまで背をさすり続けた。

 木の影から見守る妖精族の人らは、冷酷な王の変わり具合にただ呆然と見守るしかなかった。

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