妖精王の味

うさぎくま

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23、各国の王の実態

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 凛音が目覚める少し前。

 場所は変わり、王の執務室近くに設けられている客間で、バルベの王ドーバから懇願に近い注意をエティエンヌフューベルは受けていた。


「おいっ、エティ! おまえ反省しているのか?」

「反省しているからこそ、途中でやめた。ドアまで壊していて上からな台詞を吐くんだな」

 女性体に近い両生具有ではなくなったエティエンヌフューベル。ドーバにも負けず劣らずの高身長に、極限まで絞り込まれた肉体美。
 背中にある羽根さえも脅威を与える姿だった。しかし容姿は女版とさほど変わらず美貌のまま。

 両生具有の時は言葉も物腰も女性らしい魅力いっぱいだったが、妖精族初の男性体になったエティエンヌフューベルは切り刻まれそうな鋭利の美しさになっており、止めに入ったドーバもエティエンヌフューベルの姿を見た瞬間、数秒硬直した。


「途中!? 3日もやってて何が途中だ。妖精族の体力と、落ちてきた人の体力を一緒にするなよ。うちの国にも落ちてきた人はいるが、皆が虚弱体質だ。
 うちの国の奴らと性行為して、死んだ奴もいるんだぞ。エティ、まじで一度調べてみろよ。天草嬢の扱いには気をつけた方がいい」

 ドーバの言葉に体温が下がる。まさか性行為ごときで死ぬのか?
 思い返してみれば、性行為中、凛音は何度も失神していた。

 確かに凛音はエティエンヌフューベルと結ばれ、寿命は妖精族と同じように作り変えられた。だが、体力や魔力はゼロだ。寿命が伸びても、外的要因の身体は全く同じではない。
 物理的に危ういのはいまだに、継続中なのだ。


「……そこまで意識がいってなかった。忠告、確かに受け取った」

 顔面蒼白のエティエンヌフューベルにドーバはため息を吐く。

「やっ、ま、同じ男としては分からないでもない。いや…エティと俺を同じ男に区分したら、石が飛んできそうだがな。
 本来なら性欲も同じ女以外で発散出来るなら、まだマシなんだろうが。妖精族には無理な話だしな」

「絶対に無理だ。もう凛音以外では勃たない。あの膣内の素晴らしさを知った後だ、想像でも勃たせるのは困難だった。
 凛音の身体を触りながらなら永久に勃起してれる自信があるが…そうだな、精液酒を絞る数秒がギリギリだろう」

「おい、エティ。その容姿で生々しい話をするな」

「あれほど綺麗で可愛らしかった王が、色々…男性的な部分のみ立派になり。今、目の前にいらっしゃるのが本当にエティエンヌフューベル王なのかと、疑問をいだきます」

 ドーバの側近クリプトまでも、エティエンヌフューベルの姿にまだ馴染めないでいた。

「はやく慣れてもらおう。両生具有の姿は、私にとって辛いだけだ。この姿になれて…本当に、良かった」

「知らないとは罪だな。以前、天草嬢が美味そうに精液酒を飲んでいて、まだエティが両生具有とは驚いたものだ。まだ精液酒の事も話してないだろう?
 バレた時、大惨事になるな…」

「バレないなら、一生言わなくていい」

 見目がいくら変わっても、根本は変わらない。よってエティエンヌフューベルは凛音に頭が上がらないのは、全く変わっていないのだ。

「エティエンヌフューベル王。改めて、おめでとうございます」

 クリプトはエティエンヌフューベルに頭を下げて、心からの言葉を投げた。



 そこで初めて会話に入ってきたのは、アユーバラ国王である儚げな容姿のハーリアだった。


「エティエンヌフューベル王の美しさは、想像以上。見事なお姿を拝見できて嬉しいです」

 話した方もゆっくりだが、種が白鳥なだけあり、見目も線が細く色白で荒々しいとは真逆を素でいく王だった。

 隣に座る王妃であるダリアも、同時にエティエンヌフューベルに言葉をかける。


「一生に一度、たった一人の伴侶にお会い出来、本当におめでとうございます。眩しいお姿を拝見できた事、自慢になります」

「ハーリア王、ダリア妃、ありがとう。そちらの事情も大変であるのに、感謝する。凛音への贈り物も喜ぶと思う」

「天草 凛音様と近い将来、ご挨拶したいです」

 若干空気が読めないハーリアは、悪気なく嫌味を口にした。

「あ、あなた!」

 たしなめる妻のダリアに、きょとんとしているハーリアには、大丈夫か?と問いたくなる。

「エティより大変そうだな。よくこんな男を選んだものだ。うちの国の奴なら、ダリアは引っ張りだこだぞ」

 ドーバの意見には嫌味ではなく真実。美しく儚げな姿こそ最上と言われているアユーバラ国では、強さ溢れる鷹は色彩もだが、その厳つい見目も国の『傷』として思われていた。

「そのような有り難い言葉、嬉しく思います。ですが、この強い身こそ王妃に選ばれた理由。二百年に一度強い血を入れる習わしから、私が選ばれただけ。他の妃は皆が美しく儚げです」

「ダリアだけが、毛色が違うからね。僕らとは違い健康的だ」

 またも素で、嫌味をいうハーリアにエティエンヌフューベルは忠告する。

「種族が違うからな、たくさんの妻をもつ事に意見は言わないが、ダリア妃のように地位や金目当てでない女を一番大切にした方がいい」

「はい」

 分かっているのか、分からないのか、微笑む表情のハーリアに一同沈黙。そんな中、思わぬところで会いたかった人が突入してくる。


 ***


 凛音は足腰が完全に使いものにならない為、侍女であるタニアに抱えられながら移動している。

 移動している時に皆の視線を感じ、それが良い視線と悪い視線どちらもあり、身を硬くする。


「タニアさん…エティエンヌフューベル様の相手が私なのは、やっぱり良くは思われてない?」

 ピシッと正直に硬直するタニアに対し、凛音は笑ってしまう。

「…そうですよね。異種族間の婚姻が妖精族では当たり前だといっても少ないですし」

「天草様、違います!
  その…羨ましいのだと。皆が王は女性体になるとばかりに思っていました。それなのに、あのお姿は反則と思われて仕方ないのです。基本的に我々は逞しい男性が好きですから…」

「うん、パッドさんも騎士ですもんね…」

 またも沈黙が続く。

 タニアはあからさまな視線から凛音を護りたい為もあって、抱き抱えて凛音を運ぶ。

 あれだけ凛音を抱き潰した王だったが、誰よりも彼女を守れる盾だ。タニアの脳内には一刻も早く、エティエンヌフューベルの腕の中に凛音を収めたいとしかなかった。

 しかし当の凛音は。

(はぁぁ~ 抱っこって楽なんだぁー、子供が抱っこをせがむのが分かるわぁ)

 凛音は能天気に、タニアの腕の中を堪能していた。


 しばらく歩くと重厚な雰囲気の扉が見えてきた。見覚えのあるその場所と扉は、まさしく各国の王と会った時の場所だった。

 扉の前に立ったタニアは、凛音の魂を抜くぐらいの声量で挨拶をした。

「エティエンヌフューベル王、天草様をお連れ致しました!!」

(声でかっ! ノックしてよーー!!)

 ツッコミどころ満載な異世界の入室の仕方は、何度見ても嫌悪感が湧き上がる。

 地球で培った常識からは抜け出せなく、頭の固いキャリアウーマンでお局の凛音は(私が変えてやる!)と再度心に誓ったのだ。



 体高が平均30センチほどの妖精族であるのに、何故こんなに広い!? と疑問を抱くほど、異常と言えるだだっ広い室内には、知った顔プラスして知らない顔もあった。

 間抜けにも今、凛音はタニアに赤ちゃんのようにだっこされている現状を忘れ、キリっとした顔で挨拶しようとし、滑稽な現在の自分の体勢に気づいた。

(いやぁぁぁぁー、私、今、抱っこぉぅぅぅ!!)

 入室する前にタニアに下ろしてと言わなかった自分を呪った。

 しかし羞恥から硬直する凛音の更に上をいくのが、異世界でありエティエンヌフューベルという男だ。

 明るく陽の光が差し込む室内にいたはずが、凛音の視界は陰る。

「えっ?」

 不思議に思ったのと同時だった。

 169.5センチの長身に、胸と尻が人様より大きく体重も〝普通〟に60キロある凛音をまるで羽のような軽やかさで腕の中にしまうエティエンヌフューベルに驚愕。

(えっ、エティエンヌフューベル様!?)

 たった今まで、優雅にソファーに座ってなかったか?長い足は組まれていたはず? 目の錯覚か? どれほど思い返しても、凛音の身体は見事にエティエンヌフューベルの腕の中。

 壊れ物のように優しく抱きしめながら運ばれていく自分は、まるで…。

「…お姫様みたいだわ」

 呟いた自分の言葉があまりにも馬鹿みたいで、残念な思考回路に笑えて、涙の膜が瞳を覆う。

「凛音、泣かないで欲しい。どうした? 何が悲しい? ん?」


 息を吸うように甘く語りかけ、挨拶のように口付けがふってくる。エティエンヌフューベルは先程座っていたソファーに再度腰掛け、当然の如く凛音は膝の上に乗せる。

 凛音の頭を後頭部からゆっくりと撫でていき、毛先までいくと名残惜しく離れ、今度は肩から背中を撫でていく。

 全てがエロかった。

 でもそのエロさと、大切にされている実感が凛音の胸に安心をもたらす。

(安心する…エティエンヌフューベル様は私を好きなんだ…)

 いつもいつも凛音は略奪の形で彼氏を奪われていた。可愛くない、甘えてこない、エッチも単調で面白くないと言われ続けてきた。

 身長がデカイから彼氏と一緒に歩く時はヒール無しを選んでいたが、姿勢が良すぎる凛音はより大きく見えるみたいで、華奢で小さな女の子に決まって彼氏を寝取られていた。

(こんな素敵なのに、浮気なんてしたことなく私だけを好きなんだ…)

 頭のどこかで客人に挨拶を。と警報を鳴らすがここは異世界だ。

 別にいい。お姉さんぶらなくていい。いい子でいなくていい、思い切り甘えていいんだ。
 絶対的な王エティエンヌフューベルの腕の中では、凛音はちっぽけな人間でいて構わない。


(だって、エティエンヌフューベル様は妖精族の王だし、めちゃくちゃ強いし、背は高いし、手も足も長くて、腕も筋肉質で太い、背中は広くてあったかい)

 凛音は質問に答えると同時に、エティエンヌフューベルの首に両腕を巻き付け、身体をピタリと密着させながら抱きついた。


「泣いてないですよ。ただ起きたらエティエンヌフューベル様がいなくて、ちょっと寂しかっただけです」

 普段甘えない凛音が甘えると破壊的に可愛い。

「…………」


 無言で凛音を抱き上げ立ち上がり歩き出したエティエンヌフューベルに、まともな思考回路の持ち主である、熊の国『バルベ王国』の王ドーバが、脳内沸騰したエティエンヌフューベルを止める。


「おい!!まて、まて、まて。エティ、待つんだ!! 数分前の話を忘れているぞ!!
  天草嬢は今、エティとの行為で足腰を弱めて歩けない状態なんだろう!?
 そんな状態で、また耐久レースみたいな性行為をしたら間違いなく天草嬢の身体が壊れてしまうぞ!!」

 ドーバの身体に響く声量で、歩き出そうとしたエティエンヌフューベルの足が止まる。

 凛音を抱き上げていたエティエンヌフューベルの腕がギュッと縮んだのが分かり、性行為を誘うみたいな行動をした凛音が全面的に悪いと今更ながら悟った。

 妖精族は儚げな見目からは想像つかないほど、総じて《性》に積極的な種族だったのを忘れていた。


(うーん身体が壊れちゃうのは困る。あの長いエッチをまたすぐは困る。…いやじゃないけど、快楽地獄はもうちょっと後で…。
 私、人間だから体力ないみたいだし、エティエンヌフューベル様との子供は絶対に絶対に欲しいから、今抱き潰されるのは物凄く困る!!)

 凛音の本心は今すぐでもバッチコイだが、今後の計画を考えるとドーバのまともな意見に大賛成だ。

 今更ながら、アユーバラ王国の王と王妃に挨拶もしたい。


「エティエンヌフューベル様、その…皆様にご挨拶をしたいです。
 あっ…と、あぁいうのは、また今夜に…お願いします…」


「………キャラメルマキアート《精液酒》をもってくる」


 ソファーに凛音を下ろし、それだけを言って出て行った。

 〝ただの〟飲み物を王であるエティエンヌフューベルが用意するのか? 異世界の不思議だ。

 もうすでにいなくなったエティエンヌフューベルが出ていった扉を見ながら凛音は呟く。


「……キャラメルマキアートは嬉しいですけど、何故エティエンヌフューベル様が用意するので…しょうか?」

 誰に聞いたわけではないが、疑問が思わず口に出た。

 凛音は気づいてない。エティエンヌフューベルの股間がヤバイくらい勃っているのに全く気づいてない。

 遠目にも分かるほど立派に勃ちあがっており、凛音以外の人は皆 気づいていた。


 何一つ歪みのない完璧な造形の美しさを放つエティエンヌフューベルの顔面にくぎ付けで、ガチガチに勃起した股間は視界に入ってないのだ。

 凛音の質問に律儀に答えたのはドーバ王だ。


「…バケツくらいの量をもってくるんじゃないか? たくさん飲めるぞ。天草嬢、良かったな」

「バケツ!? えっと、いくら大好きでも流石にバケツの量は飲めません、無理です。
 たくさんあるなら皆様も飲みますか? 喉越し最高ですし、とても甘くて美味しいですよ!」

「いらん」
「いりません」

 バルベ王国の王ドーバと側近クリプトは同時に即答し、例のアユーバラ国の王と王妃は眉間に皺を寄せて引いていた。

 いまだ凛音にはキャラメルマキアートの正体が何かを知らされていなかった。




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