妖精王の味

うさぎくま

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15、長い夜

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「ち、違いますから!! これはその、生理現象というか、たまたま出ただけです。大した意味はないですから!!」

 必死に発言すればするほど、健気さが出てしまう。違うのだ、凛音は帰りたいなどとは思っていない。エティエンヌフューベルの側にいたいのだ。

「私は凛音に会えて。たった一人の伴侶に会えたから。嬉しくて凛音の気持ちも考えないで、気持ちを押し付けてばかりだったわね…最低ね」

 胸が痛い。ギュッと鷲掴みにされたように、胸の奥が捻れて痛い。違う、違う、違う!!!そうじゃない!!!

「嬉しいです!! エティエンヌフューベル様に愛されて嬉しいです!!」

 乱暴に涙を拭いて最高の笑顔を見せ、力説した。

「……本当に?」


 聞き返してくるエティエンヌフューベルの声は震えている。凛音はタニアからことの顛末は聞いた。だからこうして、身体を隅々まで洗い上げ寝台に座っているのだ。

 イヨカがエティエンヌフューベルに、凛音の気持ちは固まっていると言ったらしい。思いは繋がっていると、だから性行為も望んでいると。そうエティエンヌフューベルに伝えたと。

 その報告を聞いて悶絶した。恥ずかしい、恥ずかし過ぎる。

 本人の前でなければ偉そうに語れる内容も、面と向かっては無理、話せない。だからイヨカから凛音の気持ちを伝えてくれるのは凄く有り難かった。しかし先程の涙でせっかく伝えてもらった言葉は木っ端微塵に消えうせた。

 他者から聞いただけのエティエンヌフューベルだ、家族を思い泣いている凛音を見れば、聞いた話しとは違うと思われて当然。エティエンヌフューベルからすれば聞いた内容が幸せ過ぎて、あまり信じきれていない。

「はい、本当に。……エティエンヌフューベル様が…す、好き…です…」

 頑張って言ったが、最後はかなり声が小さくなってしまった。ちゃんと言葉が届いたのか不安になり、明後日の方向を向いていた視線をエティエンヌフューベルに戻した。

 告白はちゃんと届いていた。エティエンヌフューベルの真っ白な肌が真っ赤に色づいており、ただただ美しい。体温が上昇したからか?薄紫色の髪から、かすかに柑橘系の香りがする。エティエンヌフューベルも洗いたてか? 身体中からウットリ酩酊するような良い香りが鼻をくすぐる。

 フンフンと嗅いでいると、それは自身からも香っていて同じ匂いを纏ってると気づき照れる。

「エティエンヌフューベル様、真っ赤」

 凛音に笑われて、はじめて硬直から解き放たれたエティエンヌフューベルは、両手で顔を覆っている。

「エティエンヌフューベル様。愛してます。私の心をあげます。だから…エティエンヌフューベル様の心もください」

 自然に出た台詞。あちらの世界にいて、絶対に口にはしなかった甘えきった言葉達。凛音の嫌いなあざとい女性が口にしそうな台詞。何が心をくれだ? 自分の女を武器にした発言に自身で引く。

 言ってしまった発言に自分で嫌悪感を持っていたが、言われたエティエンヌフューベルは違う。綺麗な見目がちょっとだけ崩れ面白くなっている。

 想像もしない言葉だったのだろう、可愛らしい唇がパカッと開き、艶めかしい小さな舌と小さな歯が見えている。
 あちらの世界でよく見ていた猫の動画。小さなピンクの舌が出たままの、ぽけっとした猫の感じに似過ぎてヤバい。胸がキュンキュンして違う意味で胸が痛い。

「……口開きっぱなしですよ」

 凛音はぷくっと張りのあるエティエンヌフューベルの頬をプニプニと突く。


「凛音は私の心臓を止めたいの? 絶対ちょっと止まっていたわよ」

「えー、止まってました?」

 凛音はそう話しながら、エティエンヌフューベルの豊満な胸に右手をぺとっと置いた。
 柔らかい。もうこれひと言だ。もちふわ加減が最高だ。これは全世界の人を虜にするわ。と納得した。

「凛音。凛音、本当に…いいの?」

 性的触れ合いを避けていた凛音の気持ちも、エティエンヌフューベルは理解していたし、下半身にブツがあるとてどちら寄りといえば女寄りのこの身体でも、凛音は受け入れてくれると。

「いいです! 一緒に気持ちよくなりましょう」

 これがエティエンヌフューベルへの合図となった。

「えっ?」

 右肩が押された感覚は理解した凛音だが、押されたエティエンヌフューベルの力に身体が驚き、そのまま仰向けに倒されてしまう。

 視界は天井へ。天井も一枚板ではなく陶板のような正方形のタイルが敷き詰め並べられており、美しい造形に眼を見張る。
 見事な天井にしばしウットリ見ていた凛音に、エティエンヌフューベルの不満気な声が耳を撫でるようにねっとり響く。

「凛音。私といる時、他に気を取られるのは許さない。こちらを見てくれ」

 エティエンヌフューベルの声であるのは間違いない。しかし話し方が別人のようで、凛音は震えた。恐怖からの震えではないのは確か。声は腹の奥に響き、秘部が応えるように疼いたのが分かったからだ。

「…エティエンヌフューベル様?」

「一緒に気持ちよく。は聞けない。先ずは凛音の蕾を開き…蜜を頂いてからが本番だ。美しく咲いてもらおう」

 卑猥だ。放たれた単語は特に卑猥ではないが、エティエンヌフューベルの話し方と声色が、卑猥なのだろう。色々な経験がある凛音だ、蕾や蜜が何を示している隠語か何となく理解は出来る。
 それはいいのだが、このエティエンヌフューベルの変わりように、脳はけたたましい警報を鳴り響かせている。

 終わった、凛音は綺麗に落ちた。元々エティエンヌフューベルの見目は大変好みであった。
 例え女であろうと構わないと納得した凛音だが、あのプルンプルンあざといのが普通と思っていたからエティエンヌフューベルの〝これ〟は反則だった。
 話し口調が凛音の好み過ぎるし、低めに出された声の美しい事。まさしく危ない扉を開ききった瞬間だった。

 互いに快楽のスイッチが入ってしまう。

 エティエンヌフューベルの小さな手が凛音の頬に添えられる。自然と閉じた瞳がゴーサイン。口に出さないが互いを求める行動が自然と重なる。

 チュッとリップ音が静かな室内に響く。角度を変え押さえつけるようにエティエンヌフューベルの唇が凛音を襲う。

「んっ、んっ……ぅ……んぅ……ぅん…」

 何故か口から漏れる吐息は凛音のみで、エティエンヌフューベルは息もせずに口内を蹂躙していた。

(「…上手すぎる? エティエンヌフューベル様、キス上手すぎ!? 何故!?」)

 舌の柔らかさを感じるよりも、舌を引っこ抜かれそうな吸引力だ。舌の裏筋が若干痛い。そして合間、合間に息継ぎをしなければ窒息しそうな程の吸い付きである。

(「タコの吸盤を思い出す……」)

 若干の酸素不足で、凛音の思考が意味不明になった頃、やっとエティエンヌフューベルは唇と唇、舌と舌を離してくれた。

 ボゥーと放心している凛音。心地良さに酩酊していたが、凛音の脇あたりにいたエティエンヌフューベルが視界から消えていて、疑問から姿を探すよう頭を動かし、発見した場所に心地良さが吹っ飛ぶ。

「ひっ!! エティエンヌフューベル様っ、どこにっ! って言うか、いやっ。足を開かないでください!!」

「さっき了承はとった」

 今までのヘコヘコあざとい可愛いらしいエティエンヌフューベル様はどこ行った!? 顔は微笑んでいるが、口調と目が笑っていない。蛇に睨まれた蛙の気持ちだ と訳の分からない例えが凛音の脳内を占拠していく。

「り、了承って!? ぃあんっっっ!!!」

 小さな手から出された攻撃に甘い嬌声が出てしまう。身体が敏感になっているところで、陰核を押してきたのだ。気持ちいいのだが、いきなりは感じ過ぎて恐い。

「エティエンヌフューベル様!!」

 ちょっと怒っているぞ! っという気持ちを込めて、名前を叫ぶが、全く拒否にはなっていない。凛音の声は震えているし、瞳は快楽から潤み睨みが懇願のようになってしまう。

「なんだ? 同じ事を仕返したまで。私はもっと辛かった」


 何の話だ!? 同じ仕返し!? いやいや、あり得ない。今までエティエンヌフューベルと凛音は触れ合いなどしてこなかった。

 申し訳ないがエティエンヌフューベルのお股を触ったことはないと断言できる。手を握ったり、頭頂部に頬を擦り付けたりはした、たったそれだけだ。

 だいたいが触れ合ったのも今日が始めてだ。と凛音は思っているがエティエンヌフューベルは違う。

 限界まで耐えて、股間に生えているブツを隠したエティエンヌフューベル。しっかりしてそうで天然な凛音に強い刺激を与えられ、射精してしまったのはまだ記憶に新しい。

 もちろん射精は気持ち良かったのだが、それよりも両生具有が凛音にバレたと感じた恐怖の方が大きく、精神的に辛かったのだ。


「なっ!? あんっぁぁぁァー」

 もう以前のような危うい関係に戻る気はないエティエンヌフューベルは凛音を攻め続ける。甘い香りが凛音の秘部から香ってくるのだ、恥ずかしいのだろうが嫌がってはいないと確信を持てた。

「甘い声だ…もっと、その声が聞きたい。聞かせてくれ」

「……んっ…(無理っ、話さないでください。話し口調が好き過ぎてヤバい)」

 陶器人形のようなエティエンヌフューベルに、不浄の場所を全開に見せているこの光景が見るに耐えない。
 視覚の羞恥限界を感じた凛音は、ギュッと瞳を閉じた。目を閉じた結果 感覚が上がり、優しく強弱をつけながら陰部を撫でるエティエンヌフューベルの行為が気持ち良く、力の限り叫びそうになる。

 クチョッ……ピチャッ……クチョッ……

 お尻の割れ目にまで蜜液が流れ濡らしていく。これは人生初体験。基本あまり膣内が濡れない凛音は、性器をねじ込まれるとスレる痛さがあった。
 まず前戯という名の行為は少なく、基本が奉仕。凛音が相手の陰茎を舐めて勃たせ、陰嚢を手のひらで転がすようタプタプさせて、準備が整ったら性行為となる。
 胸やら女性器など多少触ってはくれるが、快楽ほどは感じなかったから、エティエンヌフューベルとのこの行為には正直驚いた。

(「こんな…気持ちいい…もの? なんだ…」)

 クチョッ……ピチャッ……クチョッ……

 静まり返った室内に 粘り気のある水音が響き渡る。あるはずのないエティエンヌフューベルの男性器を勝手に想像し腰が揺れる。上手い具合に強弱がつき凛音は〝はじめて〟イッた。

「ぁぁあっっっーーーーー……」

 身体の全細胞が締まった。特に膣内があるはずのないエティエンヌフューベルのモノから、子種を奪いとろうと痛いくらい締まるのが分かる。

(「エティエンヌフューベル様の子供が欲しいっ」)

 馬鹿げているあり得ない妄想をした自分を叱咤し、閉じている瞳から涙が出てしまう。

「凛音?」

「私…無理…で…す…」

 股に陣取っていたエティエンヌフューベルが這い上がってきて、凛音の右腹あたりに座っている。もちろん衣服は完璧に纏ったまま。
 いつのまにか脱がされた凛音の服はベッドの下に。イった身体は怠く、足を広げたまま寝転んでいる。そんな姿が更に涙をさそう。

「何が無理なんだ?」

 エティエンヌフューベルの声はひどく緊張していた。しかし一方的にイカされた凛音には、エティエンヌフューベルの心情は拾えない。

「私…絶対にエティエンヌフューベル様を傷つけてしまいます。無いものを願ってしまいます」

「無いものとはなんだ?」

 耳のすぐ近くで響くエティエンヌフューベルの声は、凛音が夢にまでみたピロートークのようで、さらに涙が溢れる。
 はじめての行為だからか、いつもとは違い夜であるのに昼間のように明るい室内。
 せっかく美しいエティエンヌフューベルの姿を見ようと瞳を開いても、涙で顔がブレてしまう。それでもイった状態は心地よく甘えも出てしまう。

「どうして、エティエンヌフューベル様は女性なんですか? 私を選んでくれて、心は男だといっても身体は女性ですよ。
 …どうして? どうして男性じゃないんですか?どうして?」

 どうしてと言われても。きっと一番困るのはエティエンヌフューベルだ。ぐっと息をのむエティエンヌフューベルの姿に言ってはならない禁句を言ったと理解した。でも言わずにはおれない。

 好きでもなかった、もう顔も思い出せない過去の男達とした行為を知っているからこそ、エティエンヌフューベルにそれを、先を、求めてしまう。


「んっ!? はっ…痛っ……(耐えろ)」

 能天気な凛音の煽りにエティエンヌフューベルは、渾身の力で射精を止める。

(「くそっ、まだだ!! 無駄打ちはしないっ。今ここに凛音に飲ませているグラスはない。ならば射精は出来ない! 出すのは『男』になった後で、凛音の膣内でだ!!」)

 迫り上がる吐精感を我慢すれば、血管が切れそうになる。今まで出ない精液酒を無理やり出していたが、触れてもないのに玉袋が硬化し精液酒を出せと、せり上がってくる。


「…っ…はぁ、…はぁ…。凛音…私の唯一。哀しまなくとも…大丈夫だ。
 身体の相性は…最高だろう。唯一無二の存在なのだから」

 座っていたエティエンヌフューベルが身を乗り出して、凛音の顔あたりに手をつき微笑んでいる。

「身体の相性?確かにとても気持ち良かったです…けど、そうではなくて…。
 いえ、そうですね。確かに…はじめてです。こんな気持ち良かったのは、、、」

 凛音の根本的な悩みはエティエンヌフューベルに伝わっていなかった。
 イった瞬間はエティエンヌフューベルが男性器を持ち得ない事が悲しかったけど、少し時間がたつと冷静さも加わってき普通の会話が出来た。

「気持ち良かったなら、私は嬉しい。が、凛音。まだ夜は始まったところだ」

 唇の柔らかな感触を確かめながらの口づけに、凛音はうっとり。されてばかりで申し訳ない。

「エティエンヌフューベル様、私もします…」

「結構だ」

「えっ?? でも私ばかりで、エティエンヌフューベル様は、、、」

「私は後で嫌というほど、入れさせてもらう」

「入れ?? んっ?? んっ??」

 玩具か?? この世界にも女同士でする玩具があるのか??凛音は普段使わない脳の場所をフル回転させ考える。

 腹あたりに座っていたエティエンヌフューベルが、また視界から消えて凛音の股の間にいる。可愛いらしい両手は凛音の太腿をガッチリ開き、寸分違わぬ整った顔面は凛音の陰部近く。

 次は舐めるのだろうと馬鹿でも分かる。まだグッショリ濡れきってパクッと開いた膣穴がヒクヒクしてしまう。

「ちょっ、と、エティエンヌフューベル様!?」

「凛音の蜜液を頂く」

 股の間から話しているのにエティエンヌフューベルがカッコよく素敵に見えるのは何故か!?
 声も表情もすでに『女』のそれではない。何がどうなっているのか、理解不能。

 舌で陰核を突かれ腰が浮く。

「あぁぁぁぁっっっっ!!!」

 先程まで何度も味わった形良いエティエンヌフューベルの唇が陰核を食んで、また腰が跳ねがる。

「ぃやぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!」

 跳ねがる腰を押さえつけるように身を乗り出しているエティエンヌフューベルが視界に入る。

 次は〝あそこ〟だ。

「ッンァァァァァァアッーーーー!!!!」

 隠微な音を立てながら流れでる蜜液を、凄い吸引力で吸われる。まだだ。というのか、舌がねじ込まれ快感から腰が痙攣する。
 本日二度目のイカされに胸がバクバクと、上下している。愛した人との甘い行為の素晴らしさに凛音は大満足。

「さぁ、今度こそ」と。凛音も同じようにエティエンヌフューベルにしようと、手をつきながらゆっくり身体を起き上がらせる。

 起き上がった凛音の前には、うずくまるエティエンヌフューベルがいて。この世のものとは思えぬ程の光沢ある薄紫色の長い髪が、シーツの上に散らばっている。
 先程まで凛音の太腿を優しく掴んでいた両手は今はシーツの上にあり、握りしめられたシルクのベッドシーツはエティエンヌフューベルの怪力に耐えきれず、穴が空き破られていた。

 明らかにエティエンヌフューベルの腕の位置がおかしい。

 肩が抜けているみたいで。綺麗でシミ一つない皮膚がぼこぼこと奇妙に波打っている。それと同時に骨の軋む音、バキバキと不自然な音が耳に入ってくる。
 変な形に伸びた腕が真っ白なシーツの上にダランと落ちていて。

「腕…っ」

 体験したことのない恐怖から、凛音はそれだけしか口に出来なかった。


「私の身体を舐めたせいでエティエンヌフューベル様が」と叫びたいのに、声は出ず嘔吐感が。誰かを呼ばなければと思うが声はどこかに消えてしまったのか、ヒューヒューと息しか出ない。

(「いやっ、いやっ、エティエンヌフューベル様が、私のせいで、苦しんでっ。
 誰か、誰か、誰か、早く、呼ばなきゃ。声が出ない!!
 エティエンヌフューベル様が、死んっ。いやぁ、ぃやぁぁぁぁぁぁーーーーーっー!!!」)


 異世界人である凛音の何かが駄目だったのだ。きっとこの世界の人とは相入れぬ何かがあって、副作用が発動したのだ。

 凛音はこんな未来は決して望んでいなかった。

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