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30、思い出の確認
しおりを挟む二人はタクシーに乗り込み、要のタワーマンションを目指す。近づくにつれて陸は、よく分からない気持ちに押し潰されていく。
今は何故か要と口を聞きたくない気持ちで、陸は話しかけられないよう、必死に窓から流れる景色を凝視していた。
(胸が、ドキドキして…痛いっ…なんで…)
その現在感じている胸の痛さは、未知なる世界への一歩からくるもの。
二人きりになる。それは要と肉体的に一つとなる決定事項である。
陸からすればこの漠然とした不安は幸せからくる興奮の裏返しであったが、いきなり黙れば要には拒否反応だと思われても仕方ない。
(どうした?? 先ほどまで楽しそうだったはず…。俺が、がっつき過ぎたか? 偉そうだったか?
…ヤル気満々だったのが…生理的に受けつかないとか…か?
いや、でも、誘ったのは俺じゃない。やりたいと顔に出てたか?ん~ぅん…)
要は失言があったか何度も何度も繰り返し、過去の言葉を反芻するが〝ない〟ように思う。実際にないのだから分かるはずもない。
記憶力が良い要でも見落としがあったかと、自問自答。そんな中でタクシーは要の自宅に着いた。
タクシーの支払いを済ませ、荷物を持ってエントランスに入る。白髪混じりの髪を綺麗に撫で付けた年配のコンシェルジュが、頭を下げてくる。
「龍鳳寺様、おかえりなさいませ。予約されておりました食事はいつお持ち致しましょうか?」
「あぁ、用意ができ次第部屋に持ってきてくれ」
(食事!?)
陸の脳内は激しくはてなマークだが、この場で口を挟むような馬鹿な事はしない。聞きたくて仕方ないが、顔には出さず軽く微笑む程度の表情を維持した。
マンションのエレベーターは乗り場が二箇所ある。
タワーマンションは最上階60階の高さがあり、一つは一階から30階まで。もう片方が30階から60階までとなっている。
以前来た時は要の具合が悪く、体調の心配に重きを置いていた為、ゆっくりとタワーマンションの景色を見ることがなかった。
陸にとって今回は二度目だが、初めてくるほどの驚きをもち、この最高級クラスのタワーマンションに足が竦む。
(ひ、広いって!! な、なんでこんなにエレベーターホールが広いの!? やだっ、ど、どこを見ればいいの!?)
エレベーターを待っていると、すでに誰かが乗っていた。要を見て、会釈して出ていったが、陸は目が点。
会釈をして通り過ぎ去った男性は、超がつくほど有名な作曲家だ。ポップスからクラシックまで幅広く、ミュージカルナンバーにいたっては、神とまで言われている。
世界中探しても彼に並ぶ作曲家はいないとまで言われている人だ。
そんな雲の上の人が《普通》にエレベーターから降りてきた。
(…要さんは雲の上にいる。私って、ほんと場違いみたい。…なんだか、とてつもなく恥ずかしい)
陸は先程までの浮かれ具合が底をつき、意気消沈。
この生活が生まれてから今まで普通だった要は、陸の〝しゅん〟とした気持ちを読み取れる訳もなく、二人して意味のない不安にまとわりつかれていた。
60階に到着し、エスカレーターの扉が開く。床はシルバーグレーの絨毯、大きなドアが左右に二つ、その左側に入っていく。
お向かいさんは、要の両親だと聞いたので陸に疑問はない。
しかし要はここで陸と話せると意気込んでいた。
〝普通〟は気になるだろう事柄な為、会話の糸口になるかと。要は陸の「お向かいさんは、どんな人が住んでますか?」の台詞をまったが、言葉はこない。
まさか秘書の若田がすでに陸に教えていたとは、察しえなかった。
色々、色々…考えて要は陸に提案する。
「…今日は帰るか?」
「えっ? 帰る?」
玄関のドアの前で、買った荷物を手に持ったまま動かない要に、陸は間抜けな受け答えをしてしまう。
「男の部屋に入るのが恐いのは…分かる。でもそうあからさまだと、結構キツイ。
慣れるまでは、…そうだな、涼介でも呼ぶか?」
(あっ、傷つけた)と陸は確信する。
「違っ、そうじゃないです! 涼介さんはいりません。必要ありません!!」
「……何が、そうじゃないんだ?」
息を吐き出すように放たれた小さな要の声は、陸の耳にもしっかり入った。
鍵は開けたみたいだが、部屋の中に入らず扉の前で立って固まる要に、陸は後ろから強引に扉を開けて要の背を押しながら部屋に入った。
ドサッ。
玄関に荷物が落ちた瞬間、陸は思いをぶつける。
「だから!!」
言いたい言葉が口から出ず、口より先に身体が動く。
広い大理石が敷き詰められた玄関で、陸は要の大きな背中に抱きついた。
(要さんのバカ!!!)
大きな陸の胸が、形を保てなくほど押しつぶされ密着して。さて次はなんだ?と。 要は次の言葉を静かに待っていた。
しかし恋愛初心者の要に、陸の不安定な状態を察するのは無理。
陸の切なく甘い、男女の未知なる世界への不安定な想いは、徐々にイライラの感情へと変わっていった。
「……陸?」
「むぅーーーー(怒っ)分かってくださいよ!!」
叫ばれても要にはちんぷんかんぷん。
(何が分かってくださいだ。嫌そうな顔が全てだろう? 俺と二人きりは嫌だとしか思えない)
後ろからハグという、陸の胸の柔らかさをダイレクトに味わえる至福の体勢でも、精神的に落ちていると下半身は全く熱くならないし、エロい気分にもならない。
男は複雑な生き物なのだ。
「何がだ。はっきり言ってくれ」
呆れた要の物言いに、陸の胸は痛さに締め付けられる。
「だ、だから!! …その……今からの……要さんと……エッチが嬉しい気持ちと。
耳年増で行為のなんたるかは聞いて知っていますけど。
経験値はゼロなので、幸せと不安がぐちゃぐちゃになって……だから…なんか…分かっ…らな…くて…」
陸の発言を聞き茫然と固まる要。陸だけが緊張しドキドキして胸が張り裂けそうなのが無性に悔しくて、堪えていた涙が溢れ出てくる。
服を濡らしてやる!! と陸は要の背中にしがみつきながら要の着ているカットソーで涙を拭いて、同時に要を責めた。
「うぅー…うぅー、要さんはそういう事に経験豊富でも、私はっ…ひくっ、ひっ。…ぅえっく…すんっ。
はじめ、て… ……ひくっ。
なんですぅー!! 察してくださぃぃぃ、ふぇぇぇーーんーー!!!」
強がりが崩壊した。
ドバァァァァーーーと出た涙をそのまま流してやる。もう泣いたんだ、今更 隠さなくていいだろう。そう開き直って泣いている陸に、要は感動していた。
(か、可愛い生き物が背中にいる!!!)
脳内で可愛い生き物の存在を確認したら、やる事は一つだ。
ぐるっと回って顔を合わす。涙を流す顔に満足しながら、ハクハク苦しげに息を吸う陸のぷるんとした唇に己の唇を押し付けた。
塩味のする唇に、さらに強さをつけ唇を押し当てると自然に陸の唇が開く。それを待っていた要は陸に覆い被さりながら舌を侵入させていく。
グニグニと押し入ってくる生暖かい舌に、陸の涙が止まる。
「う? ぅー…んんんっ!?」
ひと通り口の中を蹂躙した要は無言で、陸を抱き上げる。
「ふやぁっぁー?」
唇を吸われ過ぎて、唇の感覚がない為、言葉が紡げない。
陸は抱き上げられたまま靴を脱がされ、玄関に脱がした靴を放り投げた要。その間無言。
遠くなる玄関。ショッピングモールで購入した、もろもろの荷物は置きっ放し。視界から凄い勢いで離れていく。
危なげなく運ばれていく陸は、いまいち今の状況が理解出来ない。
(何?何? いきなり何ですかぁー??)
陸が理解できなくとも、もう待つ気がない要は、今、そう今現在、ヤル気満々。
寝室に歩く道すがらで、すでにフル勃起しており、厚手のデニム生地のパンツが見事にテント張りだ。
要の準備は万端である。避妊具はベッドの横にあるサイドテーブルの引き出しの中に、何枚ではなく箱単位である。それを冷静に脳内で確認していく。
待てが出来ない状況であるから、今セックスをしない選択はない。
(薔薇の花びらは、2回目でもいいだろう。陸の気が変わらないうちに身体を繋げたいからな!)
要のモノをギリギリ挿入できるまで慣らしたら、一刻も早く繋がりたい。その思考のみとなっていた。
今後の事、その他もろもろは身体が繋がってから話せばいいと、要は頭の中で勝手に話を終わらせた。
そして投げやりに自問自答を繰り返す。
(どうせ最初のセックスから気持ちいいまでの感覚を陸に求めるのは、俺の巨根では無理。
だが!! 繋がりたい、繋がりたいんだ!!〝今〟すぐに!!)
鼻息荒く通常ならドン引きする要の行動であるが、見目が麗し過ぎるのと、表情にあまりでないのが幸いし、陸にはスラッと男らしく見えていた。
真っ直ぐに続く廊下を歩き、部屋に入って、間髪入れずに柔らかなベッドの上に陸を下ろす。
「か、要さん?」
陸の台詞はまたも、要からの濃厚な口づけで阻まれる。ヌチヌチと卑猥な唾液の音が、殺風景な寝室中に響きわたる。
(なんだか、怖くないな。って言うか、キスが気持ちいい…。要さんったら、キスだけで勃ってるしぃーもうぅー!!)
いきなりにセックスに持ち込まれ、怖く感じてもいいはずが、陸は全く怖くなかった。
むしろ喜びが溢れ、身体が熱を発していく。
(あの要さんが!? みんなの憧れ、いい男の代名詞である要さんが私としたいって!!
何なのこれ、夢みたい!! 好き、大好き、要さん、大好きだよっーーー!!!)
口の中で舐められた場所がなくなった頃、やっと唇は解放された。流れた唾液が頬を伝い肌触り抜群のシルクのシーツを濡らす。
「…か、なめ…さ、ん……」
舌ったらずな陸の声。
「………ハァ…ハァッ………ンっ……」
要の状態はというと性欲を圧し殺すような息遣い。
それを至近距離で聞いた陸の子宮内はギュンッと縮み、ジュワッと蜜液が膣内から溢れ出し、ショーツの色を変えていく。
(やだぁぁぁ、身体が、変になるぅ…)
「…り、く………挿れて…いい…か?」
気持ちよく朦朧とした意識の陸に、切ない要の呼びかけが響く。
(挿れていいかって…そんなの)
ここまで来て嫌はないだろうが、それでも最後の最後には陸の意見を聞いてくれる。
どこまでも優しい要に、鼻の奥が痛くなり涙の膜が瞳を覆っていく。
「いいに決まってますよ、要さんは優し過ぎます。そんな優しいと、いつか悪い人に騙されますからね」
しばらく間があり、突如、要は笑い出した。
「…くくっ、んんっ、くくっっっ。んっ(笑うと股間に響くな…)
ふっ…俺は優しくない。皆には横暴で冷血漢と言われているが?」
要は陸の首筋に舌を這わせながら、右腕で己の身体を支え、陸の身体から邪魔な衣服を剥いでいく。
「えー? う~ん、じゃあ優しいのは、私にだけだったり?」
多分の冗談を入れて。陸はわざとらしさ満載で甘く聞けば、要は一切の冗談を入れず本気モードで答えてくる。
「あぁ、陸にだけだ」
ビクンッ!!!
耳元で囁かれた要の濃厚で腰に響く声に、軽く跳ね上がった陸の身体は、瞬く間に真っ赤に染まっていく。
(か、身体が変になるぅー! もうアソコがネチャネチャしてるよー、要さんのタラシ!!)
要に脱がされた陸の衣服や下着。陸の豊満な女性特有の柔らかな曲線を描いた身体は、生まれたままになった。
そうなれば、ドキドキも最高潮。
服は脱がすが、生の肌には一切触れてこない要にじれったい気分が湧き上がってくる。
見られてキュっと硬く立ち上がった陸の胸の頂きを、要は満足気に見下ろしている。
その要の美しい表情を至近距離で見ていられなくなった陸は、ぎゅっと目を瞑る。
「見られるのはイヤか?」
「……イヤじゃないです」
「では何故、目を閉じてしまう? 羞恥心か?」
「ちがっ、くて。要さんの顔が、表情が、色気ダダ漏れで、もうーーー、神がかり過ぎて、目を開けていられません!! それだけですっ」
ビクンッ!!! …ビジュッッッ。
「ぐっ、………(で、る)ンッ!!!!!」
多少堪えた。一発濃いのが出たが、先走り汁としてくくれば良い。これ以上は駄目だ。
(ヤバイ、股間が熱いっ!? 袋たまが痛いっ!?
は、破裂しそうだ! まだ陸の身体を慣らしてないのに、俺だけ一人でイクなんてあり得ないだろう!?
まさか、堪えるのが、これほど辛いとは思ってなかった…ンッ…)
硬く硬く反り返る見事な巨根に、存在感たっぷりの睾丸はすでにギュッと硬化しており、発射準備が完璧な状態だった。
(さ、先行き、不安しかないな…)
要は陸の真っ白な裸体を見下ろしながら、自らの衣服も全て脱ぎ、美術彫像並みの見事な裸体を晒した。
まだ陽の光が入る明るい室内で、要の肉体美は眩しいほど輝いていた。
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