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24、要さんと一緒に…そして珍客

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「もう、本当に今更だけどさ。陸、あの変態でいいわけ?」

「酷っ、シャルロットったら何で怒ってるの?」



 本気で疑問に思うのだろう。陸の能天気さに鼻で笑っている。



「シャルロット様、ほどほどに」


 ラースメンの注意を受けて、一応黙ったシャルロットだが呆れた顔を陸に向けるのは、やめなかった。

 とても平和なやり取りをしていたシャルロットと陸。要の用意が出来たのか、車の扉が開いた。



「ぅわぁ…………」

 陸は、感想が声に乗らない。


「爽やか…(誰だ、キモ)」

 シャルロットは褒めているか微妙なラインの言葉。


「流石、龍鳳寺様。何を着ても目立ちますね」

 ラースメンさえも、感想を述べるほど要の姿は、皆が知る要とは違っていた。



 要は高級感が出ない仕様にする為に、洋服は無地オンリーを選んだ。そのチョイスに間違いはないのだけど、シンプルなほど目立つのだ。

 普段では絶対に着ない若干のヴィンテージ感があるブルーデニムに、身体のラインに見事に沿ったVネック長袖の白カットソー。スニーカーも一般人が愛用するスポーツブランド、色は白。

 全てが見知った洋服であるのだが…。

 アウトだ、アウト。全くもって隠れるのは無理だ。いつものスーツでない分、引き締まった筋肉質のエロい身体が否応にも分かる。目に入ってはそらせない。

 ラフな出で立ちが、最早どこぞのハリウッドスターにしか見えない。


「陸、待たせて悪かったな。今日はカジュアルな服装にしたから、高圧的には見えないだろう?」

 ほらっどうだ!!見てくれ!!と綺麗な顔がやり遂げた感を出している。


「えっ…と、目立ちますよ、絶対。(そういえば要さんって、着痩せするタイプだった…。裸を見た時に、驚いたんだった)」


 茫然と呟く陸の声は小さくて、要には拾えなかった。


「おかしいか?」

 おかしくはない。似合っているが、スーツより生々しいだけだ。せっかく陸の為に普段着ない洋服を着てくれたのだ。どうせ要レベルの美貌は隠せないので、開き直ってしまえばいい。


「おかしくないですっ。めちゃくちゃカッコいいです! スーツよりは目立たないかもですが、要さんは元が良すぎるから、カジュアルな服装でも目立っちゃいますね!」

「…そう…か、行くか」


 安心した要の顔に、陸は胸を撃ち抜かれた。

 陸の顔色を伺って話す要が不思議で仕方ない。どんな女性も手に入るはず、要が嫌いな女性はいない。

 ずんぐりむっくりした不細工系が好みの女性には見向きはされないが、変わった好みを持つ人以外は、基本的に要を綺麗だと思うだろう。


「はい!!」

「服だが、また取りにくるから置いていてくれないか?」

「了解です」


 シャルロットは不満そうに返答したが、楽しみでテンションが上がっている要にはシャルロットの不機嫌な顔が見えていない。



 ***



 そんなこんなで、現在バスの中。案の定目立っている。陸が通う大学は立地条件よいが、一応郊外にあたる。バスで駅まで8分。

 山を切り開いて作ったこの地域は、いわゆるニュータウンだった。

 学生かファミリー層が住んでいて、まわりにはスーパーか病院、若者がたむろ出来るのはコンビニくらいで、繁華街がない。

 であるからこそ、要さんが異様に目立つ。

 都心部なら芸能人やスポーツ選手、見目麗しい外国人観光客がたくさんいるから、かろうじて目立たないが、学生とファミリー層しか使わないこのバスに要は一人異世界人だ。



「うん? 陸、どうした? 酔ったのか?」

「なんでも、ないです…(要さんって周りの目、気にならないのかな?)」


 学生と言っても、芸術大学生だ。要の彫刻並みに美しい頭身比率に、女性だけでなく男子学生も興味津々。


(むぅー、こうもジロジロ要さんを、みんなに見られるのは、やだなぁー。減るものじゃないけど、なんかやだなぁー)


 要は遠い世界の人だったから、たくさんの噂話に傷つきはしても、自分が隣に立つとまでは陸は思っていなかった。

 陸の友人達も、シャルロットも、はじめから要に対し、女を出して近づこうとする人はいなかったから、あわよくばと舐めるような視線に、嫌悪感が湧いてしまう。

 容姿に自信有り気な可愛い系女子グループが、パチパチと瞳を瞬きさせながら、要に視線を送っている姿が、あの芸能人『鳥野苺』を彷彿とさせ、気分が滅入っていく。



「……俺のせいか?」


 気にしないようにと、自分の膝ばかりを見ていた陸に、要の唐突な問いが投げかけられ、視線を声のする方に向けた。


「えっ?」

「嫌な思いをさせて、悪いな。ジロジロ見られるのは俺のせいだろう」

「あっ、違うんです」

「この恰好なら目立たないと思ったが、毛色の違う人間は何を着ても一緒だったな」

「………違ぅ」


 要の寂しそうな顔が悲しくて、陸は近くにあった乗降ボタンを押した。

 ボタンを押してからすぐにバス停だったのと、あまり降りるには適さない場所だった為、降りたのは要と陸のみ。

 発車したバスの中の可愛い系グループの女子達が、陸を睨んでいる。乗っていたバスの終着は駅で、ほぼ皆が駅で降りる為、女子達は降りてから要を誘う気だったのだろう。

 魂胆がありありと分かり、降りる判断をした自分に拍手を送る。


「陸?」

 バス停からバスが発車し、閑散とした住宅街は虫の鳴き声と風の音しか聞こえない。春の終わり梅雨に入る前の今は、外が一番心地よい。


「勝手に降りてごめんなさい」

「いや、それはいいが…」

 誰もいないからこそ、少し大胆になる。陸は自分から要に抱きついたのだ。


「り、陸!?」

 声が裏返っていて、要の動揺が陸に安心をもたらす。若干性格が悪いなぁと陸は自分を叱咤する。


「ごめんなさい。みんなが……バスに乗ってた…モデルさんみたいに可愛い子達が、要さんを見てたから、ヤキモチを……妬いちゃいました。
 うぅー、やっぱり要さん綺麗過ぎるから不安になっちゃいます」

「な、そ、んっ」


 陸は不安でヤキモチで、甘えているのだろうが、要は天に昇るほど、ガッツポーズをしていた。

 まさかの陸からのヤキモチ!なんだこの誇らしい気持ちは!! と。ついこの間までの一方通行の茨の道が、黄金色の道に変化していると感動していた。


「めんどくさい子で、すみません。もうちょっとだけ、要さんを堪能したら離れます」

 ギュッと抱きついてくる陸に、要の意識はすでに雲の上。互いが薄手の衣服な為、密着すると陸の身体の柔らかさが伝わってくる。


(うぅ…む、胸が当たってる…や、柔らかいっ! あうっ、陰茎海綿体に、血が集まっていく…耐えろ、俺!考えるな俺!!)


 エロ脳にならないように、下半身に熱が集まると同時に、今ここで勃起した日には、まさしく通報ものだと考え、萎えそうな事柄を何度も脳内再生した。

 時間にすれば数秒なのかもしれないが、要からすれば長時間の拷問のようだった。



「充電完了です!!」

 可愛い笑顔が、若干憎たらしく思えてしまう。


「…良かったな。で、どうする? 歩くか?」


 要からの提案に「はい!」と答えようと口を開けたらところ、開けただけで終わってしまう。


 プップッー、とクラクションと共に車体の高い車が陸と要の横に止まった。

 車の幅と長さが長い車は、シャルロットや要の車で見ていて慣れているが、どちらも車体は低めなので陸の隣に付けて止まった車体の高さに驚いた。

 陸が車の感想を脳内で述べていた時、要は誰か分かっているのか、態度が普通だ。

 車の窓が開くのかと思い窓ばかり見ていたが、開いたのは窓ではなくドアだった。外車の典型左ハンドル車、もちろん開いたドアは左側で、陸は驚き肩が跳ねる。

 想定内だったのか要は、ドアから陸をやんわりと遠ざけていたので、「流石、要さん! 優しい」と知らずに株を上げていた。


「ガハハハハハハハッッッ!! 要か!? 二度見したぞ!? なんだ、その爽やか好青年風な見た目は!! 爽やかを通り越して、キモいな!!!」


 やたら声が大きいこの男の人には、見覚えがある。そう思い出した。

 姉の海と義兄涼介の友達で、要の親友、新井あらい大輔だいすけ。大輔がいたから陸は要と会えたといっても過言ではない。
 要と同じで、陸の十歳年上だったはず。本当にしばらくぶりだった。


「お久しぶりです。大輔さん!!」

「お、おぅ?うん? 女の子!…と、すまん誰だ?」

「陸です! 五十嵐 陸です!! 海お姉ちゃんの妹の陸です!!」

「おぉーー!! 陸ちゃんか!! でっかくなったし、綺麗になったなぁ!!」


 大輔はヒョイっと陸を持ち上げた。


「もう抱っこは無理か?」

「やだぁー、抱っこなんて。初めてあった六年生の時くらいで、中学生になったら抱っこなんてしてもらってないですー」


 抱っこは抱っこ。現状脇に手を入れて、大輔に陸は持ち上げられている。地面からは10センチほど離れているくらいだ。

 大輔は変な意味ではないが、側から見ると陸のフワフワおっぱいを両手で挟んでいる…と見えなくもない。

 要がそれを許すはずはなく、案の定キレた。


「大輔、陸を下ろせ。殴るぞ」


 ピシッと硬直した陸に、大輔は驚愕の表情を見せた。ゆっくりと地面に下ろされた陸の身体を即座に奪い変えし、ガッチリ腕の中に拘束した。


「……恐い顔して、なんだ?」


 大輔からすればその通りだろう。陸は要と籍を入れた。二人は結婚したので間違いないが、公表はしていない。

 当然、陸はまだ学生であるし、数年は社会人もする予定だ、あくまで。
 約束として。陸が学生気分が抜けて、もう少し大人になったら、大々的に結婚式をし、親族や友人に公表するとしている。

 早い話がしばらくは婚約者でいいのでは? という皆の意見を無視し、一刻も早く要の妻という強固な鎖を繋ぐためだけに陸を『龍鳳寺 陸』にしたのだ。

 親友と言えど、海外を飛び回っている大輔に、陸との結婚は話していないから当たり前の反応だった。



「陸。自己紹介が違うだろう? わざわざ言わなくていいが、隠していない。違うか?」


 どうしてか、要のシルバーブルーの瞳が恐い。


「おいおい、女の子をいじめちゃいかん」

「黙れ、大輔」

「あのな! 久しぶりにあって、それはないだろう?」

「だ、大輔さん。あの…その……私、五十嵐 陸ではなくて。龍鳳寺 陸になりました」


 照れが凄まじい。顔を真っ赤にして照れ照れしながら発言する陸に、大輔は納得。


「そうか、要んとこの養子になったんだな! お前の両親、ずっと娘が欲しいって言ってたからな! ガハハハハハハハ!!」


 ピキッ!! 額に亀裂が走った音が何故か陸には聞こえた。大輔は俗に言う空気の読めない人種だった。


「…養子じゃない。妻だ、妻。俺の妻だ。そのふざけた脳みそ、耳、声、全部変えてこい」


(ヒョゥーーーーーー!!!)


「ま、マジか!? えっ、妻!? っておい、おい、お前らって。そんな感じだったか?? マジでか?
 あっ……デキ婚か?
 って、ヒィーーー痛い痛い痛いっ、頭が割れるっ、要っ、マジで痛い、頭が痛いぃぃぃーーー」


 要はふざけた事ばかり発する口を塞ぐ為に、左手で大輔の頭を車に押し付けながら、額部分を握りつぶしている。

 一見ガタイが良いように見える大輔だが、それはちょっと脂肪も入りの体型で、アスリート並みの体づくりをしている要には到底かなわない。


「要さん、やり過ぎですよ! 大輔さん、別に妊娠してません。まだ妊娠する行為もしてないですから。本当に籍を入れただけです」

「はぁ!?」

「陸、教えなくていい事まで口に出さないでくれ」


 げんなりしている要に、ヤバイと思った陸は必死。


「ごめんなさい! ごめんなさい!! 要さんが、手が早い、性欲過多の人みたいに思われたくなくて。
 だって…あんな時でも、要さんは我慢してくれるし。凄く凄く私を大事にしてくれるから…」


 陸の発言に、要はめろめろだ。


「気にしなくていい、言わせておきたい奴には言わせておけ」

「要さん……」


 うっとり互いを見つめ合う二人に、大輔は寂しくなった。


「おぃ、分かったから。俺を忘れるな!!」


 ガチムチの脳まで体育会系の大輔さんは、無視がつらいみたいだ。



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