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22、久しぶりの再会

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 私の名前は五十嵐いがらし  陸りく。改め龍鳳寺りゅうほうじ 陸りく。



 女、21歳の芸術大学三年生。中肉中背だけど胸はどでかい、ちょっとだけ美人だと思っている。あくまでどこにでもいる普通の美人程度だ。

 なんの因果か、まだ妄想の中なのか。就職先より先に結婚した。結婚前の名前も強そうと言われたが、結婚後の名前は…お坊さんみたいになった。



「名前負けはしてないから、大丈夫よ」


 投げやりな感じで溜め息をつきながら、陸に話しかけてくるのは親友で実は愛のキューピッド。龍神りゅうがみシャルロットだ。


 実はシャルロットも、陸の夫である要と同じようにフランス人の母と日本人の父を持つハーフだった。


 そして彼女も日本の五指に入る財閥の令嬢。


 龍神財閥の令嬢であるシャルロットは五カ国後を操る天才美女と有名で、名前負けも全くしない。
 初めて会った時、互いに自己紹介した瞬間、有り難い名前過ぎて陸はひれ伏したくなったほどだ。



「恐れ多くて、名乗れないよ。自分のフルネームが怖くなる日が来るとは…」

「しょーもない。陸の悩みがしょーもない。何が怖いって、両想いになったら、はい、結婚って言う変態根暗野郎がおかしくない? 婚約者でよくない?」

「シャルロット様、言葉使いが…。ご本人の前で言わないのは常識ですが、陸様は奥方様になります。いくら変態が事実でも肯定をしてはいけません」


 ラースメンはシャルロットの言葉使いのみ注意する。要の事を変態と認識するのは仕方ないとばかりに、そこは否定しない。


「ちょっと、要さんは変態じゃないよ!!」

「変態よ。変態。頭がお花畑の陸だから、かっこよく見えるの。異常な独占欲はモラハラだから」

「シャルロット!怒るよ! モラハラって、精神的に追い詰めたり、有る事無い事よそに言ったり、でしょ。要さんは優しいから違います!」


 二人の昼食場所にもなっている豪華なリムジンの中で、言い合いは続く。


「分かってないわね。モラハラ夫は嫉妬深いの。自分勝手なのに、妻に依存しやすいんだから。妻を外で働かせることは基本的に嫌がるし。
 外で何をしているかわからないのに嫌悪し、常に手元において監視しておきたいのよ。恐っ、恐怖」

「要さんに監視されるのは当然だよ。私は21歳で、子供から毛が生えたくらいで。大人とは到底いえないし。要さんは大人だよ。大っきな会社を率いているんだからっ、凄いことだから!」


「おめでたい頭ねー、ま、陸がいいなら私は何も言えない」

「もうー心配してくれてるんでしょ。ありがとう! 要さんもだけど、シャルロットだって心配性すぎるよ」


「変態と一緒にしないでよ」


 ププッと笑ってしまう。あくまでシャルロットは要の事を変態で通すらしい。


 仲の良い掛け合いをし、いやらしい感じ無しでピタリとくっついている二人の身体が羨ましい。
 互いが唯一無二だと。側にいるのが、当たり前のようなシャルロットとラースメンの二人を見ると、物凄く要さんが恋しくなる。



「…要さんに会いたい…電話じゃや、だな」

「変態はアメリカに出張だっけ?」

(変態って呼ぶのは、やめないのね…)


「うん。時差があるはずなのに、朝昼夜とメッセージくれるし、1日一回は声が聞けるけど…もう二週間、会えてないんだよ? …寂しい」

「二週間は確かに長いわね。私もラースメンと二週間離れろって言われたら寝不足になって、頭が回らないわ」

「私もシャルロット様を二週間抱きしめてられないのは、気が狂いそうです」

「変態にしては我慢してる方ね」

「シャルロット様、事実でもそのアダ名はいけません」

「シャルロット! 変態は余分!! ラースメンさんも、ちょいちょい要さんをディスってるでしょ!!」



 そうですか? と言う顔をし、ラースメンはおっとり微笑んでいる。シャルロットも酷いがラースメンも大概酷い。


「あぁー!! 要さんの身体が恋しい。あの逞しい身体に抱きつきたいっ、ぎゅーってして欲しい!!」


 長い車体の高級車に、品良く置かれたクッションに倒れこむ。

 陸は現在、惚気れるだけ惚気ている。要、関係を口に出せるのは、唯一シャルロットだけだ。
 肉体関係のあれこれを親や姉、義理兄には言えないし、普通の友人は問題外だ。


 要さんと電話していて、それを発見するたびに、義理兄である涼介さんは、
『陸ちゃん、友人達には自慢にしか聞こえないから要との交際は言っちゃダメだよ。報道関係は要が圧力をかけているから大丈夫だけど。いつの時代も、女の嫉妬は恐いからね。むやみやたらに要と結婚しているとは言わないように』
 と真面目な顔で、嫌と言うほど言われていた。


 なのでこう言う女子特有の愚痴は、シャルロットにしか言わない。言えないのだ。



「それ! 驚きよ! あれだけマスターベー……うん、と。
 そうセックスもまだで、先に結婚って。変な我慢が気持ち悪い。時代錯誤も甚だしいわ」


 通常運転で要を変態扱いするシャルロットに、陸はクッションから顔を上げ、そのクッションを胸に力一杯抱きしめながら、今の気持ちを吐き出す。


「私だって早くセックスしたいよ。要さんのあの綺麗な身体を堪能したいっ!! あんな事とか、そんな事とか、色々したい。触りたい!揉みたい!!」

「いや、あの筋肉質な身体の一体どこを揉むのよ…」

 話そうとして、どこか分かったのか、嫌そうな顔をしながら喋るなと片手で止められる。


「場所は分かったから、言わんでいい」

「もう、シャルロットの意地悪る。要さんは凄く私を大事にしてくれるの…。
 私がまだ処女だから、初めては薔薇が敷き詰められたスイートルームがいいって。何故かそれ一択みたいなの」

「うん、我慢は偉いけど。それはキモい。っていうか、どこまで陸によく思われたいのかしら。やっぱり変態は…むぐっ…うっ…」


 陸とシャルロットの会話を、優しげな表情で見守っていたラースメンが、会話の途中でシャルロットの口を手のひらで覆う。


「ラースメンさん?」


 会話を強制終了させられた。ラースメンさんが車のドアを見つめている。とそのドアが開いた。

 開いたドアの向こう側、スーツ姿が涎もの。細身で筋肉質、足の長い男性は、龍鳳寺 要。陸の大好きな旦那様だった。



 要さんは、日本でも五指にはいる大財閥、龍鳳寺財閥の跡取り。

 フランス人の母と日本人の父のハーフ。髪は黒いが瞳はシルバーブルーという珍しい色に加え、日本人の血が入っているかと疑問になるほどの色素薄いヨーロピアン美男。乙女ゲームの中に存在するような煌びやかな容姿。

 手足が長くスタイル抜群。185センチの長身は、165センチの陸でも見上げなければ視線が合わない。
 
 その要が色気を振りまきながら車内に入ってくる。



「…要…さん?」

「陸、久しぶりだな」

「なんで、まだアメリカに出張って…」

「陸に会いたくて、早く切り上げて帰ってきたんだ。ほらっ、そんなクッションより抱きつくなら俺にしろ」


 胸がキュるん、キュるんして堪らない。


 胸に抱っこしているクッションを陸はソファに戻した。それを見て、要は微笑を浮かべながら両手両腕を広げた。


「んぅー要さん! お帰りなさい!!」


 陸は大きくてあったかい要の胸に倒れこむ。腕を背に回そうと思うが、胸板が厚い為、陸の腕では回りきらない。ウットリと要の腕の中を堪能中な陸。

 陸は可愛い、それはシャルロットから見ても可愛いの感想だ。大好きなぬいぐるみに抱きついている風で、見てるだけで和やかな気持ちにさせてくれる。

 だが要は違う。

 陸の後頭部あたりに頬をグリグリ、めちゃくちゃ匂いを嗅いでいるし、息遣いがヤバめだ。

 視界に入れたくもないが、スラックスの股間部がテント張りになっているので、アウトだ。



 久しぶりの感動的な再会場面で、初っ端から勃起している要に、シャルロットはドン引き、ラースメンは呆れていた。
 
 車に近づいてくる気配を要だと気づいたラースメンは、シャルロットの口を封じた。

 口を封じていた手のひらは、今は下ろされていて、落ち着いてください。と気持ちを込めて、シャルロットの背をポンポンと叩いていた。

 要はキモいが、陸が嬉しそうなので、シャルロットは突っ込みたいのをぐっと堪え、暑苦しい抱擁をしばし鑑賞する。



(くそっ、勃起は許す。だけど、液体を発射したら新車を購入してもらう)


 要に対し、物騒な決断をシャルロットはしていた。




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