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18、シャルロットからのメッセージ

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 現在、陸は19時からテレビで生放送されるレッドアンドブラック賞の授賞式を見る為、家政婦業にせいを出していた。大変そわそわしながら。

 いつも以上に手際よく家事をする陸に、理由を知ってしまった涼介は苦笑いだ。啓介はテレビにママが映る? とテレビの前でワクワクしている。


「陸ちゃん、今日はいつになく張り切ってるよね? レッドアンドブラック賞の授賞式が楽しみ?」

「それは、そ、そうですよ! お姉ちゃんがテレビに出るって聞いたら、見なくちゃですよ。ねっ、啓介くん」

「うん! ママ、綺麗だった。お写真みたの!」

「そうね、綺麗だったね!」


 陸は涼介のたっぷりの含みが入る台詞をかわした。バタバタとご飯の後片付けをし、乾いた洗濯物を片付け、お風呂を洗い準備は整った。


「フゥ~、後は紅茶でも入れようかしら?」


 独り言を呟いた陸の独り言に、涼介は返事をしてきた。


「いいね、でも紅茶は僕がいれるよ。陸ちゃん、そわそわし過ぎて危なっかしいから、啓介と一緒にテレビの前で待っていたらいいよ。
 まずは要の挨拶から始まるから、要をみたいならテレビの電源を入れておいたら?」

「なっ、なんっ、違いますっ!! お姉ちゃんを見るんです!! 要さんは次です、次。お姉ちゃんを見るついでです!!」


 真っ赤になって言い訳したところで、涼介の顔は呆れ顔だ。
 今まで頑なに隠していた想いを、鳥野苺の一件でぽろっと要への恋を涼介に吐露してしまった陸。

 まずかったのは承知。一応、要にはバレたくない。言わないで。と懇願した。涼介は言葉を濁したので、いつか言われるのではと、戦々恐々。

 ここ数年、要の恋愛模様の記事は一つもなかった。

 家柄、頭脳、仕事、見目、健康、全てにおいてパーフェクトの龍鳳寺財閥の御曹司である要には、名前を上げる為だけではなく、ほぼ本気の恋が多く。

 例え結婚できなくとも認知されれば儲けもの、かくなる上は既成事実をつくれと。

 優秀な要の遺伝子を頂きたいと、それはもう犯罪ギリギリの熱烈なアプローチを各方面からもらっていた。

 初恋を拗らせまくった要は、一度気づいた恋は深海の如く深く、遊びであってもただの友人であっても、陸以外の女には興味がない。

 陸から選んでもらうにはと、それはそれは女性関係に気をつけた。裏では同性愛者と言われるほど、女性関係が綺麗なものだった。



「ふーーん、そうなんだ。海が出るのは、式の最後だから別に要に興味がないなら、先に風呂に入る?」


 分かってて提案してくる涼介に、開き直った陸は食ってかかる。


「涼介さんの意地悪!!!見たいです!!
 あの、世界随一と言われる美術館所蔵の大理石の彫刻の如く美しい肉体。
 淡く光る艶やかな漆黒の髪、光の加減で色が変わるシルバーブルーの瞳、骨格標本のような素晴らしい手足の長さ、がっしりとした肩幅に長身。
 シャープな顎に太い首。彫りの深い目鼻立ち、薄く形良い唇からは、想像以上に聞き取りやすい低く響くバリトンボイス。
 その神が創った芸術品のような要さんが見たいです! お姉ちゃんはどっちでもいいです!!」


「……要を褒める形容詞、恐ろしく多彩に飛んでるね。流石、芸大生。今の台詞録音して要に聞かせてやりなよ。最高の贅沢を味わえるよ」


 きょとん。とする陸。


「要さんは普段から褒められまくってるので、そこまで喜ばれないと思いますよ。むしろウンザリされそうです」

「…まぁ、いいよ。陸ちゃんがそう思うなら。
 それより、どっちでもいいなんて、海が可哀想だから、それはちゃんと見てあげて…」

「はーい」


 会話を繰り広げ、涼介の言葉に甘えて紅茶はまかせ、陸は啓介とテレビの前を陣取った。
 眠気がきてソファーで寝ている啓介を見ながら、陸は携帯を手にとる。


「うわっ、凄い着信!」


 着信の量が凄い。

 不在着信の相手はシャルロットだ。シャルロットも招待客として、レッドアンドブラック賞の授賞式会場にいると聞いたから、何故、陸に電話をかけてくるのか疑問が脳内を過ぎる。


「今、かけてもダメだよね…」


 着信だけでなくメッセージもあった。シャルロットは基本、電話であまりメッセージを使わない。それが余計に不思議だった。

 不思議ではあるが、とくに心乱される理由程ではない為、台所から香る涼介がいれている紅茶を堪能しながらメッセージを確認する。


『陸、久しぶり! 元気にしてる?
 なかなか会えなくて寂しいわ。実はお願いがあります。私が一方的にするお願いだから、嫌なら無視していいからね。
 レッドアンドブラック賞の授賞式会場で、龍鳳寺要様と出会ったの。
 普通にされてるけど、かなりの高熱でこちらが呼ぶ声にも反応しないくらい酷いみたい。倒れそうになったところを、ラースメンが抱きとめて私達は知ったのだけど、腹心の部下以外には黙っているみたい。
 授賞式ギリギリまでは寝て、式に出るみたい。けどその後は絶対にぶっ倒れるわ。雑誌やテレビで騒ぎ立てられたくないはず。
 龍鳳寺様は、超絶モテるでしょ。女性と深い関係にならないよう 頑なに拒否していたのに。体調不良を上手くとられ、看病と名乗りながら女狐達に既成事実を作られる可能性も大いにあるわ。
 だから勝手な頼みだけど。
 陸。きてほしい! ほらっ。陸は優しいから、無理矢理 龍鳳寺様を襲ったりはしないわよね?
 待ってるわ。秘書達が後始末で忙しく手が回らない間、安全な貴女が龍鳳寺様を看病するのはどうかしら。私は彼にとてもお世話になってるの。恩返しがしたいわ、お願いします』


 一度読んだ。震える手でメッセージの冒頭に戻り、再度読んだ。

 選択は一つだ。お願いされなくても、這ってでも行きたい。大好きな人が苦しんでいるのだ、行きたいに決まっている。

 携帯を持ったまま硬直している陸に、涼介は先ずはテレビをつけて授賞式が放送されるチャンネルに合わせてから、声をかけた。


「どうしたの? もう数分で始まるよ?」

「行かなきゃ! だって、私は絶対に襲ったりしないもの。わきまえているから、絶対に安全よ!はやく、用意しなくちゃ!!!」


 陸はすくっと立ち上がって上着を持ち、いつものショルダーバッグを手に取った。
 涼介は玄関に向かって走り出しそうな陸の肩をガシッと掴み、その場に縫い付けた。


「待って。何処に何をしにいくの?理由を教えて。陸ちゃんは、今からテレビを見るんだよね?」


 涼介の台詞とほぼ同時にテレビは、レッドアンドブラック賞の授賞式会場を映し出した。

 龍鳳寺財閥グループ、一番ランクの高い五つ星ホテル。そのホテル内、最も格式高い場所である『鳳凰の間』は、煌びやかなシャンデリアと荘厳な雰囲気を醸し出していた。

 赤い絨毯が敷き詰められ、同色の舞台にスポットが当てられた。

 厳かにはじまるレッドアンドブラック賞の授賞式。司会者らしい男性が、今後の予定を流暢にはなしている。


 テレビに釘付けになっている陸から、涼介は手を離す。

 要が好きなのは以前に確認済みであるから、要を見ずして何処に行くのか? 理由が分からないからこそ、止めたのは当然だった。

 そして聞いていた通り、要の短い挨拶からレッドアンドブラック賞の授賞式ははじまった。
 数人が呼ばれ、壇上に上がりトロフィーを審査員長から渡され受け取るを繰り返す。
 無論の事、要はテレビには映ってない。時間は経過していく。

 テレビを食い入るように見ている陸の、普通ではない態度に不安があるが、静かに見ているならと座るように促したところで、今回のレッドアンドブラック賞の授賞式最優秀演技賞を勝ち取った〝鳥野苺〟が登場した。

 壇上に上がった鳥野苺。

 最優秀演技賞らしい大きなトロフィーを渡されそれに口づけする姿。歓声と共に、要とシャルロット、そして海がその場に並ぶ。

 あからさまに要の側を陣取った鳥野苺。まるで恋人同士のように寄り添う姿に、陸の鼻の奥がツンと痛む。

 見たくない。のと、私は安全だからと、要を絡め取ってやると身体中からオーラを出している鳥野苺を、はっきり嫌いだと思ってしまう。

 もう見たくない陸は、驚く涼介をよそに玄関まで歩いていく。靴を履いたところで、涼介がまたも壁になってきた。



「ごめん。陸ちゃんの親御さんから宜しく頼まれている保護者としては、理由なしに行かせれない」


 現在19時。別に止められるような時間じゃない。陸も分かっている。涼介が止める理由が時間ではない事くらい。

 陸は余分な気持ちを発さないよう腹に力を入れてから、シャルロットからきたメッセージを見せる為、携帯を涼介に渡した。

 わずか時間にして数秒。しかし陸には、とても長く感じていた。



「……なるほどね、分かった。車を出すよりは電車の方が早いかな。気をつけて行っておいで」


 まさかの反応に陸は驚く。


「反対…しないの?」

「反対? なんで? 要の看病に行くんだろう? 陸ちゃんが一番的確な人選だと僕も思うからさ」

「ふんっ、どうせ子供ですよ。安全安心人間ですよ。私はそれで構わないの。
 別に…本気で、要さんと…どうにかなりたいとは思ってないから…」

「うーーーん。ま、襲われたら、きっちり責任をとってもらいな」

「だから私は、絶対、襲ったり、しません!!」



 いや、逆なんだけど。とは言えない涼介は、それはそれで先に進むかと楽観視していた。


 要が高熱で倒れそうだというのに、生暖かい目で送り出してくれる涼介に疑問を思い描きながら、目的地を陸は目指した。


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