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15、それぞれの道
しおりを挟む「大輔、いいところに来た。ショッピングモールまで送ってくれ」
「ショッピングモール??? 何しに行くんだ?」
「遊びに行くに決まっている」
「はぁぁぁ!? 要が!? 天下の龍鳳寺財閥の御曹司が、ショッピングモール?? お前が行っても、買うものないし、絶対に楽しくないぞ?」
大輔は空気が読めない。であるから、要がショッピングモールに行くのはおかしいと豪語する。
聞けばそれは当然だと思う陸だが、庶民的なデートに気分が上がっていて、要の立場を忘れていた。
自分の間抜け加減に、せっかく要と楽しくショッピングと思っていたからこそ、反動で じわぁ~と目頭が熱くなり陸の瞳には、涙の膜が張っていた。
「分かった。陸、行くぞ」
「えっ、でも要さん…お迎え呼んで、帰り…」
「帰らない。俺は陸とデートする為に、迎えに来たんだ。大輔はほっとけ、イレギュラーみたいなものだ」
「…要…さん…」
涙が溢れそうで、うりゅとなっていたら優しく抱きしめられた。
「俺達は俺達の歩調で先に進めばいい。他人は関係ない。遠慮されて、陸が俺から離れていく方が辛い」
10年も年が離れているのだから、分かり合えなくても仕方ない。それはこれから未来永劫ずっと変わらない年齢差だ。
今は要が陸に合わせてくれている。しかし近い未来には、陸が要に合わせなければならない日も必ずやってくる。それは勿論、大企業のCEOである要の世界に陸が踏み込むという事。
陸が学生の間は、きっと今と変わらない生活が出来るが、学生が終われば未知の世界への扉が開く。
「じゃあな、大輔」
別れの挨拶をしている要は、全く大輔の方を見ない。静かに無表情は、かなり怒っている時だと大輔は、やっと気づいた。
「わ、悪かった。ショッピングモールは、食べものが上手いよな。よしっ、ちゃちゃっと送ってやるよ。
陸ちゃんもここから歩いたら足が痛いだろう? 女の子の足じゃ、ここからショッピングモールまで結構あるからな!!な、陸ちゃん!!」
陸を出せば要の言質は取りやすい。本能でこれは分かったのか、大輔は上手い言葉を選んだ。
「えっと、いいんですか?」
「勿論だ、勿論!! 陸ちゃんはショッピングモールに行った事があるんだろう? ここはほらっ。妻として、旦那を案内すべきだな!!」
空気は読めないが、抑えるとこを抑える男、それが大輔だ。
陸だけでなく、要のテンションも上げまくるという台詞を口にした。
「そんな、旦那さんだなんて。旦那さん…旦那さん…」
真っ赤な顔で嬉しそうに、ちらちらと要を見ている陸に、要も胸が熱くなっている。「陸の旦那が…俺」と深く感動していた。
簡単な二人だ。意気揚々としながら車に乗り込もうとする二人を見て、大輔も一安心。良かったと胸をなでおろす。
さて陸にとってこの外車は車高が高く乗りにくい。足をどこにかけたらいいのか? ヘリを踏んでいいのか? 高級車だろうから、踏むのは…駄目だろう。
では…どうして乗りこむのか、考え過ぎて硬直した陸を、要は自然に陸のウエストに手をかけて持ち上げ、座席に導いた。
ストン。軽く座席に座れた。いや、大事に置かれた感じで、壺の気持ちを味わった。
「閉めるぞ」要は陸の足が挟まらないか、二度、三度と確認した後、ドアを閉めた。
「あれ? うん?」
今、自分に起こった事に、陸の頭はついていかない。
(あれ?あれ?えっ!? 今、要さんっ、私を抱き上げた!?
えぇーー、私、まぁまぁ体重あるのにぃぃぃぃー!?)
逆から乗ってきた要が、陸の顔を覗き込む。
「陸? どうした?」
「…要さんって……めちゃくちゃ…力持ち…ですね…」
「そうか? 普通だろう」
「車、出すぞー」
車が発車しても、陸は要の普通が普通でない事実に、車の窓を開けて叫びたい衝動にかられていた。
どれだけハイスペックなのか!? もう突っ込みどころが多過ぎて突っ込めない。
少しでも要と対等に並ぼうと陸は思っているが、おこがましい。近づけば近づくほど、知れば知るほど、何故か要がドンドン遠くにいくようで悲しくなってくる。
(要さんが、ハイスペック過ぎて辛い)
要さんは、日本でも五指にはいる大財閥、龍鳳寺財閥の跡取りで、IQも凄いらしく、MENSA会員に入っているらしい。あまり興味がないらしく会合などには出た事がないらしいが。
で見目が美術彫像並みに麗しい美男子。
顔が綺麗過ぎるのにプラス、185センチの長身で、なおかつ手足が長く頭身バランスも一級品。脱げば鍛え上げられた肉体美で、腕力もあると…。
発車した車の中で、拗ねた陸の声が響く。
「普通じゃないですよー。スーパーマンの世界ですね」
「スーパーマン? 陸はああいうのが好みか?」
微妙に話が噛み合ってない。スーパーマンは正直好みではない。いかにもガチムチボディービルは、申し訳ないが引いてしまう。
陸が理想としているのは、あくまで見目麗しい美術彫刻。
軍人マルスやラオコーンより、ラオコーンの両端にいる彼の息子達の方が断然好きだし、体系的にはダビデ像が最高に理想を体現していて好きなのだ。
(要さんの体型って、本当にダビデ像みたいだったよなぁー。綺麗だったよなぁーー。
でも…ダビデよりダントツで、要さんの方がアソコが立派だった…)
思考が変な方向に向いてきて、無理矢理終了させた。少し黙った陸に、要は真剣に耳を傾けている。
「スーパーマンは好みじゃないですよ」
「ではどういう見た目の男が、好みだ??」
「俺はスーパーマン好きだぞ!」
「大輔の好みは聞いてない」
ずばっと会話を遮断された大輔さんの後ろ姿が可哀想になる。
まさか要に突っ込まれると思わず、目を白黒させる。人は咄嗟だと、本音が出るもの。脳内を通さず出た言葉は紛れもなく陸の本心だった。
「もちろん、要さんですよ。美術館にある彫像含めても、私、要さんが一番理想通りです」
「えっ?」
口からペロッと出た。上から目線の、見てくれだけを褒めた途方も無い馬鹿な発言を、ペロッとしてしまった。
(陸の理想が俺? 俺の見てくれが好きなんだな? 俺が最上級…で間違ってない? これは夢か?現実か? 白昼夢か?)
要の顔が驚きで固まっているのを見て、陸は冷や汗が出てくる。言い訳をしなくては、と要の内面で尊敬するところを必死に述べていく。
「いや、あの、見た目は最高に素敵なんですけど、要さんは見た目以上に内面も魅力的ですよ!
優しいですし、女だからとか子供だからとかで人を差別しないし、背が高くても威圧的にならず、話す時はいつも目線を合わせてくれるし。
そう、そうです! 男気があります! こう何があってもブレない芯みたいな性格が尊敬します!!」
「あ……ぁぁ………ん……」
「陸ちゃんは、本当に要が好きなんだな!!」
大輔の微笑ましい返答と、要の「あ」しか言わない返答が両極端過ぎるが、一応、陸的には言いきった。
見た目を褒められるのは、きっと要さんは好きじゃない。世紀末の美形だ、奇跡を体現しているだ、目が覚める美貌だ、とそれは本やらテレビやら、インタビューやら、で言われていて。
その受け答えが、いつも超がつくほどクールで有名だった。むしろ見た目を褒め称えるキャスターに、怒りの鉄槌の如く厳しい意見で斬っていく。
優しく微笑んで貰えるとおもったのに、蓋を開ければ要からは冷たい言葉を返され、涙目になる可愛い女子アナウンサーさえも、ガン無視だった。
それを踏まえて、陸は褒め方を変えた。
(は、反応がない。あれ?内面褒めたよ…ね?)
焦る陸だったが、要は真逆の反応を見せていた。感動で打ち震えている状態は陸には読めない。
「要さん?」
「陸ちゃん。ほっとけ、ほっとけ要は照れてるんだよ!要、 なんだその顔っ。ゆるっゆるでせっかくの男前が崩れているぞ」
バックミラーごしに話しかけてくる大輔は、ニタリ顔だ。本当か? という疑問しか抱かない陸だが、照れているなら大丈夫だ。怒ってたり、呆れてたり、失望していたり、ではないなら。
ミラーに映った大輔の顔から、隣に座る要を見ようと顔の位置を変えたら、要の顔は要の両手の中に隠れてしまっていた。
「要さん?」
「見るな…」ポソッと一言。
耳が赤いではないか!! 陸は楽しくなってきた。
「要さんが、照れ…てる?」
「………違ぅ…」
要は弁解したいのだろうが、耳が赤いし声がひっくり返っていたら、もう誤魔化しても無駄だと陸は確信する。
内面を褒めた自分にガッツポーズ、見た目が良過ぎる人には性格や思想を褒めて正解なのだ。
(あぁっ、だめっ、要さんが可愛いよ~)
普段超絶クールな美貌の要が見せる珍しい一面に、陸は母性本能を刺激されまくり、抱きしめたい衝動に駆られていた。
行動に移そうか、やめようか、の瀬戸際で、手はワキワキしている。
一方で要は、いまだ幸せの頂点に立っており、湧き上がる幸福が覚めずに酔っており、思考は海の中のように、ふわふわとしていた。
ミラー越し見る可笑しな夫婦に、大輔は苦笑い。
いくら仕事が出来て、イケメンで、金持ちでも、好きな女性(陸)の前では、愛を欲しい〝ただの男〟に成り下がるのかと。
想像もしなかったこの有り得ない現実を、受け入れていく。
(要が、まさかなぁ…陸ちゃんをねーー、陸ちゃんかぁ…。あれも…、あれも…、あっ、あれもか…。答えを知れば、分かるもんだ……。
てか、あれだな、最早ストーカーだ。
俺と涼介の写真があれば欲しいって言うから、友達思いのいい奴かと思いきや、ほぼ一緒に写っていた陸ちゃんの写真が欲しかったのか…
回りくどい奴だなぁ…。よくぞ陸ちゃんをモノに出来たもんだ…)
後部座席で、イチャイチャしている二人を見て、色々な感情が出てくるが、脳筋頭は難しい事に蓋をする。
「要と陸ちゃんが幸せなら、よし!!」
「なんだ、いきなり」
「ありがとうございます!!」
大輔の発言にすぐ返答した要と陸。最後の言葉が口から出た、ヤベッと。
大輔は笑って誤魔化した。
運転する車からは、土日は家族連れで溢れかえるショッピングモールが見えてきた。人が少なめの金曜日であったが、やはり要は目立ってしまう。
要と陸のショッピングモールデートが始まる。
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