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13、聞きたくなかった言葉
しおりを挟む要はシャルロットとラースメンの提案にかなり乗り気で、裏工作を嬉々として実施する。
涼介には、たまたま近くで会議があり。その相手が龍神財閥の令嬢シャルロットだと伝え。
偶然今知った風に、彼女は陸の友人だったと。で、陸は今日 学友達とケーキバイキングへ行っていると。
シャルロット嬢曰く彼女達は遅くなりそうだと。今朝の件もあるし。罪滅ぼしではないが、友人達と一緒に、陸も家まで俺が送るから心配するな。
という、なんとも回りくどい連絡を涼介に入れてスタンバイオッケー。
『閉店まで食べてるよー、シャルロットちゃんも次は一緒に来ようね!』という写真付きメッセージをもらったシャルロットは、内容を洗いざらい要に話し、ギリギリで迎えに行けばよいと、話した。
閉店間際はお客も減り、要の登場で店側に迷惑をかけるほどは騒がれないと予想。騒ぎは大きくならずだが、要本人が彼女たちの前に現れたらきっと喜ぶはずと褒め称えた。
陸も基本はミーハーだと伝え、友人達が要を褒めれば陸も要の美貌の虜になる(すでになっているが)だろうと言ってみせた。
「龍鳳寺様が、優しくスマートに迎えに行けば、絶対に落ちます。一度もボーイフレンドがいない陸なので、夢みがちです。
漫画みたいな登場は、陸の最も好むところです!」
「…そうか、分かった。それでいく。いい提案をありがとう」
「はい、上手くいく事を願っております」
シャルロットは笑顔で頷き成功を祈るが、本心は残念だと思っていた。陸の九年越しの初恋である要が、みんなの前で陸に微笑み、手をとって最高級車で家まで送る。
自ら提案した、しょーもないド定番な展開。今の世の中では面白味もなく、映画だと絶対売れないだろうと予想できる。
しかし陸は違う。陸は絶対に感動し涙を流す。要を見て感極まった陸の顔が見れないのが、シャルロットは残念でならない。
すでに二人は両思いなのだ。いつまでもすれ違っておらず、さっさとくっ付けばいいのだ。
シャルロットに龍鳳寺グループのトップとして要は、改めて鳥野苺に着せるドレスを正式に依頼した。
的確な提案に蜜な企画書、そして予算案をその場で、秘書の裕介と二人で仕上げ、提示してきた。凄い速さで仕事が先に進む。
(…さっきまで、陸の生乳下着写真でマスターベーションをしていた人とは思えないのだけど。…スッキリして、頭の回転が速くなった?)
失礼きわまりない事をシャルロットは、天下の龍鳳時財閥の御曹司である要相手に思っていた。
いつも要はこのような感じなのかと、彼の秘書を見ると予算案を弾いた数字が黒字で、社への利益が大きく、やり甲斐を感じているのか顔がホクホクだ。
(龍鳳寺様とは違う意味で、若田様もキモい系なのね。これだけ仕事できて顔面偏差値が高いイケメンなのに、本当に残念だわ)
シャルロットの意見は、龍鳳寺グループ全社員と同じ意見であった。
ドレスの件、桂川夫妻が手がける新シリーズのエメラルド入り宝石と対になるような一点ものドレスを希望された。
そしてそのドレスも、同時に売り出すのだ。もちろん、一般市民は式典に着用するドレスはいらない。であるから、雰囲気やデザインを似せた普段着用のワンピースとして売り出す。
大まかな値段だけは提示してくる。
「授賞式は二カ月後だ。ドレスは当日までに用意してくれ。
販売する限定ワンピースは、現在新作で生産ラインに乗っているのをベースに作ればいい。客はあくまで鳥野苺が着用したという意味を見出す。
カラーやサイズも増やせば年齢層の幅も広げ、売れる」
「はい、かしこまりました。明日の夜までには本部に通し、最終決定の予算案を審議した後、報告致します」
シャルロットは要と裕介の凄さに、ただただ圧倒された。やはり要は見目の美貌だけでなく頭脳や社会情勢を読む天賦の才がある。
ワガママのように入った美術大学。そろそろシャルロットの夢は終わりを告げる。
要と会い上を知った。本腰を入れて龍神グループの未来をかけて動かなくてはならないと、新たに心に誓った。
***
現在19時を少し回った頃。
白い高級車に乗り込んだ要と裕介は、シャルロットから聞いた陸とその友人、典子と美恵がいるとされているケーキバイキングの店【ジョリ】を目指していた。
「要様、本当に大丈夫でしょうか? 変装もせずに、そのままの姿で、女性が溢れる店内に入って」
運転している要に裕介は、気になっていた事を伝えた。
「大丈夫だろう。あそこは基本、上品な雰囲気だし。ほぼ一般人しか利用してない。
俺達が日頃みている、すきあらば肉体関係に持ち込み既成事実を作り、公表し地位や金を巻き上げようと企む、女豹的な女はいない」
「…ですね、失礼致しました。日頃が危なすぎて、少し普通が分からなくなっておりました」
「ははっ、普通が一番いいな。裕介も恋人は普通の感覚の女にしたらいい。やり手の女には飽きただろう?」
「いいえ、要様、私は誰よりもやり手で私を束縛しない、何人か遊びの男性がいるような女性がいいです。一途な女は重いのであまり好みません」
裕介のぶっ飛んだ好みを聞いたくらいで、車は赤信号で止まる。
車内にいるのにもかかわらず、エンジン音がしっかり聞こえる中、要は裕介に視線をやる。
「俺への意見か? 一途で悪かったな」
一言文句を言って、また高級車は動き出す。裕介は運転する要に顔を向け、珍しくおっとりした笑顔を見せながら本音を呟く。
「程度によります。要様のような陶器人形ばりに美しい人からなら、思われて光栄ですよ。
要様が男性あるのが残念でなりません」
冗談か本気か分からないが、要はあえて無視し己の願望のみ口にした。
「俺は男でいい。陸が男なら女になりたいが」
中身残念、見目最高のイケメン二人を乗せた高級車は、【ジョリ】店に到着した。
公共機関がないので、車での来場もオススメしている【ジョリ】だが、悲しいかな皆、だいたい駅から歩いてくるのだ。要達が着いた時はすでに車は一台しか停まっておらず、ガランとした状態だった。
「暗いな」
「はい、ここから若い女性三人で帰るのは、あまり賛成できません」
「迎えに来て正解だな」
要と裕介は連れ立って店内に入る。女性が喜ぶ使用の店内だ。男は浮くはずなのだが、二人は全く浮いてない。
とくに要は日本の血が入っているのか皆無ほどに思える、ヨーロピアン男。
上質なスーツを見事に着こなす手足の長さ、天使の輪っかが出来るほど、サラサラの黒髪に日本人ではあり得ないシルバーブルーの瞳だ。
「いらっしゃいませ、本日はもう閉店になりま……す…」
あまりの綺麗な男性らの出現に、条件反射で発した【ジョリ】の店員の言葉の語尾が徐々に消えていく。
人は本気で驚くと息が止まる。硬直している店員に、どうするものかと考えたところで、裕介が要を隠すように前に出る。
ヨーロピアン風の要よりは、まだ裕介の方が ザ・アジア系日本人代表のイケメンであるから、話し合いをかって出た。
あえてクレーマーのような怒りの感情を入れ、まだ固まったままの店員に声をかける。
「客を待たしたまま、黙るのは失礼ではないでしょうか? 話す気がなければ、他の方に変わってください」
店内入り口でのいざこざに、何人かの女性が気づいた。テーブルに座る仲間たちに、小声で伝えている。
「ち、ちょっと! あの、あの人! 龍鳳寺財閥の御曹司! 要様!」
何故か一般女性は龍鳳寺 要を、要様と呼ぶ。ざわざわが波のように広がっていく中で、要はいち早く陸を見つけたのか、無言で歩いていってしまう。
「ただのお迎え要員ですから、気になさらず」
我が道をいく要に苦笑しながら、裕介も一言だけ店員に投げかけ後に続く。
陸の声が聞こえる。楽しそうな声を聞き、自然に笑みを浮かべた要だったが、はっきり聴こえてきた陸の声はまさしく天国から地獄に落とすものだった。
「ねえー陸ちゃん、合コンしようよー。私、セッティングしてあげるよ?」
「合コンかぁー、そうだな、したい!! 典ちゃんは男友達多いし、いい人いるかな?」
「いいよ、いいよ! 陸ちゃんも典ちゃんに紹介してもらったらいいんだよ!
私も典ちゃんに紹介してもらって、今の彼氏と付き合えたんだから」
「おし! で。陸ちゃんは今後は、どんなタイプのメンズを好きになる?」
「私の好きなタイプは、涼介さん!! あっ、もちろん涼介さんみたいにイケメンじゃなくていいの。
なんて言うか、雰囲気が涼介さんみたいな人のがいいなって。優しくって一途で、穏やかで、浮気しない、笑顔が素敵な人がいい!! 涼介さんみたいな人を紹介して欲しいな」
静かなになった店内によって、要は陸の想いを一言一句漏らさずに聞いた。
そうだ、とは思っていたが、想像と現実では違う。まさかこの場で、陸が涼介を好きだと話す内容を聞くとは。
はっきりと引導を渡されたのだ。陸はまだ涼介を好きで、本人が無理なら近い人でも構わないというほど好きなのだ。
(運が悪いのも、ここまで来たら呪いか何かだな)
何か話さないといけない。陸の友人だろう典子と美恵が、要をガン見してくる。
「帰るぞ」でも「送っていく」でも、何でもいいのだが、口が渇いて声が出ない。陸の本心を陸の声で直接聞いた現実は、思う以上にショックだったのだ。
茫然と固まる要に、陸がいち早く行動を起こした。こちらを見る為、身体をひねる。まだ視線は合わない。
身体をひねるだけでは、背が高い要と視線が合わないのを理解したのか、ゆっくりと顔を上げていく。そして瞳が合わさった。
「…………要…さ…ん?」
ひっくり返った陸の声が、静かになった店内に可愛らしく響いた。
(可愛い…。抱きしめられないのが残念だ。所詮俺は他人だからな。まっ、朝は誰?と聞かれたから、他人から知人には昇格したか)
「何をぼーと馬鹿みたいな顔をしている。若い女だけで、あの真っ暗な道を帰るつもりか? 襲われても文句は言えないからな」
「ふぅえ? 」
「ほらっ、お前達もだ。早く帰る準備をしろ、家まで送る」
典子と美恵は、かけられた言葉の内容が理解出来ないようだ。要だけだと拉致があかないと踏んだ裕介は、あっちの世界へ飛んでいる二人の背中をポンっと叩く。
「親御さんが心配しますよ、支度なさってください」
新たなイケメンの登場に、典子と美恵は金魚のように口をパクパクさせている。
「あの、要さんが? なんで、ここに??」
「成り行きだ。ほらっ、涼介も心配する。帰るぞ」
あくまでも普通の会話を繰り広げる要。毎回数年に一回程度の出会いである陸と要。
まさか一日に二度も要を生で見れるとは思わず、陸も半分くらいはあっちの世界に入っていた。
視界の端で、典子と美恵が上着を着て帰る準備が整っている。陸も急いで立とうとしたら、上手い具合に椅子が引かれ、そっと手を持たれ、力強く大きな手が立ち上がる助手をしてくれた。
「のわっ」
陸から変な声が発っせられた。変な声で合わさっていた手が離れてしまう。馬鹿馬鹿アホアホ、なんて勿体ない事を!!と自分を罵倒する。
初めて要と触れ合ったのに、せめてもう少しくらい手を繋ぎたかった。
「裕介、三人を先に車へ連れて行け」
要の言動はまるで連行するみたいだが、女子らはそうはとらない。真っ赤な顔して、右左、また右左と頭をせわしなく動かしている。
「あ、あ、あの、お支払いが、まだで、ちょっと、待って、ください、今すぐに」
片言で話す典子に要は、呆れていた。
「支払いはしとく。学生に返せとは言わないから安心しろ」
代わりに払うという要に、陸は夢心地から一気に冷めた。
「え!? 要さん、ダメです。だってここ高いし、ちゃんと自分で払います!」
「……俺に、高いから払うとよく言えるな。久しぶりに聞いた。払ってもらって当然だと思わないとは。
気にするな、大人には甘えておけ」
歩けと言う代わりに、背中をポンと優しく叩いた要。背中が熱くなる。手に背中に、触れたとこから熱が発生する。
黙ったまま陸は裕介の先導のもと、典子と美恵と一緒に朝、乗りそこねた高級車に乗せてもらう。
ガッチガッチの二人は、無言で焦点も合ってない。しばらくして、支払いを済ませた要が戻ってきた。
「先に友人を送るぞ、陸は最後でいいか?」
運転席から首をひねりこちらを見てくる要に「はい」とだけ答えた。答えを聞いたら用済みなのだろう、麗しい顔が離れていく。
「一番近い家から送る。ナビを入れるから住所を言ってくれ」
(…なんだか、嘘みたいだな。要さんの車に乗ってるなんて。店員さんとかめちゃくちゃ驚いてた。
みんな、顔が真っ赤だった。まぁね! 要さんほどの綺麗な男の人はいないもん)
自分の事のように嬉しい。陸は心の中で、目一杯要を褒め讃えた。
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