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新作小話

新春特別編 ミカエルのあの夜(18歳以上のお嬢さんのみ)

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 これはゆりが王妃になって間もない頃の話である。

「王妃様のお気に入りはヴィラらしい」

 ちまたではそういう噂が飛び交っていた。実際噂だけではなく、ゆりはヴィラのことを気にかけている。ヴィラがゆりの部屋に昼間やってきたという噂は聞かないし、ゆりの侍女もそんな話はしていなかった。自分が一番気に入られていると思っていたミカエルにすれば、まさに晴天の霹靂である。

(腹立たしい……いつの間にそんなことになってるんだ。王妃も私のことを気に入っていると思っていたのに……)

 いつの間にかヴィラに先を越されて、ミカエルのいらいらは止まらなかった。ゆりが妊娠してさらに衝撃的な出来事が起こった。ヴィラとジュノーに儀式で先を越されてしまったのだ。この儀式は一族の中でも大きな意味を持つ。相手はだれだったと公にされるわけではないのだが、噂は知らないうちに広まってしまうものなのだ。儀式をした男と王妃は、特別な信頼関係を築いてしまうものなのだ。ミカエルのショックは大きかった。その後ミカエルも儀式に参加できたものの、「二度目」という順番は一生変わらない。

(やはり、間違いない。王妃は赤い月前にヴィラに閨の指導を受けたに違いない。だからあんなにヴィラを信頼しているんだ。王はひどい。今回アレはないと言っていたのにヴィラにやらせたなんて……)

 王妃が赤い月を成功させるために導く役目、ミカエルがそれをやりたがっているとラクシュミは知っていた。知っていたのにヴィラにやらせたのだ。その役をヴィラにされてしまった以上、ミカエルがヴィラよりも優位に立つのは難しいことだった。

「王妃のお気に入り」
 もはやその座を勝ち取るしかない。どうにかして王妃の特別な男にならなければ気が済まない。プライドが高いミカエルは、他の恋人達と同じでは満足できなかったのだ。

 ゆりがアナスターシャを産んでからしばらくして、ゆりはヴィラと何度か一緒に夜をすごした。それを知ったミカエルは、ついには王の寝室に忍び込むという強硬手段に出た。

(私はあなたのことを本気で愛しているのに、あまりにひどいじゃないですか。このままヴィラの下でいるのも我慢ならない。一生一番になれないのなら……)
 ゆりは困り果てていたが、ミカエルを完全に拒絶はしなかった。そして翌日の夜にも会うと約束をした。

 その夜、ゆりはお酒をいっぱい用意して待っていた。露出の少ない服を着て、ミカエルのことをものすごく警戒しているようだ。

(半端に受け入れる王妃の心情がさっぱりわからない。自分の気持ちにストップをかけるつもりなのかなんなのかよくわからんが……心底嫌なら拒絶すればいい。それができないってことは、王妃は私のことを好きなんだ)
 
「じゃんじゃん飲んでね。ミカエル」
「はい」
 ゆりはお酒をつぎまくり、ミカエルは酒を飲みまくった。だが酒に強い蛇の一族の男である。いくら飲んでもよっぱらうことはなかった。
(あ、もしかして私を酔わせようとでもしてるのかな?)
 ゆりのあせった顔を見てミカエルも途中で気がついた。ゆりが用意していたのは、強い酒ばかりだった。酒場で気軽に飲む酒ではない。
(これは王妃の作戦だったのか。こんな手を使うなんて、王妃はまだまだ一族の男ってやつをわかってないなあ。酔わせてそれからどうする気だったんだろう)

「王妃も少し飲みましょう」
「え、いや、私は……」
「飲ませてあげますよ」
 ミカエルは口移しでゆりにお酒を飲ませた。かなり強い酒だったせいか、ゆりは一口で目が回っている。

「もう酔ったんですか? あなたは本当にかわいらしいですね、今からいっぱい愛してあげますよ」
 ミカエルはゆりをベッドの方に移動させた。ゆりはすっかりぐてんとなってしまっていた。目も閉じている。

「といっても、意識がない相手に何かをするのもつまらない。王妃、寝ないでくださいよ」
 ミカエルは軽くゆりの頬をぺちぺちたたいた。
「王妃」
「うーん」
 ゆりは眉間にしわを寄せてうなっている。
「せっかくの夜なんですから起きてください」
「うーん、うーん、く、くるしい」
「ん?」
「体がくるしいー」
「え?」
 ゆりは寝転がったまま苦しみだした。胸のあたりをかきむしっている。
「ぬ、ぬぐ……ぬがして……」
「苦しいんですか?」
「くるしい」
「じゃあ脱がしますよ」
 ミカエルはゆりの分厚い服を脱がせて、「うっ」とうなっていた。服の下に、ゆりは上半身コルセットを着ていた。しかもがっちがちに硬いコルセットである。よく着られたものだ。
「ぷっ、ぷぷ、なんですかこれ。そりゃこんなので締め付けたら苦しいはずですよ」
 ミカエルはつい笑っていた。
「ぬ、ぬぐー……」
「はいはい」
  ミカエルはコルセットのフォックを外して、脱がせてやった。
「まるで鎧のようだ。あーあ、肌に跡がついちゃって」
 ゆりは上半身裸になった。コルセットの跡が赤くついてしまっていたので、ミカエルはつい肌をなでていた。
「はあ……らくー。ありがとう。王様」
 ゆりは真っ赤な顔でお礼を言っていた。

(王様? 王妃酔ってるんだ。私を王だと思ってる?)
「よしよし」
 ゆりの頬をなでると、ゆりがにこーと笑っていた。
「おーさま、ちゅーして」
「いいとも」
 ミカエルが顔を寄せて口づけると、ゆりも反応して舌をからめてきた。両方の胸をなでまわして胸の先を指でこすると、ゆりはくすぐったそうに体をよじっている。

「抱かれたい?」
 ゆりは二度もうなずいていた。
「久しぶりかな。それとも、ヴィラとした?」
 ゆりは首を横に振っていた。
「本当かな。本当はしたんじゃないの?」
「してない。王様としたい」
「ならしよう」
 ミカエルはゆりのショーツを脱がせた。ゆりは酔っ払ってるせいかすっかりミカエルをラクシュミだと思いこんでいるようだ。

(こんなのありか? まあいいか)
「足広げて」
 というと、ゆりは素直に広げていた。

(王妃も望んでるし、強引にしてることにはならないですね王。これで、ヴィラより優位に立てる。王妃は勘違いしているが、この機会は逃せない)

 ミカエルは服を脱いでゆりの上に乗った。ミカエルは指でゆりの下半身をまさぐった。すでにゆりの方は準備万態のようである。

(もうその気になってる。いよいよだ……いよいよこのときが……)
 指でしか触れたことのない場所に、ついに自らの体で入ることができるのである。

 ミカエルはすっかり興奮状態になり、ゆりの下半身に自らの下半身をあてがい、中へと入っていった。

「ああん……もっと……もっとお!」
 ゆりはミカエルに抱きついて体をねだっている。
「はあ……入った……入ったぁ!」
 ミカエルはつい喜びの声をあげていた。
「王様?」
「いや、入ったぞ。ゆり」
「うん!」

(つい興奮してしまった。あまり話さないようにしなければ。王妃の体の中……あっつい! しかし、気持ちがいい。柔らかい肉ひだがからみついてくる。こりゃ王も気に入るはずだ)

「王様ぁ」
「はあ……こりゃすごい。気持ちいい?」
「気持ちいい!」
「素直でかわいいなあ」
(普段からもっと素直になればいいのに)
 ミカエルはゆりの体の奥までしっかりつながっていた。
「はあ……」

(感動だ……しかし他の女じゃ味わえない気持ち良さだ……)
 ミカエルが腰を動かすと、ゆりはうれしそうなあえぎ声をあげていた。
「かわいい。すごくかわいい」
「王様……もっとちゅーして!」
 ミカエルはゆりに口づけた。
「ん……」
「気持ちよすぎてもう出そうだ」
「やだ。もっと」
「じゃあそんなに締め付けないで」
「やん」
「子供産んだばかりなのにすごいね。体はすっかり元に戻って……このまま中に出したい」
「出して、出して」

(出産したばっかりだし、子供はできないよな)

「じゃあ中にあげる」
「うん。でももうちょっとひっついてたい」
「そうだな。奥、気持ちいい?」
「うん!」

(素直でかわいい)
 
 ゆりはミカエルにしがみつき、ミカエルが動くたびに、熱い吐息をもらしていた。

(王妃と一つになっている。うれしい……うれしい……王妃……王妃もうれしそうだ。しばらく王ともしてないのかなあ)
 ミカエルはゆりの体の奥で達していた。

「はあ……ああ……最高によかった」
 ミカエルはうめくように言った。
「私も……気持ちいい……」
 ゆりは目を閉じた。
「まだ寝ないで」
「うーん……眠いのぉ」
 ミカエルが口づけると、ゆりはミカエルの背中に手をのばしていたが、やがてぱたりと手を下ろしていた。
「寝ちゃったの? 残念だなあ。しかし、本当に王だと思っていたのかな? 本当は私だと気づいていたけど、照れ隠しにそう言ったのかも? そうでしょ王妃。このまま二回目しちゃおうかな。次はいつになるかわからないし」
 ミカエルは寝ているゆりを再び抱いたものの、ゆりは目を閉じたままだった。
「でも体は反応してる。さすが巫女」

(これを知ったら王妃はどう思うんだろうなあ。嫌われちゃうかな。でも王妃が悪いんですよ。私の気持ちを知っていて無視するから。私は人形じゃない。顔だけ好かれて満足できるわけないでしょう)

「しっかし、いい体だ。赤い月じゃないのにこんなに感じられるのは、もはや才能といってもいい。いずれは我慢できなくなって全員としちゃうんじゃないかな。しばらくは我慢しますから、そうなったらいっぱいしましょうね。王妃」

 ミカエルは二度目もゆりの体の奥で達していた。


 朝になり、ゆりは目を覚ました。ミカエルの腕枕で寝ていたゆりは、目覚めるなり目を白黒させている。
「おはようございます」
 ミカエルはご機嫌で挨拶をした。
「王妃はほんと面白いですね。あんな下着初めてみましたよ」
 ゆりが動揺しているのが肌を通して伝わってきた。
「あのー……」
「今夜も来ていいですか?」
「え? だめだよ。もうこれで終わり」
「まだ2回ですよ?」
「私もうよくわかった。私はミカエルのこと一番好きだし、一番のお気に入りだし、一番の恋人だから。お願いだからもう勘弁してください」
「…………」
(昨晩のこと、気づいていないのかな? いや、気づいてるけど、気づいてないふりをしてるのかも? 言わない方が良さそうだ)

「健全に昼間会おうよ。ね」
 ゆりは引きつった笑いを浮かべて言った。
「いいですよ」
「ほんと?」
「ええ。それじゃ行きますね」
 ミカエルはゆりの額にキスして、服を着て去って行った。

(本当に抱かれたことに気づいていないのかな。まあいいか。これで優位に立てたことに変わりはないんだからな)

「しかし良い夜だった。勘違いされてなきゃもっとよかったが……まあいいか」

 しばらくミカエルはご機嫌だった。そのご機嫌さにラクシュミも、
「良いことでもあったのか?」
 と聞いたほどだ。
「ありましたよ。良いこと」
「そ、そうか……」
 ラクシュミは深く聞かなかった。

(元はといえば、王が悪いんですからね。私があの役をしていれば、王妃は私を一番信頼していただろうし、儀式だって最初にできたはずだ)
 
「王妃はかわいいですねえ。アナスターシャ様が産まれて、ますます王妃のことが愛しくなったんじゃないですか?」
「まあ、そうだな」
「赤い月の王がうらやましいですねえ」
 ミカエルは王の間を去って行った。

(次に王妃を抱けるのはいつになるんだろうなあ……王妃の性欲がいずれ爆発するはず。その時まで、あの夜のことは黙っていよう)

 こうして、ミカエルはあの夜のことはだれにも言わず、ゆりを抱くのもしばらく我慢したのだった。


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