上 下
75 / 90
新作小話

グレンのお願い

しおりを挟む
 ある日の神の国、女神ガーベラはカサンドラの神殿の近くで、土の妖精ソルを眺めていた。ソルは極度の恥ずかしがりやなのか、ガーベラのそばには近づいてこないので、ガーベラは離れたところからそっと眺めている。ソルは最初のころは土の中入っていることが多かったが、最近では素の姿でいることが多い。今もそうだ。座り込んで土をいじくっている。ソルはガーベラに気づいて顔を向けた。前髪で目元が隠れているので顔もよく見えない。ガーベラがおいでおいでと手で仕草をしたが、ソルは近づいてはこなかった。

「瞳の色は何色なのかしら。目が見えないからわからないわ」
 ガーベラがつぶやいていると、「黄色ですよ」と声が聞こえた。振り向くと、後ろにグレンが立っている。
「どうして知ってるの? あの子の顔を見たの?」
 ガーベラがグレンに聞いた。
「アシュラン様がおっしゃってましたよ」
「黄色なんだ。へー」
 ガーベラはソルに再び目を向けたが、ソルはいなくなっていた。
「ガーベラ様、ちょっとお願いがあるんですが」
「何?」
「ここではちょっと」
「そう」
 グレンはガーベラの神殿に一緒に移動した。

 華やかでかぐわしい香りが漂う神殿の中に入ると、ガーベラはソファに座った。グレンは立ったまま、「実は……」と話しだそうとしたので、ガーベラは「ちょっとまって!」と待ったとかけていた。

「当てさせて。うーんと、そろそろガーベラ様の豊満な肉体が欲しくなってきたんですよ。でしょ」
 がーベラは人差し指を立てて言った。
「……いえ」
「なんだ違うの?」
 ガーベラはつまらなそうだ。グレンは斜め上を向いて、もう一度ガーベラを見た。
「実は、あちらのガーベラ様に会いたくて……」
「会ってどうしたいの?」
 ガーベラは突っ込んで聞いていた。ちょっと意地わるげな顔つきである。
「会って……」
「会って?」
「会って……抱きたいです」
 グレンは恥ずかし気に言っていた。
「ふっ言ったわね。まあいいわ。夜会わせてあげる。そのかわり、どうだったか後で教えて」
「えー」
「いいじゃないの。あ、そーだ。グレンに精力剤を作ってあげる♪」
 ガーベラは両手を合わせて言った。
「え? いえ、いいです」
 グレンはあわてている。
「ハロルドやラーズと競うためには、がんばらないと。そうじゃなくてもグレンは地味なんだから」
「いえ、そんなにがんばらなくても……」
「もっとグレンに会って抱かれたい~って思われたくないの?」
「え……」
「そうと決まれば、今から材料を集めてこなきゃ♪ グレン、あとでね~」
 ガーベラは楽しそうに言って神殿を出て行ってしまった。
 グレンはぽかんとしている。
「なんか心配だ……」


 夜になり、ガーベラがグレンの神殿にやってきた。

「じゃじゃーん、精力剤よ。さ、のんで」
 ガーベラは目を輝かせて小瓶をグレンに渡した。
「どうしても飲まなきゃだめですか?」
 グレンはいやそうである。
「飲まなきゃだめ」
「…………」
 グレンはガーベラに強引に小瓶を渡されて、かなり不安に思いながら、小瓶の中身を飲んだ。
「じゃ、がんばってね」
 ガーベラはベッドの上に横になった。

 グレンの体はかなり熱くなっていた。
「ガーベラ様……」
 ガーベラの顔を近くで見つめていたら、ガーベラが目を開けた。
「あれ? グレン?」
 ガーベラの体にゆりが入っている。
「ガーベラ様!」
 グレンは気持ちが抑えられず、ゆりに口づけていた。

 精力剤の効果なのか、グレンは続けざまに3度もゆりを抱いていた。
「ああ、ガーベラ様……愛してます! 私のかわいい人!」
「グレンってば、今日は熱烈~」
「ハニ~私のかわいいハニー」
「グレン……今日はすごいね」
「うれしいですか?」
「うん。って、いや、そんなにがんばらなくてもいいんだけど」
 グレンは女神の体から手を離そうとしなかった。

「ガーベラ様、またこんな風に、私と愛し合ってください」
「うん」

 その後再び鳥の卵がぽーんと出てきたのだった。

 ゆりが人間界に戻り、すっかり正気に戻ったグレンは、がんばりすぎた反動かげっそりしていた。
「また鳥が出てくるなんて楽しいわねえ」
 ガーベラは鳥のひなを見て笑っている。
「グレン、あらあら、なんかげっそり疲れてない? ずいぶんがんばっちゃった? うふふ」
 ガーベラはグレンを見て笑っていた。
「帰って寝ます」
「添い寝してあげようかあ?」
「いえ、いいです」
「かわいくないわねー」
 グレンは飛んで行ってしまった。

「グレンってば、本当に私のことずっと好きだったのかしら」
 グレンのそっけなさも相変わらずである。ガーベラは少し離れたところにいたサントスに近づいた。

「ね、サントス、話があるの。ちょっと来て」
「え、はい」
 ガーベラはサントスをカサンドラの神殿の中の奥の寝室に連れて行った。
「話ってなんですか?」
「私、サントスとの神獣も欲しい~」
「ええ!?」
 ガーベラはがばっとサントスに抱き着いた。

 グレンは仕事はひとまずライサに頼み、自分のベッドに寝ころんでいた。女神のかぐわしいにおいはまだ残っている。
(ガーベラ様……いつか、ハロルド様のようにあちらに呼んでください……私はあちらのあなたも愛したい……)
 グレンはそんなことを思いつつ、目を閉じたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

6年後に戦地から帰ってきた夫が連れてきたのは妻という女だった

白雲八鈴
恋愛
 私はウォルス侯爵家に15歳の時に嫁ぎ婚姻後、直ぐに夫は魔王討伐隊に出兵しました。6年後、戦地から夫が帰って来ました、妻という女を連れて。  もういいですか。私はただ好きな物を作って生きていいですか。この国になんて出ていってやる。  ただ、皆に喜ばれる物を作って生きたいと願う女性がその才能に目を付けられ周りに翻弄されていく。彼女は自由に物を作れる道を歩むことが出来るのでしょうか。 番外編 謎の少女強襲編  彼女が作り出した物は意外な形で人々を苦しめていた事を知り、彼女は再び帝国の地を踏むこととなる。  私が成した事への清算に行きましょう。 炎国への旅路編  望んでいた炎国への旅行に行く事が出来ない日々を送っていたが、色々な人々の手を借りながら炎国のにたどり着くも、そこにも帝国の影が・・・。  え?なんで私に誰も教えてくれなかったの?そこ大事ー! *本編は完結済みです。 *誤字脱字は程々にあります。 *なろう様にも投稿させていただいております。

私と一緒にいることが苦痛だったと言われ、その日から夫は家に帰らなくなりました。

田太 優
恋愛
結婚して1年も経っていないというのに朝帰りを繰り返す夫。 結婚すれば変わってくれると信じていた私が間違っていた。 だからもう離婚を考えてもいいと思う。 夫に離婚の意思を告げたところ、返ってきたのは私を深く傷つける言葉だった。

【完結】魅了が解けたあと。

恋愛
国を魔物から救った英雄。 元平民だった彼は、聖女の王女とその仲間と共に国を、民を守った。 その後、苦楽を共にした英雄と聖女は共に惹かれあい真実の愛を紡ぐ。 あれから何十年___。 仲睦まじくおしどり夫婦と言われていたが、 とうとう聖女が病で倒れてしまう。 そんな彼女をいつまも隣で支え最後まで手を握り続けた英雄。 彼女が永遠の眠りへとついた時、彼は叫声と共に表情を無くした。 それは彼女を亡くした虚しさからだったのか、それとも・・・・・ ※すべての物語が都合よく魅了が暴かれるとは限らない。そんなお話。 ______________________ 少し回りくどいかも。 でも私には必要な回りくどさなので最後までお付き合い頂けると嬉しいです。

旦那様に離婚を突きつけられて身を引きましたが妊娠していました。

ゆらゆらぎ
恋愛
ある日、平民出身である侯爵夫人カトリーナは辺境へ行って二ヶ月間会っていない夫、ランドロフから執事を通して離縁届を突きつけられる。元の身分の差を考え気持ちを残しながらも大人しく身を引いたカトリーナ。 実家に戻り、兄の隣国行きについていくことになったが隣国アスファルタ王国に向かう旅の途中、急激に体調を崩したカトリーナは医師の診察を受けることに。

断罪されているのは私の妻なんですが?

すずまる
恋愛
 仕事の都合もあり王家のパーティーに遅れて会場入りすると何やら第一王子殿下が群衆の中の1人を指差し叫んでいた。 「貴様の様に地味なくせに身分とプライドだけは高い女は王太子である俺の婚約者に相応しくない!俺にはこのジャスミンの様に可憐で美しい女性こそが似合うのだ!しかも貴様はジャスミンの美貌に嫉妬して彼女を虐めていたと聞いている!貴様との婚約などこの場で破棄してくれるわ!」  ん?第一王子殿下に婚約者なんていたか?  そう思い指さされていた女性を見ると⋯⋯? *-=-*-=-*-=-*-=-* 本編は1話完結です‪(꒪ㅂ꒪)‬ …が、設定ゆるゆる過ぎたと反省したのでちょっと色付けを鋭意執筆中(; ̄∀ ̄)スミマセン

婚約者の幼馴染?それが何か?

仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた 「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」 目の前にいる私の事はガン無視である 「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」 リカルドにそう言われたマリサは 「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」 ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・ 「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」 「そんな!リカルド酷い!」 マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している  この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」 「まってくれタバサ!誤解なんだ」 リカルドを置いて、タバサは席を立った

侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています

猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。 しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。 本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。 盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。

【完結】私は死んだ。だからわたしは笑うことにした。

彩華(あやはな)
恋愛
最後に見たのは恋人の手をとる婚約者の姿。私はそれを見ながら階段から落ちた。 目を覚ましたわたしは変わった。見舞いにも来ない両親にー。婚約者にもー。わたしは私の為に彼らをやり込める。わたしは・・・私の為に、笑う。

処理中です...