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攻略対象者【D】の戸惑い

6 D-父性に目覚める

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デュークの記憶の中でも。
両親はいっつもくっついていた。

母様はプラチナブロンドにエメラルドのような瞳をして。
すっごく。
すっごく綺麗だった。

父様は、まぁマッチョな男。
正直よくわかんない。
おお、元気だなぁ!
って頭をぐりぐりした後、すぐに母様に抱きついてちゅっちゅすることしか覚えていない。
二歳児の記憶ってそんなものだ。

ゲームだって、細かく書かれて無かったし。


その男が、棺に引っ付いて。
子供に目も向けずに泣いている…

なんか。
なんか。
微妙だ。



泣き止んだデュークを執事のウィレムは隣の部屋のソファに座らせた。
蜂蜜を垂らした温かいミルクが出てくる。

それを飲むとお腹の中がほわっとして、ふうっと落ち着いた。


そうだ!
母親の死から立ち直れずに、父親はユアンを無視する。
そこから悪役令息のスパイラルが始まるんだ。


カップを置くと、デュークはきっと顔を上げた。
ここだ。
ここが大事な分岐点だ。


「赤ちゃんはどうしていましゅか」

あ、かんだ。

デュークの質問に、執事のウィレムはちょっと眉をあげ、優しく微笑んだ。

「使用人を付けて、お世話しております。」

「父様は余裕が無さそうですが、葬儀の段取りはどうなっていますか。」

今度こそウィレムは目を見開いた。

「家令のジョコモが手続きしております。
ご安心ください。」

「僕のする事はありましゅか?」

「葬儀は2日後に行います。
葬儀は公表致しますが、参列は王族からの使者もご遠慮して頂いております。」

王族断るって、どんだけ!
まあ、あの感じだと無理そうだけどね。

「それでも近しい方が参られますので、デューク様はご挨拶をお願いいたします。」

うん、あのおやぢではそれも無理だな。

「それまでは、特に御座いません。」

「じゃ、赤ちゃんにあわせてください!」

食い気味に言ったデュークに、ウィレムは顎を引いた。
伺うようにこちらを見て、そして頷く。



赤ん坊はふにゃふにゃと泣いていた。
まるで猫の鳴き声のようだ。

広い部屋は陽当たりがいい。
けれど離れだった。
騎士や使用人の宿舎とも別の、庭にひっそりとある北の離れに一人。
そりゃナニーはいるけれど。
心配してくれる人も無く一人。

その扱いに胸が詰まって、デュークは従者におろしてもらうと駆け寄った。

そう言えば
『シーレの命を奪ったなど見たくも無い。目の届かぬ所に置いておけ!』
と、叫ぶおやぢの姿をゲームの追憶で見た気がする。



赤ん坊は小さくてひょろかった。
全身で泣いてたから、しわしわの顔がこけもも色で。
ふさふさしたプラチナブロンドの下の頭皮まで透けて見える。
まるでピンクのカエルみたい。


覗き込んだら目を大きく見開いた。
翠の目からぽろりと涙が溢れる。

あぁ、母様の目だ。

ちっちゃい手。
紅葉の様に小さいのに、ちゃんと爪がある。
羽ペンの先ほどなのに、爪がある。

不思議で。
そっと指で触れたら、きゅっと握られた。
強い力で人差し指が握られた。

あったかい。
生きてる。

だぅ。ともおぼぅともつかない声が上がって、その翠の目が真っ直ぐにデュークをとらえる。

その時。
デュークの父性が、ずっきゅん♡と爆誕した。
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