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そうして新しい未来

46 エルメの飛翔 前

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エルメの望みのままに、ルカとディサロは白い竜に乗った。

エルメは今や発光しているようだ。
脚の間の体はいつもより体温が高く、ルカは心配したがエルメはやんわりとそれを躱した。

竜舎の飛竜達は昨日から落ち着きなくざわざわと動き回っている。
夜は休まずに羽をばさつかせ、厩舎の者達は宥めようと一生懸命だった。

いつもならそんな竜達に喝を入れるエルメが、達観したようにそれを見ている。
エルメにちょっかいをかける竜もいず。
その悶々とした違和感の中で、ルカは言われるままにディサロとエルメの背に乗った。




降り立った所は竜の谷の近くだった。

人も魔獣もこの辺りにあまり来ない。
溢れた時、風向きで流れ出るガスのせいで、木や草がちょぼちょぼで。
もう少し進むと、危険地帯に入る所だった。

オオトカゲの皮で出来たシートを持ってきて良かった。
それを広げて、周りに魔獣避けの薬玉を設置した。
ついでに、万が一ガスが湧き立った時の為に風による結界の魔道具を起動させる。
そしてブランケットとピクニックセットを取り出した。


エルメは今や荒い呼吸で。
どくんどくんとしたものがルカに流れ込んでくる。


ここまできたらルカでさえわかった。
"発情"という単語が、頭の隅で警報器のように瞬いている。
そして、それを悟ったのはディサロも同じで。

ディサロは真摯な目をエルメに向けた。

「"飛翔の儀"を宣言しなくても良かった?」

飛翔の儀は、優秀な雄を求める為に広く宣言されるものだ。
ディサロの問いにエルメは、牙のある大きな口をきゅっと吊り上げた。

『私ニ月ノ力ハ必要ナイワ。
私ノ番ハスデニイル。』

そのちょっと煽るような念話を受けて、えっ、とルカは目を丸くした。

エルメは深窓のお嬢様だ。
番がいるとは聞き捨てならない。
自分との生活で隠し事があった衝撃で、ぽかんとくちを開いて何も考えられなくなった。

縋るように横に座るディサロの袖口を握る。
そんなルカの動揺に、エルメは愉しむような一暼を投げた。
そしてわざと大きな羽音をさせて翼を広げた。
翼は白金に輝いて陽を反射させている。

綺麗だ…。

透き通った広い薄膜の翼から、胸の美しい筋肉まで。
エルメの体がゆるゆると細波をたてる。


飛ぶ準備の出来た体。
ルカははあはあと呼吸が荒くなってきた。


明確な飢えがルカの脳を焼きはじめた。

エルメから流れ込む凶暴な苛立ちから、くらくらと目眩がする。
細波のように湧き上がる痺れが、やがて津波となって体中を打ち付ける。


喉から。
その奥から。
ひりつく程の飢えがルカを翻弄する。



エルメは首を振り回し、腹立たしげに翼を擦り合わせた。

頭を天に向けて思い切り伸ばし。
高々とさかりのついた叫びを上げた。

そのくさび形の頭を前後に振り。
複眼を爛々と輝かせながら。
エルメはばさりと砂塵を巻き上げて飛び立った。
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