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家族の肖像

24 パパの慟哭

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「ルカっ‼︎」

観覧席から砂場まで3デオツの高さがある。
飛び付いて抱き着こうとした時。
ルカは風を纏っていた。

三歳の子供が。

全身に風を!

水縹色の魔力が、螺旋のようにつま先から上へと取り巻いている。

スローモーションのようにゆっくりと降りていく体。
唖然と見下ろす私の前で、
とすっ。
と、砂に降りた時。
軽くよろめいて膝を着いてから、ルカはその卵へと走り出した。

慌てて後を追う。

領主のいきなりの動きに人目が集まったが、気にせず追う。


ルカはのしかかってた殻を放り投げて、卵を抱きしめた。

「うん。わかった。待ってて、」

その手の中に、やはり水縹色の魔力がきりきりと集まっていく。

「待て!ルカ‼︎」

自然の理に干渉するのはタブーだ。

痩せて窶れたルカを乱暴に掴むわけにもいかずに、その胴に抱き付いた時。

ルカはその螺旋を描く風の球を、卵に押し当てていた。

キリキリキリッ

甲高い音とピシッというひび割れる音が、硬い殻を弾き飛ばす。

あっと思う間もなく、割れた殻の中にエメラルドに光る複眼が覗き、竜体がごろんと転がり落ちた。
ルカが支える様にその身体を抱き止める。


私は見た。

ルカの瑠璃色の目がエメラルドを反射して眩く輝くのを。
人と竜が見つめ合い、心の深淵で結び付くのを。

「…父様… エルメだって。
 エルメっていうんだって‼︎」

……感合が行われてしまった…



どおおぉん。
人の騒めきが、太鼓の様に耳を打つ。


エルメは白い。

白い竜など、見たことも聞いた事も無い。

エルメは小さい。

三歳のルカの腰までしか無い。

そして、
そして、ルカは領主一族だ。


頭の中でぐるぐると否定する言葉が渦巻く。
でも目は、ルカがかつて無いほどにうっとりと満足して寄り添っているのを見ている。

そう、人と竜が対になった時。
もう離すことは出来ないのだ。

あの虚ろだったルカが楽しそうに竜を抱き締めている。
喜びの涙を流し、心の底から笑っている。
もう、離す事は出来ない。




それから私は必死だった。
あらゆる伝手と脅しと金を使った。

王族と領主一族は、その血の保全と指導者になる為に竜騎士にはなれない。
だからルカは竜持ちだか、竜騎士にはならない。


白い竜を研究したいという学者を黙らせ。
こんな小さな竜だから、ペット枠だとごり押しし。
王家に取り上げられないように、裏で戦った。

そうしてルカとエルメはなんの縛りも無く、フェルベーツでのびのびと過ごせるようになったわけだが…



~~何処かで間違った気がする。


のびのびは無鉄砲とは、違う言葉だった気がする。
ほう・れん・そうを言い聞かせていたつもりだったのに、ルカの脳みそにミリも刻まれていなかった事に愕然としている。


『ちょっとやんちゃですよぉ☆』

って、マルロが報告していた。

あれ?
やんちゃって、こういう事だったっけ?

元気なルカを愛してる。
楽しそうなルカを守りたい。

でも。

でも。

ちょっと、あんまりじゃないかっ⁉︎



フェルベーツ領主は、片耳を自分で抉ったと言うルカに、ちょっと目眩がしそうだった。

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