24 / 47
家族の肖像
24 パパの慟哭
しおりを挟む
「ルカっ‼︎」
観覧席から砂場まで3デオツの高さがある。
飛び付いて抱き着こうとした時。
ルカは風を纏っていた。
三歳の子供が。
全身に風を!
水縹色の魔力が、螺旋のようにつま先から上へと取り巻いている。
スローモーションのようにゆっくりと降りていく体。
唖然と見下ろす私の前で、
とすっ。
と、砂に降りた時。
軽くよろめいて膝を着いてから、ルカはその卵へと走り出した。
慌てて後を追う。
領主のいきなりの動きに人目が集まったが、気にせず追う。
ルカはのしかかってた殻を放り投げて、卵を抱きしめた。
「うん。わかった。待ってて、」
その手の中に、やはり水縹色の魔力がきりきりと集まっていく。
「待て!ルカ‼︎」
自然の理に干渉するのはタブーだ。
痩せて窶れたルカを乱暴に掴むわけにもいかずに、その胴に抱き付いた時。
ルカはその螺旋を描く風の球を、卵に押し当てていた。
キリキリキリッ
甲高い音とピシッというひび割れる音が、硬い殻を弾き飛ばす。
あっと思う間もなく、割れた殻の中にエメラルドに光る複眼が覗き、竜体がごろんと転がり落ちた。
ルカが支える様にその身体を抱き止める。
私は見た。
ルカの瑠璃色の目がエメラルドを反射して眩く輝くのを。
人と竜が見つめ合い、心の深淵で結び付くのを。
「…父様… エルメだって。
エルメっていうんだって‼︎」
……感合が行われてしまった…
どおおぉん。
人の騒めきが、太鼓の様に耳を打つ。
エルメは白い。
白い竜など、見たことも聞いた事も無い。
エルメは小さい。
三歳のルカの腰までしか無い。
そして、
そして、ルカは領主一族だ。
頭の中でぐるぐると否定する言葉が渦巻く。
でも目は、ルカがかつて無いほどにうっとりと満足して寄り添っているのを見ている。
そう、人と竜が対になった時。
もう離すことは出来ないのだ。
あの虚ろだったルカが楽しそうに竜を抱き締めている。
喜びの涙を流し、心の底から笑っている。
もう、離す事は出来ない。
それから私は必死だった。
あらゆる伝手と脅しと金を使った。
王族と領主一族は、その血の保全と指導者になる為に竜騎士にはなれない。
だからルカは竜持ちだか、竜騎士にはならない。
白い竜を研究したいという学者を黙らせ。
こんな小さな竜だから、ペット枠だとごり押しし。
王家に取り上げられないように、裏で戦った。
そうしてルカとエルメはなんの縛りも無く、フェルベーツでのびのびと過ごせるようになったわけだが…
~~何処かで間違った気がする。
のびのびは無鉄砲とは、違う言葉だった気がする。
ほう・れん・そうを言い聞かせていたつもりだったのに、ルカの脳みそにミリも刻まれていなかった事に愕然としている。
『ちょっとやんちゃですよぉ☆』
って、マルロが報告していた。
あれ?
やんちゃって、こういう事だったっけ?
元気なルカを愛してる。
楽しそうなルカを守りたい。
でも。
でも。
ちょっと、あんまりじゃないかっ⁉︎
フェルベーツ領主は、片耳を自分で抉ったと言うルカに、ちょっと目眩がしそうだった。
観覧席から砂場まで3デオツの高さがある。
飛び付いて抱き着こうとした時。
ルカは風を纏っていた。
三歳の子供が。
全身に風を!
水縹色の魔力が、螺旋のようにつま先から上へと取り巻いている。
スローモーションのようにゆっくりと降りていく体。
唖然と見下ろす私の前で、
とすっ。
と、砂に降りた時。
軽くよろめいて膝を着いてから、ルカはその卵へと走り出した。
慌てて後を追う。
領主のいきなりの動きに人目が集まったが、気にせず追う。
ルカはのしかかってた殻を放り投げて、卵を抱きしめた。
「うん。わかった。待ってて、」
その手の中に、やはり水縹色の魔力がきりきりと集まっていく。
「待て!ルカ‼︎」
自然の理に干渉するのはタブーだ。
痩せて窶れたルカを乱暴に掴むわけにもいかずに、その胴に抱き付いた時。
ルカはその螺旋を描く風の球を、卵に押し当てていた。
キリキリキリッ
甲高い音とピシッというひび割れる音が、硬い殻を弾き飛ばす。
あっと思う間もなく、割れた殻の中にエメラルドに光る複眼が覗き、竜体がごろんと転がり落ちた。
ルカが支える様にその身体を抱き止める。
私は見た。
ルカの瑠璃色の目がエメラルドを反射して眩く輝くのを。
人と竜が見つめ合い、心の深淵で結び付くのを。
「…父様… エルメだって。
エルメっていうんだって‼︎」
……感合が行われてしまった…
どおおぉん。
人の騒めきが、太鼓の様に耳を打つ。
エルメは白い。
白い竜など、見たことも聞いた事も無い。
エルメは小さい。
三歳のルカの腰までしか無い。
そして、
そして、ルカは領主一族だ。
頭の中でぐるぐると否定する言葉が渦巻く。
でも目は、ルカがかつて無いほどにうっとりと満足して寄り添っているのを見ている。
そう、人と竜が対になった時。
もう離すことは出来ないのだ。
あの虚ろだったルカが楽しそうに竜を抱き締めている。
喜びの涙を流し、心の底から笑っている。
もう、離す事は出来ない。
それから私は必死だった。
あらゆる伝手と脅しと金を使った。
王族と領主一族は、その血の保全と指導者になる為に竜騎士にはなれない。
だからルカは竜持ちだか、竜騎士にはならない。
白い竜を研究したいという学者を黙らせ。
こんな小さな竜だから、ペット枠だとごり押しし。
王家に取り上げられないように、裏で戦った。
そうしてルカとエルメはなんの縛りも無く、フェルベーツでのびのびと過ごせるようになったわけだが…
~~何処かで間違った気がする。
のびのびは無鉄砲とは、違う言葉だった気がする。
ほう・れん・そうを言い聞かせていたつもりだったのに、ルカの脳みそにミリも刻まれていなかった事に愕然としている。
『ちょっとやんちゃですよぉ☆』
って、マルロが報告していた。
あれ?
やんちゃって、こういう事だったっけ?
元気なルカを愛してる。
楽しそうなルカを守りたい。
でも。
でも。
ちょっと、あんまりじゃないかっ⁉︎
フェルベーツ領主は、片耳を自分で抉ったと言うルカに、ちょっと目眩がしそうだった。
0
お気に入りに追加
97
あなたにおすすめの小説
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
膀胱を虐められる男の子の話
煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ
男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話
膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)
愛などもう求めない
白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
攻略対象5の俺が攻略対象1の婚約者になってました
白兪
BL
前世で妹がプレイしていた乙女ゲーム「君とユニバース」に転生してしまったアース。
攻略対象者ってことはイケメンだし将来も安泰じゃん!と喜ぶが、アースは人気最下位キャラ。あんまりパッとするところがないアースだが、気がついたら王太子の婚約者になっていた…。
なんとか友達に戻ろうとする主人公と離そうとしない激甘王太子の攻防はいかに!?
ゆっくり書き進めていこうと思います。拙い文章ですが最後まで読んでいただけると嬉しいです。
絶滅危惧種の俺様王子に婚約を突きつけられた小物ですが
古森きり
BL
前世、腐男子サラリーマンである俺、ホノカ・ルトソーは”女は王族だけ”という特殊な異世界『ゼブンス・デェ・フェ』に転生した。
女と結婚し、女と子どもを残せるのは伯爵家以上の男だけ。
平民と伯爵家以下の男は、同家格の男と結婚してうなじを噛まれた側が子宮を体内で生成して子どもを産むように進化する。
そんな常識を聞いた時は「は?」と宇宙猫になった。
いや、だって、そんなことある?
あぶれたモブの運命が過酷すぎん?
――言いたいことはたくさんあるが、どうせモブなので流れに身を任せようと思っていたところ王女殿下の誕生日お披露目パーティーで第二王子エルン殿下にキスされてしまい――!
BLoveさん、カクヨム、アルファポリス、小説家になろうに掲載。
もう一度、貴方に出会えたなら。今度こそ、共に生きてもらえませんか。
天海みつき
BL
何気なく母が買ってきた、安物のペットボトルの紅茶。何故か湧き上がる嫌悪感に疑問を持ちつつもグラスに注がれる琥珀色の液体を眺め、安っぽい香りに違和感を覚えて、それでも抑えきれない好奇心に負けて口に含んで人工的な甘みを感じた瞬間。大量に流れ込んできた、人ひとり分の短くも壮絶な人生の記憶に押しつぶされて意識を失うなんて、思いもしなかった――。
自作「貴方の事を心から愛していました。ありがとう。」のIFストーリー、もしも二人が生まれ変わったらという設定。平和になった世界で、戸惑う僕と、それでも僕を求める彼の出会いから手を取り合うまでの穏やかなお話。
見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています
モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中
risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。
任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。
快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。
アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——?
24000字程度の短編です。
※BL(ボーイズラブ)作品です。
この作品は小説家になろうさんでも公開します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる