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とりあえず自領へGO

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「その馬車 止まれ!」

急停止で馬も荷も衝撃を受けない様に、停止信号をしばらく前から魔力で並走させてからようやく馬車は止まった。

特急として仕立てられた馬車は銀色の箱形で、いきなり兵に取り囲まれて御者は興奮する馬を優しく叩いた。

「どうしたんです。賊かと思いましたぜ。」

睨みつける御者に、兵は黙れと叫んだ。

「荷改めだ。開けろ‼︎」

「困りやす。開けられない呪いが掛かっておりやす。」

後ろから出てきた王宮魔術士が隊長に耳打ちすると、さらに兵は権高に怒鳴った。

「開けろ!反逆罪でしょっぴくぞ!この中に結界が張ってある‼︎」

「え~~。じゃ、開けたのは荷改めだと一筆書いてくだせえ。じゃねぇと封印を破って契約違反だと、金を貰えなくなっちまいます。」

しばらくの押し問答の末、魔術士の宣誓書を渡されて御者は扉を開けた。
中はさまざまな箱。箱。箱。
躍起になって中を改める兵達に、御者はおろおろと叫ぶ。

「汚したり壊したりしねぇでくだせぇよ。ルーク様が帰っていらしたら卒業記念パーティーする為のモノが入ってるんですからね。」

「ほう……ルーク様が?」

「さいですよぉ。王宮で婚約者様とお祝いして、それから領に戻られて家族とお祝いなさるでしょ。その為の物がごっそりと、」

 
この検問が何のために行われているのか兵は知っていた。
『おい、こいつ知らないのか。』
『業務日報によるとパーティーが終わる前に出発しているし…』
ちょっと哀れみの目で見ながら、兵達はこそこそと囁きかわす。
『マジかよ。到着したとたん、要らないって言われちゃう感じ⁉︎』
『うわぁ。悲惨。無いわぁ。』
『この馬車、シロだよなぁ。』



「アレはなんだ。」

小型の箱を退かすと大きな箱が現れた。
ソレを魔術士は杖で指す。

「魔力がある。開けろ。」

「ありゃ、ダメですよお。」

「怪しいな。開けろ‼︎」

「開けたらダメになるんでさぁ。」

「いいから開けろ!」


杖を突きつけられ、御者はため息混じりに手を掛けた。
兵達も取り囲んで身構えながらじっと見る。
大人一人横たわれそうなその箱は…。

じゅっと音を立てて蓋が開いた。
ぼふっと白い物が目を眩ませる。
魔道士が慌ててその白い煙を薙ぎ払うと、馬車の中は冷気に覆われた。
箱の中は凍ったスイーツが詰め込まれていた。

「王都のお菓子は日持ちがしねぇから、凍らせて運ぶんでさぁ。でも一回開けたら、もうこりゃ持ちませんやぁ。」

気の抜ける御者の声に隊長は咳払いする。
こんな凍った中に隠れられない。

「撤収!」叫ぶ。

「もう一方の馬車を捕まえるぞっ!」

「邪魔したな!」

後も見ずに兵達が去っていく。
箱に蓋をして、馬車に封を仕直し、ぶつぶつと文句を言いながら背中を丸めて御者は再び馬を走らせた。



~~~そうしてエルランスの境を越えた時、迎えの馬影が待っていた。

凍らせる為の魔石とその結界に紛れ込ませた結界。
そこからようやく解放されたルークは、強張った体を伸ばしながら、出迎えてくれた兵達に親指を立てた。
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