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押しかけ護衛はNoとは言えない

7 お好み焼きにかつおぶし

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お好み焼きの上でかつおぶしが踊る。
その動きはニョロニョロの集団の様で、ちょっと不気味で滑稽で、ジャダは物凄く見入っていた。

白いマヨネーズをレースのように飾った黒っぽいソースは、土台の肉と野菜の色をほんのりと見せている。
ただでさえ暴力的な匂いなのに、削りたてのかつおぶしが飢餓感をげんげんとどついてきた。

生唾が湧くのを、口をきつい一文字にして堪える。
必死で眉を顰める威圧感たっぷりの顔をしているが、見えない尻尾がぶんぶんと嵐を興しているようでレンはふふふんと口元を緩めた。

そうだろう。
美味そうだろう。
そうやって美味しいものを崇めるがいい。
そのまま美味しん坊になっていくのだ!

あれ以来レンは食事を作っている。
台所という領域はすでに完璧に掌握済みだ。

さすが異世界人の召喚を四年に一度やってる国。
食材がハンパ無い。
市場でマヨネーズを見つけた時、レンは飛び付いた。
ラノベでも信者マヨラーを増やす傑物だが、この世界でも鉄板だった。
マヨネーズ、それは地球人の生物的至宝だ。
地球世界の文化遺産にもなるべき物だ。

さらに市場の端っこで元の世界でも"世界一硬い食べ物"と称された鰹節を見つけて、まんま一本買い込んだ。
初めはおまけに付けてくれた削り機でガッシュガッシュ削っていたのだが…

見よ‼︎
この美しい風魔法の奥義をっ‼︎

レンは興に乗って胸を張り顎を上げ両腕を広げてしなやかなポーズをとった。

風のカッターに削られて、しゅるしゅるとかつおぶしが舞い上がる。
それは光を透かすほどに薄くて美しい。
羽衣のようにふわりと宙を舞ってから、細かくなってお好み焼きに降り注いだ。
熱いお好み焼きの大地に降り立ったかつおぶしは、その熱波で香りを撒き散らしながら踊りまくるのだった。


風魔法をモノにするという目標を成し遂げたレンは、その集大成といえる技をドヤ顔で披露していた。
三階の窓からの出入はマスターした。
そして今、鉱石のように硬い鰹節を削る程の攻撃力がある上に宙で舞わせる程に繊細に扱えるのだと見せている。
どうだ。
勿論、合格だよな!
合格したらギルドに連れてくと言質は取ってある。
つまり明日は冒険者ギルドだ‼︎
レンはわくわくと鰹節を削った。


ジャダの喉がぐひっと鳴った。
生唾を堪え過ぎて頬が痛い。

いまや台所はレンに占拠され、ジャダの胃も占拠されている。
いや、占拠というより鷲掴みというべきだ。
ジャダはお預け状態で、情け無くレンを見ていた。

レンはきらきらした目で踊るかつおぶしを見ている。
楽しそうに口元がによによしている。
それは悪戯っ子のようで微笑ましい。
初めて会った時の神秘的な静謐さも、激しい激情もただの幻だった。
それは異世界人だと言う目で見ていたのだと思いしった。
そのくらいにレンは日常に楽しげにすごしている。

伸びた髪を高い位置で一つに括っているおかげで、すんなりした首元が見える。
それが興奮で色づいているのを、ジャダは複雑な思いで見た。

どうしても冒険者ギルドに行く事になりそうだ。
その為にレンは寂しさも心細さも不安も封印してきたのだから。
リンドルム様からもニャウム様からもレンの価値観の話を聞いている。
一緒に暮らしてみて思った。
本当に、本当にレンはそっちの危機意識が少ない。

市場でおまけしてくれるおっさんも、パン売りの兄ちゃんも
俺が一緒にいなかったら、尻を撫で回されて連れ込まれていただろう。
忌々しいことに、そんな危機意識を指摘するのは俺しかいない。


ジャダはお好み焼きにかぶりついた。
うまい!
レンの作るものは全てが美味い‼︎

レンはにっこりとサムズアップしてから、次のを焼くのに背を向けた。
ふさんと馬の尻尾のような髪が揺れる。
大きく入った銀のメッシュが揺れの中でひゅるりと光る。

ちっ。

可愛いじゃないかぁっ。

わかってる。
レンに不埒な目を向ける奴を威嚇し過ぎたのだ。
気がつかれる前に、整理整頓し過ぎたのだ。

今日こそ言わなくては。
ギルドに行く前に言わなくては

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