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押しかけ護衛はNoとは言えない

6 恋と呼ぶものかもしれない

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「風の魔法を足の下に廻せば、三階の窓から出入りできるな」
ボソッと言ったら、レンはすぐに食いついて来た。

すげぇよリンドルム様。
レンの事はお見通しってわけだ。
そのむちっと丸い特異な姿に、誰も喧嘩を売ったり馬鹿にしたり出来ないのは凄く良くわかった。いや、身に染みてわかった。

だってジャダが護衛に名乗り出た時、リンドルム様の糸目がきらっと光ったのだ。

サンドロは割と甘ったれだ。
少子化で厳しく躾けられててもおぼっちゃまで甘ちゃんだ。
でも真っ直ぐで、思い込んだら周りが見えなくなるけどいい奴だ。
一族の端の端の末端の俺にも、年齢が近いと頼ってくる。
今回は番探しだと言う事で、わけ知り顔の年寄りを嫌がって俺に護衛を依頼して来た。

で、お披露目会の一発目でやらかした訳だ。

領主と年寄り達に「お前が見張っていたろうが‼︎」と散々叱られたが、理不尽だと思う。
あの瞬殺に対処できる奴はこの世にいないぞ!いる訳ないぞっ‼︎

殴られた異世界人は顎も目もやられて、生死の境を彷徨ってるという。
なのに反省しないでむしろ不貞腐れているサンドロに、リンドルム様は番の記憶を見せた。何故か俺も一緒に。
多分この時には俺をレンに付けようと考えてたんだと思う。

記憶は…なんというか…心が痛かった。
大事な子供を虐げる奴がこの世にいるなんて信じられなかった。
自分で育てられないなら、欲しいと願う者にやればいい。
子供を求める者は山の様にいるはずだ。
こっちの世界に来て良かったじゃないかとすら思った。

そして何より、痩せこけて目をぎらつかせた子供が必死で妹を庇う姿が切なくて尊くて胸が一杯になった。
殴られても蹴られてもしがみついていくその子を、抱き締めてやりたくて涙がでそうだった。


そうして会ったレンは、銀の星をはらんだ藍色の目と煌めく様な黒曜石の目で俺をじっと見て会釈した。
なんだろう。その静かな視線が心の奥にぽちゃんと落ちて、うわんうわんと水紋を広げていく。

病み上がりの華奢な肩。両手で隠れそうな小さな顔。
あのギラついた獣の様な子供は何処にもいなかった。
まるでお伽話の王子のように、綺麗でおとなしくて静かな子供。

この子供に謝罪を受け入れてもらって、決められた罰則を出来るだけ軽くするのが俺の役目だ。

彼に希望を聞くと、目の中に銀の光が宿った。

「ハナを。」
「ハナの幸せを」
「ハナが」

言うたびに熱風が吹き付ける。
藍色の目から銀の光がこっちを飲み込む様にギラギラと渦巻いた。
ああ、あの子供だ。
飛び付いて噛み付く、獣の様なあの子供だ。

その銀の炎に心が粟立って波打って、嵐の様に揺れ動く。
なんだろうこの気持ち。
その炎に炙られて焼かれたいという憔悴感は


サンドロはハナを見て、「彼女だ」と思ったと言う。
このジリジリと焼ける感じは番とは違うと思う。
でも目を逸らせない。レンを守りたい。


異世界人は子供をつくれる。
魔素に晒されてない身体は、元気な子供を作れる。
番の現れなかったレンを求める声が、あちこちで怨嗟の様に上がっている。
嫌がっても攫ってしまえばこっちのものだと回廊で言ってる奴らがいた。


リンドルム様は怪しげだが公正な人だ。
王も女神の恩寵を折る事はしない。
王宮と縁のない者がレンを絶えず守れればいいのだ。

ジャダは己のしでかした罪に項垂れるサンドロと、領地にまで及ぶその罰を軽減させる為だと護衛を申し出た。
リンドルム様の目がむふんと満足そうに閃くのを見て、操作されているのを悟った。
そうだ、俺は本当は領地だのサンドロの事だの考えてはいない。
俺はこの子供が幸せになるのを見届けたいのだ。
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