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番は特別らしい

6 華火の終わり

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ハナは意識のないレンの手をぎゅっと握りながら震えていた。
目の奥には赤い筋を空中に軌道のように延ばしながら飛んでいく姿がある。
昔、私を庇ったレンちゃんがいっぱい殴られて、ぶしっとし吹く血に叫んだ。
レンちゃんはいつも私を庇って怪我をしていた。いつも食べ物をくれた。
そんなレンちゃんに甘えて、いつも私は動けなかった。

あの日、叫んでからそれが変わった。
私でも叫べる。叫んでいいんだとわかったから。
それでもなかなか思うように振る舞えないけれど、レンちゃんはそんな私を守ってくれる。


馬鹿だ。

こっちに来てわかった。
レンちゃんは大きくて強くて優しいと信じてたけど、私の双子だ。
この手首の細さも目を閉じた子供っぽさも、こっちの人にしてみたらちっちゃい子供のものだ。
レンちゃんは私の為に必死で大きく見せてたんだ。
いつだって、いつだって、頑張ってたんだ、私の為に。

こっちでは好きに生きようね、我慢しないでね。って言い合った。

だからレンちゃんを解放しなきゃいけない。
心配して守られるのは幸せだけど、レンちゃんはレンちゃん自身を守らなくちゃいけない。

ぱたぱたとシーツに涙の音が当たった。
この泣くだけという甘えた事をそろそろ終わりにして。
私は今度こそ自分の足で立って叫ばなくちゃ。


カールおじさんって不思議。
あのぽわんとした感じが、とっても安心する。
いつのまにかいろいろ話してた。
レンちゃんがいつだって守ってくれて、怪我をしてたこと。
「ハナ様も頑張りましたね」 って
ふにゃんと笑ってくれて、ハナはむずむずする気持ちだった。

レンちゃんを殴ったアイツは私の番だと言う。
え?あんな赤鬼みたいのが、私の相手⁉︎

脚がブルブル竦んだけど、"駄目!"と自分を叱った。
聞いて、理解して、考えなくちゃ。

私は華火という母親の気分次第で転がされるペットじゃ無くて、ハナという人間になるんだ。
レンちゃんに安心してもらえるような、幸せな人間になるんだ。

アイツの名はサンドロ・アンパット。
サンドロは私がきゃっと言った時、レンちゃんが私に危害を加えたのだと思ったという。
え?レンちゃんが殴られたの、私の所為なの?

「いえ、100%サンドロ様が悪いです」

カールおじさんがしれっと言うから、なんか力が抜けた。

「ハナ様がトラウマだと仰るなら、私どもは無理に番だとお勧めしませんから。ご安心くださいね。」

え?いいの?
番って魂の半分だからとっても大事って習ったわ。
相手が亡くなったら死んじゃうくらいに大事って習ったわ。

それに…私の為にレンちゃんを殴ったって言うけど。
私は殴られたりしないの?
気に食わないって殴られたりしないの?

ううん。
私はもう誰かの気分で殴られたりするのは嫌。
今度は私がレンちゃんを守れる様になるんだから。


そうやって、
「サンドロ様が謝罪とお話しをとおっしゃっていますが、どうします?」
って言われて小さい部屋に向かった。

怖い。
凄く怖い。
胃が凍ってプルプルしている。
でも私は変わる。
気分次第で服を買ったりパンを投げてくる母親のような女にはならない。
ちゃんと今を見て、考える。
カールおじさんもついててくれるし。
ニャウムさんもついててくれるし。
大丈夫。怖くない。



部屋の中に。
大きな図体で背中を丸めた、眉を下げてる大型犬みたいな人がいた。
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