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異世界の事情

5 レンと新しいスタート

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俺とハナは双子だ。
俺は男だからハナを守る。
俺は兄ちゃんだからハナを大事にする。と思ってた。

母ちゃんは綺麗で可愛いくてハナに似ている楽しい事が好きなバカだ。
バカなのに夜露死苦という難しい漢字を好むから、俺達も蓮華れんげ華美はなびって言う変な名だ。
"お泊まりデート"にドアに鍵掛けて、パンを一つ投げ込んで二歳児を置いていく様な女だ。
もちろん何日も帰って来ない。
俺は泣くハナを慰めて、散らかるゴミから食べる物が無いか漁った。

父ちゃんは知らない。
時々新しい父ちゃんが出来るけど、大概ろくでなしだった。
母ちゃんの友達ってのがしょっちゅう来るけど、顔を見たら殴られるから、ハナと公園のタコ滑り台の下でいつもしゃがんでた。

ハナは怒鳴られるのに弱い。
大きな声で怒鳴られると震えて動けなくなる。
ハナはすっごく可愛い顔をしてるから、時々母ちゃんの友達が撫でてくる。
頭だけじゃ無く体も触ってくるから、気持ち悪くて隠す様にしている。

ある日そいつが母ちゃんのいない時にハナのパンツを脱がそうとした。
俺はそいつに噛み付いて、動けないハナを引っ張って逃げる。
いつもの公園に逃げようとした。
でもドアは鍵が掛かって開かない。

「クソガキがっ‼︎」
拳骨を喰らって飛んだ。

レンの体はドアに当たって散乱したゴミ袋に転がる。
わ~んと頭の中に羽音が湧く。

怖くて竦んだハナを掴むと、そいつは引きずる様に部屋に戻っていく。
レンは四つん這いのままに後を追うと、そいつのでかい尻に殴りかかった。

「このガキっ!」
腹に蹴りが入って
グボっと胃液が飛ぶ。
そのまま台所テーブルに突っ込んだ。

げぼげぼと体を丸めて息を吐く。
全身がどくんどくんと呻いている。

みるとそいつはハナを布団に突き飛ばしていた。
ハナはブルブル震えて声が出ない。

だめだ‼︎
だめだ‼︎ だめだっ!
熱いのと痛いのにがくがくしながら、テーブルの上のポットを掴んだ。

ハナを返せ!
ハナをいじめるなっ‼︎

ハナのスカートにしゃがみ込むそいつの頭に叩き付ける。

ごずっ。
音がして、ぎゃっと声があがった。

幼いレンでは威力が無い。
それでもそいつは顔を歪めてレンに向かってきた。


こぶしが見える。
 頬がぐもっという。
こぶしが見える。
 腹がげぼっという。
目の前が赤く染まって、何が何だかわからない。

体が吹っ飛んだ時。
きつく握ってたポットが飛んで、窓を突き破って外に落ちていった。

そのガラスの破裂音がハナの心を揺さぶった。
血飛沫と怒号で凍った心が揺り動く。

「ひぅ…」
微かな嗚咽が、今まで塞がっていた喉を開いてハナは叫んだ。

「いやあぁぁぁっ レンちゃあん!レンちゃあん‼︎」

ガラスの割れる音と女児の甲高い叫びは通行人の注意を引いた。

警察がそいつを捕まえて。
レンは救急車で運ばれた。
レンの側からハナは離れようとしなかった。
そして退院の時、母ちゃんじゃなく爺ちゃんという人がきた。

爺ちゃんはいい人だった。
レンとハナは初めてお腹いっぱい食べた。
隠れて眠る事も無くなった。
そしてゆっくりとハナも笑う様になった。
人生には楽しい事もあると知っていった。


だから異世界に来て、新しいスタートは三度目だ。
二度目は爺ちゃんが死んだ時。
一年前に高校に入学した時、ふうっと亡くなった。
勉強しろって言って、金も遺してくれたからとりあえず高校に行ってる。
でもこの世に二人で取り残されてしまった。
それからは互いがつっかえ棒のようで、支え合っていた。

今度のスタートは異世界だ。
結婚だと言う。
番って、大事で愛おしい魂の半分なんだそうだ。
ハナも大事にしてもらえて守ってもらえるんだ。
そうだよね、もうハナが縋る相手は俺じゃ無い方がいい。
ハナも独り立ちして、好きな相手と生きた方がいい。
今度こそハナが幸せになれる。
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