上 下
6 / 63
異世界の事情

4 カールおじさんと召喚

しおりを挟む
カールは床の魔法陣が完全に光を消すのを待った。
今回はチキュウという世界のニホンという国だと言う。
素早く魔法陣の中の人数を数える。
男が3人女が9人、合計12人だ。

ありがとうございます、女神様。
前回の召喚者は既に平均2、3人の子供を産んでおります。
女神様のおかげで子供は増え、人口の裾野は順調に広がっております。
カールは感謝の祈りを唱えた。


さあ、これからだ。
上手く魔法陣から出てくる様にしなければ。

この魔法陣は元の世界と繋がっている。
いわばその中はまだ向こうの世界なのだ。
この魔法陣から出た途端にこちらの世界の者となる。
それも女神様の計らいで、元の世界への未練や記憶は薄れていくのだ。
ここから出てくれたら、この召喚の儀は成功と言っていいのだ。

以前は異世界というものに恐怖と拒絶で、気を失ったり暴れたりしたらしい。
魔法陣としての機能が完全に停止してないうちに暴れられたら、さらに別な世界に飛ばされるという事故もあったそうだ。

優しく、穏便に。まず魔法陣から連れ出す事が私の優先課題だ。
幸いチキュウのニホンは、列になって集団で行動する本能があると24年前の記録に書かれていた。
"冷静に考えさせず、自信ありげに行き先を示し、速やかに連れ出す事が成功の鍵だ"と、但し書きがあった。

そんな訳で無事部屋に案内して。
次に記憶を吐き出させる。

「人権無視」
「家畜扱い」
「ヤリ目的」
そんな怒号を聞き流す。

カールは煽る。

出せば出すほど、空いた心と記憶の隙間をこの世界が埋めていくのだ。
叫んでいるうちに、自分が何故怒っているのかわからなくなった女の子がぽやんと辺りを見回してきた。
良し良し。こうやって記憶に膜を被せていくのだ。

でも、やだよねぇ。
私だったら家族から引き離されたら、辛くて死にたくなるからねぇ。
カールはポケットに手を入れて石を握った。
すべすべな冷たさが自分を落ち着かせてくれる。

カールはにこにこと異世界人達を調べる。
カールがこの役職に着いたのは鑑定の能力があるからだ。
それも誤魔化せない程に強力な。

異世界人達はだいたい光だの剣聖だのを持っている。
女神様から貰ったものだ。
どうせレベルは1どまり。大したものじゃ無い。
すぐに番と出会って、夢中になって、訓練なんて地道な事は考えもしなくなる。
この子らの魔法はどうせせいぜい生活に使えるものになるくらいだろう。

召喚に慣れた異世界では、チートと言って女神様から能力を奪おうとしたらしい。うんざりした女神様は、直接前に現れなくなったらしい。
祝福の魔法もたいしたものを渡さなくなったそうだ。
おかげであまり珍しい固有魔法は見つからない。

そう思っていた時、その二人に気がついた。兄妹だ。
喚く同朋を、部屋の隅から醒めた目で見ている。
その能力を読んで、ひくっと口元を引き攣らせた。

うっわぁ! 耐性のパレードだぁ。
物理も精神も、異常耐性もある。しかも毒まで⁉︎
なんだこの子ら、腐った物食べて殴られていたのか⁉︎
男の子なんか物理はレベルは7だし他もすんごく高い。

ちょっと待ってくださいよぉ。
こんなに耐性があったら、この世界になかなか染まったりしてくれないんじゃないかなぁ。
しかもこの男の子、文字化けして読めないのが続いてる。
まさかのシークレット固有魔法だ‼︎
これって女神様が気に入りに付けるおまけみたいなもんだよね。

女の子は儚い人形の様に。
男の子はギラつく目で、辺りを見ている。


カールは、自分が言う事じゃ無いけれど…
と、脳内で一人問答しながら女神様に祈った。

この子達が素晴らしい番と出会って、幸せになりますように。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

日乃本 義(ひのもと ただし)に手を出すな ―第二皇子の婚約者選定会―

ういの
BL
日乃本帝国。日本によく似たこの国には爵位制度があり、同性婚が認められている。 ある日、片田舎の男爵華族・柊(ひいらぎ)家は、一通の手紙が原因で揉めに揉めていた。 それは、間もなく成人を迎える第二皇子・日乃本 義(ひのもと ただし)の、婚約者選定に係る招待状だった。 参加資格は十五歳から十九歳までの健康な子女、一名。 日乃本家で最も才貌両全と名高い第二皇子からのプラチナチケットを前に、十七歳の長女・木綿子(ゆうこ)は哀しみに暮れていた。木綿子には、幼い頃から恋い慕う、平民の想い人が居た。 「子女の『子』は、息子って意味だろ。ならば、俺が行っても問題ないよな?」 常識的に考えて、木綿子に宛てられたその招待状を片手に声を挙げたのは、彼女の心情を慮った十九歳の次男・柾彦(まさひこ)だった。 現代日本風ローファンタジーです。 ※9/17 少し改題&完結致しました。 当初の予定通り3万字程度で終われました。 ※ 小説初心者です。設定ふわふわですが、細かい事は気にせずお読み頂けるとうれしいです。 ※続きの構想はありますが、漫画の読み切りみたいな感じで短めに終わる予定です。 ※ハート、お気に入り登録ありがとうございます。誤字脱字、感想等ございましたらぜひコメント頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。

昔会った彼を忘れられないまま結婚します

羽波フウ
BL
魔法大国ラトランドと軍事大国ウィンター王国の間に結婚マッチング制度ができた。 ラトランドに住んでいるルシア。 昔、つらい幼少期に出会った少年がいた。 彼と"将来再会して結婚しよう"と約束をしていたが、名前すら知らない彼とは会えそうにないと諦め、マッチングされたウィンター王国の第一騎士団長と結婚するためにウィンター王国へ行くが… イケメン騎士団長×美人魔法使い(ルシア) 魔法がある世界線 ハッピーエンド保証 誤字脱字は見つけ次第修正します

【R18】ひとりで異世界は寂しかったのでペット(男)を飼い始めました

桜 ちひろ
恋愛
最近流行りの異世界転生。まさか自分がそうなるなんて… 小説やアニメで見ていた転生後はある小説の世界に飛び込んで主人公を凌駕するほどのチート級の力があったり、特殊能力が!と思っていたが、小説やアニメでもみたことがない世界。そして仮に覚えていないだけでそういう世界だったとしても「モブ中のモブ」で間違いないだろう。 この世界ではさほど珍しくない「治癒魔法」が使えるだけで、特別な魔法や魔力はなかった。 そして小さな治療院で働く普通の女性だ。 ただ普通ではなかったのは「性欲」 前世もなかなか強すぎる性欲のせいで苦労したのに転生してまで同じことに悩まされることになるとは… その強すぎる性欲のせいでこちらの世界でも25歳という年齢にもかかわらず独身。彼氏なし。 こちらの世界では16歳〜20歳で結婚するのが普通なので婚活はかなり難航している。 もう諦めてペットに癒されながら独身でいることを決意した私はペットショップで小動物を飼うはずが、自分より大きな動物…「人間のオス」を飼うことになってしまった。 特に躾はせずに番犬代わりになればいいと思っていたが、この「人間のオス」が私の全てを満たしてくれる最高のペットだったのだ。

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

【R18】ショタが無表情オートマタに結婚強要逆レイプされてお婿さんになっちゃう話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

追放先で断罪に巻き込まれた騎士の少女は、破滅王子を救うことにした

juice
ファンタジー
若くして国王騎士に任命された主人公のアンは、自国を追放されて、別の国に流れ着いた。 その国ではちょうど、王太子による王子妃の決定と婚約令嬢の断罪が行われており、アンはその騒動に巻き込まれてしまった。 このままでは破滅する王太子。 気は進まないながらも、彼を助けることにするのだが……。

いともたやすく人が死ぬ異世界に転移させられて

kusunoki
ファンタジー
クラスで「死神」と呼ばれ嫌われていたら、異世界にSSレア種族の一つ【死神】として転生させられてしまった。 ……が"種族"が変わっていただけじゃなく、ついでに"性別"まで変わってしまっていた。 同時に転移してきた元クラスメイト達がすり寄ってくるので、とりあえず全力で避けながら自由に異世界で生きていくことにした。

処理中です...