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そして王宮
40 サモエドの塔
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その馬車は、途中から消え失せた。
そしてそのまま学園の端にあるサモエドの住処に向かった。
オーランジェ邸が慌しく面倒くさくなるから、レリアを引き離す為だ。
馬車を止めて御者台から降りたベルガーが扉を開ける。
手を差し出して降りるのを補助すると、直ぐに塔の入り口が開いた。
「おかえり。」
サモエドはご機嫌だ。
一人でこの塔に篭って、決して寂しいとは思っていないが、たまに来る客人は大歓迎だ。
塔の中はいろんなハーブの香りがした。
いつも薄暗い玄関が煌々と明るい。
入ってすぐ前にどんと螺旋階段があり、その横から応接間が見える。
円形の応接間は四方に大きな窓があり、そこにはドライフラワーで作ったガーランドやサンキャッチャー、モビールがごちゃごちゃとぶら下がっていた。
キルティングと言えば聞こえのいい、ハギレを撚り合わせたカバーがソファを覆って。
色が氾濫している。
これは、引き篭もりで偏屈に見えるサモエドが実は活動的で。
特に下町の孤児院や養護院に足繁く通った結果、いろんな手作り品が集まってしまったものだ。
どうせ客は来ないからと散らかり放題だった部屋は、今は埃も無く照明器具さえ磨かれている。
クリーンを掛けただけではあり得ないまとまりは、しばらく"暮らす"と決まったおかげでベルガーが掃除したのだろう。
「そこに立って!立って‼︎」
見えない尻尾を大きく振る様に、サモエドはレリアを部屋の真ん中に立たせた。
そしてぐるぐると周りを回る。
おい、と、眉を顰めるセバスティンを気にも留めず、前、後ろ、横と回り込んでから、ほうっと息を吐いた。
「成人かぁ….、大きくなったねぇ…」
甘い優しさを含んだ声に、レリアの胸はきゅんとなった。
サモエドはナニーのベルを与えてくれた。
今もベルガーは寄り添ってくれてる。
サフィアとセバスティンと言う身近な大人よりも、サモエドはレリアにとって慕わしい家族だった。
食堂と兼用で、どんと置かれたテーブルの椅子をセバスティンは引いた。
「疲れただろうが、私は今夜帰る。話しを」
無表情に見えるが、興奮しているのがありありとわかる。
レリアはベルガーを引かれた椅子に黙って座った。
直ぐに目の前にお茶が出される。
「きっと明日からオーランジェ邸に招待状が山の様にくる。これは変節せずにサフィア様を慕ってくれた者のリストだ。」
渡された紙束をベルガーがすっと受け取る。
「この者達と懇親を深めて構わない。
それ以外はにっこり笑って、無視だ。」
人の心で一番怖いのは自分だ。
理性とモラルと罪悪感。そして疑心暗鬼。
ソレは自分の一部のはずなのに知らなうちに大きくなる。
どんどん心を蝕んで、勝手に堕ちていく。
謝罪の言葉は受けなくて良い。
無視だ。
そうすれば、勝手に苦しんでもがいていくからな。
そう言って笑うセバスティンは
ちょっと魔王のようだった。
デビュタントは学園の長期休暇とあわせて行われる。
そして始まる社交の季節。
あの館に帰る術の無いレリアは、ここかオーランジェ邸で過ごす。
母様は心配だけど…
セバスがいるから大丈夫だよね。
おやすみの挨拶をして、レリアはベルガーと部屋のある二階に昇る。
四つに仕切られた階の南側の部屋がレリア専用だ。
白い上着を脱がせてもらう。
……肩が凝った。
人の視線に晒されて、背筋を伸ばし続けるのはとても疲れる。
猫足のバスタブにはすでに湯が用意されていて。
その中に浸かるとレリアはほおぉぉっと息を吐いた。
そしてそのまま学園の端にあるサモエドの住処に向かった。
オーランジェ邸が慌しく面倒くさくなるから、レリアを引き離す為だ。
馬車を止めて御者台から降りたベルガーが扉を開ける。
手を差し出して降りるのを補助すると、直ぐに塔の入り口が開いた。
「おかえり。」
サモエドはご機嫌だ。
一人でこの塔に篭って、決して寂しいとは思っていないが、たまに来る客人は大歓迎だ。
塔の中はいろんなハーブの香りがした。
いつも薄暗い玄関が煌々と明るい。
入ってすぐ前にどんと螺旋階段があり、その横から応接間が見える。
円形の応接間は四方に大きな窓があり、そこにはドライフラワーで作ったガーランドやサンキャッチャー、モビールがごちゃごちゃとぶら下がっていた。
キルティングと言えば聞こえのいい、ハギレを撚り合わせたカバーがソファを覆って。
色が氾濫している。
これは、引き篭もりで偏屈に見えるサモエドが実は活動的で。
特に下町の孤児院や養護院に足繁く通った結果、いろんな手作り品が集まってしまったものだ。
どうせ客は来ないからと散らかり放題だった部屋は、今は埃も無く照明器具さえ磨かれている。
クリーンを掛けただけではあり得ないまとまりは、しばらく"暮らす"と決まったおかげでベルガーが掃除したのだろう。
「そこに立って!立って‼︎」
見えない尻尾を大きく振る様に、サモエドはレリアを部屋の真ん中に立たせた。
そしてぐるぐると周りを回る。
おい、と、眉を顰めるセバスティンを気にも留めず、前、後ろ、横と回り込んでから、ほうっと息を吐いた。
「成人かぁ….、大きくなったねぇ…」
甘い優しさを含んだ声に、レリアの胸はきゅんとなった。
サモエドはナニーのベルを与えてくれた。
今もベルガーは寄り添ってくれてる。
サフィアとセバスティンと言う身近な大人よりも、サモエドはレリアにとって慕わしい家族だった。
食堂と兼用で、どんと置かれたテーブルの椅子をセバスティンは引いた。
「疲れただろうが、私は今夜帰る。話しを」
無表情に見えるが、興奮しているのがありありとわかる。
レリアはベルガーを引かれた椅子に黙って座った。
直ぐに目の前にお茶が出される。
「きっと明日からオーランジェ邸に招待状が山の様にくる。これは変節せずにサフィア様を慕ってくれた者のリストだ。」
渡された紙束をベルガーがすっと受け取る。
「この者達と懇親を深めて構わない。
それ以外はにっこり笑って、無視だ。」
人の心で一番怖いのは自分だ。
理性とモラルと罪悪感。そして疑心暗鬼。
ソレは自分の一部のはずなのに知らなうちに大きくなる。
どんどん心を蝕んで、勝手に堕ちていく。
謝罪の言葉は受けなくて良い。
無視だ。
そうすれば、勝手に苦しんでもがいていくからな。
そう言って笑うセバスティンは
ちょっと魔王のようだった。
デビュタントは学園の長期休暇とあわせて行われる。
そして始まる社交の季節。
あの館に帰る術の無いレリアは、ここかオーランジェ邸で過ごす。
母様は心配だけど…
セバスがいるから大丈夫だよね。
おやすみの挨拶をして、レリアはベルガーと部屋のある二階に昇る。
四つに仕切られた階の南側の部屋がレリア専用だ。
白い上着を脱がせてもらう。
……肩が凝った。
人の視線に晒されて、背筋を伸ばし続けるのはとても疲れる。
猫足のバスタブにはすでに湯が用意されていて。
その中に浸かるとレリアはほおぉぉっと息を吐いた。
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