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学園

26 温室の二人

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温室で、レリアはぼんやりと座っていた。

なんで来ちゃったんだろう。

自分に混乱している。

眼鏡を外し、片目を隠す為に髪に分け目を入れて流している。

なんで待っちゃってんだろう。

……もし、けたたましい馬鹿ップルで現れたとしたらどうしよう。

リーリア嬢と一緒にきゃっきゃっと来たら、この楽園の様な温室が壊れてしまう気がした。

ふっと息を吐いて上を見る。
肩と首に頭をずんとのせる。
頭の上には新緑が広がっている。
何本かの木で、濃い影も薄く透けて見える影もあって、その間から陽がちらちらと瞬いている。


ああ、このまま来なければ良いのに。
そうしたら、待ちぼうけでやっぱりアイツは大嫌いだ!と、思うだけで済むのに。

香草と花の香りが混ざった匂いを思いっきり吸い込む。
下を向くと、肩に血流が戻ってずくんずくんと脈を打った。





入り口付近で人の気配がする。
野放図に伸びた草を踏み締めた、匂いが辺りに立ち込めた。
首をもたげてそっちを見る。

そこには赤褐色の髪を後ろに引っ詰めて、額を出したザラドが、アイスブルーの瞳を見開いて立っていた。


~~一人で。

見開いた目が揺れている。
陽射しの中で、そのアイスブルーがキラキラしている。
彼も躊躇したんだな。
って思うと、肩から力が抜けた。




「やあ。」

照れた様に、ザラドがぶっきらぼうに言う。

「やあ。」

返しながら、足元をみる。


なんと言うことも無く、ギシリとベンチに座ると、二人はただ足元を見つめた。

ふんわり立ち昇るミントの混じった香草の中で、何故かレリアは安堵していた。

一人で来てくれた事が嬉しい。
おずおずとしてくれてた事が可笑しい。
口元がによによと上を向く。



ザラドはベンチの隣で、ゆっくりと力を抜いていった。
ちらちらと伺う横顔は美しくて。
長いまつ毛が影を作っている。

ここに来る事にとても葛藤した。
つい本音を吐き出した相手に、どんな顔をして会えばいいのかわからなかった。
でもまた会ってみたくて。
ずっと心は揺れていた。





『え~、どこいっちゃうのぉ?』

と、リーリアが頬を膨らませて言う。

『一緒にサロンにいきましょうよぉ』

昨日買ったドレスを見て欲しい。
コレに会うアクセサリーの話がしたいの♡
と、いつものように可愛いらしくねだって来るけれど。
今日は何故か心に響かない。

それよりも。

あの温室に行くのを邪魔されたくない。
あの温室を知られたくない。

そんな気持ちが迫り上がって、頑なになっていく自分がいた。

リーリアに申し訳なさが込み上がってくる。

でも譲れない。
言葉にも出せない。

そんな葛藤の中でもがいて、生温い何かを振り払う様にここに来た。
そうして、ザラドはようやく息がつけた気がした。
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