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学園
24 温室のザラド
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枝の折れる音で、うたた寝をしていたレリアはふっと目覚めた。
しまった!
眼鏡を外している!
左の方に頭を倒していたレリアは、咄嗟に左手で顔を隠した。
恐る恐る顔をもたげて右目で見ると、そこにザラドがいる。
驚きのあまりレリアは声を失った。
ザラドは口を開けて棒立ちになった。
眠っていた妖精は、驚いた様に目を開けた。
慌てて片手で顔を隠す。
でも覗いた目は紫色で。
初めて見る程に、深い熟れた葡萄のように濃い紫色だった。
覆った手の上に、黄金の髪がふわりと流れる。
表情があって、動いて、でも人間離れして。
……本当に妖精なのかも知れない。
「す、すまない。脅かすつもりは無かった。
俺はザラドと言う。」
ぎこちない挨拶に、レリアは自分を誰だか分かっていない事を悟った。
認識阻害する眼鏡を外しているお陰だ。
そしてこの左手を、外してはいけない事も悟った。
この左目は濃金色。
王族の血筋の色だ。
知られてはいけない。
黙って頷くと、そっと体をずらしてベンチに座れる様に空きを作った。
相手が名乗らない事に戸惑いながら、ザラドはベンチの右隣に腰を下ろす。
内心レリアはホッとした。
右隣に座ってもらえれば、このまま正面を見ていれば左目に気がつかないだろう。
そうして、気まずげに座った二人は、ぽつぽつと話し出した。
今更眼鏡もかけれず。
逃げる事もかなわないレリアと。
見知らぬ、さらに人臭さの無い相手にどことなく気を許したザラドが。
何故こんなに素直になるのか不思議に思いながらも、雨垂れのようにぽつぽつと話していた。
時々、ザラドは本当に存在しているのか確認する様に横を見る。
金色の少年は、その金色の睫毛と濃紫色の瞳のまま、形のいい横顔を見せてぽつりぽつりと相槌を打っていた。
悪辣な婚約者を追い払ったのに、幸せでは無い父親。
幸せでは無い母親。
そんな両親の元で幸せでは無い自分。
~~いかん‼︎
まるで不幸自慢をして、そんな自分に酔ってるみたいではないか‼︎
そう思うのに、勝手に口が動いてとまらない…
自分の事を周りが憐れんでいる。
まるで靴の中の小石のように、自分のせいで両親は上手くいかない。
自分の存在をリセットする様に、婚約させられた事。
でもその婚約者も自分の事を疎んでいる事。
自分を解ってくれる者は一人しかいない事。
ダラダラと一人語りの様にそう漏らしていると、
「それ、変だと思います…」
隣の少年が呟く様に言った。
「えっ?」
「それ、変です。」
噛み締めるように言う。
彼の濃紫の目は、じっと前を睨んだままでこっにを向かない。
口元がぎゅっと結ばれて、頬が紅潮していた。
「僕の母様は言い掛かりをつけられて国を追われました。その時の有耶無耶で僕が出来たみたいだから、僕は父親を知りません。
そうやって追い払ったのだから、残された人は幸せに暮らしているとずっと思ってました。
僕みたいに、誰からも声をかけれない訳じゃ無くて。
誰にも相手にされない訳じゃ無くて。
幸せに幸せに暮らしていると思ってた。
~~でも、そうじゃ無かったら追われた人が惨めすぎる。
いつまでもいつまでも悪役にさせられているなんて惨めすぎる…」
ザラドは愕然とした。
全て悪いのは悪役令嬢だと思っていた。
その女が悪辣だから、父と母が結ばれた。
その女が優しい令嬢で、母を虐め無ければザラドが不幸になるなんて無かった。と。
そういえば追放されたその女は一体何をしたんだろう。
虐めた、悪辣と言われたけれど、どんな事をしたんだろう。
何故か訊ねても誰もが答え無い。
その女は今、どうしているんだろう?
不幸になった自分達みたいに、不幸になってるんだろうか。
それとも幸せに?
「あっ‼︎」
小さな声を立てて隣の彼は立ち上がった。
「時間だから行きます。さようなら。」
ザラドは慌てて立ち上がった。
そう言えば名前だって知らない。
「待って、君は?またここに来る?」
レリアは驚いて右目で見つめた。
なんだろう、縋る目をしている。
アイスブルーの目が、ふるふると頼りなげにこっちを見ている。
王子だよな。
あの傲慢で唯我独尊の王子だよな。
なんでこんなに捨てられる犬みたいなんだろう。
そう言えば、王宮側の情報は無いし…
そんな言い訳を自分にしながら、レリアは声を絞り出した。
「二日後に…」
そう言うと踵を返す。
そして振り返らずに枝を掻き分けて出て行った。
あの紫色に映ってみたい…。
レリアの姿が消えて行くのを、ザラドはぼんやりと見送っていた。
しまった!
眼鏡を外している!
左の方に頭を倒していたレリアは、咄嗟に左手で顔を隠した。
恐る恐る顔をもたげて右目で見ると、そこにザラドがいる。
驚きのあまりレリアは声を失った。
ザラドは口を開けて棒立ちになった。
眠っていた妖精は、驚いた様に目を開けた。
慌てて片手で顔を隠す。
でも覗いた目は紫色で。
初めて見る程に、深い熟れた葡萄のように濃い紫色だった。
覆った手の上に、黄金の髪がふわりと流れる。
表情があって、動いて、でも人間離れして。
……本当に妖精なのかも知れない。
「す、すまない。脅かすつもりは無かった。
俺はザラドと言う。」
ぎこちない挨拶に、レリアは自分を誰だか分かっていない事を悟った。
認識阻害する眼鏡を外しているお陰だ。
そしてこの左手を、外してはいけない事も悟った。
この左目は濃金色。
王族の血筋の色だ。
知られてはいけない。
黙って頷くと、そっと体をずらしてベンチに座れる様に空きを作った。
相手が名乗らない事に戸惑いながら、ザラドはベンチの右隣に腰を下ろす。
内心レリアはホッとした。
右隣に座ってもらえれば、このまま正面を見ていれば左目に気がつかないだろう。
そうして、気まずげに座った二人は、ぽつぽつと話し出した。
今更眼鏡もかけれず。
逃げる事もかなわないレリアと。
見知らぬ、さらに人臭さの無い相手にどことなく気を許したザラドが。
何故こんなに素直になるのか不思議に思いながらも、雨垂れのようにぽつぽつと話していた。
時々、ザラドは本当に存在しているのか確認する様に横を見る。
金色の少年は、その金色の睫毛と濃紫色の瞳のまま、形のいい横顔を見せてぽつりぽつりと相槌を打っていた。
悪辣な婚約者を追い払ったのに、幸せでは無い父親。
幸せでは無い母親。
そんな両親の元で幸せでは無い自分。
~~いかん‼︎
まるで不幸自慢をして、そんな自分に酔ってるみたいではないか‼︎
そう思うのに、勝手に口が動いてとまらない…
自分の事を周りが憐れんでいる。
まるで靴の中の小石のように、自分のせいで両親は上手くいかない。
自分の存在をリセットする様に、婚約させられた事。
でもその婚約者も自分の事を疎んでいる事。
自分を解ってくれる者は一人しかいない事。
ダラダラと一人語りの様にそう漏らしていると、
「それ、変だと思います…」
隣の少年が呟く様に言った。
「えっ?」
「それ、変です。」
噛み締めるように言う。
彼の濃紫の目は、じっと前を睨んだままでこっにを向かない。
口元がぎゅっと結ばれて、頬が紅潮していた。
「僕の母様は言い掛かりをつけられて国を追われました。その時の有耶無耶で僕が出来たみたいだから、僕は父親を知りません。
そうやって追い払ったのだから、残された人は幸せに暮らしているとずっと思ってました。
僕みたいに、誰からも声をかけれない訳じゃ無くて。
誰にも相手にされない訳じゃ無くて。
幸せに幸せに暮らしていると思ってた。
~~でも、そうじゃ無かったら追われた人が惨めすぎる。
いつまでもいつまでも悪役にさせられているなんて惨めすぎる…」
ザラドは愕然とした。
全て悪いのは悪役令嬢だと思っていた。
その女が悪辣だから、父と母が結ばれた。
その女が優しい令嬢で、母を虐め無ければザラドが不幸になるなんて無かった。と。
そういえば追放されたその女は一体何をしたんだろう。
虐めた、悪辣と言われたけれど、どんな事をしたんだろう。
何故か訊ねても誰もが答え無い。
その女は今、どうしているんだろう?
不幸になった自分達みたいに、不幸になってるんだろうか。
それとも幸せに?
「あっ‼︎」
小さな声を立てて隣の彼は立ち上がった。
「時間だから行きます。さようなら。」
ザラドは慌てて立ち上がった。
そう言えば名前だって知らない。
「待って、君は?またここに来る?」
レリアは驚いて右目で見つめた。
なんだろう、縋る目をしている。
アイスブルーの目が、ふるふると頼りなげにこっちを見ている。
王子だよな。
あの傲慢で唯我独尊の王子だよな。
なんでこんなに捨てられる犬みたいなんだろう。
そう言えば、王宮側の情報は無いし…
そんな言い訳を自分にしながら、レリアは声を絞り出した。
「二日後に…」
そう言うと踵を返す。
そして振り返らずに枝を掻き分けて出て行った。
あの紫色に映ってみたい…。
レリアの姿が消えて行くのを、ザラドはぼんやりと見送っていた。
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