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学園
23 温室の妖精
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レリアは午前で終わった講義の後、サモエドの塔に向かった。
今日はベルガーのメンテナンスがある。
ベルガーは自動人形だ。
毎日、その核の魔石に魔力を込めている。
だから疑い余地もなく、レオン・ベルガーは自動人形だ。
でも予想を遥かに超えてくる。
侍従としての能力も高いのに、護衛としての能力も高い。
それなのにまだ不十分だと、"ステルス"のスキルが欲しいと言い出した。
ステルスって……。
阻害魔法とか、結界とかも張れる筈なのに、必要か?
『これ以上って、暗殺狙っちゃう感じ?』
ちょっとジョークのつもりで言ったら、綺麗な笑顔を返されたので。
あ、これ、聞いちゃいかん奴‼︎
と思って、サモエドにアポイントをとった。
丸投げしちゃおう。
そして待ち時間は温室でまったりだ。
そこは知る人ぞ知る、というか、学園の都市伝説になってる程に訪れる人のいないありがたい穴場だった。
そこにいる時は眼鏡を外し(かけ続けると、正直頭痛がする。)のんびり出来る。
温室は大きい。
無計画に植えた植物が、勝手に育っている。
道なき道を香草を踏み分けて行くと、真ん中にベンチがある。
踏まれる事で噴き上がった香りの竜巻の中で上を見ると、色々な葉が陽を優しく遮って揺れている。
あちこちにあるドアの先は、減圧されたり氷点下だったりする部屋があって、鉱物の花がシャラシャラと硬くて高い音で揺れていたりする。
それら全てが錬金の素材らしい。
この一番大きい温室が、馴染みがあって落ち着く。
光を揺すり上げる木々をぼんやり見上げているうちに、レリアはうとうとと船を漕ぎ始めた。
その日、ザラドは投げやりな気分だった。
あいも変わらずロダンは訓練に行ってしまった。
デビュタントが近いという事で、リーリアはドレスや宝飾について喋っていた。
リーリアの家は下級貴族で、しかも裕福では無い。
ドレスや宝石をプレゼントしたいが、リーリアの口にするものは高額で、正直手が出なかった。
既にドレスや宝石を贈りすぎて、これ以上予算からは出せませんからと事務官に言われている。
俺は王子だぞっ!
と脅しても、決して折れてくれなかった。
~~金が無いって惨めだ。
リーリアの可愛い顔が曇り、
いいんですぅ。
大丈夫ですからぁ
と、無理に作った笑顔が痛々しくて、心がキュンキュンと揺れた。
ああ、リーリアの笑顔が見たい!
笑顔になれるドレスを贈りたい!
そう、焼け付く様に願った時。
オクタがおずおずと手を挙げた。
オクタは財務大臣の息子だ。
豊かな領地を持ってる上に、運送業まで手掛けていて金は腐るほど持っている。
リーリアはあっという間に笑顔になり、喜びを振り撒いてオクタのエスコートで店へと出掛けていった。
良かった。
リーリアが幸せそうで。
そう思いながらも、心の中にモヤっとしたものが溜まっている。
この気持ちを消化出来ず。
訳知り顔の出迎えの騎士に会いたくなくて。
ザラドは学園の敷地をふらふらと歩き回った。
~~なんだろう、孤独感がのしかかってくる。
冷たい。
痺れるようだ。
そこから逃れようと、ひたすら歩く。
自分を知ってる人間に会いたく無い。
こんな時にお追従を言われたら、キレてしまいそうだ。
だから人気のない場所を歩く。
学園は広い。
講義棟の他に実験棟もある。
森もある。
ちょっとした森は遊歩道も作られているが、敷地の端にあって、ありがたごとに人影が無い。
森の中を歩き回ったザラドは、ソレが温室の鍵になる禹歩をなぞっていることを知らなかった。
もちろんサモエドが密かに(勝手に)許可を出した者の中にザラドはいない。
学園関係の有力者。
王宮関係の有力者。
そしてサモエドの手柄を虎視眈々と狙う王宮魔導師のものだけに許可を出していた。
だからザラドが温室に行き着いたのは、本当に偶然だった。
気がついた時、目の前にガラスで煌めく宮殿の様な温室があった。
そっと入り口を引いてみると、簡単に開いた。
中には嗅いだ事のない南国の草の匂いに満ちている。
そして光でいっぱいだ。
光の中で木や草がいきいきと茂って花や実を付けている。
……凄い。
噂の秘密の楽園を見つけてしまった。
ザラドはどきどきしながら草を踏みしだき、枝をかき分けた。
降り注ぐ光と湿った温かさにほおっと息を吐き出した時。
目の隅にきらりと金色が光った。
そっと近寄ってみると、光を滝の様にゆらめかせた金髪がベンチにうずくまっている。
同じ制服を着た少年…。
黄金の光を反射させて眠っている。
その横顔は絵本の妖精の挿絵のように、あどけなく美しかった。
今日はベルガーのメンテナンスがある。
ベルガーは自動人形だ。
毎日、その核の魔石に魔力を込めている。
だから疑い余地もなく、レオン・ベルガーは自動人形だ。
でも予想を遥かに超えてくる。
侍従としての能力も高いのに、護衛としての能力も高い。
それなのにまだ不十分だと、"ステルス"のスキルが欲しいと言い出した。
ステルスって……。
阻害魔法とか、結界とかも張れる筈なのに、必要か?
『これ以上って、暗殺狙っちゃう感じ?』
ちょっとジョークのつもりで言ったら、綺麗な笑顔を返されたので。
あ、これ、聞いちゃいかん奴‼︎
と思って、サモエドにアポイントをとった。
丸投げしちゃおう。
そして待ち時間は温室でまったりだ。
そこは知る人ぞ知る、というか、学園の都市伝説になってる程に訪れる人のいないありがたい穴場だった。
そこにいる時は眼鏡を外し(かけ続けると、正直頭痛がする。)のんびり出来る。
温室は大きい。
無計画に植えた植物が、勝手に育っている。
道なき道を香草を踏み分けて行くと、真ん中にベンチがある。
踏まれる事で噴き上がった香りの竜巻の中で上を見ると、色々な葉が陽を優しく遮って揺れている。
あちこちにあるドアの先は、減圧されたり氷点下だったりする部屋があって、鉱物の花がシャラシャラと硬くて高い音で揺れていたりする。
それら全てが錬金の素材らしい。
この一番大きい温室が、馴染みがあって落ち着く。
光を揺すり上げる木々をぼんやり見上げているうちに、レリアはうとうとと船を漕ぎ始めた。
その日、ザラドは投げやりな気分だった。
あいも変わらずロダンは訓練に行ってしまった。
デビュタントが近いという事で、リーリアはドレスや宝飾について喋っていた。
リーリアの家は下級貴族で、しかも裕福では無い。
ドレスや宝石をプレゼントしたいが、リーリアの口にするものは高額で、正直手が出なかった。
既にドレスや宝石を贈りすぎて、これ以上予算からは出せませんからと事務官に言われている。
俺は王子だぞっ!
と脅しても、決して折れてくれなかった。
~~金が無いって惨めだ。
リーリアの可愛い顔が曇り、
いいんですぅ。
大丈夫ですからぁ
と、無理に作った笑顔が痛々しくて、心がキュンキュンと揺れた。
ああ、リーリアの笑顔が見たい!
笑顔になれるドレスを贈りたい!
そう、焼け付く様に願った時。
オクタがおずおずと手を挙げた。
オクタは財務大臣の息子だ。
豊かな領地を持ってる上に、運送業まで手掛けていて金は腐るほど持っている。
リーリアはあっという間に笑顔になり、喜びを振り撒いてオクタのエスコートで店へと出掛けていった。
良かった。
リーリアが幸せそうで。
そう思いながらも、心の中にモヤっとしたものが溜まっている。
この気持ちを消化出来ず。
訳知り顔の出迎えの騎士に会いたくなくて。
ザラドは学園の敷地をふらふらと歩き回った。
~~なんだろう、孤独感がのしかかってくる。
冷たい。
痺れるようだ。
そこから逃れようと、ひたすら歩く。
自分を知ってる人間に会いたく無い。
こんな時にお追従を言われたら、キレてしまいそうだ。
だから人気のない場所を歩く。
学園は広い。
講義棟の他に実験棟もある。
森もある。
ちょっとした森は遊歩道も作られているが、敷地の端にあって、ありがたごとに人影が無い。
森の中を歩き回ったザラドは、ソレが温室の鍵になる禹歩をなぞっていることを知らなかった。
もちろんサモエドが密かに(勝手に)許可を出した者の中にザラドはいない。
学園関係の有力者。
王宮関係の有力者。
そしてサモエドの手柄を虎視眈々と狙う王宮魔導師のものだけに許可を出していた。
だからザラドが温室に行き着いたのは、本当に偶然だった。
気がついた時、目の前にガラスで煌めく宮殿の様な温室があった。
そっと入り口を引いてみると、簡単に開いた。
中には嗅いだ事のない南国の草の匂いに満ちている。
そして光でいっぱいだ。
光の中で木や草がいきいきと茂って花や実を付けている。
……凄い。
噂の秘密の楽園を見つけてしまった。
ザラドはどきどきしながら草を踏みしだき、枝をかき分けた。
降り注ぐ光と湿った温かさにほおっと息を吐き出した時。
目の隅にきらりと金色が光った。
そっと近寄ってみると、光を滝の様にゆらめかせた金髪がベンチにうずくまっている。
同じ制服を着た少年…。
黄金の光を反射させて眠っている。
その横顔は絵本の妖精の挿絵のように、あどけなく美しかった。
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