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学園

19 ザラドとレリア

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ロダンからは時々贈り物が届く。
いらないと言っても、遠慮は無用とぐいぐい来る。

正直、シャルア嬢は苦笑ぎみで。
ベルガーは半眼でコッチを見てる。
~~居た堪れない。

そんな訳で、とにかくこれ以上は勘弁と言うために、ロダンを探していた。
あの鮮やかな紅い髪と立派な体格はよく目立つ。
だからいつも探しやすかった。

なのに今日はなかなか見つからない。
庭だの図書室だの訓練所だの。
果ては校舎の裏まで探している。

園芸部の道具置き場の向こうに、あの紅髪がちらりと見えた。
慌てて走り寄る。

「ロダン様!お探ししました‼︎」

声を掛けた時。

手をぶるぶるさせてザラド王子が振り向いた。

……あ、やっちゃった。



ザラド王子は叫んだ。
そしてバシバシと暴風雨の様に言葉がぶつけられる。
その形相は……

うん、鬼。
鬼だね。

こっちが悪いから神妙に拝聴する。
するけれどね。
そんなに声を枯らして怒鳴ったって、こっちは萎縮なんかしないよ。



屋敷で、ベルガーが来てから、外に出る様になった。
阻害魔法をかけられて、下町に行く。
ベルガーがいるから物理的な恐怖は無かった。

だけど。

汚くて臭い酒場で。
罵り合うのを目前にした時は、ただただ立ちすくんだ。
自分は下町の子供に見えている。
それも物乞いの。
その子供を見るそこの大人達の目は、濁って血走った上に、ギラギラと値踏みしていた。
ねっとりと絡む視線は、金や食べ物や、訳の分からない欲でまみれている。
こっちの魂にべたべたと絡みついて、腐らせて行きそうな、汚れていきそうな。
そんな視線に晒されて、レリアは気を失った。


人は表とは違う顔を持つ。
腹の中は別物だ。
愛想笑いは社会の基本で。
受け流すことは必要なこと。
生き延びる為には甘い言葉も使わなくては。
他人から情報を引き出す為にはどうするか。

何処か澱んでしまった自分の魂を守るように、レリアは外での人との接し方を覚えていった。

あるときは避暑地の貴族の社交界に。
あるときは娼館の下働きに。

戯れの様に引き回されて、レリアはいろいろな立場の子供になった。
屋敷に帰って母様をみると、自分が自分で良かったと心の底から感謝の祈りを捧げる事が出来た。



そんなレリアにとって、真っ直ぐに怒鳴ってくるザラドは怖くない。
むしろピンと張り巡らされたあまりに、折れそうな刃のようだと思う。
生きづらいだろうなぁ、と思う。



母様の過去のざまぁを聞いて。
王太子と王太子妃。
それに騎士団長と財務大臣をクソだと思った。
母様の実家も、滅びてしまえ!と思った。
周りの奴らも馬鹿だと思った。

ただ、その子供は。
……ロダンだって罪は無い。
この王子だって。

揶揄されてるのを本人だって知ってるわけで。
その苛立ちから、ざまぁしようとしているわけで。
そんな事したら、また自分と同じ子供が出来るわけなのに、わかってる?

ああ、ままならないなぁ。
っと、レリアはふっと思った。
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