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屋敷の暮らし
10 レリア三歳
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ダンスの授業は小柄な自動人形に魔石を入れる。
レリアより少し背の高いそれに、セバスの魔力に満ちた魔石を入れる。
まるでトレソーの様に服を着ていた#それ____#が、ぶるりと震える。
さながら蛹が羽化をするように動き出す。
そしてレリアに手を差し伸べると、ダンスがはじまる。
母様は目を細めてそれを見ている。
母様のテーブルにお茶を出しながらセバスも微笑む。
「私たちもああやって覚えましたわねぇ。」
その声に頷くセバスも、うっとりと懐かしそうだ。
人形に腰をホールドされ、くるくると回りながら、レリアはこの屋敷の中で何故ダンスまで覚えるのか不思議だった。
屋敷は後ろを森に小高い丘にある。
周りは花に囲まれている。
二階から見ると庭は美しく、端の生垣は迷路の様な作りになっていた。
遥か彼方にはいろいろな色に染まった畑が、パッチワークの様に広がっている。
人影が農作業をしているのが、陽炎のように揺らめいて見えるけれど、そこに行き着けないのは知っている。
屋敷の裏は明るい森。
なんとか行けるのはそこまで。
それ以上行くと、深い霧で目の前が閉ざされる。
それでも進むと、真っ白な中をもがいて、もがいて、元いた場所にもどってくる。
勉強して、本を読んで。
この暮らしがちょっと変だと気がついている。
でもレリアはこの暮らししか知らない。
生きた人間は母様とセバスとレリアだけ。
誕生日になるとサモエド様がくる。
それだけ。
そのかわり自動人形がいる。
母様のレディースメイドとコンパニオン。
あとナニーのベル。
話をするのはそれだけ。
あとの人形は喋らない。
正直、寂しい。
「ああ、レリア。私の可愛い子。」
踊り終わって膝を曲げて礼をすると、母様は足早に近づいて抱き締めてくれた。
目と目が合う。
濃い金色の瞳を眩しそうにじっと見つめている。
……きっと誰かを僕の上に重ねている。
そうして母様がこうやって愛しげに僕をみつめると、殺意のこもった目でセバスがみているのだ。
母様は刺繍をする。
母様は庭を歩く。
日傘を掲げたセバスが、影の様に従っている。
その世界は夢の様に美しいけれど、駆け込んで壊してはいけないことをレリアは知っていた。
僕はセバスに嫌われている。
物心ついた時からセバスは僕を見ると眉を顰めていた。
母様を心配させないように。
母様の手を煩わせないように。
セバスはそれだけを言い聞かせる。
最近、少し柔らかくなった。
そして母様が何故ここにいるか話してくれる様になった。
母様は冤罪でざまぁされたそうだ。
第一王子と騎士団長の息子と財務大臣の息子。
そして男爵令嬢。
その四人に。
情報操作と権力のごり押しで、母様は観衆の前で侮辱された。
『騎士団長の息子など、ゴツい筋肉の塊のくせに、華奢なサフィア様を捻じ伏せて引き倒したのです。』
セバスのブルブル震える青筋と、怨嗟の表情は今も覚えている。
『でも、何よりも許せないのは…』
セバスの目がちらりと僕を見る。
わかってる。
この目だ。
右と左が違うんだ。
右は母様と同じ紫色なのに、左はトパーズのように金色で。
髪も金色で。
どうも、僕の父親と同じらしい。
その人は母様が好きだったそうだ。
でも、ならば、観衆の前でボロボロになって。
実家からも見捨てられるまで放っておいたのは何故?
~~そうだよね。
庇う事はできたはずだよね。
『そうしてサフィア様をおすくいしましたが…』
うん。
そりゃ、僕は嫌われて当然だと思う。
どう考えても僕の父親はただの卑怯者だ。
でも母様は僕を愛してくれて。
セバスも僕を教育してくれる。
僕はなんとかこの屋敷で暮らしていかなくちゃ。
レリアより少し背の高いそれに、セバスの魔力に満ちた魔石を入れる。
まるでトレソーの様に服を着ていた#それ____#が、ぶるりと震える。
さながら蛹が羽化をするように動き出す。
そしてレリアに手を差し伸べると、ダンスがはじまる。
母様は目を細めてそれを見ている。
母様のテーブルにお茶を出しながらセバスも微笑む。
「私たちもああやって覚えましたわねぇ。」
その声に頷くセバスも、うっとりと懐かしそうだ。
人形に腰をホールドされ、くるくると回りながら、レリアはこの屋敷の中で何故ダンスまで覚えるのか不思議だった。
屋敷は後ろを森に小高い丘にある。
周りは花に囲まれている。
二階から見ると庭は美しく、端の生垣は迷路の様な作りになっていた。
遥か彼方にはいろいろな色に染まった畑が、パッチワークの様に広がっている。
人影が農作業をしているのが、陽炎のように揺らめいて見えるけれど、そこに行き着けないのは知っている。
屋敷の裏は明るい森。
なんとか行けるのはそこまで。
それ以上行くと、深い霧で目の前が閉ざされる。
それでも進むと、真っ白な中をもがいて、もがいて、元いた場所にもどってくる。
勉強して、本を読んで。
この暮らしがちょっと変だと気がついている。
でもレリアはこの暮らししか知らない。
生きた人間は母様とセバスとレリアだけ。
誕生日になるとサモエド様がくる。
それだけ。
そのかわり自動人形がいる。
母様のレディースメイドとコンパニオン。
あとナニーのベル。
話をするのはそれだけ。
あとの人形は喋らない。
正直、寂しい。
「ああ、レリア。私の可愛い子。」
踊り終わって膝を曲げて礼をすると、母様は足早に近づいて抱き締めてくれた。
目と目が合う。
濃い金色の瞳を眩しそうにじっと見つめている。
……きっと誰かを僕の上に重ねている。
そうして母様がこうやって愛しげに僕をみつめると、殺意のこもった目でセバスがみているのだ。
母様は刺繍をする。
母様は庭を歩く。
日傘を掲げたセバスが、影の様に従っている。
その世界は夢の様に美しいけれど、駆け込んで壊してはいけないことをレリアは知っていた。
僕はセバスに嫌われている。
物心ついた時からセバスは僕を見ると眉を顰めていた。
母様を心配させないように。
母様の手を煩わせないように。
セバスはそれだけを言い聞かせる。
最近、少し柔らかくなった。
そして母様が何故ここにいるか話してくれる様になった。
母様は冤罪でざまぁされたそうだ。
第一王子と騎士団長の息子と財務大臣の息子。
そして男爵令嬢。
その四人に。
情報操作と権力のごり押しで、母様は観衆の前で侮辱された。
『騎士団長の息子など、ゴツい筋肉の塊のくせに、華奢なサフィア様を捻じ伏せて引き倒したのです。』
セバスのブルブル震える青筋と、怨嗟の表情は今も覚えている。
『でも、何よりも許せないのは…』
セバスの目がちらりと僕を見る。
わかってる。
この目だ。
右と左が違うんだ。
右は母様と同じ紫色なのに、左はトパーズのように金色で。
髪も金色で。
どうも、僕の父親と同じらしい。
その人は母様が好きだったそうだ。
でも、ならば、観衆の前でボロボロになって。
実家からも見捨てられるまで放っておいたのは何故?
~~そうだよね。
庇う事はできたはずだよね。
『そうしてサフィア様をおすくいしましたが…』
うん。
そりゃ、僕は嫌われて当然だと思う。
どう考えても僕の父親はただの卑怯者だ。
でも母様は僕を愛してくれて。
セバスも僕を教育してくれる。
僕はなんとかこの屋敷で暮らしていかなくちゃ。
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