上 下
10 / 84
屋敷の暮らし

10 レリア三歳

しおりを挟む
ダンスの授業は小柄な自動人形に魔石を入れる。
レリアより少し背の高いそれに、セバスの魔力に満ちた魔石を入れる。
まるでトレソーの様に服を着ていた#それ____#が、ぶるりと震える。
さながら蛹が羽化をするように動き出す。
そしてレリアに手を差し伸べると、ダンスがはじまる。

母様は目を細めてそれを見ている。
母様のテーブルにお茶を出しながらセバスも微笑む。

「私たちもああやって覚えましたわねぇ。」

その声に頷くセバスも、うっとりと懐かしそうだ。
人形に腰をホールドされ、くるくると回りながら、レリアはこの屋敷の中で何故ダンスまで覚えるのか不思議だった。


屋敷は後ろを森に小高い丘にある。
周りは花に囲まれている。
二階から見ると庭は美しく、端の生垣は迷路の様な作りになっていた。
遥か彼方にはいろいろな色に染まった畑が、パッチワークの様に広がっている。
人影が農作業をしているのが、陽炎のように揺らめいて見えるけれど、そこに行き着けないのは知っている。

屋敷の裏は明るい森。
なんとか行けるのはそこまで。
それ以上行くと、深い霧で目の前が閉ざされる。
それでも進むと、真っ白な中をもがいて、もがいて、元いた場所にもどってくる。

勉強して、本を読んで。
この暮らしがちょっと変だと気がついている。
でもレリアはこの暮らししか知らない。


生きた人間は母様とセバスとレリアだけ。
誕生日になるとサモエド様がくる。
それだけ。
そのかわり自動人形がいる。

母様のレディースメイドとコンパニオン。
あとナニーのベル。
話をするのはそれだけ。
あとの人形は喋らない。

正直、寂しい。




「ああ、レリア。私の可愛い子。」

踊り終わって膝を曲げて礼をすると、母様は足早に近づいて抱き締めてくれた。
目と目が合う。
濃い金色の瞳を眩しそうにじっと見つめている。

……きっと誰かを僕の上に重ねている。

そうして母様がこうやって愛しげに僕をみつめると、殺意のこもった目でセバスがみているのだ。


母様は刺繍をする。
母様は庭を歩く。
日傘を掲げたセバスが、影の様に従っている。
その世界は夢の様に美しいけれど、駆け込んで壊してはいけないことをレリアは知っていた。


僕はセバスに嫌われている。
物心ついた時からセバスは僕を見ると眉を顰めていた。

母様を心配させないように。
母様の手を煩わせないように。
セバスはそれだけを言い聞かせる。

最近、少し柔らかくなった。
そして母様が何故ここにいるか話してくれる様になった。



母様は冤罪でざまぁされたそうだ。
第一王子と騎士団長の息子と財務大臣の息子。
そして男爵令嬢。
その四人に。

情報操作と権力のごり押しで、母様は観衆の前で侮辱された。
『騎士団長の息子など、ゴツい筋肉の塊のくせに、華奢なサフィア様を捻じ伏せて引き倒したのです。』
セバスのブルブル震える青筋と、怨嗟の表情は今も覚えている。


『でも、何よりも許せないのは…』

セバスの目がちらりと僕を見る。
わかってる。
この目だ。
右と左が違うんだ。
右は母様と同じ紫色なのに、左はトパーズのように金色で。
髪も金色で。
どうも、僕の父親と同じらしい。

その人は母様が好きだったそうだ。
でも、ならば、観衆の前でボロボロになって。
実家からも見捨てられるまで放っておいたのは何故?

~~そうだよね。
庇う事はできたはずだよね。

『そうしてサフィア様をおすくいしましたが…』

うん。
そりゃ、僕は嫌われて当然だと思う。
どう考えても僕の父親はただの卑怯者だ。

でも母様は僕を愛してくれて。
セバスも僕を教育してくれる。
僕はなんとかこの屋敷で暮らしていかなくちゃ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

絶滅危惧種の俺様王子に婚約を突きつけられた小物ですが

古森きり
BL
前世、腐男子サラリーマンである俺、ホノカ・ルトソーは”女は王族だけ”という特殊な異世界『ゼブンス・デェ・フェ』に転生した。 女と結婚し、女と子どもを残せるのは伯爵家以上の男だけ。 平民と伯爵家以下の男は、同家格の男と結婚してうなじを噛まれた側が子宮を体内で生成して子どもを産むように進化する。 そんな常識を聞いた時は「は?」と宇宙猫になった。 いや、だって、そんなことある? あぶれたモブの運命が過酷すぎん? ――言いたいことはたくさんあるが、どうせモブなので流れに身を任せようと思っていたところ王女殿下の誕生日お披露目パーティーで第二王子エルン殿下にキスされてしまい――! BLoveさん、カクヨム、アルファポリス、小説家になろうに掲載。

【完結】寝る前に自家発電して下半身丸出しのまま眠ってしまった俺が、朝起こしに来た幼なじみに美味しく頂かれてしまう話

ルコ
BL
 「ん、んんっ?んあぁぁぁっ??!」 俺、須藤 芽生(すどう めい)16歳。 朝、目が覚めたらなにやら下半身(局部)が湿った温かい何かに包まれていて、しかも時折絡み付くように吸引されている? ん~尋常じゃないほど気持ちいい・・・も、もしや、俺、フェラチオされちゃってる?!えっ、えっ??夢にまで見たフェラ初体験中??! う~む、あり得ない。ならこれはやっぱり夢か?夢だよな??夢にまで見ちゃってるんだよ。て事は俺の欲望が反映されているはずで・・・なら、今俺のモノを咥えているのは、昨日寝る前に自家発電のおかずにしたエロ動画「せーえきごっくん♡まりあちゃん♡♡」のまりあちゃんだろ?!あぁ・・・まりあちゃんが俺のを・・・  そう思って目を開けると、俺のチンコを咥えていたのは幼なじみの瀬名 樹(せな いつき)だった。 ーーーーーーーーー  タイトルそのまんまです! R18には*を付けます。て、ほぼ付いてますねw 三万字くらいの短編です(番外編を入れると四万字くらい?)。勢いだけで書きました。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】魔王様は勇者激推し!

福の島
BL
魔国のいちばん高い城、その一番奥に鎮座するのは孤高の魔王…ではなく限りなく優しいホワイト社長だった。 日本から転生し、魔王になった社畜は天性のオタクで魔王の力というチート持ち。 この世界でも誰か推せないかなぁとか思っていると… …居た、勇者だ!!! 元虐められっ子イケメン勇者×少し抜けてるオタク魔王 男性妊娠はおまけ❶から またおまけ含めて1万字前後です。

騎士団長の俺が若返ってからみんながおかしい

雫谷 美月
BL
騎士団長である大柄のロイク・ゲッドは、王子の影武者「身代わり」として、魔術により若返り外見が少年に戻る。ロイクはいまでこそ男らしさあふれる大男だが、少年の頃は美少年だった。若返ったことにより、部下達にからかわれるが、副団長で幼馴染のテランス・イヴェールの態度もなんとなく余所余所しかった。 賊たちを返り討ちにした夜、野営地で酒に酔った部下達に裸にされる。そこに酒に酔ったテランスが助けに来たが様子がおかしい…… 一途な副団長☓外見だけ少年に若返った団長 ※ご都合主義です ※無理矢理な描写があります。 ※他サイトからの転載dす

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

処理中です...