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好き。って気持ちは最強
4 やり直しへと懺悔
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馬の足音がする。
農耕馬とは違う、軽快な乗用馬のものだ。
サニタに型紙のおこし方を教えている時、気が付いた。
ヤコン村は山へと向かう一本の道の両脇に家がある。
そしてその背後に畑が広がっている。
川は少し下がった谷に。
そしてキリルの家はその谷との中間にあった。
こんな山奥の田舎に乗用馬といえば…
例えば税の徴収人。
例えば出兵募集とか…
頭をよぎるのは、どれもロクでもない想像ばかりで
キリルは振り払う様に頭を振った。
こちらです。
という村長の声もする。
何事かと扉を開けたら
そこにアルベルトがいた。
まずその青空のような目が心を縫い付けた。
土埃で金髪は白っちゃけているが、それでも陽を反射してキラキラだ。
以前よりも頬がこけて男臭さに磨きが掛かっている。
き り る と動いた唇は、長旅で荒れている。
頬には汗を拭ったら埃の筋がのこったらしく
猫のヒゲのような線が出来ていた。
アルベルトだ。
自分の目が信じられずに立ち尽くす。
アルベルトだ。
その青空の目が夕立のように滲んだ。
数歩の距離を飛び越えて抱き締められる。
自分に飛び掛かる激しさで身体が傾ぎ、髪がふわりと広がる。
縋り付いてくるアルベルトから、懐かしい香りと汗と埃の匂いがした。
激しい抱擁でアルベルトのマントがばさりと捲れて視界を覆う。
その中から日焼けた腕が自分を巻き込んでいくのが
ゆっくりと見えた。
マントの広がる影の中で、一本の赤がたなびいて
キリルの視線を釘付けにしていく。
一本の赤。
空に放たれて登る赤い糸。
まるで勝鬨をあげる狼煙のようにアルベルトの腕から立ち上がる。
それは腕程の長さで、ばさばさと靡いていた。
切り口が紅の美しい糸。
斬りっぱなしの赤い糸。
何故ここにいるの?
断ち切れたソレはナニ?
キリルは痺れたようにただ立ち尽くした。
相手が死んだ?
探してくれてたの?
僕を⁉︎
僕を探して?
抱き締めたキリルの額を、アルベルトの涙が伝って熱い。
その熱が痺れた心に沁みていく。
その耳にアルベルトの声が震えながら流れた
「チャワスの神子は俺に魂で繋がる者がいると言った。
キリルだけしかいらないと言ったら、相手との繋がりを断たなくてはいけないのだと言ったんだ。
本気で望むならそれを断ってあげると言ってくれた。相手を見つけて、二人並ばないと縁切りは出来ないと言ってた。
俺の魂の繋がりはダキャナの向こうにいるそうだ。
探してみると約束してくれて、帰国した。」
そうだ。
大地の神子なら糸を感じられる。
糸を断つこともできるだろう。
「あの朝、見つかったと連絡が来て浮かれた俺は何も考えずに飛び出したんだ」
伝言すら残さず。
ただただ喜びの余りに、サプライズだと叫んで。
「もっと残されたキリルの事を思いやるべきだった。
俺にはキリルしかいないのに。
俺はバカだ。バカだった…」
抱き締める力と体温に震えながら。
それでもキリルはアルベルトの腕から抜け出した。
菫色の目が見開かれて真っ直ぐアルベルトを見上げている。
本当に?
本当に⁉︎
糸を断ってでも僕を選んでくれてたの?
本当に?
信じていいの?
凍てついた心がぱらぱらと剥がれ落ちていく。
信じたい。
信じられない。
グラグラする心のまま、キリルは立ち尽くした。
農耕馬とは違う、軽快な乗用馬のものだ。
サニタに型紙のおこし方を教えている時、気が付いた。
ヤコン村は山へと向かう一本の道の両脇に家がある。
そしてその背後に畑が広がっている。
川は少し下がった谷に。
そしてキリルの家はその谷との中間にあった。
こんな山奥の田舎に乗用馬といえば…
例えば税の徴収人。
例えば出兵募集とか…
頭をよぎるのは、どれもロクでもない想像ばかりで
キリルは振り払う様に頭を振った。
こちらです。
という村長の声もする。
何事かと扉を開けたら
そこにアルベルトがいた。
まずその青空のような目が心を縫い付けた。
土埃で金髪は白っちゃけているが、それでも陽を反射してキラキラだ。
以前よりも頬がこけて男臭さに磨きが掛かっている。
き り る と動いた唇は、長旅で荒れている。
頬には汗を拭ったら埃の筋がのこったらしく
猫のヒゲのような線が出来ていた。
アルベルトだ。
自分の目が信じられずに立ち尽くす。
アルベルトだ。
その青空の目が夕立のように滲んだ。
数歩の距離を飛び越えて抱き締められる。
自分に飛び掛かる激しさで身体が傾ぎ、髪がふわりと広がる。
縋り付いてくるアルベルトから、懐かしい香りと汗と埃の匂いがした。
激しい抱擁でアルベルトのマントがばさりと捲れて視界を覆う。
その中から日焼けた腕が自分を巻き込んでいくのが
ゆっくりと見えた。
マントの広がる影の中で、一本の赤がたなびいて
キリルの視線を釘付けにしていく。
一本の赤。
空に放たれて登る赤い糸。
まるで勝鬨をあげる狼煙のようにアルベルトの腕から立ち上がる。
それは腕程の長さで、ばさばさと靡いていた。
切り口が紅の美しい糸。
斬りっぱなしの赤い糸。
何故ここにいるの?
断ち切れたソレはナニ?
キリルは痺れたようにただ立ち尽くした。
相手が死んだ?
探してくれてたの?
僕を⁉︎
僕を探して?
抱き締めたキリルの額を、アルベルトの涙が伝って熱い。
その熱が痺れた心に沁みていく。
その耳にアルベルトの声が震えながら流れた
「チャワスの神子は俺に魂で繋がる者がいると言った。
キリルだけしかいらないと言ったら、相手との繋がりを断たなくてはいけないのだと言ったんだ。
本気で望むならそれを断ってあげると言ってくれた。相手を見つけて、二人並ばないと縁切りは出来ないと言ってた。
俺の魂の繋がりはダキャナの向こうにいるそうだ。
探してみると約束してくれて、帰国した。」
そうだ。
大地の神子なら糸を感じられる。
糸を断つこともできるだろう。
「あの朝、見つかったと連絡が来て浮かれた俺は何も考えずに飛び出したんだ」
伝言すら残さず。
ただただ喜びの余りに、サプライズだと叫んで。
「もっと残されたキリルの事を思いやるべきだった。
俺にはキリルしかいないのに。
俺はバカだ。バカだった…」
抱き締める力と体温に震えながら。
それでもキリルはアルベルトの腕から抜け出した。
菫色の目が見開かれて真っ直ぐアルベルトを見上げている。
本当に?
本当に⁉︎
糸を断ってでも僕を選んでくれてたの?
本当に?
信じていいの?
凍てついた心がぱらぱらと剥がれ落ちていく。
信じたい。
信じられない。
グラグラする心のまま、キリルは立ち尽くした。
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